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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP6 『オペレーションシージアース』

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99/129

99: EP6-5 オペレーションシージアース: 穂先と持手

データチェック。

...あった、ノイズだ。


ブラック君、デイモスの艦隊をトラッキングした。

戦力投射最終用意、パーシヴァルに通達!

オペレーションシージアース

1日目

西暦3020年12月5日[STC]

協定宇宙時(STC)14:10

地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域



──Side: 三人称視点



『レーダーに反応、敵バトルワーカー、既に多数出撃、展開していますよ。』

「そりゃそうだろ、何も準備していなかったらさすがに無能の極みすぎるさ。」


軽口を叩きながら、ローランドが、ライブラが一直線に宇宙を駆ける

目標は敵艦載機母艦の周囲に展開する艦隊とそれらに属するバトルワーカー隊だ


『ネアス・アドニスを中心に第2世代型多数... 解析によると第2世代型の重砲機までいます。』

「直撃は貰いたくないな、装甲が耐えたとしても衝撃は明確なダメージになる。」

『さすがにこのライブラも艦砲射撃を受け止める設計にはなっていませんからね。 ...注意を、敵艦の近接防衛火器が動作しています。』

「速度で振り切る! 行けるな、ディケ!」

『もちろんです、エリソン!』


スラスターを全開にし、ライブラは敵陣へと突撃する

仮にも相手は小口径とはいえ艦載砲である近接防衛火器、集中打を浴びればどうなるかは分からない

それでも臆することなく、その弾幕の中へと飛び込んでいく

途中、混乱する敵艦の通信のいくつかをライブラの通信システムが傍受する


『全艦! 突撃してくる敵バトルワーカーに集中砲火! 絶対に近寄らせるな!』

『バレッタよりベルンへ、接近中の敵機はブラボー-ホテル-シエラと断定! レライエ司令官に... 何?』

『主砲だろうとなんだろうといいからあれを墜とせ! 死にたいのか!』


冷静なものから怒号まで、様々な通信がシステム上を駆ける


「...なんだかやけに騒がしいな。」

『人気者、というところでしょうかね、エリソン。』

「嫌な人気だな、まぁいい、このまま... いや、そうだな。」

『エリソン?』


ローランドがニヤリと笑う


「ちょっと面白いことをな。」


そう言い、ローランドがライブラの動きをそれまでの回避機動を交えた突撃から少しだけ変える

具体的に言うなら、上部甲板上の主砲を稼働させている敵艦の射線にあえて入るような動きを取り入れた機動だ


「ディケ、あの主砲が動いてる艦の通信を狙って傍受できるか?」

『それぐらいならお安い御用です。 ...繋ぎます。』


ローランドが妙な指示を出す


『なんだアイツ... おちょくってるのか!?』

『艦橋より火器管制、あのクソ野郎を叩き落せ! 全砲門開け!』


案の定、敵の艦長以下乗員の激高を誘っているようであり、それがローランドの狙いであることも明白だ


「ほらな、ディケ。 で、ああいう奴ってのはだな...」


ローランドはそう言い、主砲の旋回が自分を狙うのにちょうどいいあたりまで来たところで急停止するかのようなそぶりを見せる

もちろん、それまでに細かく位置を調整した上で、だ


次の瞬間、狙いが定まったと見た敵艦が主砲をついに放つ


「目の前以外が見えなくなるんだよな。 例えば、目標の奥に何がいるか考えなかったり、な。 ディケ、あっちの艦の通信も傍受してくれ。」


直後、待ってましたと言わんばかりにローランドは急加速し、射線を逸らす

しかし、既に敵艦は発砲した後だ

つまり、何が起きるかと言うと──


ローランドは的確に敵艦との位置関係を調整し、狙いをつけていた敵艦と、それとは別の敵艦の間に入り込んでいた

詳しく言うなら、上部甲板主砲と、もう片方の艦の後部スラスターを結ぶ直線上に、だ


『何事だ!』

『機関室より艦長へ! 機関に被弾した! 出力低下!』

『何だと!? どこからの攻撃だ!』

『分からん! 隔壁を閉鎖したから目視できんが、ダメコンは左舷側部装甲の貫通を報告してる!』

『左舷だと...?』


追加で傍受した敵の通信は混乱と怒号に満ちている


「ん、少しズレたか? まぁいい、大体狙い通りだな、ディケ。」

『何をするのかと思えば...』


ディケが呆れるのももっともだ

ローランドは敵をあえて挑発し、主砲の攻撃を誘った上で、無意識のうちに敵に全く見当外れな位置へ狙いを定めさせたのだ


──そう、並行していた別の敵艦に


『バトルワーカー単騎で敵艦の撃破...いえ、無力化。 マトモなパイロットなら思いつきすらしないでしょうね。』

「おいおいディケ... 俺がマトモじゃないみたいに言うなよ。」

『...いえ、まぁ、はい。』


確かに艦船に比べれば小型かつ俊敏なバトルワーカーといえど、敵艦隊の陣形の中に飛び込んで生還できるかと言われれば、それはもちろんノー、というものだろう

後方に置き去りにしてきた他の友軍バトルワーカーのパイロット達がどう思っているかなど、言うまでもない

『いつも通り、アイツはどうにかしてる』、と


「いやまぁ、本音を言うならな、ディケ。 あんな簡単に挑発に乗ってくれるなんて思ってなかったさ。 ESFの連中の錬度はたかが知れてるな。」

『それもそうですね、エリソン。』


実際のところはといえば、元からそう実戦慣れしているとは言えない者達がここまでの戦況の悪化で更に疲弊している結果ではあるのだが...


『おいローランド... あまり先走るな。』

「っ... シオンハート准将。」

『まぁいいんだが。 おかげでこちらは楽ができた。 敵の対空砲火が向かないだけでもストレスはだいぶ無くなるからな。』


後から追いついてきたシオンハートやその指揮下の部隊の姿が見えてくる

機体のスペック差で、ライブラが単騎で突撃すればそれに追いつけるバトルワーカーは他に存在しないだろう

シオンハートの言う通り、敵艦はたった1機で突撃してきたライブラに翻弄されており、結果的に他のCAU部隊を素通しさせてしまったのだ


『とはいえ、これ以上はあまり突っ込むなよ。 集団行動は戦闘の基本だ。 今更言われずとも、だろう?』

「もちろんです、准将。」


一通り突撃すればその後はその衝撃から立ち直った敵に包囲されるのは言うまでもない

突破口を開き、一通り引っ掻き回した後で、ローランドはシオンハートと合流する

その間にも、迎撃に上がってきた敵機をいくつも切り伏せていた


『全く、派手にかき回したみたいだな。』

「でもこれでこのセクターでは我々が優勢です。」

『もちろんだ、そもそもお前の単独行動を許しているのは私だからな...』


特級戦力は戦列に組み込みにくくてやってられない、と常々自身が言っていることを自覚した上で、シオンハートがぼやく

その証拠に、指揮下の部隊は複数機で陣形を組み、敵と激突していく

後方からはカエデが率いるシルバースピア第一艦隊、スピアヘッドが敵艦隊に向かって砲撃を加えており、その中間地点で、両軍のバトルワーカーは一進一退の攻防を繰り広げている

いかな艦船と言えど、バトルワーカーに数で押し込まれ、至近距離に取りつかれてしまえば無力であり、撃破されるのを待つだけになってしまう

お互いにそれを狙い、そして、阻止しようとしている


同じ光景はもちろん、戦場のあらゆるところで広がっている


結局のところ、このような光景は別段、開戦前でもそう珍しいものではなかった

厳密には、それはシミュレーター上であったり、もっと小規模であったりしたわけだが...

少なくとも、CAUとESFが直接事を構えたことはなかっただろう


ここまで大規模な艦隊戦は恐らく、かつての太陽系大戦まで遡ることになるだろう

戦場の一角から全体を見通すことなど到底かなわず、それぞれがそれぞれの目標を達成するためにただ前を向くだけだ



『スピアハンドル司令官よりスピアヘッド司令官。 アマテラスCICからデータリンク。 確認したか?』

『こちらでも確認した。 ムラクモの予測影響範囲。 指揮下全ユニットの該当なし。 全く規格外だな、何が口径750メートルだ... スピアヘッド全ユニットへ、こちらスピアヘッド司令官。 現在共有中のアマテラス-ムラクモ予測影響範囲への立ち入りには最大限注意せよ、巻き込まれるなよ!』


同じ頃、艦隊を率いる者同士でも動きがあった


『あれの直撃を喰らったらどんなのでも一撃だろうな。』

『違いない、ウィルクス。』

『敵には同情しておくさ。 それとカエデ、アルティアの準備が完了した。 そちらに回す。』

『いつでもおっけーだよ、艦隊長!』


2人の通信に、いつも通り元気いっぱいの声が割り込む


『それじゃ頼らせてもらうとするか... ルプスレフィア、目標は既に通知の通りだ。 現在までに敵制宙戦闘機はまだ出撃していないが、交戦も予測される。 準備はいいな?』

『もちろん。 相手は任せて、カエデ艦隊長。』


口調はいつも通りだが、その雰囲気にいつもより気迫があるようにカエデは感じる

そういえばこの子はそういうタイプ、つまり、いつもぽわぽわしているがやる時はやる、というか人以上にやるタイプ、だったか...と、そんなことを考えつつ、ルプスレフィアに出す次の指示を頭に浮かべる


彼、彼女らの戦いはまだ始まったばかりだ


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