79: EP5-2 『Code:R』 寒空に香る硝煙:Ⅰ
もぐもぐ...
...フライドチキン...
もぐもぐ...
正面、敵機捕捉、距離250m
敵機秒速120m、自機140m
マニピュレータと40mmロングライフルの接続を解除...
敵機距離110m
3.5mバスターソードを装備...
敵機距離70...30...10m、最大加速──
「はぁーーーッ!」
コロニー協定連合体 "CAU"
西暦3020年5月18日[STC]
協定宇宙時23:13
木星近傍宙域、惑星間航路073
ジーナ・ファウストの振るう大刃を頭頂から叩き込まれた機体──ネアス・アドニスは数瞬の静寂の後、無名の鉄塊と砕け散った
『さすがは姉さんだ。 木っ端微塵だぜ、なぁ、ロビン?』
『見てて清々しいほどですね。 ...セルジオさんは全く嬉しくなさそうですが。』
『当たり前だろ! あれじゃ...その...そう、調査が─』
『ハイハイ、自由にサルベージしていい分が残るように頼んでおきますよ。』
『取り分が欲しければ戦果をあげろ、セルジオ。 お前の方向から増援だ。』
二人の呑気なやりとりは、副長クランツと、次いでやってきた敵部隊の増援反応に遮られた
『キリが無ぇが...収穫分も十分残りそうだ。』
自機の40mmロングライフルを構え直し、セルジオは自らを鼓舞するように呟いた
時間は暫し遡り...
STC14:28
土星近傍、土星近傍コロニー002
セイバー連隊駐留基地、第3艦隊区、兵器検証室
「一言で表現するなら...そうだな...」
オイルで汚れた手を気にする事無く、男は顎に手をあて思考を巡らすが
「もういいでしょう、セルジオさん。」
「だがまだ重力下じゃあ──」
一言で思案を遮られた事にやや顔をしかめたが、話し手は更に一言を遮り気にかける事なく言を続けた
「これだけの装甲が証明されていれば実用には十分ですし、このまま続ければ試験用装甲材の在庫が無くなって、二人仲良く副長にどやされてしまいますよ。」
「あぁクソ...そりゃ勘弁だ。 不本意だが、一旦これで切り上げるとしよう。ロビン、当然、片付けも手伝ってくれるよな?」
この艦隊冷戦期において、CAUとESFの表立った戦闘は発生していない
哨戒任務こそあるものの、それはほぼ正規軍の役目であり、セイバーの戦闘員は任務が少なく、言ってしまえば暇な人員も少なくなかった
セイバー第3艦隊、ネイヴィガー隊に属するロビンとセルジオの二人も例外では無かった
その為、セルジオはある意味本業とも言える装備開発に専念しており、ロビンはそれに付き合わされていた
「はぁ、もう...ん?」
焦げ臭い中での面倒極まりない後片付けを覚悟したその時だった。
ロビンに何者かからの個人通信が届いた
「こんな時に誰が...エンスウェン艦隊長...?」
「艦隊長から個人通信だって? 嫌な予感しかしないが...」
何か予定があった訳でも無いが、何せこのご時世だ
まず録な事ではないだろうと考えるのは已む無しというものだろう
「はい、艦隊長。 ロビンです。 ...ええ。」
確かに艦隊長からの連絡だったが、何か奇妙だ
横目で眺めるセルジオの目にはそう映っていた
何せ受け答えをするロビンの顔が、まるで何かを訝しんでいるようだった
そして、その勘は的中してしまったらしい
「会議室までの呼び出しです。 詳細はそこで話すとの事で、それ以外の内容は一切。 セルジオさんにも用があるそうです。」
「俺もか...呼び出されるのには思い当たる節がありすぎるが、その雰囲気は恐らく違うだろうな。」
「...どうでしょうかね。」
セルジオはやや顔をひきつらせたが、すぐにいつもの調子に戻ってみせた
「まぁ、これで片付けを後回しにする口実が出来たって訳だ。 行こう。」
ドアへ歩もうとしたセルジオだったが、瞬間、後ろから肩へ伸びたロビンの手からは逃れられなかった
「片付けを済ませてから来るように、と3度も艦隊長が仰っていましたよ。」
セルジオはまた顔をひきつらせた
STC14:28
土星近傍、土星近傍コロニー002
セイバー連隊駐留基地、第3艦隊区、会議室
「全員、集まったな。」
ネイヴィガー隊員が集まり、虎穴と化した空間で最初に言を発したのは、セイバー第3艦隊長、オルグ・C・エンスウェンだった
「リグとクランツは予め召集済み、ロビンとセルジオは片付けに時間がかかり30分、ようやく来たジーナは1時間の遅れだ。 時間通りに来たのは...ジャレッドだけか。」
「こんな暇な時期なんだ、思い切り寝てれば召集なんか気付きやしないよ。」
いかにも不機嫌なジーナの後ろで、ジャレッドがボヤいていた
「...定刻前に直接伝えに行ったらキレられたぞ...」
「そこまでだ、熱くなるのは構わんが、ここは冷房が効いている。 続きがやりたければ対人訓練室へ行け、付き合ってやるぞ。」
ジーナがジャレッドに向けかけた苛立ちは、しかしクランツによって抑えこまれた
ジャレッドがやや不憫な気もするが、まぁこういうものなのだろう
「もういいだろう、いい加減に始めるぞ。 リグ、頼む。」
「あぁ、今回の召集はこれについてだ。」
呆れた様子のエンスウェンから進行を任されたリグは、モニターにいくつかの資料を表示した
「これは... ESF系の輸送船か?」
「ご名答だ、セルジオ。 こいつらはここ数日、土星や海王星より外縁部の座標、あるいはBWを用いた犯罪者鎮圧後の戦場において何度か確認されている。 こっちは数機のBWもいるな。」
おいおい冗談だろ... とのジャレッドの反応は至極真っ当なものだ
仮にESFが堂々とCAUの領域を、ましてやその外縁部にいるとなれば、何を企むかどうかの前に、防衛という観点で大きな穴があるという事になる
無論、そんな懸念などとうに理解しているリグが続けた
「今までむざむざと通し、見つけられなかった理由だが...」
とんと指で輸送船の画像を示して見せ
「本当にこれだけしかいなかったからだ。」
「これだけって... 一隻だけって事か?」
「ああ。それと数機のBW。 まぁこいつらは荷台にでも入っていたんだろう。 あまりにもワープ痕跡や反応が小さすぎた結果、観測機の不具合だと読んでいたらしい。 ジャンプドライブジャマー...いや、今はジャンプディスラプターだったか? その範囲内だったこともあるしな。」
「つまりただのザル警備って事か。 バカバカしい、あたしゃ降りるよ。」
誰のあきれ声が届くよりも早く、ジーナは席を立たんとしたが――
「待たんか。 エンスウェンがわざわざ呼びつけておいて、ただの警備の不備についての会議などしないだろう。 そんなものは正規軍に任せておけばよい。」
クランツがジーナを引っ張りながら続ける
「こんな所にESFの艦船と機体がいても、ESF領域から飛んできたとは考えられん。 恐らく近くに根城があるのだろうが、我々の仕事は直接戦闘だ。 つまるところ、我々にこの話が持ち込まれたという事は、もう場所は割れているのだろう?」
さすがクランツ、話が早い─と、リグに進行を一任していたエンスウェンが口を開いた
「痕跡を辿った結果、木星近傍まで流れ着いた、CAUの廃棄されたコロニーがある。 恐らく奴らはここに根付いている。 ここを壊滅させると同時に、奴らが何を企んでいるのか調査してほしい。」
STC22:30
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
セイバー連隊司令部、第1艦隊長室
「艦隊長、報告です。 第3艦隊ネイヴィガー隊が廃棄コロニーJWC057にESF部隊と思わしき反応を確認し、調査にあたるとの事です。」
「JWC057... あそこはESFとの境界線近くですから、ESF領の諜報員についでに監視を任せていましたね。 まぁ、正式な命令という程のものはしていませんでしたが...」
「ええ、彼からの指定場所からの通信は暫く途絶えています。 ですが最近、ESF領内での活動の報告は増加しています。 特に、ESF内の分裂因子についての報告が著しく増加しています。」
「...なるほど。 彼にコンタクトを試みましょうか。 彼の端末への簡単な通信で構いません。」
「それは...」
「覚えておいてください。 通信に応えたのなら、その時点で彼はファロです。」




