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人機のアストライア  作者: 橘 雪
幕間Ⅲ

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76/129

76: EPI-7 Intermission-Ⅶ 『誠実な獣』

JCS-AWS緊急警告、次元境界への危機的な侵害を察知

全艦隊へ、緊急帰投を命令

全戦力は至急本部次元を防衛せよ

「何故急に... 確かに彼は...ルミエールは野心家ということもあり警戒はしていましたが...」

「急に... 確かに君にはそう見えたか。 すまない、こればかりは私もルールを破るべきだった。」

「まさか...」

「...あぁ、そうだ。 ルミエールの、デイモスの反乱を私は察知していた。 3日前のことだ。」

「...」


ブラック君の表情が曇る。

それもそうだ。


「...謝罪するよ。 この戦いによる犠牲は全て、私の責任だ。」

「閣下、私は...」

「いいよ、殴りたければ殴ればいい。 そうされるだけの事を私はしたんだ。」


私の、そしてブラック君の横顔を淡く照らすモニターは依然として変わらない様子を映し出している。


「...すいません。」


鈍い音が部屋に響く。

...思いのほか、思い切ったね。


椅子から吹き飛ばされた私の身体が床に転がる。


「さて、後はこれが終わってからにしてくれ。 今はここを、ジャッジメント本部を守り切らなければならない。」


私は立ち上がりながら、倒れた椅子を直す。


「はい、閣下。」

「状況を整理しよう。 ハウスオブデイモスが突如として我々からの独立を宣言、ここジャッジメント本部に侵攻した。 これはいいね?」


私は椅子に座り直しながら、続ける。


「はい。」

「次だ。 突然の襲撃にジャッジメント陸戦隊は初動が遅れ、現在も状況を制御できずにいる。 艦隊は非戦闘員、あるいはこちらの陸戦隊への誤爆を恐れ、動けずにいる。」

「仰る通りです。 それにデイモスは居住区画にも浸透しているため、非戦闘員の退避も進んでいません。」


『こちら司令部、総帥、第3防衛ラインが突破されました。 現在第4...いえ、第5防衛ラインで部隊を再編中です。』


ブラック君の端末に通信が入る。

第5防衛ライン...

もうあまり猶予はない。


「分かった。 防衛目標はこのコントロールタワーに集約しろ。 第3から8工業区画を放棄、連中を誘いこんでから爆破するんだ。」

『...っ...了解、総帥。』


...懸命な判断だ。

最悪、ここを守りさえすれば再建は容易だ。


「...ブラック君、第8防衛ラインまで下げた時の試算は?」

「第8ですか? ...物的被害は大幅に拡大するとは思われますが...いえ、このまま少しずつ下げるよりかは...」

「それに人的損失もそちらのほうが減るはずだ。 第7防衛ラインと第8防衛ラインの間はそのために用意したはずだ。」


あの区画には特大の罠を仕込んでおいた。

デイモスの本隊を誘い込めれば...


「...そうですね。 司令部、こちらブラック。 第8防衛ラインまで部隊を後退させろ。 デイモス部隊を引き込んでから第7防衛区画を破棄する。」

『司令部了解、現在再編中の部隊を下がらせます。』


...準備をしておこう。


「...ん?」


モニターの1つに妙な光景が映る


「...仲間割れかい?」


デイモス部隊の一部がそれぞれ同士で交戦を開始している。

何があったのやら...

見てみようか。




激しい銃撃戦だ。

崩れたビルに互いに身を隠しながら、隙を狙っている。


「撃て! コントロールタワーへの道を切り開く!」

「隊長、システムのリンクを遮断しました。 これで本隊からこちらの位置は特定できません。」

「よし、ありがとう。 ...こんなことは間違っている。 先に失態を犯したのは閣下じゃない。 俺達だ。」


...あれは...


「閣下なら俺達を見ているはずだ。 このままコントロールタワーまで進み、俺達はジャッジメントに帰属する。」

「了解です、隊長。」


...マルコシアス?


「マルコシアスゥゥゥ! 死ねぇ!」

「ちぃっ...!」


この銃撃戦の中を銃剣突撃だなんて...

デイモスは...確かに...


「1人仕留めた、隊長、キリがない!」

「...そうだ、兵器システムをハックしろ。 奴らの頭上にとっておきをプレゼントしてやろう。」

「り、了解。」


マルコシアスは何のためにこんなことを?

何故...仲間を撃つ?


「...閣下、もしこれを聞いているのなら... どうかお応えください。 我々は...貴女に忠義を尽くす。 私怨に囚われた者への忠義など、存在しない。」


忠義を。

...やはり...


「隊長、システムに侵入した。 あまり時間がない。」

「貸せ、俺がやろう。」


マルコシアスがタブレット端末を操作する。

あれは...


「総員耐衝撃用意!」


...砲撃か。


「隊長! 何発撃ったんだ!?」

「ありったけだ!」


映像が揺れる。

確かにこれは...ありったけ、か。


「...っち、システムから締め出された、ハックに気づかれたな。」

「隊長、今ので向こうの攻撃が止んでる、チャンスだ!」

「...! よし、総員移動する!」


....余程の覚悟らしいね。




「ブラック君、第4防衛ライン付近、デイモスの部隊がこちらに寝返るつもりのようだ。 56号バンカーの退避ルートを開けてやってくれ。」

「寝返る? 一体何が...」

「分からない。 ただ、今確認したけど、砲撃で味方...つまりデイモスの他の部隊を攻撃してる。」


どういうつもりなんだろうか、本当に...






3日後

ジャッジメント本部



「...そうか。 ありがとう、犠牲者は全員、丁重に弔ってくれ。」


...決して無視しえない。

これは私の失敗だ。


「ブラック君、デイモスの状況は?」

「艦隊の損害も大きいので穴はありますが... 今のところこちらへの大きな動きはありません。 向こうにだって損害を与えることはできたわけですし...」


まぁそうだ。

第7防衛区画を丸ごと使った我ながら悪辣なトラップは無事機能を果たした。

ポイされた彼らはまだ本隊と合流できていないかもしれないな。


「... 分かった、引き続き追いかけてくれ。 どんな些細な情報でも構わない。」


今や彼らは私の制御下にない。

こういう時は、結局私は役立たずだ。


「...そうだ、彼は、どうしてる?」

「マルコシアスですか?」

「そう。」


ブラック君が手にしたタブレット端末を操作する。

あれは私も想定外だったしね。


「彼であれば、デイモスの偽装工作である可能性も考慮し、隔離してあります。 」

「妥当な判断だね。 うぅむ、後で私も直接会ってみるよ。 ここでならリスクもない。」

「分かりました、もう少し状況が落ち着いたらセッティングします。」

「頼むよ、ブラック君。」


さて...戦後復興とはかくも面倒だ。

...あるいは、事は始まったばかり、か。






──



「...お前らしくないかもしれないな、スノー?」

「そうかい?」

「お前はいつも自信家で、不遜で、誰の干渉も受け付けない、という奴のはずだ。 そんな弱気そうな姿は見たことがない。」

「私だって失敗はするさ、ルル。」

「私だって結局はただの人間さ、か?」

「そう。 残念ながら君とは生まれも何も違うしね。 いや、そうは言っても詳しくは知らないんだけど。 いつになったら教えてくれるんだい?」

「...」

「そ、まぁいいさ。 ...アビサルハート、この戦いは... もしかすると君の手を借りることになるかもしれない。 ジャッジメント単独では荷が重いかもしれないんだ。」

「いいのか?」

「あぁ、君に貸しを作ることの意味を分かっていないわけではないさ。 尤も、君が私に貸しを取り立てたことのほうが珍しいからってのもあるんだけどさ?」

「...まぁ、ここにこうやって隠れ場所を提供してもらっているだけでも助かっているからな。」

「そう言ってくれると嬉しいよ、ルル。」

「止せ、何も出ないぞ?」

「はは。 ま、そういうことで、今のところは失礼するよ。」

「...また近いうちに会おう、スノー。」

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