75: EP4.5-7 グラウンドアサルト
ふむ...そうか、やはり...
厄介だな、こちらの技術だけで抑えきるのは難しい、か
あるいは、アビサルハートに...
天使に神...か。
西暦3020年4月3日[STC]
協定宇宙時20:00、火星新太平洋西時間11:00
火星地表、火星軌道エレベータブラボー基部、CAU前線基地アルファ
齎された一手の意味は大きく、未来への道筋を変える
──Side: 三人称視点
「すまない、もう一度言ってくれないか?」
基地にある会議室の1つ、その部屋にシオンハートの声が響く
「軌道エレベータチャーリーが破壊された。 あまりの事態に我々が降りてきた。 これでいいか、シオンハート?」
「...聞き間違いじゃあ、ないんだな、ウィルクス。」
かなりゆっくりとした言い方をしたウィルクスに、震える声でシオンハートがそう訊ねる
「それはこっちの台詞だ、シオンハート...」
「それなら私だって言いたいぞ、ウィルクス。」
横からエンスウェンがそう口を挟む
「オルグの言う通りだ、一体どういうことなんだ?」
マルコシアスもそれに同意する
「ふぅむ... 改めて説明するまでもないとは思うが、一応しておこう。 昨晩、正規軍の部隊が西での作戦中、黄金時代クラスと思われる大量破壊兵器をESFが入手したのを確認した。 まだ輸送中だったそれを彼らは追撃し、軌道エレベータチャーリーでの攻防中にそれを起爆することで処理した、というわけだな。」
シオンハートがその説明に目頭を揉み、宙を仰ぐ
「そんな反応をするなシオンハート、もう何度も説明しただろう?」
「...そう、だが... 中々理解に困る情報でな...」
シオンハートがウィルクスの耳元に口を寄せ、続けて小さく囁く
「人間のすることとは思えない、自爆覚悟だったんじゃないのか?」
「どういうわけか、無傷で生還したそうだがな。 さすがに私も詳しい話は聞いていないさ。」
ウィルクスも口元を隠しながら小声でそれに返すことで、周囲に内容が伝わることはない
もちろん、ウィルクスにはシオンハートの言う『人間』という言葉の持つ言外の意味は正しく伝わっていることだろう
この2人が何やら隠し話をすることは最近では珍しいことでもなくなり、その周囲も特別の疑惑を抱いてはいなかった
もちろん、その周囲とは皆が皆指揮官級であるが故で、誰彼にも伝えるべきでない情報が誰にでもあるということを理解しているからではあった、が
「そういえば皆、面白い話があるぞ。」
ウィルクスが姿勢を戻し、話を変える
「ほう、面白い話、か。 なんだ、ウィルクス?」
「まずはこれを見てくれ。 何だと思う?」
エンスウェンの問いにウィルクスが部屋の中央にあるテーブルに空間投影の3Dホログラムを表示させる
映し出されたのは六輪の車輪と無骨なフレームその他が組み合わさった車両のようなホログラムだ
「...ふむ、だいぶ...無骨なようだが...」
エンスウェンの感想はもっともなものだ
いくら太陽系大戦でいくつもの技術が喪われたとはいえ、たかだか車両程度をこんな風な無骨なデザインでしか作れないほどではない
「まぁその通りだ。 普通ならこんなものをわざわざ見せる意味はないだろう。 まぁ聞いてくれ。 これは軌道エレベータチャーリーを破壊した連中がその作戦の途中にカシオペア峡谷で発掘したそうだ。」
「発掘?」
ルプスレフィアが短く問う
「そうだ、発掘だ。 データベースから同定作業が進んでいたんだが、だいぶ古いアーカイブにこれについての情報があった。」
ウィルクスがデータパッドを操作し、ホログラムの周囲に同じくホログラム表示のモニタを表示させる
それを見たルプスレフィアが声に出して読み上げる
「キュリオ...シティ? なにこれ?」
「陸上車両型無人火星探査機、キュリオシティだ。 アーカイブの情報によれば、2000年代初頭に建造され、初歩的なロケットによって火星に送り込まれたらしい。 あまり詳しい情報は残っていないが、まだテラフォーミングはおろか、人類が地球以外に生存可能圏を築く前の話だ。 当然、火星も今のように緑と水に溢れる惑星ではなく、酸化鉄による赤い地表だけだった頃だ。」
「これは驚いた。 そんなものが現存していたのか?」
エンスウェンが心から驚いたと言わんばかりの声音でそう告げる
「報告によれば、発見時、これは極一部を除いてカシオペア峡谷最下部の地面に埋まっていたそうだ。 それが風化を極限まで遅らせていたのかもしれない。 本国にも報告済みだが、既に協定標準省でも大騒ぎだ。 黄金時代どころかそれより前の遺物が発見されたのだからな。 これは人類の宇宙開発の輝かしい歴史の証人だ。 既に本国に送り、詳細に解析する準備が進められている。 この後夜にも軌道エレベータで艦隊に送られ、その後すぐに移送される手筈だ。」
「地球から火星に送られて以来1000年もの間、こんな場所で待っていたとはな... ESFはなんでこんなものをほったらかしにしていたんだ?」
「さぁな。 興味がなかったんだろう。 我々CAUにしてみれば、人類が宇宙というフロンティアを開拓し始めた頃の遺産だ、これ以上のものはそうはお目にかかれない。 なんにしろ、本国の学者共は寝れない日々を過ごすことになろうだろうな、良い意味で。」
シオンハートの疑問に、ウィルクスがいたずらっぽく笑いながら返す
地球から遠く離れた太陽系外縁、あるいはその先の未知なる外宇宙を目指すCAUからしてみれば、人類宇宙開発の遺産というものはまさしく自分達の歴史を主張するための政治的な道具としても有用だろう
「と、そうだった。 重要なことを話そう。 既にそちらでも受け取っているかもしれないが、本国のサイラスからセイバー艦隊の帰投命令があった。 一部の艦隊、及び地上部隊を残し、我々主力艦隊は海王星に一度帰投する。 その後、第2、第3艦隊は土星、木星へと帰投する。 正規軍も概ね同様だそうだ。」
「いや、初耳だな。 オルグ?」
「私のほうにも来ていたな。 サイラスのことだ、我々2人に送ったのだろう。 いや、あるいはシオンハートにもか?」
「ん? あぁ、私にも来ていたぞ。 こっちはカエデが来ていないからな。」
「なるほどな、そういうことだったか。 今回の戦い、我々は確かにESFに大打撃を与えたが、こちらの損害も大きい。 ESFも早期に何か手を打ってくるということは考えにくいからな、その隙に、というわけにはなるが、ここらで戦力の再編は必要だろう。 何やら新造艦の計画も聞こえてくることだしな...」
戦果は大きいが、受けた損害は決して無視しえるものではない
火星軌道を巡ったライトニングストライク作戦は確実にCAU艦隊にダメージを与えていたのだ
火星に橋頭保を築くという全ての始まりの目標が達成された今、一度撤退することが選ばれた
そうして、戦いは一時の小康状態へと移ろうだろう...




