74: EP4.5-6 『Code:K』 グラウンドアサルト:Ⅵ
なんだろうね、まるで...こう...
C...ん、メープル、何か用かい?
...何? 解析に進展があった、だって?
西暦3020年4月3日[STC]
協定宇宙時07:50、火星新太平洋西時間22:50
火星地表、火星軌道エレベータチャーリー、基部基地
CAU正規軍第4バトルワーカー大隊、『ストライカー』分隊
「積荷を下ろすんだ! 急げ!」
緊急時に急いで物資を宇宙に上げれるように用意された軍用射出場のランディングパッド周辺には兵士達が大勢いた
そして、その中に一際目立つ、大きな楕円形の物体があった
その様子を望遠映像を通してストライカーの面々は見ていた
「見つけた!」
「どうするつもりだ?」
ジャクソンが基地に向かって速度を上げ続けるジャックに問う
「奴らもあの爆弾をここで爆発させるほどのバカじゃないはず! そんなことをすれば軌道エレベータも無事じゃ済まない。 強制着陸させて敵を殲滅、兵器を奪い取ります!」
「めちゃくちゃだぜ、ジャック!」
ベイカーが叫ぶ
『接近中の友軍機! 速度を落とすんだ、こちらは危険物がある! 退避しろ!』
「無理だ、こちらはエンジンを破損している! 緊急着陸しないと後部の爆薬を乗せたまま向こうの市街地に突っ込むことになる!」
ジャックは無茶だと思いながらも咄嗟の嘘をつき、そのままランディングパッドめがけて速度を上げる
「爆弾に当てんなよ!!!」
「分かってるさ! 全員掴まれ!」
ジャックはエンジンを切り、速度を急激に落として急旋回させた
ランディングパッド前の広い空間にVTOLは横滑りしながら着陸し、その場にいた兵士達を吹き飛ばしながらもようやく止まる
ジャック達はCAU正規軍仕様で頑丈と評判のエクソスーツによって守られていた
そして、揺れが収まるとすぐに銃を取る
「おい! 何してんだ馬鹿野郎! 今すぐ出てこい!!」
ESFの兵士たちはまだジャック達には気付いていなかった
ジャックは機体の窓を叩き割り、フラッシュバンを投げた
「なんだ!?」
激しい閃光が辺りを包み込み、ESFの兵士達の視界を奪う
「戦闘開始!」
それとほぼ同時に、開放の終わった後部ハッチから躍り出たストライカー隊は戦闘を始める
手にしたアサルトライフルの苛烈な連射がESFの歩兵を貫く
「確保に向かって下さい!」
アダムがジャックの援護をする
ジャックは銃のセレクターを解除しようとした兵士をアサルトライフルで2発撃って始末する
「チッ...!」
続いて兵器を守ろうとした兵士たちを短いフルオート射撃で倒す
横から降り注いできた銃撃を爆弾の影に滑り込んで回避
途端に銃撃は止んだ
「やっぱりな...!」
ESF兵は爆弾の誘爆、あるいは故障を恐れている
そしてジャックは爆弾をカバーに一方的に敵を射殺した
「クリア!!」
奇襲は成功し、辺りの敵影がなくなる
だが、警報は鳴り響き、じきに敵が来ることを知らせていた
「次はどうする!? ジャック!!」
ジャックが一瞬逡巡する
「....これを軌道エレベーターの上部で爆発させる! どうせ連中のものだ、壊したって文句は言われないだろう。」
「なんだって!?」
「タイマー起爆するんだ!」
ベイカーの誤解を解くようにジャックは付け加える
そして核融合爆弾をエクソスーツの怪力で動かし始める
「俺も手伝うぜ。」
ベイカーがジャックの隣で爆弾を押し始める
「ジャクソン軍曹とアダムはエレベーターを開いて防衛体制を!」
時間は迫っていた
敵の増援はすぐに来てしまうだろう
二人は急いで射出リフトへと爆弾を運び込む
「コンタクト!」
ジャックはどこに隠れていたのか、突如として側面から現れた敵を咄嗟ににホルスターから抜いたハンドガンで仕留める
「後もう少し!!」
そして、爆弾はリフトに無事乗った
「よし、タイマーをセットする。 ベイカー、リフトから降りてくれ。」
「おうよ、ジャック。」
ジャックは爆弾のタイマーをセットする
時間は5分だ
それだけあれば十分上に登っていくだろう
「準備完了!」
ベイカーに続いてジャックがリフトから離れようとした時だった
突然リフトが動き始め、上昇する
「ジャック!?」
「まだリフトは動かしていませんよ!?」
「一体...!?」
一瞬でベイカー達の姿は遠ざかり、ジャックは取り残される
そして、上から何かが降ってきた
一瞬スローになるジャックの視界に見えたそれは、楕円形の筒に、複数の穴が開いている
コンカッショングレネードだ
「しまった...」
コンカッションが爆発し、耳鳴りが世界を包む
景色は歪み、意識が混濁する
「見事だな、CAUの兵士。」
声がする
眩む視界の中、ジャックは必死に顔を上げる
そこに立っていたのは一人の男だった
「素晴らしい戦いぶりだ。 さて...ここからどう脱出するかな? それではな、いずれすぐに会えるだろう。」
男はリフトに乗っていた赤と白のストライプ柄の角に青地に星の描かれた旗を回収すると、リフトの非常口へと消えていく
「逃げないと...」
リフトの非常口は男が開けたままだった
それは外へと続いている
やるしかない、そうジャックは決断する
最早迷っている暇などないのだ
上昇を続けるリフトの非常口を抜け、ジャックは軌道エレベータ基部の明かりが照らす夜空へと飛び出した
「チッ...」
みるみる高度は下がり、体に風が吹きつける
ジャックはエクソスーツの固定を最大化して、軌道エレベータの外壁にしがみつこうとする
嫌な金属音が響き、火花が散る
長いことこの体勢ではいられないだろう
既に手に熱が感じるほどにエクソスーツは擦り減ってきた
ジャックは辺りを見る
「一か八か...」
ジャックは体を投げ出して、カーボンチューブ点検ハッチを掴む
勢いでハッチが開放されるも、なんとか脱落することなくそれは外壁へと保持される
「なんとかなったか...」
安堵していると突然上空で爆発が起こり、爆風が吹きつける
ジャックは必死でしがみつき、耐える
『ジャック、無事か!? 応答しろ!』
爆発が収まり、ジャクソンがジャックに通信した
「まぁ、なんとか。」
ジャックは苦笑し、そう返した
翌朝、軌道エレベータブラボー基部
CAU前線基地アルファ
「ったくひでぇ目にあったぜ、ジャック?」
「うだうだ言うな、帰ってこられたんだからいいだろ。」
軌道エレベータの途中で信じがたいほどの爆発が起きた
それはESFに大混乱を引き起こし、基地に侵入者がいる、という情報は必然的に後回しにされることになった
結果として、それはストライカーの撤退を容易なものにしていた
ジャックが軌道エレベータの外壁伝いに降りてくるやいなや、まだ動く状態だった航空機を奪うなり、ストライカーは東へと引き返していた
混乱の最中、それをわざわざ引き留めようとする者はいたかもしれないが、それでも何の妨害もなく彼らは飛び去っていた
重力と遠心力の均衡、それに加え、地上に引き留める接続を失った軌道エレベータチャーリーの軌道ステーションを含めた上部構造は崩壊し、その一部は火星の重力に従い、チャーリー基部の北へと落下し、落着地点に凄まじい被害を出していた
だが、その大半が穀倉地帯だったのは、唯一の救いだろうか
残りの上部構造も遠心力のまま火星から離れる方向に飛んで行ってしまい、今では遠く離れた場所を自転速度で射出されたまま飛び続けているだろう
「おい、ジャック、それにベイカー。 大佐からの呼び出しだ。」
「あれか? 勝手に軌道エレベータを吹っ飛ばしちまったから始末書か?」
「どうだか。」
ジャクソンがデータパッドを片手に2人を呼ぶ
「俺も何だか聞いていないんだ、まぁいい、行くぞ。」
「へいへい、行きますよってば。」
「まぁ、諸君らの行動は確かに必要に駆られてのことだ、それを咎めはできない。 ...だが、もう少し考えることはできなかったのか、ジャック? 例えば、こちらの応援を待つ、だとかだな...」
「...も、申し訳もございません...」
「まぁいい。 戦果は戦果だ。 こちらも何か明確な指示をしたわけではない。 ストライカー、繰り返すようだが、諸君らの行動を咎めはしない。 こちらの艦隊への大規模攻撃を未然に防ぐ戦果は誇られて然るべきものだ。 話は以上だ、下がってくれて構わない。」
基地の会議室の一つへと呼び出されたストライカー隊の面々はハルバ―にこってりと絞られていた
それもそうだ
軌道エレベータの一つを粉々に破壊してせしめるなど、無茶苦茶にもほどがあるだろう
しかし、意外なことにもたっぷり小一時間は絞られた以外は何のお咎めもなかった
あるいは、こうなる可能性をハルバ―は分かっていたのだろうか
部屋を出たストライカー隊の面々が再び口を開く
「良かったぜ、営倉入りとかはしたくなかったしな。」
「渋々、って感じでしたけどね。」
ベイカーが軽口を叩き、アダムがそんな感想を口にする
「しかし、冷静になるととんでもないことをしてしまったな、我々は。」
「仕方ありません、ジャクソン軍曹。 こうするしかなかったわけですから。」
「...元はと言えばジャック、お前が言い出したことだったな...」
微妙に恨めしそうな顔、そして口調でジャクソンがジャックに向けて言う
「まぁその...すいません。」
「いいさ、皆、飯にしよう。 腹が減っては何とやら、だからな。」
そうジャクソンが口にしたのに皆が同意し、彼らは食堂へと歩いていく
たった4人だけの分隊が成し遂げたにしてはあまりにも大きすぎる事態だが、それでも彼らは変わらず歩いていく
その背中は、この戦いがまだ終わらないことを暗に告げているようだった




