73: EP4.5-5 『Code:K』 グラウンドアサルト:Ⅴ
ふーむ...さすが他元因子だね...
西暦3020年4月3日[STC]
協定宇宙時05:31、火星新太平洋西時間20:31
火星地表、メシヌ盆地西部、ESF基地付近
CAU正規軍第4バトルワーカー大隊、『ストライカー』分隊
「ジャック、何がもう少しだよ、着いたのは夜じゃねぇか...」
辺りはすっかり暗くなって目の前にはそびえ立つ基地があった
「敵影はありません、何かがおかしい...」
アダムがスコープを覗きながら丁寧に偵察する
「灯りはついてるけど敵はいないな。」
「撤退したかも。」
ジャックは不自然に思ったが、立ち上がった
少なくともこんな大きな基地を捨てて逃げるとは考えにくいが...
「行こう。」
四人は歩きはじめた
「なんで基地に滑走路があんだよ、偵察はどうなってんだ偵察は。」
そこには報告には無かった滑走路があった
「展開式みたいだな、普段は隠してあったみたいだ。」
隠してあった滑走路があるが、航空機はない
既に退却...あるいは、脱出したと考えるべきだった
「もう何も残ってないかもな。」
「ブービートラップくらいはあるかもしれない。」
ジャクソンは必然的に警戒した
「アダム、警戒を。」
「了解、軍曹。」
アダムは爆発物探知ソナーを持っていたのだ
基地の施設に近づき、ジャックは正面ゲートを開ける
そこには受付カウンターや荷物検査場があった
しかし、誰もいない
「クリア。」
「何かを引きずった後が。」
アダムが地面を指差す
そこにあったのは施設の奥から今入ってきた場所、つまり外へと続いている擦り傷だった
「あの奥から何かを運んだに違いない。」
ジャクソンは奥へと指を指す
「何があったか調べよう。」
四人は奥へと進む
その何か以外にも様々な部屋から多くの持ち出したようで、あらゆる場所は散乱していた
「ここで何をしてたんだろうな。」
ベイカーがふと通路に落ちている紙を拾った
CAUとESFは太陽系大戦以前の時代に源流を持つ同じ共通言語を使っているため、苦労せずそれを読むことができる
「兵器研究所、だとよ。」
「なるほど...」
「となると...多分持ち出したのは何かの兵器ですね。」
アダムが擦り傷を辿りながら言う
「ここか。」
ジャック達の目の前には大きな鉄の扉があった
二重になっていたそれらは既に開かれていて、中には大きな研究室が広がっている
様々な機械のケーブルが散乱し、それらは全て中央の巨大な台座へと繋がっていた
「なんです? これ?」
アダムがそう聞きつつも、真っ先に調べ始める
「大きいな...」
その台座には楕円のスペースが存在した
卵状の何かを置いていたのだろう
「どうやら、太陽系大戦以前に作られた兵器で...核融合爆弾のようです。」
「なんだそりゃ?」
「とんでもなく膨大なエネルギーで全てを破壊するとんでもない兵器です。 コロニーくらいは一瞬です。」
そして、その危険極まりない兵器は持ち出された
誰が持ちだしたか、どこで使おうと言うのか
そんなことは考えるまでもない
「HQ、応答しろ! こちらストライカー! 基地を調査し、ESFが大量破壊兵器を持ち出したことを確認した! 核融合爆弾だ!西方向に航空機を確認できないか!? オーバー!」
ジャクソンはすかさず本部に連絡を取る
『こちらHQ、艦隊に確認する、少し待て。』
「早くしてくれ、手遅れになりかねない。」
ジャックが続けてそう言う
『HQよりストライカー、こちらのものでない航空機編隊が軌道エレベーターチャーリーに向かって飛行中だ。』
「クソッ! 」
ジャクソンは通信を切る
「軍曹! 今見てきましたが、格納庫に航空機が一機だけ残ってます!」
「おい、俺達操縦なんかできねぇぞ!?」
「俺がやる。」
答えたのはジャックだった
「急ぐぞ。」
ジャクソンが先導する形で四人は走り出した
「なぁ! 止めたはいいが俺たちごと爆散って確率はどれくらいあるんだ?」
「知りませんよ! 状況にもよるでしょ!」
「二人とも足を動かせ!」
ジャクソンはベイカーとアダムを黙らす
早くしなければ地上にせよ、艦隊にせよ、CAUは大打撃を受ける
それだけは防がなければならなかった
「あったぞ!」
そこにあったのは輸送用のVTOL機だった
四人は足を止めず、そのまま開いたままの後部のハッチから乗り込む
「出発するぞ!」
ジャックはコンソールを起動し、操縦桿を握る
夜の闇にぼんやりと光る誘導灯を横目に、機体を上昇させる
そして、スロットルを最大にすると、一気に機体は前進し始める
「おい、もしかして操縦習ったことあるのか?」
「似たようなのを治安部隊の時に少しだけ。」
ジャックは機体のランディングギアを格納し、空気抵抗を減らす
「見つけた...!」
対空レーダーの遥か前方には友軍機─ESF軍機の表示があった
つまりは核融合爆弾を運搬している飛行部隊であり、まだ追いつける距離にいる
「こちらストライカー、HQ聞こえるか? オーバー。」
ジャックは自分の無線を使って本部に通信をする
『こちらHQ、そちらの位置は...ESFの航空機となっているが?』
「敵の航空機を奪取、大量破壊兵器を追跡中。」
『了解。 ...ゼロファイターを借りた。 30分でそちらと合流できる。』
「了解、ストライカー、アウト。」
ジャックは無線を切り、操縦桿を握りしめる
「見えた! あいつらだ!」
しばらく飛行し、遠目から翼端灯を目視したベイカーが叫んだ
「チッ...!」
ジャックがふと下を見ると、雲の切れ目から都市の明かりが見えた
もしここで敵の航空機を破壊すれば都市部に被害が出る
可能ならばそれは避けたいところだと思い、ジャックは航空機の無線を取る
「前方の輸送機へ、聞こえるか?」
『聞こえている、こちらは機密物資を輸送中だ、そちらは? 我々で最後のはずだったんだが...』
敵のパイロットの声がインカムから響く
「こちらも同じく。 だが、パイロットが死亡したため、代理で機密物資を輸送している。 正式な命令書を受け取っていないんだ、どこに着陸すればいい?」
『チャーリーの第2緊急射出場だ。 グリッドを転送する。』
「感謝する。」
ジャックは送られてきた座標を機体の窓のHUDにある地図に表示させる。
「演技派だな、ジャック?」
ベイカーは感心する
「そうでもない。」
「着陸時に襲撃を仕掛ける、敵を殲滅して兵器を回収...その後はその時判断しよう、いいな、皆?」
ジャックは眉をひそめていた
「そう難しく考えんな、爆発させなきゃただのでけぇ塊さ。」
ベイカーは笑いながら気楽そうに振る舞う
「そう言う問題じゃないだろ。」
ジャックは苦笑して、輸送編隊の後部で機体を維持させる
「というか、恐らく敵の大部隊と遭遇しますけど、そこら辺はどうするつもりなんですか?」
「どうするって? もちろん、正面突破だ、素早くな。」
「おいおい頭イカれてんのか? 頭吹っ飛ばされて死ぬのがオチだぜ?」
ジャクソンのあまりに突拍子のない、無計画な発言にベイカーは呆れ、ついつい上官相手であるにも関わらずそんなことを言う
軌道エレベーターチャーリーは規模こそ小さいがそれは他二つの軌道エレベーターより小さいというだけで、その基部にある基地は通常のそれより遥かに巨大だ
内部には師団規模にもなる陸軍部隊がいるとされているが、それは誇張でもなんでもなく、事実なのだろう
「それでも、誰かがやらなくちゃいけない。 俺達の命なんて死ねと命令されたら死ぬ、その程度だ。」
ジャックの目には確かな決意が宿っていた
「ったくよ、じゃあ俺の命も一緒だな、ジャック。」
ベイカーははにかみ、サムズアップをジャックに贈った




