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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP4『新太平洋の戦い』

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63/129

63: EP4-13 ストームレインの攻防: モリガンの寵児

もう少し、楽しませてもらわなきゃね。

というか、さすがにそうじゃないと申し訳がたたないよ、彼女に。

Code: Iにさ。

コロニー協定連合体 "CAU"

オペレーションストームライダー

7日目

西暦3020年3月29日[STC]

協定宇宙時(STC)15:39、火星新太平洋西時間(MNPWT)06:39

火星(マーズ)地表、新太平洋西部、ESFストームレイン基地


人の成せる技、人の成せぬ技



──Side: 三人称視点



「ディケ!」

『エリソン! こちらへ!』


通信アレイ施設から走り出てきたローランドをディケが、ライブラが迎える

すぐに膝をつくような姿勢になり、コックピットハッチが開かれる

一息にそこに飛び乗り、すぐにハッチを閉めながらシートに身体を固定し、機体と接続する


「状況は?」


各種計器が視界に表示されていく中、ローランドが合わせて周囲の状況を確認する


『味方部隊があの機体を向こうで抑えています。 ですが、状況は思わしくないようです。 たった1機で6機を相手にできるとは...』

「なんだそりゃ? まるで...」


─自分もやってることだな─

ローランドはそう口にしようとして、そこで言い淀む


「ともかく、自分が相手したほうがいいってことだな、ディケ。」

『はい。 多数で当たることで被害は発生していませんが、厄介です。』

「...というか、見覚えがあるような...」


ローランドが首をひねって思い出そうとする


『...エリソン、あれです。 ここに来る途中に会った敵のエリートパイロットを忘れましたか?』

「...あぁ! あの飛び上がったヤツか! 道理で... そりゃ、余計に俺が相手しないとな。」


ライブラが立ち上がり、敵と味方が交戦するほうへと走る




『目標を確認。 ...再度照合しましたが、やはりあの敵で間違いありません。』

「武器が前と違うな... ハルバードか?」

『そのようです。 長さは...7...8メートルほどあります。 機体よりも大きな武器を振り回すのはそう簡単にできることではないはずですが...』


平均的なバトルワーカーが7メートルほどの全高であるからして、8メートルもの大きな武器というのは扱いづらいことこの上ないはずだ

だというのに、その敵は軽々とそれを振り回し、CAUのバトルワーカーを翻弄していた

もっとも、6対1という数の差から、それ以上の有効打を与えられているようにも見えなかった


「ディケ、交戦中の味方部隊に通達。 こちらが引き継ぐから下がれと伝えてくれ。」

『了解。 ...エリソン、あれとどう当たるつもりで?』

「分からん。 とりあえずかち合ってみるしかない。」


自身の手にあるものと相手のものを比べると、そのリーチの差は言うまでもない

機動性も前に見た限りだと、一般的な機体とは比べ物にならないほど高い

ふと味方の様子を見ると、ディケの連絡が行き届いたのか連携しつつ距離を取り始める

ちょうど敵を中心に対角線上に離れていく味方に気を取られ、敵の背後ががら空きになる


「...チャンス、貰った!」


瞬間、ローランドがスラスターを最大出力で吹かし、残っていた数十メートルはあろうかという距離を一気に詰める

ほんの数秒の間に詰まった距離、その勢いのまま手にしたソードを前に突き出し、そのまま貫こうとする


「──っな!?」


その瞬間、敵が横っ飛びし、攻撃を躱す


『っぶねぇなお前! ...あ? お前...』


近接通信、敵からだ


『...あー、思い出したぞ、また会ったな、CAUの。 さすがに殺られたかと思ったぞ。』

「...今の状況でよく躱したな。」

『まぁあれだ、勘ってヤツだ勘。 お前もそういうのあるだろ?』

「...」


会話をしようにも飄々とした態度で返されるのを理解したローランドが押し黙る

その間にも、両者が一定の距離を取りつつお互いに1つの円を描くように動く


『今度はまだ時間もあるしな... さっきのあいつらじゃ張り合いない割には数ばっかいて面倒でな。 お前、戦うのは好きか?』

「いや...そんなわけないだろう...」

『それもそうか。 まぁいい、お前、名前は?』


おおよそ戦場らしからぬ問いだ


「...」

『なんだ、ツレねぇヤツだな。 まぁいい、俺はアレクシス。 アレクシス・ソーンダイク。 ESF中尉だ。 それとコイツは愛機モリガンだ そんでもって、お前は?』


戦場でいちいち名乗るという行為など、聞いたことがない

ローランドの思考をそんな思いが巡る


「...ローランド・エリソンだ。」


だが、今は乗っておくべきか、そう判断する

冷静に考えてみれば、時間を稼ぐだけでも今は価値がある


『いい名前だ。 それじゃ、始めようぜ、ローランド。 俺と、このモリガンを楽しませてくれ!』


そうアレクシスが言うなり、敵バトルワーカー──モリガンが一息にライブラに飛び掛かった






8メートルもの長大なリーチから繰り出される攻撃を、ローランドがソードで弾く

やはりいくらバトルワーカーの出力をもってしても、先端が重く、そして長い武器は振り回されてしまうのか若干動きに隙が見える

それでも、その隙は可能な限り減らされているとみて間違いないだろう


『振り始め...そして振り終わりに隙が見えますが...』

「そこに差し込めるなら苦労しないさ、ディケ。」


バトルワーカー用の盾がないわけではないが、両者そんなものは装備していない

相手の機動性の良さを考えると、距離を取って射撃を行うのも難しいかもしれない

試すだけ試すか、そう考えて一度後ろに大きく跳躍する


右手にソードを握ったまま、咄嗟に左手で腰背部にマウントしていたアサルトライフルを取り、フルオートでモリガンに向かって放つ

何をするのか、と構えていたモリガンが最小の動きでハルバードを動かし、そのエネルギー弾のうち、大きな損害になりそうなものだけどを確実に受け止める

それでも、数発が腕や足の装甲を焦がす


「...頑丈だな、あの装甲...」

『いくら出力を下げているとはいえ、貫通できないなんて。 他の敵機には問題なく通用していましたよ!』


ディケが驚きの声を上げる


『お前なんだそれ! ビームか!?』

「ズルいなんて言うなよ、戦場にズルも何もなんて、分かってるんだろ?」


自身でも驚くほどに、するすると言葉が出るローランド


『もちろんそりゃそうだ。 さすがに驚かされたがな。 CAUはもうそんなのも実用化してやがったのか。』


余計なことを言って情報を漏らしてはいけない、とローランドが黙る

聞いた話が正しければ、これはCAUにも作れないようなシロモノのはずだからだ


「ディケ、スナイパーに援護させろ。 さすがにこれは難しいかもしれない。 何より、あのリーチは厄介だ。」


ライブラの装甲は一般に使われているものより頑丈に仕上げられているとは聞いているが、それがあのハルバードの直撃に耐えきれるかどうかの保証はないし、実際に受けてみるわけにもいかない以上、取れる手段は少ない


『了解、2方向から狙撃させましょう。』

「頼んだ。」


牽制の射撃を続けながら、距離を維持する


『おいおいローランド、もっと真面目に...』


アレクシスがそう言おうとした直後、そのハルバードを何かが弾く


「! 貰った!」


スナイパーの攻撃が、その銃弾がモリガンのハルバードを弾いたのだ

その隙を逃さす、ローランドが右手のソードを振りかざしながら距離を詰める


『───っ!』


モリガンが少し、ほんの少しだけ身を捩る

そして、左腕をライブラのほうへと伸ばし...


その伸ばされたソードに、その側面を擦らせる


「...は?」


勢いのまま、ライブラがモリガンの左腕側を滑りぬけていく


『あっぶねぇ!!! ...やっぱりスナイパーは厄介だな...』


アレクシスが悪態を付く

見ると、モリガンの左腕に大きな亀裂が入っている

間違いなく、ライブラのソードを受け流した跡だろう


弾かれたハルバードはモリガンから離れた位置にある

この最中に拾い上げるのは難しいだろう


アレクシスがちらりとレーダーを見る

周囲にいるESF部隊はどれもCAU部隊と交戦中で、援護に入れそうな部隊はいない

続けて、別のモニターにも目を通す

表示されているのはカウントダウンと、いくつもの航空機を表すアイコンだ

それを確認し、アレクシスがコックピットの中で一瞬宙を仰ぐ

そして、手元にあるボタンをいくつか操作すると、改めてメインモニタに向き直る


『...いや、無理をするのはやめとくか。 ...おい、ローランド。』

「なんだ?」

『ここはお前に譲ってやる。 どっちにしろこの基地は持たないだろうしな。 ...一つだけ教えてやる。 この基地の連中は最後まで戦うつもりだ。 精々、足元を掬われないようにしとけ。』

「待て、逃げるのか?」

『そらそうよ、勝てない戦いで無駄に死ぬことほど恥ずかしいこともないからな。 生き延びて最後に勝ちゃあいい。』


そんなことを言いながら、既にモリガンが後退する構えを見せる


「逃がすか!」

『待ってください、この展開は...何か嫌な予感が...』

「ディケ?」

『誘われたように感じます、以前の遭遇でもあの敵─アレクシスと言いましたか、彼が逃げる時にスナイパーに狙撃されました。』


気にしすぎだ、そう言おうとしたローランドの目前で突如として地面が爆ぜる


「うわっ!?」

『やっぱり! 少々ワンパターンすぎる気はしますが! ...砲撃のようです、それも大型の。』

「...拠点砲クラスか、まさか。」


完全にここが敵基地内部であることを忘れていたローランドからすると、間違いなく意識外からの攻撃だった

巻き込まれていればどうなっていたことか

危ないところをディケに救われた形だ


「それより、アイツはどこに?」


爆炎や土埃が晴れると同時に、モリガンの姿を探す

しかし、その姿はどこにもない


「また逃げられたか... 逃げ足が速いな。」

『強さ、それでいて引き際の潔さ。 なるほど、厄介なパイロットですね。』

「却って厄介なタイプだな、ディケ。 あんな発言をしておいて、常に冷静か。」


決して弱いから逃げるわけではない、というのが感じられる相手だった

そんな感想をローランドは抱く


『ガートルより全ユニットへ、目標ベータ、イプシロンがこちらの支配下に入った。 両目標周辺のユニットは地点を維持せよ。』


シオンハートが全体通信を飛ばしている

どうやら、アレクシスに合わせて他のESF部隊も撤退したようだ


『合わせて、基地東部の滑走路に動きがあった。 敵の大型輸送機の離陸を確認した。 敵の撤退が開始されたようだ。 あまり猶予はない、可能な限り多くの敵を排除しつつ、アレイを制圧せよ。』


気づけば、嵐はほとんど止んでいる

可能なら滑走路を制圧したいところだが、未だその過程には敵が多すぎる


『ローランド、お前は目標アルファへ向かってくれ。 特別な脅威は今のところ確認されていないが、敵の数が多く苦戦している。 援護してやってくれ。』

「了解、准将。」

『頼んだぞ。』


シオンハートからローランドに再びの個別通信で指示が伝えられる


『先ほどより軌道通信が安定していますね。 准将が言う通り、通信アレイを2つ抑えているようです。』

「だが、全て抑えないとな。」

『えぇ、行きましょう、エリソン。』


伝えられた次の目標へとライブラが足を向ける

その場には他の部隊が残り、場を固める

基地での戦いはまだ続く──






その頃、基地から飛び立ったESF輸送機内部で──


この最初に飛び立った輸送機は、乗っている全ての人間がこの基地にいた非戦闘員、あるいはESF軍人の家族などだ

ESFにおいて、家族などが軍人と一緒にこのような基地に暮らしていることはそう珍しいことでもない

ましてや、このリゾート地に近いストームレインでは余計に、だ


輸送機の貨物室の一角、外が見える小さな窓の傍に、少女とその母親らしき姿があった


「...ねぇママ、パパ、大丈夫だよね?」

「大丈夫よ、ちゃんと後から来るって言っていたから。」

「うん、分かった。」


少女と母親は窓の外を、眼下に広がる海を見つめながらそんな会話をしていた

彼女達の父親は、どうやらあのストームレインでバトルワーカーパイロットとして勤めているようだった

今も、戦闘が続くその場所で

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