101: EP6-7 オペレーションシージアース: ムラクモ
...備えは備えのまま終わってくれればいいんだけど。
オペレーションシージアース
1日目
西暦3020年12月5日[STC]
協定宇宙時14:25
地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域
──Side: 三人称視点
『CICよりブリッヂ、ムラクモの制御システムの準備完了。』
『機関室よりCIC、ブリッヂへ。 ムラクモサブリアクター、始動開始。』
『了解、CICへ、対反動策起動、IEPAR出力を必要最低限を残しシールドシステムへリルート、シールドブースター始動準備。』
『CIC了解、リアクターリルート。』
重装フルアーマーアルティアの出撃より少し時を戻し、所変わりCAU旗艦、アマテラスの艦内ではその時が迫っていた
この艦がここまで超大型化した所以の一つ、750メートルもの口径を誇る艦隊決戦兵器、超大型対艦レーザー『ムラクモ』の実戦運用だ
『機関室より全ステーションへ、IEPARをムラクモバレルキャパシタ、ベースキャパシタへリルート。 ブリッヂへ、シールドシステム補強完了、近接防衛火器を残し砲制御システムへの出力停止。』
『CICより機関室、ムラクモフォワードへのシールド出力を開始する。 艦前方のシールド出力全開。』
『了解した、チャージ完了まで凌げるだろう。』
CAUが投入したパッシブシールド技術により展開されているシールドは通常では目に見えるようなものではないが、アマテラスの大出力によって補強されたそれは青白く発光し始める
もちろん、それは敵にも異変を察知させるものとなることは言うまでもない
『また...一つ! グルーバー、チェスター、着いてこられてるか?』
『だ、大丈夫です、少尉殿!』
ムラクモがターゲットとしているESFの大型艦載機母艦『ジュディ』のすぐ近くにはライデン隊も展開していた
既にこの宙域では両軍の艦隊、そしてバトルワーカー隊が交戦しており、まさしく混戦の様相を呈していた
ユウ・リヨンはその最中にありながらも、未だ生き延びていた
予想通りと言うべきか、案の定クロノスはどこかに行ったまま帰ってきていない
最早呆れる気力もなく、今はただ目の前の敵に集中していた
『ライデン隊各員! ディム大佐より優先命令が出た! 戦域を横断しバーナード隊の支援に付く!』
『了解だクラウス、やってやろう!』
まだ若い新人2人と共に、部隊は戦場の只中を駆け抜ける
ふと、隊長ハーネルの後ろに続いていたブルックリンが何かに気づく
『なぁクラウス、アレを見ろ。』
『どうした?』
ブルックリンが機体のサブカメラで映した映像を全員に中継する
『これは...』
『俺の目か頭がおかしくなってない限りは、何か良くないことが起きようとしているとは思うんだが。』
映像には、戦闘開始時からずっと目を引いていたCAUの超大型艦が映っていた
しかしながらそれは先ほどまでと違い、艦体の前面に青白く光る膜のようなものを纏っているのだ
『大尉、あれ...動いてますよ!』
チェスターが言う
『...マジだな、なんだありゃ。』
その言葉通り、超大型艦の前面装甲が動いているのだ
その中から、巨大なリング状の機構がせり出してくる
それは、軍学校の教科書で見るようなCAUの艦載レーザー兵器の砲口をとにかく大きくしたようなものだった
『...1キロかそこらはある。 各員、あれに気を配っておけ...』
ハーネルがそう呟く
ブルックリンの言う通り、何か彼らにとって絶対に良くないことが起きようとしているのは明白だった
しかしながら、バトルワーカーがあれほど巨大なものに何ができようか?
隠しきれない不安と共に、ライデン隊は命令を果たすべく宇宙を駆け続ける
『CICよりブリッヂ、機関室。 ムラクモベースキャパシタの準備完了、バレルキャパシタ充填率95%。 まもなく発射準備完了。』
『ブリッヂ了解。 通信科、全艦隊へ一方向通信開け!』
『了解... 繋ぎます。』
アマテラスのブリッヂが一気に慌ただしくなる
『アマテラスより全ユニット司令官へ! ムラクモの発射準備完了、射線より至急退避せよ!』
『隔壁閉鎖開始。 BBL全点接続、安全装置解除。』
『CICより航行科、リザーブ出力で最終照準は行えるか?』
『問題ない、敵艦の移動は誤差範囲、現在艦首角度の最終調整中。』
ゆっくり、非常にゆっくりとアマテラスの向きが変わる
全てのリアクター出力を兵器システムに向けている今、この巨体を動かしているのはリザーブタンクにそのサイズにしてみればほんの僅かに残された反応済みのエジタイトだけだ
『CICよりブリッヂ、フォワードシールドの強度、75%まで低下。』
『まだ大丈夫だな、狼狽えるな。』
敵艦隊からの砲撃は先ほど前面のシールド強化で目立つようになってから集中しており、シールドが少しずつ削られている
しかしながら、ある程度揺らごうともまだそれは耐えられるようだった
『機関室よりCIC、ムラクモサブリアクター、IEPARの接続を解除、全エネルギー充填完了。 隔壁、緊急弁閉鎖、完了。 全ステーションへ、最終安全装置の機関室側ロックを解除。』
ムラクモはその内包するエネルギー量から、何段にも分かれた安全装置で保護されており、ついにその全てが解除される
最後に残るは、最終安全装置の完全解除のみだ
『ブリッヂ了解、最終安全装置解除、CIC、発射権限を移行。』
艦長が、艦隊司令が最終許可を下す
その間にも、艦隊による防衛を潜り抜けた少数のESF制宙攻撃機の攻撃が続く
前面のシールドのみならず、艦全体を包むシールドも強化されており、そう簡単に突破されることはないだろうが、それでもそれは乗員達にプレッシャーを与え続ける
『CIC、全許可を確認。最終安全装置解除、ベースキャパシタの全エネルギーをバレルへ充填開始。』
もう後戻りはできないところまで来たのだ
外部へと露出された砲口、その奥から少しずつエネルギーが溢れ始める
淡い紫色をしたそのエネルギーは、採掘されるエジタイト鉱石の色を象徴しているかのようだった
その様子を望遠映像でふと目にしたウィルクスが呟く
『うん? あれはムラクモの... 妙だな、ムラクモは純電力変換式だったはずだが...』
その呟きをよそに、その猛威は解放されようとしていた
『バレルキャパシタ全点接続、最終出力アップ。』
『機関室よりCIC、フォワードシールドの損耗が激しい、砲口エネルギー放出が計算よりも大きい。』
『もうすぐ終わる、後、もう少しだ。』
既に射線上からCAUの戦力の退避は完了し、敵もそれが一直線上にあり、どこを向いているのか察知していた
もう誰の目にも何が起きるかは説明の必要はなく、狙われているという自覚のあるその艦載機母艦『ジュディ』は鈍重な艦体を少しでも動かし、避けようとしている
しかし、判断が遅かったのだろう
『全エネルギーをバレルに充填... フォワードシールド解除、発射する!』
CIC、中央戦闘指揮所のリーダーがコントロールパネルの最上部についたアクリルケースを拳で叩き割りながら発射ボタンを叩く
その直前に、横のデスクでは副官がムラクモを保護するために展開していたシールドを解除し、予測不可能な現象に備えていた
ムラクモの砲口に溢れていた淡い紫色の光は瞬きする間もなく目標へと伸びていく
何も知らずにその光景を見たら、ある種の美しさを感じるかもしれない
しかし、それは敵対している者達にとっては関係のないことだ
少なくとも、平等な死、という意味では
艦載機母艦『ジュディ』の装甲は一瞬、ほんの一瞬だけその光を受け止めることに成功した
しかし、それはあくまでほんの一息をつく間というだけのこと
次の瞬間には、艦の中央を光の筋が貫く
どちらかというと平べったく、横に長い構造をしていたその艦は、光の筋が消え去った後には左舷側と右舷側に僅かに泣き別れた残骸を残すだけになっていた
その残骸も、次第に誘爆によって更に細かく分かれていく
一撃、たったの一撃で最も大型に分類されるほうではあるはずのその艦は撃破された
『機関室よりブリッヂ! ムラクモ緊急弁解放! 想定以上にバレルの圧力が上がっている! 自壊しかねない!』
『了解した。 CICへ、フォワードシールドを復旧、ムラクモを格納せよ。』
『CIC了解、全シールドシステムを点検中... 追って報告する。 全砲制御システムを復旧、』
過剰なまでのその出力には未だ未知数なところが多いようだった
『...危なかったな。』
ハーネルが先ほどの光景を反芻する
一撃で大型艦を撃破する攻撃など、今までの人生で一度たりとも見た事はなかった
それが、今目の前の現実となっているのだ
『あんなもんまで連中は作りやがったか... どうするんだ、クラウス。』
『どうもこうも、目の前のことに集中するしかない... それか、事前に射線を察知して逃げるぐらいだろうな。』
バトルワーカーに対艦兵器をどうこうしろという方が無茶な相談だ
それに、目の前にまだ敵機は山ほど残っているのだ
頭を切り替え、ハーネルは再び戦場に意識を向けた




