そんなこと今さら言われても!
一ヶ月後、私は気になる話を聞いた。ユランがクエストに失敗したらしい。私と一緒にクエストへ行ったときに失敗なんてしなかったのに。少なくとも、今のスキルに目覚めてからは。
私はユランに会いにいった。
「ユラン、クエスト失敗したんですってね」
いつも待ち合わせに使っていた喫茶店、一人座るユランを前に開口一番私は言った。
「……ああ」
暗い表情でユランが肯定する。原因を聞くと、どうやらスキルが発動しなくなったらしい。
そういえば出会ったばかりのユランは、ろくなスキルを持っていなかった事を思い出す。ただ誰よりもひたむきで頑張るユランが、私は好きだったのだ。
ちなみにスーだかいう女は、ユランがスキルを失ったとたんあっさりパーティの解消を申し出たそうだ、ほらね。
「で、どうするの? その程度で諦めちゃうの?」
「君には、わからないよ……この、スキルを失った喪失感は……」
「もともと無かったものが、たまたま一時期あって、また無くなっただけでしょ? 私の好きだった男は何ももっていなかったわ」
「……」
彼に与えられたスキルは、彼からひたむきさを奪ってしまったのか。少なくとも私の知ってるユランは、諦めとは無縁の男のはず。
「ユラン、あなたならできるわ」
そう口にして、ユランの肩に触れたとき
ユランの体が、少し光った。見覚えのある光だ。炊きたてご飯を発動した時と──
忘れていたけど、ユランが物質崩壊に目覚めた、あの日。
ユランがはっとした顔をして、目の前にあるスプーンを手にする。スキルを発動したのだろう、スプーンは崩れ落ちた。
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私は、自分のスキルが『炊きたてご飯』だと思っていた。
でも違ったのだ。
今までそう思ってろくに調べたこともなかったが、今回スキルを鑑定してもらった。
私のスキルは『完成形』。物や人の可能性を、私の都合のよい形に引き出すというとんでもないスキルだったのだ。
鑑定した男は「他には目もくれず、よっぽど炊きたてのご飯に執着してたんですね」と言って私の食い意地を笑った。
ただしその効果は一ヶ月。期間を過ぎれば元に戻ってしまうらしい。効果を延長するには定期的な私との接触が必要になるとのことだ。
結果から言うと、ユランとは別れた。急に私に強く執着し始め、結婚を申し込んできたからだ。
そんなことを認めるほど、私は優しくない。
だって私は、彼の「スキル」ではないのだから。
そして──
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「疲れるから、今日は終わりたいのだけど」
冒険者ギルドのすぐ近くに開いた事務所。まだ残る長蛇の列を前に、私は宣言した。「えーっ」という不満の声が上がる。
私のスキルの噂は広がり、可能性を引き出してくれとの依頼が殺到している。
あまりに多いのでかなり高額の料金をとっているのだが、それでも依頼は増える一方だ。
「ミランダ、考え直してくれたかい?」
列に割り込んできて、ユランが話しかけてきた。
「あなたとは、終わったでしょ?」
「僕は、認めてない!」
食い下がるユランに、罵声が上がった。
「おいユラン! 何割り込んでる! ミランダ姐さんが困ってるだろ!」
見ると、ジャガが叫んでいた。複数の冒険者がユランを押さえて引きずっていった。
「愛してるんだ、ミランダー!」
遠くから叫ぶユランが今は哀れに思える。
次にスーが列を割り込んで現れた。
「私はユランさんに騙されてたんですね! やっぱりミランダさんは私の憧れた通りでした!」
いけしゃーしゃーとほざいた。
「ジャガ、このISS54もお願い」
「へっ? ISS54? あ、ああ、はい」
ジャガが私とスーの間で視線を往復させたあと、冒険者達に指示を出した。
「本当なんです! 憧れなんですぅー!」
ユランと同じような感じでスーも引きずられていった。
「へ、へへミランダ姐さん、少しはお役にたてましたかね?」
ジャガが揉み手で言ってくる。
「そうね、ほんの少しだけ。今なら2%サービスしてあげる」
「そ、そんなぁ、俺だけ料金倍じゃないっすかぁ……」
「パン派には、吹っ掛けることにしてるのよ」
「あれは嘘ですって! もう三食炊きたてご飯が最高ですって!」
必死に訴えかけるジャガ。見ているとスッとする、ふふ、そろそろ正規料金にしてあげても良いかしら。
その後も私にペコペコとする冒険者達を見ながら、私は思う。
本当にみんな、手のひら返しが凄いんだから、と。
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