すぴんおふ 観楓会
執筆に時間が取れてません。
後で出そうと思ってたスピンオフですが、生存報告を兼ねて。
某県、啓明市。
巨大な三角州の上に成り立つこの街は、人口がとりわけ多いわけでもないし、少ないわけでもない。
他と同じように少子高齢化が進み、若い人たちはより便利な首都圏や県庁所在地に流出。
人口に占める老齢者の割合も少しずつ高まってきている普通の地方都市だ。
そんな啓明市を流れる一級河川・啓明川のそばに、実にへんてこりんな見た目をした校舎が建っている。
県立啓南高校。
どこにでもある普通の公立共学校。
でも、この学校にはちょっとおかしなサークルが存在した。
☆☆☆
啓南高校の部室棟は、本校舎から少し離れたところにある。
渡り廊下でつながっているとはいえ、すこし距離があるぶん行くのが億劫だ。
申請すれば本校舎の教室を使えるから、部室棟で活動する文化系部活動は少ない。
普段は本校舎で活動するので部室は物置状態、という部活は少なからずあるのだ。
文芸部は、部室棟を使う数少ない部活の一つだった。
◇◇◇
土曜日。
文芸部の活動がないこの日、文芸部の部室には多くの人の姿があった。
彼らは「青春同好会」。
週一回、毎週土曜日に文芸部室に集まって、お菓子を食べながら「恋バナ」をして楽しむのだ。
「うん。みんな集まったな。それじゃあ、第5回観楓会をはじめる!」
出席者の確認をして、同好会長の3年、倉敷真澄が開会の宣言をする。
真澄は文芸部の部長で、同好会を立ち上げた張本人だ。
観楓会。
聞き慣れない言葉かもしれない。
本来はカエデなどの紅葉を鑑賞する集いのことで、北海道地方では特に秋に泊まりがけで行う懇親会のことを指す。
青春同好会では、他人の色恋を染まりゆく紅葉に見立て、お菓子を食べながら語り合いましょう、という会のことを言う。風流なのかそうでないのかわからないようなイベントだ。
元々は、文芸部員どうしでアイデアを交換しようと始められた会合だった。
お菓子を食べながら、やんややんやと騒ぐ。
その話題は恋愛に限らず、話題のゲームの話や、その時に放送しているアニメの話など様々だった。
そのうち、色恋沙汰を取り扱う時間がだんだん増えるようになり、調子に乗った真澄が「観楓会」なんて大層な名前をつけ、しまいにはほかの部活の部員まで参加するようになったので、新たに「青春同好会」を結成。今の形に落ち着いている。
「今週も色々いいネタ入ってますよ」
右腕に「報道」と書かれたオレンジ色の腕章をつけた女子生徒は、そう言ってパイプ椅子から立ち上がる。
新聞局の1年生、安斎菜花。
広い交友関係をフルに生かしてスクープを次々とすっぱ抜く新聞局の若きエースだ。
彼女は無類のゴシップ好きで、他の人の恥ずかしい噂を握れるなら…と青春同好会に参加した。
「生徒会執行部の2年生、中垣杏奈先輩。この人は次期会計と目されていますが、軽音楽部の3年生、久坂仗助先輩と深い仲だそうで」
「うおう…いきなりぶっこんで来たな。流石は安斎砲」
クロワッサンを片手にそう呟いたのは、文芸部の3年・武田夏帆。
青春同好会創立当初からの古参メンバーで、普段は小説などを執筆している。
「何ですかそのブッソウな通り名は」
「ほら、少し前に話題になったじゃん。文春砲、ってやつ。それに引っ掛けてあるんだよ、きっと」
夏帆は人差し指を立て、自分は名付け親じゃないアピールを交えながら説明するが、菜花は通り名が気に入らないらしく、すこしムッとした顔になった。
「週刊誌と一緒にしないで欲しいのですが」
菜花は、不満そうな顔のまま報告を続ける。
「軽音への生徒会費の割当の不審な増加。部員数の増減との相関関係が薄いように感じたので、おかしいな、と思って調べてみたら、裏で繋がってたってわけですよ。文字通りに」
「文字通り、ってそう言うことっスよね…」
文芸部2年の西川文香が、耳の先まで真っ赤にしながら尋ねる。
「はい。そういうことですよ。その時の証拠写真がこれです」
菜花は制服の内ポケットからL判の写真を取り出して、お菓子が置かれた机の上に置く。
写真には、制服を着た男女が放課後の教室で体を絡ませ合う様子が映されていた。
「教室で、なんて…。大胆だなあ」
文芸部1年の船橋六実が右手の人差し指の付け根でくいっとメガネを押し上げながら呟く。そのクールな仕草とは裏腹に、彼女の口角は上がっている。
「このことはくれぐれも内密に。私はあなた方を信用して情報を提供している、と言うことをお忘れなきよう」
菜花が念を押すと、わかってるわかってる、と全員が頷く。
「恋愛は自由ですが…しかし今回は生徒会費が絡む重大な問題です。記事にしないわけには行きませんね。公私混同は許されるべき行為ではないが、今回の問題を受けて自由な恋愛を規制しようとする動きが出るようなことはあってはならない、ってちゃんと書いておかないと」
そうしないと私たちの密かな楽しみがなくなっちゃいますからね、と付け加えて、菜花は座っていたパイプ椅子に再び腰掛ける。
先ほどまで耳の先まで茹で蛸のように真っ赤にしていた文香が口を開く。
「そういえばこの前、グリーの佐城くんと女声合唱部の橘さんが一緒に登校してくるの見たっス。聞くところによると2人は幼馴染だとか」
「かーっ。いいねいいね。そう言うの待ってた。いいじゃないですか、小さい頃からずっと一緒の幼馴染と…。心がときめくよねえ」
真澄はそう言うと、2Lのペットボトルから自分の紙コップにお茶を移す。
「グリーと女声合唱部って仲悪いんですか?私の友達の女声合唱部の子、グリーの子のことかなり嫌ってるようでしたけど」
六実はラスクを口に入れて、菜花に尋ねる。
「それは恐らく個人的な僻みでしょう。グリーの三村さん、逆ハーレム状態ですからねえ」
菜花はそう言って、個包装になっている一口大のチョコレートを口に放り込むと、続きを喋り出す。
「あの子可愛いし、歌もうまい。女声合唱部に入ってたら大きな戦力になってたでしょうね。でも彼女はそうしなかった。あろうことか、グリーに入ってしまった。そりゃ、女声合唱部があるのにわざわざグリーに入られたら、合唱部はいい顔しませんよ。三村さんが何を思ってグリーに入ったのかは知りませんけど」
菜花の話を黙って聞いていた文香は、なにかを思い出した風で、ぱん、と手を叩いて言った。
「そうそう。その三村さん、私この前見たっス。駅で佐城くんと2人でいるところ」
「なんだって⁉︎これは修羅場の予感だ。楽しくなってきたな!文香、kwsk!」
真澄は鼻息を荒くして文香を見る。
「真澄さん、落ち着いて。…なんだか深刻な風でしたよ。仮入部が失効するかしないかくらいの時期だったと思いますけど」
「フォー!三角関係だ三角関係だ!者共、であえであえー!」
「倉敷さん。あなたやっぱり相当やばいのね」
呆れ顔で菜花が呟く。
「おい菜花。それは新聞局の公式見解か?文芸部への宣戦布告と受け取っていいか?」
「いい訳ないでしょ」
…少女たちの観楓会は、まだまだ続く。




