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KNOCKER  作者: 謝花 昴
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5話 異常事態

「よっしゃー!!」


 篠原が歓喜の声を上げつつ高嶺に合流する。

 彼は、風下の少し離れた藪に潜んでいた。


「どうよ俺と桐島の合わせ技のマッドハンド!しっかり足止め出来ていただろ!?」


 ゴブリンに止めを刺した高嶺へグッドサインを飛ばす。


「初戦にしては上出来だ!」


 桃原もその中に加わり、グッドサインを返すように、みんなに出しニッと笑顔を向けた答えた。


「じゃあ訓練通りEHを使ってエグレゴ因子の吸収を行うように」


 そう言うと、桃原はすでに屍と化し崩れかけている三体のゴブリンを指さした。体は灰色に変わり形をかろうじて保っているだけで、 触れれば崩れ落ちそうな程に脆く見えた。

 新人たちは手のひらに乗るくらい小型な楕円形の物体を取り出し、灰へと変わりつつあるゴブリンへそっと近づけた。すると次の瞬間、形を保っていた屍の全てが崩れ落ちるとともに、灰の中から銀色の光をわずかに纏った粒子が生じた。銀の粒子は楕円形の物体(EH)が吸い込む。森の静けさの中で、その光だけが異質に揺れていた。

 新人たちはその異様な光景に一瞬息を呑みながらも、与えられた手順をこなすように黙々と作業を続けた。


「それがお前らの成果にもなるから絶対回収を忘れたり、EHをなくさないようにしろよ。じゃあ体制を整えたら再度出発だ!」


 その後も目的地へ向かう二時間の道のりで、更に二度の戦闘を経験した。緊張と疲労が交互に押し寄せる行軍を続けながら、一同はようやく目的地へと到着した。

 そこには、別ルートから先に到着していた他2班の姿があった。彼らは既に周囲の安全確認を終えていたようで、軽く手を振ってこちらへ合図を送ってくる。

 駐屯地を出たのは午前だったが、空を見上げれば太陽はすでに天頂を過ぎ、森の影がゆっくりと長く伸び始めていた。


「よし!お前らお疲れさん!まずは第一課題クリアだな。

 小休憩の後、改めて3班全員での合同作戦を開始するから気を抜かないように!」


 桃原はそう指示し、安田と高江洲との打ち合わせに向かった。


「よっ!お疲れさん。

 目標時間とほぼ同時刻での三班合流になるけど、お前らのとこの新人の動きはどうだった?」


 桃原はすでに合流していた安田と高江洲に向かって声をかける。


「おぅ。俺のところは二回戦闘があったな。二体と三体だ」

「自分のところも二回ですね。一体と三体です」

「おっ。じゃあ俺のとこが一番だな。三回で三体、二体、二体だ」

「先輩の班は優秀ですね!」

「だろ~。索敵能力が高いやつがいた事と、何より引率が優秀だからかな!」


 そういうと手を腰に充て「ふふん」と威張るようなポーズをして見せた。


「だがな、、、」


 おちゃらけたのも一瞬で、すぐに険しい表情になる。


「そうだな、、、多い。

 事前に安全なルートを選んで計十六体のゴブリンを倒している。

 事前の調査では、この先に新しくできた集落は二十体ほどだと言われていたが、すでにそれに近い数を倒しているとなると、集落が急激に発展したか、別の集落が近くにある可能性がでてくるな、、、」

「そうですね。じゃあ自分が今から簡単に目標の集落へ調査をしてきます。

 一時間程で戻ると思いますがいいですか?」

「よろしく頼む高江洲。お前の能力なら安全にいって来れるだろからな」

「お任せください!じゃあ新人君のことはよろしくお願いしますね」

 そういうと高江洲は、その身軽な装備と一致する軽快さで集落の偵察へ駆け出し、森の中へ早々とその身を溶かしていった。


「じゃあ安田と俺は異常事態が発生していた際の撤退作戦と、集落奇襲作戦の両方を考えておきますか」


 そういうと桃原と安田は各人の配置や討伐作戦を組み始めた。

 計画調整から十分ほど経った頃。


「あ、あの。作戦協議中すみません。

 今お時間良いでしょうか」


 と桃原班の水無瀬が声をかけてきた。


「おう。どうした」


「先ほど高江洲さんがあちらの方角に偵察に向かったと思うのですが、次の目的地のゴブリンの集落はあちら側ということでよろしいでしょうか?」


 と高江洲が向かった方向に指をさす。


「?

 そうだがどうかしたか?」


「あ、あの、それが、、、

 高江洲さんが向かった方角とは別の方角にも集落のようなものがあるみたいで、、、」


 !?

 桃原と安田は顔を見合わせる。


「それは確かか!?」


 安田は水無瀬へ食ってかかるように問いかけた。

 その態度に少し怯えた様子を見せたが、一呼吸おいて返答する。


「私の能力が夢世界に入ってから強くなっていることは桃原さんにお伝えしたと思うのですが、先ほど練習を兼ねて索敵を全開にしたところ、感知できるギリギリなので100メートルとちょっとのところに十体程の生体反応があります。

 ただ、地形から考えて洞窟の中にでもいるのか、これ以上の詳細はここからではわかりません」


「わかった、、、それは危険な状況だな。

 安田は今すぐ新人たちを連れて水無瀬が言った反対方向へ移動しつつ退却準備をお願いできるか?」


「お前はどうするんだ」


「もちろん俺は偵察に向かうよ。

 高江洲にも“通信具”で撤収を依頼して。

 俺と安田どちらに合流するかは任せるから。

 水無瀬も報告ありがとな。すぐに安田から全員に指示があるから、先んじて皆と共有して事前に準備しておくように伝えておいてくれ」


「わ、わかりました」


 そう言うとすぐに桃原は自分の準備を始めた。

 その後ろで安田は右手に装着している指輪を額にあて、高江洲との“通信”をしている。


「桃原。高江洲は俺たちと合流して退却の援護をすることになったが良いか」


「オーケー、オーケー。

 じゃあサクっと偵察してくるから早めに退却よろしく。

 100メートルなんて目と鼻の先だから、いつあちら側の偵察に見つかってもおかしくないからな」


 桃原は迅速に装備を整え始めた。 数分後には、彼はすっかり傭兵のいでたちへと姿を変え、普段の親しみ易い雰囲気は影を潜めた。

 その手には一本の刀が握られ、腰には小太刀を一本差す。

 準備を終えた桃原は、先程までの仲間を導く教官や先輩ではなく、“戦場に立つノッカー”そのものだった。


「よし。それじゃ行ってくる」


 桃原は一息で呼吸を整えると、 次の瞬間には新たに発見された集落の方向へと駆け出していた。

 その動きは常人の走りではない。基礎超能力により身体能力が強化されているとはいえ、森の中をまるでパルクールの達人のように駆け抜けていく。倒木を踏み台にし、枝を避け、斜面を滑るように降りる、しかしながら立てる音は風が草を揺らす微かな音だけで、桃原の姿は緑の中に溶け込むように気配を消していた。

 その速度は凄まじく、十秒ほどで目的地と思われる洞窟を視界に捉えた。

 洞窟の口は黒くぽっかりと開き、森の静謐さとは異質な気配を孕んでいた。 桃原はその洞窟がようやく見える位置に身を潜め、わずかに息を弾ませながらも、次の行動へ移る準備を整えつつ、洞窟の様子を観察する。


(おかしい。こんな至近距離なのに偵察のゴブリンが一匹もいない。

 十体程の集落であれば、場合によっては単独での殲滅も考慮していたが、これは何かがおかしい。もう少し探ってみるか、、、)


 桃原は思い切って洞窟へ近づき、さらなる異変に気付き立ち止まった。

 洞窟の前には、明らかに戦闘の痕跡が残っていた。地面の土は抉れ、ゴブリンの死骸が転がっている。洞窟の周囲に飛散した血は乾きり、死後数時間たつであろう事が推測できる。更にゴブリンの武器と思われる粗末なこん棒も数本、折れたまま放置されていた。

 だが、その光景は普通ではなかった。夢世界で死んだ存在や壊れた物は、本来なら形を保てず、すぐに崩壊が始まる。残骸がこうして残っているという事実そのものが、この場所の異常性を雄弁に物語っていた。

 もし崩壊しないとすれば、理由は二つ考えられる。ひとつは、死骸等がサイコゴンとして実体を得た場合。もうひとつは、周囲のエグレゴ因子が高濃度で、崩壊が著しく遅くなる場合だ。

 前者はまずない。サイコゴンとして死体のまま持ち帰られた記録は、軍や超能力連合の歴史でも一度も存在しない。となれば、今回のケースは後者。この洞窟周辺のエグレゴ因子が、相当に濃いということになる。


(こんな初心者向けの夢世界で、ここまでの濃度があるのは異常だ。そもそもこの洞窟も事前の調査では報告がない、、、

 夢世界では地形が変わることがあったという報告もあるにはあるが、突然高レベル帯並みにエグレゴ因子濃度の濃い場所が現れるなんて聞いたことがない、、、)


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