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 商業ギルドを出て、フィオとエッダと並んで道を歩く。


 わたしの首には、できたてホヤホヤのギルド証がかかっている。これで機は熟した。すぐにでも商売を始めよう。


「商業区に出て来たついでに、倉庫の様子を見ておきませんか?」


 下着製作が終了して以来中を見ていないので、現状がどうなっているか把握しておきたい。必要ならリフォームもしなければいけないし、そのための準備は早い方が良い。


「せやな、行ってみよか」


「倉庫か……あたしは初めて行くんだよなあ」


「そっか、エッダは倉庫には行ったことがなかったんだ」


 そう言えば、わたしやフィオの子ども組がティターニア家から外に出る時は、決まって誰か大人が同行していた。だが倉庫に行く時はいつも会長が付き添ってくれていたので、エッダの出番が無かったのだ。


「じゃあエッダには是非一度倉庫に来てもらわないとね」


「お前、あたしに何させる気だ……?」


「エッダには、用心棒になってほしいんだ」


「用心棒?」とエッダとフィオの声が重なる。


「うん。これからの商売は、わたしたちだけですることになる。けどわたしやフィオみたいな子どもが店に出ていると、絶対いちゃもんつけてくる人が現れるに決まってる。そういう時のために、エッダに居てほしいんだ」


「あのなお前――」


 エッダが何を言いたいかはわかる。だから言う前に、わたしは言葉を挟む。


「もちろん、お金は払う!」


 それは、彼女が釘を刺そうとしていたことだったようだが、出鼻をくじかれて勢いが止まる。


「お、おう……。それならいいんだ」


「まだ始めてもいないから説得力はないけれど、ちゃんとエッダの働きに見合った給金は出すつもりだよ」


「ちなみにいくら払ってくれるんだ?」


「一日大銀貨一枚」


「ちょっと少な過ぎじゃねえか?」


「冒険者の依頼と一緒にしないでよ。お店が営業してる間待機してるだけでこれだけもらえるなんて、他の人に頼んだら是非やらせてくれってお願いされる金額だと思うよ」


「ま、まあ確かに……」


 冒険者の依頼料が高いのは、命がかかっているような危険な仕事だからだ。店の前に立って睨みを利かせているだけなら、これで充分である。いや、多過ぎと言っていいのだが、そこはエッダへの感謝の現れである。


「せやけどエミー、エッダにそんなに渡して儲けは出るんか?」


「そこはやってみないとわからないけど、ちゃんと売れれば少しだけど儲けは出るように考えてはいるよ」


「少しかいな」


「売り物の単価が安いからね。貴族向けの下着と違い、庶民向けの商売だからどうしても高価なものは出せないし」


「そうか、今回の商売相手は貴族やないんやったな」


「下着の時はボロ儲けだったからなあ。けどいつまでもあの時の感覚で商売してると、たぶん人間ダメになる。だから今回は社会復帰リハビリとしても丁度いいと思うんだ」


「せやな。初心に帰って地道な商売しよか」


 そうこうしている間に倉庫に着いた。


 会長が借りた倉庫は、商業区の外れにあった。周囲は似たような建物ばかりで、ここは商業区の中でも倉庫街といった場所だろう。露店や店舗が並ぶのは、こことは正反対の街の門に近い場所だ。なので当然周囲に人はいない。


「ここでは商売できへんな。なんっちゅうても客が来ん」


「ここで商品を作って店に運ぶって感じですかね」


「それやと荷物を運ぶ台車が要るな」


「ゾーイに作ってもらおっか」


「ええな。ついでに露店の屋台も作ってもらおう」


 あれこれ意見を出し合いながら、倉庫に入る。


 倉庫の中は、きれいに片づけられていた。


 テーブルや椅子はもちろん、印刷に使ったローラーにも埃が被らないように布が被せられている。これなら少し掃除をすればすぐにでも使えそうだ。


「テーブルは調理だけでなく石鹸制作にも使えそうですね」


「せやけどこのままやと料理はできへんで」


「調理は竈を作るとして、水の確保をどうするか……」


「水は水屋から買うしかねえだろ」


「ただでさえ材料費とかカツカツなのに、これ以上の経費は出したくないなあ……」


「となると、ティターニア家から運ぶか」


「何言うてんねん。商業区やったら共同の井戸くらいあるやろ。それを使わせてもらったらええねん」


「あ、そっか」


 商業区と言えば、ギルドだけでなく商店も数多くある。特に飲食店は水がなければやっていけない。そんなものが多く集まる場所に、井戸が無いはずがない。どうしてそんな当たり前のことを失念していたのだろう。


「二人とも案外世間知らずやな」


 フィオに笑われてしまったが、ともあれこれで水の確保は何とかなった。後は火の問題だ。


「調理用に竈を作るなら、どれぐらいの規模にすればいいだろう?」


 竈と一口に言っても、その大きさや形状で火力やら一度に作れる料理の分量が決まる。現代に喩えると、コンロを家庭用のするか業務用にするかだ。特に業務用にするなら中華と洋食では火力や形状が全然違う。用途に合ったものにしなければ。


「実際作るのはエミーやし、自分のやりやすいのにしたらええねん」


「そうですね。個人的にはティターニア家の厨房にあったものが使いやすかったですね」


「ほな似たようなのをゾーイに作ってもらおうか」


「何だか全部ゾーイに頼ってますね」


「ま、今回あいつの出番はなさそうだし、これぐらいやってもらわないとな」


 ブロマイド製作はゾーイの驚異的な技術がなければ実現不可能な作業だったが、揚げ物と石鹸に関してはわたしでもできるし、レシピさえあれば誰にでもできるものだ。しかしだからといって彼女を遊ばせておくつもりは無い。


「いえいえ、力仕事もあるし、人手が足りないんだからみんなに手伝ってもらいますよ」


 それからフィオに倉庫内の簡単な見取り図を描いてもらう。屋敷に帰ったらゾーイと改築の相談をするためだ。


 こうしてエミー商店の開店準備は着々と進んでいった。


次回更新は活動報告にて告知します。

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