彼らは見直す
あけおめ。
第七章です。今年もよろしくお願いします。
「ひどい、ひどいよ、りんちゃん!」
アリアは、よよよと床に倒れ込む。その姿はまるで貫一お宮像のお宮のよう。ではアリアを追い込む竜胆が貫一役か。
「私!信じてたのに!」
どうやら今回裏切られたのはお宮側らしい。
「ええ、大丈夫よ。そのまま信じて。悪いようにはしないから」
「悪いようにしかしないやつだ!私知ってるもん!同じことを言った人が、盛大に裏切るのを!宗介くんから借りたマンガで学んだもん!」
アリアは嫌々と首を振りながら徐々に壁際まで下がっていく。逃げ場はもうない。そんな追い詰められたアリアを鑑賞していたらバチリと目が合う。二人ともポ○モントレーナーだったらバトルが始まっているところだ。…………あのバトルシステムって賭博にならないんだろうか。10歳成人法がある世界だし、容認する法律があるのかも。
「宗介くん!宗介くんは私の味方だよね?」
アリアはそんな愚問をオレに投げかける。
少し乱れた髪、紅潮した頬、口元にぐーを当て上目遣いでそう言った。あまりにもあざとい。
だが、それがいい!
「ああ、勿論だ」
オレは真剣な顔で深く頷いた。
「あ、ダメそう。宗介くんがボケる時の顔してる」
真剣な顔じゃい。悪いなアリアはその期待には応えられない。
「だから竜胆の言う事をきちんと聞くんだぞ」
「やっぱり~~~!」
1ミリもボケていないが?
アリアは床に伏すとおーいおいおいと泣くふりをした。
「はい、はい、もう気が済んだでしょ」
竜胆が仕切り直すようにパンパンと手を叩く。
「早くテストの見直しをしていきましょう」
「テストが終わったばかりなのに~~!」
「だからよ」
「だからだろ」
とまあそういう事である。
***
球技大会から1週間後、2学期の中間テストが行われた。中々に酷い日程だ。しかし1年生もこのどんどんテストが襲い掛かってくる学校の生活に慣れ、一部の生徒を除いて、焦っている人も少ないようだった。アリアも球技大会終了後の一週間を余裕そうに過ごしていたので、きっとこまめに勉強していたんだなと思っていた。結果が返ってくるまでは。
学年順位はオレが50位、竜胆が10位、そしてアリアが240位だった。
オレはぎりぎりトップ50にしがみついた。何となく50位より下がらない事を目標にしていたので素直に嬉しい。
そして竜胆はついにトップ10入り。十傑に名を連ねたのだった。はい、拍手!そして神楽坂さんは学年1位になった。これで球技大会で優勝してるんだから2人とも凄すぎる。オレたちの立つ瀬がない。
…………アリアさん?もう底が見えてきてますわよ。「え?でも球技大会があったからしょうがないよね」というのがアリアの談だった。全校生徒が球技大会には参加してんのよ。その言葉を紡いだアリアの目はとても澄んでいた事をここに記しておく。
ということで日曜日に午前中からアリアの部屋に集まり、アリアのテストを見直していた。ついでにオレも一緒にテストの見直しをする。
「えっぐ、えっぐ、今日は3人で遊びに行く予定を決めるって言ったのに……」
「勿論、それもするわよ。ただしこの見直しが終わった後にね」
「厳しくしてから優しくする。これがいわゆるSとMってやつだね」
「それを言うなら飴と鞭よ。……日下部くん、アリアに余計なことを教えないでもらえるかしら」
「冤罪だ!オレじゃない!証拠はあるんだろうな!」
オレは数学の問題を解き直しながら言う。むむむ、この問題にこの公式を使うのか。別に誘導があるわけでもないし、どうやってこの公式を思いつくんだろうか。解き方を何個か試すのか?テスト中にはそんな時間はないだろう。やっぱり類題を解きまくって慣れていくしかないのかな。
「あ、ごめん、竜胆。ここの説明がわからないんだが」
テストの答えと解説を見ながら見直しているが、その解説がわからない。あるあるだよね、知識をつけないと解説を読むのままならない。
「どこかしら」
「これこれ」
竜胆はすっとオレの横に座る。髪を耳にかけて、オレの手元を覗き込む。ふわりとアプリコットの香りがする。シャーペンのノック部分を唇に当てながら解説を読んでいく。そのシャーペンは前世でどんな徳をつんだのだろうか。
「わかったわ。解説では省かれてるけど、この等式が成り立つからここに繋がるのよ」
「にゃるほどね。これをそのまま代入しちゃうわけか。あ~本当だ。これで答えになるな。ありがとう竜胆」
「ええ、どういたしまして」
竜胆は再びアリア専属の教師に戻っていった。竜胆って黒髪ロングだしメガネかけているしで、とっても教師が似合っていると思います!
さてこの答えになるなら、この次の問題も答えが合うな。よしオッケー。オレは答えの下に線を引くと、ダブルスラッシュをつける。証明完了。数学はこの時が一番カッコいいよね。
「……宗介くんが勉強できるのって解釈違いだよね」
「こんなに真面目なのに?」
「だから一緒に堕ちようよ?」
「わお、ストレート堕落宣言」
アリアはこちらを誘うように艶やかに微笑んでいる。
やれやれ、オレがそんな誘惑に乗るとでも思っているのかな。やれやれ、舐められたもんだぜ。やれやれ、オレは髪をかき上げ、首を抑えて、斜め45度の角度でこくりと頷いた。
「頷かない。誘惑しない」
「「あう」」
ぺしぺしと竜胆のハリセンに優しく叩かれる。
いつものハリセン持ってきてたの?そのハリセンも長いこと使ってるから、大分年季が入ってきて………ない。というか真新しくなっているような。もしかして2代目?
***
「う~ん、勉強した~。そろそろお昼じゃない?お昼だよね?お昼だ~!」
アリアはポンとシャーペンと消しゴムを上に投げ放つ。
時計はピッタリ12時を指している。そろそろというかジャストお昼だね。途中から時計をチラチラと見てたもんね。竜胆も仕方がないなと言う風にシャーペンを筆箱に閉まっている。高校生の筆箱って布製だからもはや箱じゃないけど。ペンケース?ちょっと英語は苦手でわからないけど、エピペンを入れるケースの事?
「お昼はどうするんだ?」
オレは飛んでいったシャーペンと消しゴムを拾いながら聞いた。アリアからはこっちで準備するから楽しみにしていてとだけ伝えられていた。
「ふっふっふっ」
アリアは不敵に笑いながら指を鳴らす。ぺしょと情けない、もとい可愛い音がした。
突然のアリアの行動に竜胆と2人で首を傾げる。あ、竜胆。このシャーペンと消しゴムをアリアのペンケースにしまっといて。
「……宗介くん。指パッチンしてくれる?」
「オレがやっていいのか?」
「うん、盛大にお願い」
「難しいこと言うね」
やるけどさ。オレは右手をかかげると思いっきり力を込めてバチンと鳴らした。
「ばばーん」
そう言いながら、勢いよく部屋の扉を開けて現れたのはアリアの家のお手伝いさん。勢いとコミカルな登場音とは裏腹に表情は無である。
そんなお手伝いさんがたこ焼き器を持って立っていた。
…………たこ焼き器を両手で持っているが、どうやって扉を開けたんだろうか。足?いやいやそんなまさかね。雇い主の家の扉を蹴るわけないよね。
アリアはたこ焼き器を受け取ると頭の上に掲げて言った。
「じゃじゃーん!今日のお昼はタコパだよ!」
「「……部屋が煙臭くならないか(かしら)?」」
「最初に気にする所はそこじゃないよ!?」
じゃあたこ焼き器を掲げてポーズを決めるアリアが絶妙にダサいな。垂れてるコンセントが頭の上にのっている所とか特に。




