彼らはタコパする
たこ焼き器は煙が少ないタイプを選んだので心配ないらしい。こういう無煙タイプとかってどうやって煙を出ないようにしてんだろうか。何かを焼いたら煙は出るものじゃん。煙を吸うとしても吸った煙は何処へ行くのだろうか?異世界?異世界が焦げ臭いのは嫌だな。転移した時に困っちゃう。
まあ、煙以外に油跳ねとかが気になるので、タコパ自体をダイニングでするつもりだったらしい。ということで3人でダイニングに移動する。お手伝いさんは一礼すると去っていった。たこ焼き器の登場の為だけに呼ばれたらしい。ご息女の我が儘に付き合うのもお手伝いさんの仕事か。お疲れ様です。
アリアに振り回される仕事か……悪くねぇ~。
「あの……アリア。私、アリアの家のダイニングでたこ焼き器を稼働させる勇気はないのだけど」
竜胆が困ったように言う。
「りんちゃん大丈夫だよ。定期的にハウスクリーニングが入ってくれるから。業者さんにもいつも綺麗で張り合いがないって言われてるし」
「障子を張り替えるから破っていいよみたいに言われても……」
「そういうのって汚れや臭いがひどい場合に追加料金とかとられんの?」
アリアがダイニングの扉を開ける。
「うお」
オレは思わず感嘆の声を上げた。
真っ白なアイランドキッチンだ。壁際には大きな冷蔵庫。壁にくっついている棚には飾り皿やハーブっぽい物が入った瓶詰が並べてある。あれは実用性があるものなのだろうか。そしてキッチンの横には大きなテーブルが置かれている。キッチンスタジオかな?調理場に置かれているたこ焼きの材料だけが異彩を放っていた。たこ焼き粉のパッケージのタコもどことなく気まずそうだ。緊張で顔を真っ赤にしてるもん。
「いや~良いお宅ですね。じゃあオレの家でやりましょうか。タコパ」
「そうしましょうか」
「もう、2人とも冗談ばっかり。なんでやねん♬」
ツッコミ可愛よ。
***
アリアによると、タコパは皆で調理する所から始めるのが粋らしい。
竜胆とアリアはシンプルな黒色のエプロンをつける。髪はまとめて1つしばりにし、腕をめくり、もう準備は万端だ。2人のまっさらな二の腕がきらりと光る。なお、2人は準備の際には、互いに髪を縛り、エプロンの紐を結んであげていた。イチャイチャするタイミングを決して逃しはしないその姿勢に私は感動を覚えました。どこにスパチャすればいいの?
「それで、どうしてオレのエプロンの柄はリボン、キャンディ、ハートをふんだんにあしらったファンシーなものなのか理由を聞こうじゃないか」
「「似合ってるよ(わ)」」
「ありがとう」
「とりあえず着てくれる所が宗介くんの良い所だよね」
「それほどでも」
黒、黒、ファンシーとこの3つのエプロンがあった時、誰と誰がペアルックになるかと聞かれたらアリアと竜胆になることは自明だけども。でもまだ黒あるんよな。
(「どうしよう、りんちゃん。あのエプロンでもカッコよく見えてきた」)
(「すうーーーー。……………私もよ」)
(「だよね。だよね。というかさ腕まくりして見える二の腕がさ、良いよね」)
(「その……手の甲から前腕にかけて血管が浮き出ている所に変にドキドキしているわ」)
(「りんちゃんも、フェチがわかるようになるなんて成長したね」)
(「……それは成長なのかしら?」)
キッチンの隅で内緒話をし始める竜胆とアリア。
「2人も笑ってない?もう顔を背けるぐらいなら笑えばいいと思うよ」
「いや全然わらってないよ!」
「ええ、そんなことするはずもないわ」
「壁に向かって話してるのに?」
アリアと竜胆ははゆっくりと振り向く。2人とも目線があっちゃこっちゃに行っている。マグロぐらい泳いでいるな。ふむ。2人に笑顔と幸せを振りまく使徒として、意地でも笑わせたくなってきたな。
オレはファンシーなエプロンを着ながらカッコつける。右手を拳銃のポーズにして顎につける。
「きらーん。君たちの笑顔が見たいんだ」
オレはキメ顔で言った。
2人はキッチンの隅で動かなくなった。
***
調理を始めるまでにひと悶着あったが、調理が始まってしまえば、スムーズに事は進む。誰もドジっ子属性でも、メシマズ属性でもないがゆえに。オレがたこ焼きの生地を作り、竜胆とアリアが具材を切るという分担をさくっと決め、それぞれ作業に移る。調理場は2人が並んで作業すれば満員なので、オレはIHコンロの上に移動した。3人キッチンに入っても広々感じるのだからだから、流石の広さだアイランドキッチン。
余談だが小学生のころ、ずっとアイランドキッチンのことをアイルランドキッチンだと思っていた。アイルランドのキッチンておしゃれなんだなぁと本気で思っていた。アイルランドに裕福なイメージがあるのも勘違いに拍車をかけていた。そんな勘違いをするなんて可愛いよね。オレ。
さて、ボウルとか計量カップとか調理器具が見たことあるような物が出てきて安心した。高級品かも知れないが、目利きはできないので、このまま真実は知らないでいよう。世界には知らなくても良いこともある。竜胆が使っている包丁の値段とか。……刀かと思うぐらいすごい綺麗な波紋が入ってるな。漢字のはずなのに読めない銘も刻まれてる。オレはすっと目をそらし、たこ焼き粉の説明に目を通す。
たこ焼き粉は小分けの1袋で20個分作れるのか。
「たこ焼きの生地は何個分作っておく?1袋で約20個分らしいんだけど」
「う~ん、まず普通のが10個でアレンジが10個でしょ、最後に締めで5個でしょ。1人25個は食べるから4袋でいいんじゃない?」
わお、どんぶり計算。
「足りなかったら後から追加で作ればいいし、2袋分で作っとくわ」
「ええ、そうして頂戴」
「え?全然足りなくない?」
「アリア、ソーゼージをちょっと大きく切り過ぎちゃったわ。はい、あ~ん」
「わ~い」
アリアはわんぱくがすぎるぜ。たこ焼きのサイズが屋台とかで売ってるのより小さいとはいえ1人25個も食べられません。
竜胆がわざと大きめに切ったソーセージでアリアの気を引いてるうちに、さくっと2袋分だけボウルに入れてしまう。卵と水も入れて、だまがなくなるまで混ぜていく。自分の家だったらカカカッと音を立てながらカッコよく混ぜていくのだが、アリアの家の調理器具なので自重する。丁寧にえぐる様にして混ぜるべし混ぜるべし。
タコは小間切れになっているものを使うようだ。アリアはネギを、竜胆がアレンジ用の食材を切っている。ソーゼージとかちくわとか。ちょくちょくアリアに要求されてあーんをしてあげている。つまみぐい、もとい味見は料理をしている人の特権だから仕方がないよね。
***
「じゃあ、生地を入れてくからな」
諸々の準備が終わり、ダイニングのテーブルにセッティングしていよいよ焼き始める。生地のオレ、そして向かいにはタコのアリア、ネギと天かすの竜胆がスタンバっている。
……なんか、タコとかカスとか、たこ焼きの材料の悪口適正高くない?すごい心の中で罵っているみたいになっちゃたよ。
まあいい、行くぞ!熱したたこ焼き器にお玉で穴の半分ほど生地を投入する。じゅーという音と共に生地の焼ける良い匂いがする。一応キッチンの換気扇を回しているがどこまで効果があるか。たこ焼き器の無煙機能と一緒に頑張れ!一周回ってなんだか背徳感でオレワクワクしてきたぞ。これがオレ色に染めるという感覚……!
「はい、じゃあ次にタコ!」
「へい」
アリアがどんどん穴にタコを投げ入れていく。1つの穴に2つタコが入っている所もあるがご愛嬌、手作りだからこれでいいのだ。
「次にネギと天かすをばら撒く!」
「はい」
竜胆が丁寧に満遍なくネギと天かすをばら撒いていく。
さらに穴になみなみになるように生地を追加で投入する。
「よし、2人とも千枚通しは持ったな行くぞ!」
「「おおー」」
千枚通しでたこ焼きの生地を丸め始める。
……。
…………。
うん。
「………………今のオレたちの状況不格好すぎない?」
オレの言葉にくすくすと竜胆が、あはははとアリアが笑う。
皆で椅子からちょっと乗り出して、机の真ん中のたこ焼き器を千枚通しでちょこちょこしている姿は、 笑いを誘うほどに不格好であった。
「ここでタコパするのは失敗だったっか」
「そうだね。ダイニングのテーブルが広すぎたね」
「テーブルに比べてたこ焼き器が小さすぎたわね」
「僭越ながら、オレがこのたこ焼きたちを焼き上げても」
「お願いするわ」
「美味しく焼いてね」
「任せとけ」
オレは慎重に自分の前へたこ焼き器を引き寄せる。誰かオレにシェフの帽子を持ってきてくれ、もしくはねじり鉢巻き。
オレは自分が持っていた千枚通しを置くと、アリアと竜胆の千枚通しを受け取る。これで焼けば竜胆とアリアの手作りと言っても過言ではない……!両手に持った千枚通しで次々にたこ焼きを回して焼いていく。
「おお~」
「うまいものね」
「まあ、末っ子なもんで」
「それ関係あるの?」
「勿論ある。末っ子は焼肉に行ったら焼く人に、回転寿司に行ったらレーンから取る人に、中華料理店に行ったら回転テーブルのピータンの前に座る人になるもんさ」
「ピータンって確かにくせがあるよね。あ、私は嫌いじゃないよ」
「回転テーブルなんだから回せばいいんじゃないかしら」
ピータンが一周したピータンになるだけだが?
「ねえ、りんちゃん。末っ子って甘やかされるって聞いたけど違うの?」
「そうだと思ってたんだけど……。私は姉さんに優しくされたことしかないから」
「本当に?一度もない?突然コンビニにアイス買いに走らされたりしない?テレビ番組の選択権ちゃんとある?」
「むしろ買ってきてくれるし、私が見たい番組を見るわね」
「これが格差社会か……!」
おいおい、被害は深刻だぜ。全く姉ちゃんにはオレがグレなかったことに感謝してほしいぜ。普通だったらグレて、熱血先生と一緒にスポーツに打ち込んでしまうところだ。そんなことになったらオレはきっと筋肉モリモリマッチョマンになって家庭も家計も圧迫していたところだ。そうすればいいんだ。そのまま調子に乗ってボディビルの大会に出て惨敗すればいいんだ。そうしてオレなんて傷心の旅に出ればいいんだ。そう思ってるんでしょ!!!!
「アリア、お皿を取ってくれ。そろそろ焼きあがるぞ」
「はい、どうぞ」
「どうも」
ほいほいとたこ焼きをお皿に載せていく。タコパと知っていれば舟皿を買ってきておいたのに。お皿に載せるのはちょっと味気ないなとそう思った。
「はい、完成。マヨネーズとかソースとかは各自お好みで」
結構綺麗に真ん丸に焼けたぜ。アリアと竜胆はお礼を言って受け取ると、調味料をかけ始める。
竜胆はソースにマヨネーズ、鰹節のスタンダードセット。慣れた手つきで綺麗に線上にソースとマヨネーズをかける。ソースとマヨネーズはお好み焼き屋とかにある先っぽが尖っている入れ物ではなく、市販の奴なので綺麗な線にするのは難しいのに流石の手際だ。
アリアはまずチーズをかけた。最初の10個は普通にとか言ってなかったっけ?それからマヨネーズとソースをかけて完成のようだ。太めにマヨネーズとソースをかけている。
オレも竜胆に倣ってまずはスタンダードから。ソース、マヨネーズに鰹節と青のりだ。
「あれ?竜胆。青のりはかけてなくていいのか?」
「大丈夫、いらないわ」
磯の臭さが気になるんだろうか。はっ!ピーン!
「了解。でも歯にくっつくとか気にしてるなら心配しなくていいからな。大丈夫、竜胆の魅力は青のりになんかに負けやしない」
「日下部くん。-10点」
「大変申し訳ございませんでした」
その減点が嵩むと一体どうなるんだろうか。追放だけは、追放だけはご勘弁を。どこかで10点は稼ぐとして3人とも自分のたこ焼きが完成したので、手を合わせる。
「「「いただきます」」」
オレは鰹節を飛ばさないように、爪楊枝でたこ焼きを慎重に持ち上げると一口で食べる。
「「はふっはふっはっ」」
「そんな無理に一口で食べなくとも……」
この熱さもたこ焼きのうちさ。たこ焼きを一噛みすると、中からさえにとろっとした熱さ、それに旨味があふれ出す。くぅ~これよこれ。外側をカリッと焼きあげても良かったが、このモチっとしてるのも大変美味である。
「ん~~美味しい!」
「本当に。すごい美味しいわ」
竜胆も少しずつたこ焼きを齧りながら言う。相変わらず所作が美しい。アリアの所作が汚いと言っているのではない。アリアの所作は可愛いだ。さっきの調味料のかけ方もそうだけど、個性がでるよねって話。勿論竜胆が可愛い、アリアが美しい瞬間もいくらでもあるんだかね。勘違いしないでよね。そんな並んでたこ焼きを食べる2人をオレは温かい目でみるのだった。
「なに宗介くん?たこ焼き欲しいの?」
じっと見ていたオレに気づいてアリアが言う。
「いや、見ての通りあるからいらんよ」
「もう、しょうがないな~。はい、あ~ん」
「話聞いてる?あと熱々のたこ焼きのあ~んは優しさではなく凶器なのよ」
「ふーふーして欲しいってこと?」
「いや、それは衛生的にちょっと」
「確かに私も嫌かも。じゃあ自分でふーふーはしてもらって、あ~ん」
アリアから差し出されたたこ焼きをふーふーした後に受け取る。はふっはふっ。チーズが絡んで良い感じだ。
「……日下部くん。あーん」
まだ子供が食べてる途中でしょうが!
オレは高速で味わって飲み込むと、竜胆のたこ焼きも受け取る。あっつ!ふーふー忘れた!いつもより多めにはふはふしてると、それを見て竜胆がぽつりと言う。
「そういえば3人で出かける所…………動物園とかどうかしら」
何を見てそれを思ったの?
「そうそう、その件だけどね」
アリアが爪楊枝をくるんくるん楽しそうに回しながら言う。
「パパからテーマパークのチケット貰ったんだけど、ここに行かない?」
アリアのパパというちょっと幼い言い方にドキッとしたんだけど、これが父性ですか?こらこらアリアくん。爪楊枝を回さないの。危ないですよ。父性のイメージが貧相。




