接触②
「うーん。しかし、すぐ消えてしまうね」「強化したままにしているのに」「一度やめて、あらためて《身体強化》すれば光りますよ」「それでも、またすぐ消えてしまうな」
さすがは良家の子女、全体的にお行儀はいいんだけど。
「先生、なぜでしょう?」
物怖じしない生徒たちに、マルカ先生はたじたじ。研究者にありがちな、ちょこっとコミュ症なのかもね。男性としては中背。オタクっぽい雰囲気も、私的には落ち着く。
「ど、どんなに優れた魔法の使い手でも、ま、魔力の供給量を一定に保つことが、で、できないからです」
じゃあ、どうやって魔道具を動かしてるのかって話になるけど、そのへんもマルカ先生は一生懸命、説明してくれた。
私はこの国にきて初めて見たんだけど、前世でいう電池に相当する、魔球なるものがある。大きさはビー玉サイズから、握り拳大まで、用途に合わせていろいろ。見た目は、前世の象牙多層球といった趣で、美術品としても通りそう。
昔はこれがかなり大きくて、道具類も場所をとるものばかりだったらしい。
武器だけは別で、「し、使用金属の力と、か、鍛冶師の技術に頼っているので、ま、まったくの別物と思ってください」って流されたら、よけいに気になるよね。
使われてる魔法陣のことならまだしも、武器全体のこととなると専門外だからって言われて、勢いのある男子生徒も、仕方なく引きさがってた。
くわしく知りたい人は、秋はじまりの『応用魔法・武器』を選択するように、だって。また、別の先生の授業みたいだけど、うおーっ、絶対とる!
魔球があれば、当然、それに魔力を充填するための魔道具もあって、それに、さっき実験で使った基板の技術が組み込まれてるってわけ。
ほへぇー。ほんと、知らないことばっかだ、私。まあ、前世でだって、仕組みのわからない機器を使いまくってたし、いまさら気にすることでもないか。まわりも皆「はじめて知ったー!」って驚いてる。
空気中の魔力を集めて、そこに留まらせておけるなんて画期的。誰でも魔道具が使えるっていう点でもそうだし、究極のエコだよね。ただし、充填に時間が掛かる上に、その容量に限界があるらしい。
ふんふん。魔球の素材は、ガラスよりは硬く、しかし、鉄より脆いと。だから、これ以上容量を増やすと壊れちゃうのか。
だったら連結すればよくない? 素人の私が思いつくことくらい、とっくに試してました。
まず、魔球同士が、互いの魔力を引っ張って出力が落ちる。そして、個数を増やせば増やすほど不安定になって、暴走の危険性が増すんだって。ふぇぇぇ。
ま、まあ、このシステムが万能なら、シイル殿下が私に協力要請したりしないよね。
魔球もそうだけど、充填器の詳しい構造は当然、秘密。
いま、基板の一部がどういう理屈で設定されているか習ったわけだけど、その他が機構の大部分を占める。
中をのぞいてもいないのに、なんでわかるかって? だって、目の前にある基盤は手の平サイズ。充填器は、酒樽サイズの円筒形だ。
使い方は簡単。上部のくぼみに魔球をセットする。魔力が満タンになるのに、ビー玉サイズは三日、拳大のものは一週間ほどかかる。使う魔道具にもよるけど、だいたいの目安として、充填に要した時間と同じだけ使用できるから、前世のスマホみたいな頻度じゃないけどね。
でも、ほら、使いたい魔道具はたくさんあるんだ。よって、充填器があいてるなんてことは、まずない。我がギュベニュー家でも、常に、家令のイマージが予約表を精査して、順番を考えてたもん。
深く考えずに、もう一台買ったら?て言ったら、静かな口調でいろいろ教えられた。
一家に一台しか購入許可が下りないし(ただし、別荘や別棟も一家だって言い張って、貴族や豪商は何台か所有してる)故意に壊したら厳罰に処すって、王命で触れが出てるんだって。お値段は、高級馬車(馬込み)と同じくらい。
蔓草とか鳥とか、それなりの装飾は施されてるけど、その中身はどんなじゃいな? ちょっと分解してみようか、なんて気持ちはあっというまに引っ込んだよ。
まあ、見てもどうせわからないってこともある。
基板にしろ、刻まれてる魔法陣にしろ、学院で教えるのはあくまで基礎。肝心要のところは自壊機能付きだって、おずおずと釘を刺すマルカ先生。教会に入信して、機密保持の誓いを立てないと教えてもらえないそうだ。
ってことは、彼は教会関係者でもあるのかな?
ちなみに、うちの家令が言うのには、一般家庭で充填器を購入するには、六十年ローンがふつうだそうだ。聞いた時はぎょっとしたけど、ちゃんとその分、税が安くなる。
それでも、ひとつの村で村長宅に一台とか。教会・商店・宿屋といった人の集まるところに置いて、小金をとって充填させてるのが実情だけど、民間にも普及させようって、その意気込みがね。すばらしきかな、ケセラサ王国。




