接触①
予定は未定。勇者たちとの距離をつめる必要がでてきたけど、別段、不自然なまねをする必要はない。なぜなら、学院に勇者がいるから。
十一歳のダビ君は、ヒスパニック系の男の子。ライムグリーンの制服が似合う、コーヒー色の肌と、カールした黒髪、黒目がちの双眸。顔の造りはファニーフェイス寄りだけど、聡い、やさしい子って印象だ。
こうだったらやだなって想像してた、才気ばしった嫌味なタイプじゃなくてよかったよ。『応用魔法・生活』の授業で、たまたま隣の席になったんだけど。まあ、狙ってやったとしても、これくらい許容範囲だし、むしろそっちから来てくれて手間が省けた。
「ここ、座っていいかな?」
副音声つきだから、慣れるまでちょっと変なかんじ。
「どうぞ」
耳を見た段階で、勇者なのはほぼ確定してたけど、警戒するより先に同情しちゃった。だって、こんな小さな子が、いきなり異世界に飛ばされたなんて! にもかかわらず、暗さなんてちっとも見せない健気な笑みに、内心ほろりときたよ。
「僕、ダビ・ロメーロ・ムチョス。ダビって呼んで」
「キケイラ・セム・ギュベニューです。私のことは、キララと呼んでくださるとうれしいです」
「よろしくキララさん。わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
「はい。よろしくお願いします、ダビ先輩」
すぐに担当教師が入ってきたから、それ以上おしゃべりはできない。相手が近付いてきた理由を考えて、ダビ君の横顔をちらちら見ちゃったけど、授業がはじまったら、そんなことも忘れた。
この授業、選んで正解! オリエンテーションの時は、でっぷりとした羊耳の先生が、すごく地味に「ま、魔法とは、く、空気中に散らばっている魔力を」って、ぼそぼそ語ってたから、居眠りしないようにしなきゃかなーなんて思ってたんだけど。
『マルカ・コムは魔導に造詣が深く、すぐれた魔法陣設計士でもあります。ぜひ、彼の授業を受けておいてください』
シイル殿下いち押しの教師だけある。今日はいきなり、簡単な魔法陣が刻まれた基盤を配って「で、では、魔法を使って、ま、魔法陣を起動してみましょう」だって!
「た、例えていうならば、この魔法陣が、ふ、風車で、皆さんの魔法が、か、風ということになります」
大半の生徒が戸惑いの声を上げる。
そりゃあね。ここ、ケセラサ王国では、ほとんどの子が《身体強化》できるけど、放出系の魔法を使える子は、そうはいないはず。
いちおう《回復》魔法は放出系に分類されるけど、《ファイアーボール》や《ウォーターボール》みたいな発現のさせ方はできないし。うーん、ただ《回復》しても起動するのかな? その場合、どれくらい手加減すれば、基板をただのミスリルに戻すことなく、魔法陣を起動できるんだろう。
「だ、大丈夫。ここに指を当てて、い、いつものように《身体強化》をしてみて」
「あ、光りました!」「わぁ」「本当だ」
あちこちで、蛍みたいに光が明滅。すごい! シイル殿下が言ってたとおり、魔法を魔力に変換する術式が組み込まれているんだ。




