衝突④
「では個人的にとなると、ますます理由がないのです。彼女と私は初対面で、なんのご迷惑もおかけしてませんものね?」
小首をかしげて微笑。
マヒク嬢は、ただただ傷ついたって顔をしてるけど。よくよく考えると、この子、怖いよ。
彼女のうちは騎士爵家。低位貴族が高位貴族にもの申すなんて、別の高位貴族をバックにしてても、ふつうはあり得ない。
彼女の悲しみは本物だ。でも、この行動を後押ししてるのは、彼女の家族や近しい人の言葉だと想像する。直接、彼女に言ったとはかぎらない。日々、マヒク嬢の耳に入る、故人を悼む言葉。敵国を責めるかたちで、じつはその矛先が自国の王家に向いてしまっていることに、彼女は気付いているだろうか。
公爵家令嬢ヨスカネ嬢は、愛らしい性格だと思う。正義感に燃える人は、はっきり言って面倒だけど、わかりやすい。
でもねぇ。この話の流れだと、戦争推進派に見えるんだ。そこまで過激でなくても、今回の戦争で、せっかく勝ったのに、なんでもっと賠償金をとらないんだ、敵国の領土を削り取らないんだ、聖女とまで祭り上げられる敵国の王女を利用しつくさないんだ。学院通いをさせるなんておかしいよって、気持ちが下地にあるわけ。
だから、公爵家の令嬢なら絶対にしない行動をとる。一定数、学院にある、もっと言えば、国全体に散らばっている、同じ思いを代表するように。
「やあ、ここにいたのか。探したよ」
絶妙なタイミングで、この場をおさめる適任者があらわれた! ヨスカネ嬢の婚約者。ケセラサ王国王太子でもあらせられる。
む。もしや、王太子も同意見ですか? って、私に勘繰られてもしかたがないんだ。うん。これは早急に裏をとってもらおう、スカレに。
なにはともあれカーテシー。まわりも慌てて臣下の礼をとる。しんと静かになると、数秒の間もやけに長く感じられますね、王太子殿下。状況を読み取って、何か考えてるのかな?
「皆、直ってよい」
ワルサさんと同じ髪色と耳。目は真っ黒で、それだけで親しみ持っちゃうよ。私が元日本人っていうのもあるし、うちの双子と同じ配色なんだ。
「ケセラサ王国王太子、シイル・イメ・ケセラサです。あなたは?」
いちおう初対面だから尋ねる形式をとるけど、君が王族なのはわかってるからねって丁寧語を使ったわけよ。
年齢的なもので、まだ体の線は細いけど、目力が半端ないわぁ。あとオーラも! 良くも悪くも、こいつなんかやるに違いないって思わせる迫力、それとも威圧? んにゃ、威厳だね。遠目に見た時はここまでとは思わなかった。ラベンダー色の制服ってことは、あと一年か二年で卒業か。
「ギュベニュー辺境伯夫人、キケイラ・セム・ギュベニューです」
「ギュベニュー辺境伯夫人。歓談の邪魔をしたのでなければよいのだが。我が婚約者とこれから予定があるので、今日のところは私に譲ってはくれまいか?」
ふんふん。事を荒立てたくないから、いまは格下として扱うけど、ごめんねってとこかな。
「もちろんでございます。殿下が末永く、心やすらかに時を過ごされますようにお祈り申し上げます」
「うん、ありがとう。私も、皆が平らかであると同時に、活気をもって過ごせるように願うよ」
王太子は謝らない。私にも謝らせない。だから、何があったのか?なんて、この場で尋ねたりしないし、訴えさせもしない。そのように言動を、場の空気を操る。
お互い戦争反対なんだね。にっこり。
「では、婚約者殿、行こうか。君たちもだよ」
ヨスカネ嬢に肘を貸し、取り巻きたちも引き連れていく。うやむやなまま、これでこの話はおしまいってこと。
あ、よかった。王太子があんぽんたんじゃなくて。それどころか、私の言葉もちゃんと通じてる。もしかしたら、今回の戦後処理は、彼の献策があってあのかたちになったのかも。
一瞬、巻き巻きで《回復》を極めまくって、ワルサさん掻っ攫って旅に出ようかと思った。どうやら、そこまで急がなくてもよさそうだ。




