家族②
七歳になる王太子は、すでに将来への不安と、周囲からの期待でつぶれそうになってた。あ、我ら皆年子ね。そして、姿は母親似。瞳の色だけ、私以外は灰色だ。
氷の王妃似のアイスブルー。美少女に産んでもらってうれしいけど。少々、複雑。
で、お兄ちゃん。
「そうか」と「うん」声を聞いたのはそれだけ。ツンと澄ましてたけど、陰ではオラオラ系の片鱗がすでに出ているらしい。がんばれよと内心、無責任に応援。
第二王子は、ただただやんちゃ。おもちゃの剣を振り回して、脳筋まっしぐら。でも、いちばんしゃべったかな。
「へー、おまえが二ばんめの妹か。いざ、オレとしょうぶ!」
「にいたま、おつよいんでしょ? キララはおんなですし、ちっちゃいからかなわないですぅ」
ぜんぜんキャラじゃないんだけど、両手組み合わせてきらきらお目々をイメージしたら、先方はまんざらでもないご様子。
「ちぇ、つまんねー。でも、おんなこどもは守ってやらなきゃな」
腕まくりして、ぶんぶんおもちゃを振りながらどこかへ行ってしまった。
第一王女は、お菓子に夢中だった。
「あげないわよ」
そんなお言葉をいただいた。
かなりぽっちゃりだけど、そのうち化粧やドレスに興味を持って、しゅっとするんじゃないかと想像。
箱ごとかかえて、ぼりぼりやってる。
従者たちが止めないのは、うわさに聞く癇癪を恐れたのでなければ、父の毒牙から守るためって、好意的に受けとめることもできるけど。
それ、敵を見る目だよね? 私の乳母ユリリアも負けてないけど。
女王なんて前例のない国で、どちらも政略結婚の道具でしかない。競う意味あるのかな?
第三王子はまだ幼くて、私の存在をよく理解してないようだった。
あいさつしても聞いてるんだか、いないんだか。あさっての方向をむいているのが幼児ってものだよ。
だからユリリア、そんなプリプリしないで。私がちょっと異常なだけだから。
第四王子は、それに輪をかけている。だって、赤ちゃんだし。
ただ、お付きの人たちは、私が訪れたことを喜んでくれた。少なくとも五割は演技じゃない。
第四王子なんて第二王女以上に、みそっかすみたいな感じで肩身がせまいみたい。与えられてる居室も、北東の上階だしね。
赤ちゃんだからっていい加減にしないで、カーテシーを披露したのもポイント高かったようだ。だっこは無理だけど、そうっとほっぺを突かせてもらった。マシュマロだぁ。
あいさつ回りを終えて、いちばんの収穫は、城の中をわりと自由に動き回れるようになったこと。今回、特に問題を起こさなかったから、まあ、目こぼしてやるかって感じ? 乳母付き、護衛の騎士付きだけどね。
菓子の賄賂をばらまきつつ、情報収集だ。
子供の脳は甘味を欲しがるけど、アラフォーの記憶は砂糖の害を知っている。
クッキーもどきの焼き菓子を一日ひと欠けと決めて、あとはメイドにわける。別に何か質問するわけじゃない。私はメイドたちのたまり場に顏出せる身分じゃないし。
でも、廊下ですれ違いざま、「はい、あげる」子供だましでも、世間一般からすれば貴重なものだし、ゼロ円のスマイル付き。護衛騎士には、甘党だってわかってる人にだけね。
一部じゃ、頭弱いんじゃないかとか言われてるらしいけど、油断してくれるならこれ幸い。
同情なんだか、協力なんだか、自衛なんだが、よくわかんないけど。
来週から寝巻に針を仕込むので(よろしく)とか、今日の菓子は下剤入り(だから配らないで)とか、これから誘拐を試みるので(阻止してくだされ)とか。
こそっと忠告や、密告に助けられたことが何度かあったと、乳母やの言。