妖精姫①
学院に寮はない。貴族は皆、王都にタウンハウスを持ってるからね。ほとんどの生徒は自宅から、ごく一部の生徒は、後見する貴族の屋敷から通うことになる。
ワルサさんは、なんと王城に部屋を与えられていた。本人は決して出しゃばらず、辞を低くしてるけど、王族たちからすると身内ってこと。
うちの家令が言ってた通りだ。これじゃ、どうしたってほかの貴族にやっかまれる。
でも、もとはといえば、私の実家が昔から何度もしかけてた戦争のせいなんだよね。ほんと申し訳ない。
火力と戦術の問題で、全体としては毎度、負けるケセラサ王国。それでも、要所要所で手柄を立て、ケセラサ人の誇りを守り続けたギュベニュー家を民衆は称えた。
そもそも、小狡く勝つより、正々堂々戦って負ける方が、彼らには受けがいいみたい。命かかってるのにな。う~ん。私にはわからない感覚だ。
とにかく、負け戦で褒賞を出すわけにはいかないけど、毎回、王から直々に労いの言葉をかけられてたわけ。代々の当主は、もとから中央政治には興味がなかったから、よけいに他家の目を気にする必要が出てくる。
ギュベニュー家が慎み深くふるまえばふるまうほど、王家は信頼を厚くする一方で、離反を恐れ、固辞するご先祖様に「せめてこれくらいは受けとれ」って、王女と、王城内の部屋を押し付けたと。そして、いまに至る。
「ありがたいことではあるのだが、どうにも落ち着かないな」
ワルサさん、人目がある時は平気な顔をしてるけど、王城をうろついてる連中は、なにかっていうと「この田舎者め」って目で見てくるからね。まったく、男の嫉妬はみにくい! 私に言わせれば、流行りだからって似合いもしない格好してる方がよっぽど滑稽だよ。
ワルサさんはね、イメチェンしたら「親父、若返った!」ってギーブ君も驚愕したくらい、いまイケイケなんだから! 食生活の改善と、従者に専用の化粧水を持たせたのも効いてるね。
こっちの世界には、まだ誕生日を祝う習慣がないから、先日、個人的に贈り物をしたんだ。その時、彼がアラサーであることが判明。くっ。知らぬは我ばかりなり。
たしかに、アラフォーにしては子供たちが若いなとは思ってたけど、残念ながら生まれた子供がみんな無事に育つ世界じゃないし、私の実家はアレだしさ。はっきり聞くのも失礼かと、もにょもにょ。
まあ、とにかくうれしい誤算だよ。それだけ長く一緒にいられるってことだからね。怪我とか病気じゃ、絶対死なせないから覚悟しといて!
「キララも、どうしても合わなければ言ってくれ。だが、学院に通うなら、安全面といい利便性といい、これ以上は望むべくもない」
私のためにはよかったと安堵の表情を見せつつ、心労のにじむ背中がステキだったなぁ。コホン。
部屋といっても、前世の戸建てよりスペースがある。いわゆるメゾネットタイプ。付随する前庭から、曲がりくねった石階段をのぼっていくと、空中庭園のひとつにたどりつく。これはまだこじんまりした方らしいけど、ちょうど東側が外に続いていて、朝日が差し込んむ気持ちのいいところ。目下、私のお気に入りの散歩コースだ。
ここで、私は妖精に会った。




