《回復》の儀②
こちらから提案しといてなんだけど、私は、教会がキライヤス男爵家の借金を肩代わりするとは思っていなかった。まあ、よくて五分五分かなと。
貴族は民衆の敵で、教会は味方。この暗黙の図式をコツコツつくりあげる目的ってなんだろうね? 純粋に多くの人々を助けたいのか、自分たちの組織を大きくしたいのか。
ふむ。どちらだろうと、あまりかわらないか。ずっと後のことはわからないけど、もう少し先まで、彼らとは進む道がいっしょみたい。
私はこれから、このせまい領域に限ってのことだけど、ギュベニュー辺境伯領が物事の中心になると思ってる。
どうやら、教会もそうらしい。
ここまで肩入れするのは、キライヤス男爵領を拠点にする第一歩。ここが「南方」を侵食していく前線になるわけだ。
教会にとって我らがギュベニュー辺境伯領は、付け入る隙がないし、またもや隣国と戦争ってことにでもなれば、危険な立地に早変わり。その点、キライヤス男爵領なら、中規模の連山が盾になる。
私としては、ヤラレタ王国に魔道具を布教してくれるなら万々歳。それって、ヤラレタ王国が、ケセラサ王国に頼りきりになる流れだ。魔道具のある生活を送るには、基盤を買い続けなきゃならないからね。
でも、ミスリルが枯渇したらどうするんだろう?
外面だけは完璧につくって、ぼへぇーっと考え事をしていたら、やっと私の出番だ。
一歩前に出て、魔力の溜めに入る。ここでちょっと魔が差した。
魔力袋もだいぶ拡張されて、燃費もよくなってるし、半分くらいの力でいいかな?ってね。
もちろん心には、集まった人たちへの慈愛を持って行うけど、キライヤス男爵夫人にドレスを汚されたこと、まだ根に持ってたみたい。
力を解放しようと、大きく息を吸い仰のく。
ぶっ、と吹き出しそうになった。天使様が空を舞っているじゃないの!
これは、皆には見えてないな。うつ伏せっていうか、足より頭の方が低い体勢で、私にだけ聞こえるように話しかけてくる。
「この度は、神々もご覧になっています。くれぐれも、手を抜くことのないように」
なんと、抜き打ち!?
天使様の微妙な笑顔を見るに、私の性格を把握できてしまうほど、日頃から観察してるってことだね。それとも、たんなる読心術?
慌てて追加の魔力を集める。いちおう言い訳するなら、もとのままでも十分、予告した範囲はカバーできたんだよ。
でもまあ、私の中では、全力=自分を回復できる力は残しておくことだから。ぶっ倒れて、みんなを困らせるわけにはいかないし、それくらいいいよね?
「神の御力をもって、この地を癒せ!《回復》〈極み〉」
今回は、だいぶ邪念が入っちゃったな。だからって、効果は変わらないんだけどさ。
白い光に包まれるのも、いつもと同じ。でも、あれ?
これは、なんていうか。一秒が何十倍にも引き延ばされてるような、どこかとどこかの空間が、二重写しになってるような。
あたたかな光で完全に視界不良なんだけど、感触で見る、手の形。この上もなく美しいとしか、表現のしようがない。それが代わるがわる近付く。
だいたいが頭を撫でていったようだけど、二つほどに小突かれた。
真面目にやれってことかな? うぇーい。
まるで次元が違うからか、見張られてる、げっ!とはならない。まあ、神様たちもそこまで暇じゃないだろうし、今回は上司たちにもれなく、承認のハンコをもらったって感じかな。
どことなく、おもしろがられてる雰囲気だったけど、こちらが困ったからって助けてはくれないよね。すでに、十分すぎる力をもらってるわけだし。
こんな力も状況も望んだことじゃないって、突っぱねてしまえばそれまで。でも、これくらいのお勤めならかまわないよ。
だって、おかげで大切な人に巡り会えたんだから、大いに感謝してます!
ふつうは、時々でも神様に気にかけてもらえるなんて、恐れ多いことなんだろうね。
でも、やっぱり、見守られるならこっちの人がいい。ちょっとくすぐったい、あったかい気持ちになるもん。
私は、光が消えるのも待ちきれず、いちばん縋りたい手を探し出す。匂いがどうこうって感覚、わかってきた気がする。
両手でぎゅっとつかまったら、力強くにぎり返してくれた。




