王都①
ケセラサ王国の王都に着くまで、ひと月ほどかかった。それでも、まだ訪れてない領地が倍以上ある。
ここはケセラサ王国の北の端。赤褐色の屋根をいただく建物群が、山のすそ野に階段状に広がっている。正式な国境は、奥に控える山脈らしいけど、これは気軽に越えられんわね。
城下町では、焦げ茶色の木の柱や、漆喰の壁が目立つけど、王城は岩壁をくりぬいたもので、外から見ただけでも十分大きい。さらに、ずっと奥へと続いていて、私が生まれ育った城より広いかも。
赤絨毯の上で、ワルサさんと並んでごあいさつ。
王都にくるまでに結構な数の貴族夫妻が、私たちを出迎え、送り出してくれた。つまり、まだ領地にいるのに、左右にずらりと並ぶきらびやかな人たち。いわゆる法衣貴族ってやつだね。
自領をまわって、質実剛健ってイメージが先行してたけど、宮廷人のけばけばしさは母国にも負けてない。
でも、貴族であろうとも人間。ましてケセラサの人々は素朴っていうか、ストレートっていうか。それとも、それすら計算なのか。
私が経験してきた小さなパーティーの雰囲気、覚えてる? あの時とまったく変わらない、ひそひそ、こそこそ。なぜか、ワルサさんが悪者みたいな感じに落ち着いて、私は内心プンプンよ!
「楽にしてよい」
落ち着いた声だけど、聞いてた年齢よりずいぶん若く見える王様。それで三十路って、ほんと? またいとこっていうだけあって、ワルサさんと似てる。もっと柔和な雰囲気だけど、そのちょっと困ったような表情! ほだされそうになってしまうじゃないの。
「ギュベニュー辺境伯ならびに辺境伯夫人、我が召喚にこたえ、遠路はるばる足を運びしこと大儀である」
「ははっ。国王陛下におかれましては、ますますご健勝のこととおよろこび申し上げます」
私は黙ってワルサさんの隣に立っている。礼儀上、壇上の人たちと目を合わせるわけにはいかないけど、すでに頭を下げる必要もない。
王と王妃の入場を知らされてから、直々に声をかけられるまでの間。
ワルサさんは右手を胸に当てて、軽く頭を下げるだけでよかった。本来、公爵に次ぐ地位の辺境伯でも、もう少し深い礼をするべきなんだけど、彼の祖母が王女だったことから、このような作法になる。
私がしたカーテシーも、うつむかなきゃならないけど、頭を下げたらダメで、深く腰を落としながらも、間違っても膝をついちゃいけない。なぜって、辺境伯夫人であると同時に、敗戦国の王女でもあるから。
いやー、もう、ほんと面倒くさいねぇ。前世で、適当にぺこぺこして、どうもどうも言い合ってたのが妙に懐かしいよ。




