教会へ行こう①
なにかと忙しいけど少しずつ、《回復》魔法をかけて回るための、旅の準備も進めている。
ワルサさんの許可を取るのは、思ってたよりずっと簡単だった。いや、べつに、まるめ込んだりしてないよ? 真正面から向き合って、それなりに時間をかけたつもり。
まあ、種明かしをすれば、私の立ち回りがどうとかじゃなくて、彼にもともと備わってる精神性が後押ししてくれたわけ。貴族は民のために力をつくすべき、ってね。かっこいいでしょ?
それでも、いちばんに私の体を心配してくれて、そこのところは地道に、魔法を制御できてるって実践して見せた。
問題は、教会。下手をすれば異端審問にでもかけられて、火あぶりか? 戦々恐々としてた私だけど、どうも、そんなことにはならないらしい。
うーん。まあ、避けて通れない道だしな。護衛を二十人ほど連れて、領内にある教会支部を訪れた。
本部は王都にあるって話だけど、すでに意識統一はされていて、支部のトップと話をすればいいようになってた。おおっ。母国の貴族たちより優秀じゃない?
あらためて、教父を名乗る若者を見る。白いふわふわの髪、眠そうな目。時々ぴるぴる動くお耳は、羊さんかな?
のーんびりした話しぶりだけど、内容は端的でわかりやすい。
宗教って聞いて、漠然とあやしい神秘主義的なものを想像してた私は、自分がひどい勘違いをしてたことに気付いた。
この国の宗教家たちって、科学者なのよ! もっとくわしくいうと。この国の人たちは、私の前世でいう科学を魔導って呼んでいて、科学的反応を人工的に行えるようにしたのが魔法陣。教会の頂点に立つ大教父が、魔法陣研究の第一人者ってわけ。
いやー、びっくりだよ。
向こうにしてみれば、私って存在の方がよっぽどあやしいらしく、すっごい警戒されてた。
具体的には、私が行う《回復》魔法に、人々が頼りすぎるあまり、自身の健康や安全を軽視するようになったら困るって。
ええ人たちやないの! 貴族が己の存在を肯定させるためだけに宗教が存在する、ヤラレタ王国とはえらい違いだわ。
そんなわけで教会の建物が、四角く真っ白な研究所ってイメージなのも、妙に納得。
礼拝スペースもあるにはあるし、お説教をしたり、人々の罪の告白を聞いたりもするらしいけど。
神の名のもとに魔導をおし進めるって、その言い回しにばりばり違和感をかんじるのは、この国では私と勇者くらいなんだろうな。
ちなみに冠婚葬祭にかんしては、私たちの婚儀を見てもわかる通り、個人個人が自分たちのできる範囲でとりおこない、教会の出る幕はない。村人なら村長を通して領主に、領主は王に、書面で報告する義務はあるけどね。




