心の痛み②
「おって報いる。これはその子への見舞いだ。いま一度、医師と薬を」
貨幣が入っていると思われる革袋を、女は固辞した。
どれだけ手をつくしても、我が子が助からないことを知っている、彼女の心は壊れかけてる。
「ともかく、天気のように変わってしまいますので」
村長の言い訳とも、忠告ともとれる呟きの通りだ。
「金なんかいらない。だから、どうか、この子を助けておくれ。どうか、どうか」
手を擦り合わせ、床に額づいて、声を振り絞る。
ワルサさんも私も、護衛の騎士たちも、かける言葉がない。
うかがうように顔を上げた女は、敬愛する領主を見る。受け止める瞳の中に、彼女が望む答えはない。力なくそれた視線が、私を捉えた。
「誰だい?」
鋭い声音。最初から敵を嗅ぎつける獣みたいだ。この目を前に、嘘やごまかしはきかない。
「辺境伯様の妻になります、キケイラ・セム・ヤラレタです。ヤラレタ王国の第二王女です。このたびは誠に申しわ」
「よしとくれっ」
「やめるんだ、キララ。謝ってはいけない」
激しい拒絶に合わせて、ワルサさんにもきつく言われる。
「あ、え、そ」
波打つ頭の中で、冷静な部分が、自身を叱る。そうだ、護衛のブロンゾにも言われてたのに!
女が水差しを掴む。誰もとめることができなかった。
「この小娘は、顏もさらさず、あたしの家族を貶めるのか。あたしの夫は、弓の名人だった。どんな見事な鎧だって、その隙間を射貫いて敵を倒した。あたしの上の息子は、すごい力持ちだった。巨人がもつような金棒を振るって、敵の頭を兜ごと砕いた。二人共力の限り戦って死んだ。力及ばなかったから、死んだんだ。それに泥をなするような真似は、誰にもさせない!」
さっきまで蹲っていたとは思えない力強さに、私は圧倒された。
ふらつく私を支えて、ワルサさんがささやく。
「勝って謝ることは、敵を侮辱する行為だ。その弱さをあげつらい、晒し者するってことなんだ。私たちは、敵を責めない。己が弱いから負けたのだと、胸を張って死んでいく」
「わた、わたし、す」
なんてこと! 性懲りもなく謝ろうとしてる。こんな時こそ矢面に立ってほしい、意固地な私はどこかへ行ってしまった。
辛うじて言葉を呑んでも、唇の震えを止めることができない。
わかっているというように肯かれても、とても許されるとは思えなかった。




