家庭内実力者
どこの家でもそうだけど、主人とは別に、家庭内実力者が必ずいる。
この屋敷でいえば、家令、メイド長、コック長の三人だ。
「スカレ、いまお時間よろしいかしら?」
いつでも忙しそうだから、あえて強引に声を掛ける。
ユリリア、ハンナには別に用を言い付けて、いま私の後ろには誰もいない。
「はい、奥様」
階段の脇を速歩もかくやというスピードで移動していたスカレさん。何事もなかったかのように、静かに立っている。
「私、わからないことが多くて。一日十五分ほどでよいので、あなたに質問する場を設けてほしいのだけど?」
「はい。いつでもお声がけくだされば、その場でお答えいたします」
邪魔だなんて、おくびにも出さない。見えない壁は、ビシバシ感じるけどね。
「ありがとう。でも、そうちょくちょく手を止めさせるのは悪いわ。家令にも、コック長にも確認したいことがあるから、全員が一緒に話せる時間と場所はないかしら? 私、毎朝、クク先生にお稽古をつけていただいているの。朝早いのも平気よ?」
いや、ね。私がいつどこで何をしてるかなんて、全部把握されてるんだけど。
「それでしたら、毎朝、五時から小一時間、ご要望のあった三名で打合せをしております。恐縮ですが、その間であればいつでも、奥様のご希望に添えるかと思います」
「では、明日からよろしくお願いしますね」
向こうも様子見の段階。まだ、苦言を呈されたことはない。でも、言いたいことはあるはずなのだ。
はぁー、めんどくさい。でも、避けられないことだ。
使用人にそっぽを向かれたら、まともに生活できない。
できれば仲良くしたいところだけど、いい顔するばかりじゃ、どんなにレベルの高い部下もダレてくる。ちょっとくらいいいやの手抜きが積み重なって、見た目のだらしなさ、いずれは危険な事故につながる。
どっちの世界もかわらないなぁ。
舐められるよりは、煙たがられる方がいい。貴族だけじゃない。組織に入って、最初に教わることだ。




