騎士と線④
「では、僭越ながら。お二方とも、よく鍛えていらっしゃるのですね。特に問題なく歩ききられてしまいました」
目に見えてわかるくらい、ぐらっと体勢をくずしてくれたらよかったんだけど。前世で一時期お世話になった、デュー○更家氏ばりに、もっと思い切ってやるべきだったか?
ちらりと目をやったのをどう思ったのか、男性騎士が慌てたように口を開く。
「いや、こう、体の芯がぶれるというか、あぶなかったですよ」
「ええ。私も同じように感じましたよ。キララ様」
「そう言っていただけてほっとしています。つまり、男性はその体の構造上、力が外へ向かいやすく、女性はうちに向かいやすいように思うのですが。どうでしょう? 歩くという動作ひとつとっても、これだけ違うのですから、まして重い武器をとって戦うとなれば、体の使い方はまるで違うものになるのではと、素人ながら考える次第です」
パチパチパチと拍手をされて、うれしいけど、ちょっと恥ずかしいね。軽くドレスのスカート部分をつまんでごまかす。
「そして、素人ついでに。どうも、そう遠くない未来、こういうことが必要になるような気がするのです」
和やかになってた空気が、一気に冷える。うん。確かにまずい発言ともとれる。
「えーと、国がとか、領地がとか、そういうことではなくてですね。例えば旦那さまが浮気をした場合ですとか。ちょっと懲らしめてやりたいじゃないですか」
今度は、固まったのはワルサさんだけだ。男性騎士は、微妙に口元をニヨニヨさせ、ユリリアは聞いていませんというポーズなのか、しきりにドレスの皺をのばしている。
忙しく耳を動かし、それをぴたりと止めた女性騎士の唇は、何も塗ってないように見えるのに、かわいいピンク色だ。
「そういうことでしたら考えてみます。ただ、ギュベニュー辺境伯領にたどり着くまでは、我々は貴方様と我が主を守らねばなりません。そのためにいつも万全の態勢でいることが求められます。王女殿下におかれましても、慣れない旅の間、お体を健やかに保つためには、休むべき時はしっかり休んでいただかねばなりません」
「わかりました。確かに、その通りだと思いますので、そのように心掛けます」
「そのことをしっかりと守っていただき、辺境伯領の館に無事着きましたら、私がお教えできることはお教えいたします」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします、先生」
切れ長の目が一瞬丸くなり、白い毛に覆われ、内側はピンクに見える長い耳がぴくぴくする。
いずれ、さわらせてもらおうと決心せずにはいられなかった。




