1 寂れた商店街の小さな古書店
『upppi』『カクヨム』でも投稿しています。
初めての投稿なのでテスト投稿みたいなものです。
投稿小説のテストも行いたいので毎日上げます。一週間以内に完結する予定です。
ある日、私はお店が不況により潰れてしまうことを、店長から聞いた。
テレビでも不況だ不況だと騒いではいるが、その波が私の職場に来るとは思ってもみなかった。店長がため息ながら説明した内容は、親会社が波を受け事業を収縮するらしく、私と同じ職場で働いていたパートやバイトは、全て職を無くすことになる。謝る店長、小言を言うパートさんとは対象に、私は特に危機感などは感じなかった。
バイト最後の日は何事もなく終わり、一緒に働いていたパートのオバサンは、私に不況があーだ、次のパートがこーだ、と満足するまで話して帰っていった。私は今まで通ったその小さなお店を見返し、全然お店に未練がないことに自分で冷たいな、と思い帰路についた。
お父さんから家を出るときにもらった腕時計は、十九時を知らせていて、帰るには少し早い。しかし冷蔵庫の中のことを考え、私は帰り道にあるファミレスで夜ご飯をとることにする。
店員さんに席を案内され、ナポリタンとポテトサラダを頼み、薄暗い外をぼーっと眺める、走っている車のライトが眩しく感じ、夜も早くなったなと、秋の訪れを感じる。
私はお冷を飲みながら、明日からどうするか、ぐるぐると考え、やっぱり一人暮らしなんて始めるんじゃなかったと思った。家に帰ったら誰かが待っていて、相談したり、一緒に笑ったりできないのは、寂しかった。
眩しさに目が覚める。カーテンを閉め忘れていたようで日差しがさんさんと降り注いでいた。秋の始まりといえど外では最後の足掻きという感じかセミの声が聞こえ、本格的な衣替えはもう少し先になりそうだった。
私はまず目を覚まそうと窓を開けた。日差しは強いが朝のうちは少し肌寒く、長袖か半袖か迷う気温だ。そんなことを考えながら私は朝食を済まし、掃除、洗濯と雑用をしてから、出かける準備をした。家でぼーっとするというのが、私は少し苦手なのだ。鏡の前に立ち、最終チェック。少し迷って長袖にしてみたが、久しぶりに着てみると少し違和感を感じる。しかし、夜はきっと冷えるだろうからと、私はそのままで家を出た。
家を出たのはいいもの、そこで特に行く場所もないことに気づく。いったいバイト以外で私はどこに行っていたのだろうか……。立ち止まっていると近くを歩いていたサラリーマンに不振な目で見られたので、とりあえず今まであまり行ったことない場所を散策することにした。家を出て突き当たりの交差点を左へ、右へ行くとそれはバイトへの道だから、ちょっとした反抗みたいなものだ。私のバイト場所は結構な街中にあるので、ただ歩いているだけでいろいろなお店があって楽しかったが、反対方向に行くと住宅地が連なっているだけで、あまり面白みがない。綺麗な青空を見上げて歩くしかなさそうだ。
三十分ほどで、やがて小さな商店街が見えてきた。左右に十軒ほどお店が並んでいるが、お昼前ともいうのに人はまばらである。いわゆるシャッター商店街というやつだろうか。
正面にある手作り感あるアーチには八根商店街と書かれており、なにかの動物のキャラが端に描かれていた。しかし、アーチ全体が古く、その動物もかなり色が落ちていて、なんの動物かも特定ができない。
商店街に入ると、ますますシャッターが閉まっている店が目につく。なんだか少し昔へタイムスリップしてしまったような気持ちになった。
商店街の半分ほどを歩き、精肉店を発見した。ボロボロの旗に手作りコロッケと書かれているのになんとなく惹かれ、私は暇そうなおじさんにコロッケを頼む。おじさんはお客さんが嬉しいのか、笑いながら話しかけてくれた。
「お嬢さん、見ない顔だね。街の方から来たのかい」
「はい、街までは行かないですけど、そっちの方向ですね」
「あっちにデパートとかスーパーとかが出来てからは、こっちはほとんど人が来なくてねぇ。だからお嬢さんみたいなお客はなんだか嬉しいんだよ。はい、これウチ自慢のコロッケ」
「ありがとうございます。シャッター閉まってるところも多いですしね」
私はあたりをぐるりと見回す。
「あー、今時期は特にね。本当はもう少し開いている店も多いんだ。来週から商店街で祭りがあるから、みんな忙しいんだろうよ」
「お祭りですか?」
私が聞き返すとおじさんは一度店の奥に行き、チラシを持ってきた。
「これだよこれ。お嬢さんも暇だったら来てくれよ。若い子がいた方が俺だって力が入る」
そういって力コブをだすポーズをとる。私は少し笑って、そのチラシを受け取った。
右手にコロッケ、左手のチラシを見ながら、私は商店街をまたふらふらと歩く。
チラシの内容はこのようなものだった。
日曜日に、巨大な御神輿が商店街を練り歩くというもので、商店街の男の人たちがその御神輿をふんどし一丁で運ぶらしい。チラシの絵には御神輿の上には人が一人乗っていて、なにかいいろなものを投げているような感じだ。
コロッケを齧りながら、両面印刷だったチラシの裏面を見てみる。絵もなく細々とお知らせやらセールやらの文字が書かれているだけだったが、昨日バイトをクビになったばっかりの私には、あるお知らせに自然と目が惹かれていた。
『お祭りが終わるまでのバイトを募集。自給千二百円、お昼つき。ご希望の方は小山書店まで』
自給千二百円。本屋のバイトは高校生の時に半年ほどやったことがあるから大丈夫なはず。なによりこの自給、どうせ明日も暇になりそうな事を私は知っていたので、その書店に行ってみようと思った。
小山書店は商店街のちょうど真ん中辺りにあって、とても本屋とは思えない外観だったので、私は気づかずに一回通り過ぎてしまった。外には狸の置物が二体仲良く並んでいて、書店より骨董品屋と言った方がしっくりきそうだ。看板にも元は小山書店とは書いてあったのだろう、ところどころはげてしまっていて、私には頑張っても山と店しか読めなかった。
少し不安になりながらも引き戸から中に入ってみる。
「ごめんくださーい」
店の中は本でいっぱいで、ジャングルを連想させた。積み上がる本の山、棚から今にも落ちそうな本。とにかく本の山ばかりで、これで営業しているのかと疑問に思う。私は人一人やっと通れるスペースを、山を崩さないように慎重に進んでいった。
少し進むとカウンターがあり、そこだけは本が置かれていなかった。
「はいはい、どちら様かな」
私が店を見回していると、カウンターの奥からお爺さんがでてきた。立派な白ヒゲに背が低い、絵に描いたようなお爺さんだ。
「おぉ、こんな若い子が店に来るとは何年ぶりじゃろう。んでお嬢さん、道にでも迷ったかな?」
「いえ……、私このチラシ見てきたんです。バイトの募集やってたので」
持っていたチラシを見せる。するとお爺さんは少し驚いたようで、私の顔をじっと見る。
「ほっほっ、そうかそうか、これは助かるわい。それじゃ、明日の十時にまたここに来てくれんかの? 祭りまでの三日間お願いしたいのじゃが」
「はい、大丈夫ですよ」
「それじゃ、明日から頼むよ。準備とか説明とかは、悪いが明日にさせてもらうよ。今は少々忙しくてな」
とても忙しそうには見えない話し方をするが、そう言ってお爺さんはさっさとカウンターの奥へ引っ込んでしまった。
私はどうしようもなくて、とりあえずその店を後にする。履歴書とか書かなくてもいいのだろうか……。すんなり決まりすぎて、というか決まったのかもよくわからないような感じで、バイトの内容が不安になってくる。変な仕事やらされなければいいけど。
しかし、こんなおいしい時給のバイトも見逃せない。私は気合をいれて、その商店街を後にした。