第一話:死
浪人とはもともと武士を示す言葉であったはずだ。それがどうして、俺みたいな大学と社会からもう一年頑張ってください賞をもらった人間を表してしまっているのだろうか。
おかげさまで、「俺は今頑張らなくてもいいのかな?」とか考えてしまうじゃないか。
自分勝手な解釈なのは重々承知だ。
でも、こんな風に我儘な気分になるのはしょうがないだろう。
だって、俺は3年間を費やしてあの帝国大学に入ろうとしていたんだ。
読めば解けるはずの現代文、公式をもとにごり押しすることで正答に近くなっていく数学、単語の暗記と構文的読解に努めておけば安全な英語、もはや単語の羅列と化しているだけの日本帝国史、お国の行く末を案じて日報にかじりつけばよかった政治学、初歩的な概念を詰め込んだだけの化学物理基礎。
とくに英語なんか、昔から語法には人一倍強くて先生にも「一つ教えている間に十を知ってしまう」だなんてチヤホヤもてはやされていたはずじゃんか。
ずびびと少し、ぬるくなった缶のコーヒーを飲む。
単純な話だ。
寒空に、凍えながらほぅと一息吐き出す。体が震えている原因は寒さか、自身の将来か。
ずびびと少し、わざと音を出して飲む。
でないと自業自得なのはわかりきっている話を吞み込めない。
嵐のような試験の終わった後の、この静寂を心が耐えきれない。
解法を一貫させることが出来てなかった。
見直しの時間を作れなかった。
覚えていたはずの単語が出てこなかった。
俺なら、あとちょっと頑張るだけでなんとかなると思ってた。
「ただいま、母さん。」
いつの間にか、家の中にいた。
電車に乗ったはずの記憶はあまり残っていない。
3回は乗り継いだはずなんだが、無意識に帰省本能が働いてくれたらしい。
仏壇に手を合わせて、つぶやく。
「ダメだったよ。もう、ちょっとだけ、さ。頑張れたらよかったんだけど。」
甘えたかった人は、17のときに雲の上に行った。
飛び切りの笑顔で逝けたなら良かったんだけど。
あの人が痛そうな顔のまま、電子音のリズムが一定になったときは、なんだかほっとしてしまった。
母さん、やっと解放されたのかって。
良くない考えだとは思うけど、死って一つの救済だと思う。
きっと、天国にでも行けているはず。
そう思っとかないと、なんも悪いことをしていないうちの母さんが死んだ理由に納得いかない。
父さんらしき人の話は、最後まで聞けなかったな。
天涯孤独という実感が湧いたのは、いつからだっけな、ええと。
だめだ、疲労がたまっているのか。
思考がまとまらない。
ちょっと寝て、浪人について本当に考えよう。
今日の俺は結構落ち込んでいるらしいから。
ぼーっとしながら、瞼が下りていく。
なんか、あったかい感覚だ。おかしいな、すとーぶは、つけて、ないーー
ヒロインすぐ登場させます頑張ります。




