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蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―  作者: 譚月遊生季
第一巡 骸ノ章 ― 餓鬼道 ―

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第八話 庭園

 髑髏に連れられて、まずは「春の庭」に来た。

 桜の大木の周りに、梅の木がいくつか植えられている。


 花はどれも当たり前のように満開で、花吹雪の中、怖いぐらいに咲き誇っている。

 散った花弁も絨毯(じゅうたん)のように地面を覆っていて、この「庭」が物理法則の外側にあることを伝えてくる。


「すげぇだろ? ちょいと大袈裟(おおげさ)すぎる気もするがね」

「……そう、なのかな」


 大袈裟すぎる、と髑髏は言うけれど、何となく、私はそうではない気がした。


 子どもの頃に見た桜の木は、こんなふうに、際限なく花弁を散らせていたように思う。いつまでも尽きることなく、地面を絨毯のように彩りながら――


 当然、それは子どもの視点でしかない、幼い幻想なのだけれど。小さい身体で見上げた桜の大木は、まさしく、こんな情景の中にあった。

 ……あの土地神が「蛇」の身体で見上げた景色も、そうだったんじゃないだろうか。


「……気に入ったかい?」


 髑髏の言葉に、ぎこちなく頷く。

 髑髏は「分かるやつには分かるもんだねぇ」と、呆れたような、感心したようなぼやきを漏らしていた。


「そんなら、『夏の庭』も気に入るかもしれねぇな」


 その言葉に導かれるまま、玉砂利(たまじゃり)の上に敷かれた飛び石を渡る。木製の扉を開くと、そこには、青々とした緑が広がっていた。


「……ん?」


 ……が、違和感に首を(ひね)る。

 空が――赤い。

 突然時が進み、夕方になってしまったかのように、赤々とした夕暮れが新緑に黄昏(たそがれ)の影を落としていた。


「夏は黄昏時(たそがれどき)がいい――だってよ。よく分かんねぇこだわりだよなぁ」


 髑髏の話を聞くに、「なぜ黄昏時なのか」は彼にも分からないらしい。

 中央の大木は、「春の庭」と同じく、桜の木に見えた。


「これ……もしかして、同じ木?」

「じゃねぇか? そこもこだわりってやつだろうよ。……たぶんな」

「ふぅん……」


 そんなに桜が好きなのか。……何か、思い入れがあるのか。

 まじまじと眺めていると、桜の木の中心に、大きな木の(うろ)を見つけた。ぽっかりと空いた暗がりが、妙に興味を惹きつける。

 直感が導くままに、中を覗き込んだ。……奥に、何かがある。

 

「あー、そこ、蛇神様のお気に入りの場所だな。あんまり荒らすなよ」


 髑髏の忠告には「わかった」と言いつつ、軽く手でまさぐってみる。

 指先に冷たい感触が触れたので、つまんで引っ張り上げ――


「うひゃあああっ!?」


 ――ると、巨大な抜け殻が一緒についてきた。

 お気に入りの場所って、もしかして脱皮スポットってこと……!?


「おお……でけぇのが釣れてら」


 髑髏の声が明らかに笑いを(こら)えている。

 ……まあね。忠告してくれたのに、手を突っ込んだのは私ですよ。

 それはともかく。


「鍵……?」


 抜け殻と一緒についてきたのは、鉄製の鍵だった。ところどころ錆び付いてはいるけれど、腐食は少なく、使うのに問題があるようには見えない。


「なんだこりゃ? 忘れ物か?」

「うーん……さすがに木の洞に入れっぱなしはちょっと……」

 

 とりあえず、私が持っておこう。……蛇神に聞かれたら、正直に「拾いました」って言えばいいし。


「それにしても、秤って案外肝が据わってんだな」

「ねぇ、面白がってない?」

「いやぁ。おれも色んな亡者を見てきたがよ、揃いも揃って辛気臭(しんきくせ)ぇやつらでな……秤ぐらい気骨がある方が、張り合いがあるってもんよ」

「あ、面白がってるのは否定しないんだ……」


 髑髏は楽しげに骨の腕を組みつつ、「んじゃ、次は秋だな」なんて笑いかけてくる。

 とはいえなんだかんだ言いつつも、私もこの庭が気に入りつつあるし、お礼は伝えておくべきかな。


「ありがとう、髑髏。私、この庭好きかも」

「……そうかい。そんなら何よりだ」


 飛び石を渡り、次の庭へ向かう。

 扉を開いた途端、虫の声が鼓膜を静かに震わせた。足元でそよぐススキの香りが、知らないはずの記憶を呼び起こす。


 再び、巫女服の少女の姿が脳裏に蘇る――

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