表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―  作者: 譚月遊生季
第一巡 骸ノ章 ― 餓鬼道 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/56

第十話 餓者髑髏

 赤い。

 血のように赤い空が、目の前にある。

 枯れた大木。ひび割れた大地。……(しな)びた大木には首を吊ったミイラがいくつもぶら下がり、草木の朽ち果てた大地には、頭骨だけになったしゃれこうべがいくつも転がっていた。


「……何、ここ」


 先程までの美しい光景が嘘のように。

 その庭には、「死」の気配だけが満ちていた。


「そりゃまあ、まやかしだからな。美しくねぇ庭だって作れるさ」


 髑髏はからからと笑いながら、私の肩に手を伸ばす。その手が、やけに恐ろしく見えた。……まるで、私を「捕食」しようとするかのような……


「ひ……っ」

 

 思わず払い除けようとして、その手が頬に当たってしまう。

 その瞬間。

 ガコッ、と……ひどく嫌な音を立て、骨の見えた顔が()()()


「あーあ……何してくれやがる。外れやすいんだよな、(ここ)


 落ちた生首は平然と言葉を喋り、首なしの胴体も当たり前のように生首を拾い上げる。


「まやかしだらけの庭より――おれぁ、こっちのがよっぽど好きでよ。……気に入らねぇかい?」


 胴体から分かたれた首が、骨の手の上でケタケタと笑う。その様子を見せつけるように、骨の腕が、半分骨と化した首を、掲げる。


 気さくで親しみやすいあの表情は、もう、どこにもない。


「ここは魂を映すんだ。おれが通ったから、こんなふうになってる。……通ったのがおれじゃなきゃ、また違った悪道(じごく)が見れるだろうぜ」


 どうして、何も知らないのに、簡単に信じてしまったのだろう。

 誰も信じられないって、思っていたはずなのに。

 親しみやすい声に、あの優しい笑顔に釣られて、手を取ってしまった。……違和感から目を逸らし、与えられたものに、がむしゃらに縋り付いてしまった……。


「……私を、騙したの……?」

「いいや? 最初は素直に案内してやるつもりだったぜ。でもなぁ……」


 くつくつと笑い、髑髏は真っ黒な瞳を私に向ける。

 真っ暗な、虚無に満ちた瞳に見つめられ、足がすくんでしまう。


「腹が、減っちまったんだ」


 髑髏の胴体が青白く光り、背後に影が生まれる。

 影から這い出るようにして……巨大な(むくろ)が、がしゃがしゃと音を立て――


餓者髑髏(がしゃどくろ)。……おれが、喰ってきたヤツらの魂だ」


 咆哮(ほうこう)が、渇ききった大地を震わせる。

 背筋が冷たい。息ができない。足が、動かない。


「い……いや……」

「悪ぃな嬢ちゃん……。おれは死にたかねぇ。生きたかったし、(かえ)りたかった。……そのためにゃ、喰うしかねぇんだよ……!」


 巨大な骨の手が私に迫る。

 逃げようとする脚を容赦なく捕らえ、硬い指先が肉に食い込む。かと思えば、もう片方の手が、私の胴体を鷲掴(わしづか)む。

 いたい。くるしい。だれか、だれかたすけて。


 どうにか振りほどこうと暴れていると、私の身体から、蛇神に渡された鏡が転がり落ちる。

 そうだ。鏡には退魔の力がある。お願い、逃げる時間ぐらいは……!


「……あー……そりゃ、()()()()効かねぇよ。残念だったな」

「……っ! や、やだ! 離して……! いやぁああぁあぁっ!」


 身体が軋み、激痛と共に意識が遠ざかる。


「ごちそうさん」


 舌なめずりをする生首の顔が、視界に映る。

 刹那(せつな)

 強烈な飢餓(きが)感が身体を貫き、私の意識は青白い光に混ざるようにして溶けて行った――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ