第十話 餓者髑髏
赤い。
血のように赤い空が、目の前にある。
枯れた大木。ひび割れた大地。……萎びた大木には首を吊ったミイラがいくつもぶら下がり、草木の朽ち果てた大地には、頭骨だけになったしゃれこうべがいくつも転がっていた。
「……何、ここ」
先程までの美しい光景が嘘のように。
その庭には、「死」の気配だけが満ちていた。
「そりゃまあ、まやかしだからな。美しくねぇ庭だって作れるさ」
髑髏はからからと笑いながら、私の肩に手を伸ばす。その手が、やけに恐ろしく見えた。……まるで、私を「捕食」しようとするかのような……
「ひ……っ」
思わず払い除けようとして、その手が頬に当たってしまう。
その瞬間。
ガコッ、と……ひどく嫌な音を立て、骨の見えた顔が外れた。
「あーあ……何してくれやがる。外れやすいんだよな、頸」
落ちた生首は平然と言葉を喋り、首なしの胴体も当たり前のように生首を拾い上げる。
「まやかしだらけの庭より――おれぁ、こっちのがよっぽど好きでよ。……気に入らねぇかい?」
胴体から分かたれた首が、骨の手の上でケタケタと笑う。その様子を見せつけるように、骨の腕が、半分骨と化した首を、掲げる。
気さくで親しみやすいあの表情は、もう、どこにもない。
「ここは魂を映すんだ。おれが通ったから、こんなふうになってる。……通ったのがおれじゃなきゃ、また違った悪道が見れるだろうぜ」
どうして、何も知らないのに、簡単に信じてしまったのだろう。
誰も信じられないって、思っていたはずなのに。
親しみやすい声に、あの優しい笑顔に釣られて、手を取ってしまった。……違和感から目を逸らし、与えられたものに、がむしゃらに縋り付いてしまった……。
「……私を、騙したの……?」
「いいや? 最初は素直に案内してやるつもりだったぜ。でもなぁ……」
くつくつと笑い、髑髏は真っ黒な瞳を私に向ける。
真っ暗な、虚無に満ちた瞳に見つめられ、足がすくんでしまう。
「腹が、減っちまったんだ」
髑髏の胴体が青白く光り、背後に影が生まれる。
影から這い出るようにして……巨大な骸が、がしゃがしゃと音を立て――
「餓者髑髏。……おれが、喰ってきたヤツらの魂だ」
咆哮が、渇ききった大地を震わせる。
背筋が冷たい。息ができない。足が、動かない。
「い……いや……」
「悪ぃな嬢ちゃん……。おれは死にたかねぇ。生きたかったし、還りたかった。……そのためにゃ、喰うしかねぇんだよ……!」
巨大な骨の手が私に迫る。
逃げようとする脚を容赦なく捕らえ、硬い指先が肉に食い込む。かと思えば、もう片方の手が、私の胴体を鷲掴む。
いたい。くるしい。だれか、だれかたすけて。
どうにか振りほどこうと暴れていると、私の身体から、蛇神に渡された鏡が転がり落ちる。
そうだ。鏡には退魔の力がある。お願い、逃げる時間ぐらいは……!
「……あー……そりゃ、おれには効かねぇよ。残念だったな」
「……っ! や、やだ! 離して……! いやぁああぁあぁっ!」
身体が軋み、激痛と共に意識が遠ざかる。
「ごちそうさん」
舌なめずりをする生首の顔が、視界に映る。
刹那。
強烈な飢餓感が身体を貫き、私の意識は青白い光に混ざるようにして溶けて行った――




