第七十五話 「作戦会議」
「『城落とし』のルールのおさらいをするぞ。六つの役職を定められた人数通りにあてがい、指定された条件下でチーム戦を行ってもらう。――勝利条件は二つ、十五人全員に有効打を入れるか……先に相手チームのキングを特定して落とすかだ」
「あーそれと、万が一制約に反した場合、その時点で脱落判定とみなす。くれぐれも注意するように」
なんてぽりぽりと頭を掻きながら最終確認が行われて、智也たちはいつも通り作戦会議のための時間をもらうことになった。
他のクラスと合同授業を行うのはこれで二度目になるが、肩を並べて共に指導を受けていた前回と異なり、今回は初めての直接対決だ。
それも、月末の一大イベントが間近に控えるなかでの取り組みとなれば、必然的に相手チームに意識が向くもので――、
「我がチーム極光に栄光あれ!」
「待ちたまえ不知火君。さっきから気になっていたことが一つあるんだが、鬼先生の留守を預かっているのはこの僕だよ。つまるところCクラスの代表者は、僕であると明言されているようなもので……」
「でも五十嵐くん、我の考案したチーム名にうっとりしてたよ」
「ぬぐっ……!? た、確かに君のネーミングセンスは脱帽ものだが、それとこれとは別の話!」
「はいはい、二人とも静かに。ちゃちゃっと役職決めちゃおうよ」
遠くの方で何やら騒いでいる二人の姿を見つめ、智也はその視線を正面に戻した。
現状、作戦会議のためにと闘技場の東西に分かれて車座になっている。その光景に、以前この場で授業を行った際はもっと小規模なものだったと思い出しながら、口火を切った橙色の髪の女生徒に注意を引かれた。
「んじゃ~とりま、役職から決めてく??」
「自分はナイトがいいっス! カッコ良さそうなんで!」
「あ、じゃあ私はルーク希望で。ビショップとポーンはちょっと……」
「私は余り物でいいよ~」
率先して場を仕切っていく東道に乗って方々からそう声が上がる。しかしやはりというべきか件の二種類は不評のようで、
「俺もやるんだったらルークがいいかなー」
「わたしも責任の重い役職より、軽いものを所望」
「ん~、ウチもルークがいいかな~なんて思ってたけど、これじゃ定員オーバーだよね……??」
といった具合に意見がうまく纏まらない様子。
この手の話し合いでは大きく分けて三つのタイプが存在し、先の東道のように率先して自分の意見を主張できるタイプと、智也や雪宮のように思うところがあっても中々口に出せないタイプがある。
そして日頃から表立って発言することはなく、常に静観している三つ目のタイプ――久世や藤間や水世などを見やり、東道が困惑したような表情を浮かべた。
クラス一丸となるためには、そういう面子からも意見を取り入れる必要がある。勝手に配役を決めたところで、それに従事してもらえるか分からないからだ。
特に不評な役職がある以上、全員を納得させて導くのは至難である。
だからこそ、なるべく誰からも不満を買わないような者が指揮を執るのがベストであり、そういう意味で東道は彼の方を見やったのだろう。
「ふむ。確かにこの場合、我を通すだけじゃ際限がないね。それに、あちらのクラスを討ち取りたいのであれば、一つ一つの役職の存在意義を理解し、且つ適材者を選出しなければならない」
「でもさ久世くん。そもそもこの授業にみんなが同じくらいの意欲をもって取り組んでると思う? 模擬戦はもう終わっちゃったし、本当はする予定なかったんでしょ、この合同授業」
「そんなの、今までもそうだったじゃん。ウチはわりと軽い気持ちだったけど、必死に選抜入り目指してたコもいるんでしょ?? そうやってみんな何かのために頑張ってきたんだから、いまさらそんなこと気にする必要ないっしょ」
久世に向けて放たれた問いに東道が割って入ったとき、あわや論争に発展するかと思われたが、一触即発になりかけた空気は東道自身の明るい笑顔によって打ち消された。
以前国枝と七霧に説いたように、集団で事に当たる際は共通目的とそこに注がれる意欲が大事だと智也も思っている。
千林の言う通り模擬戦が終わったいま、試合に敗れた者には今回の授業の旨味が薄く、選抜入りに希望が持てる者にとっては、対戦相手となり得る敵の力量を図るまたとない機会なのだ。
そうなれば必然、注がれる意欲に差異が生じてしまう。だが、元より意欲のなかったものも存在したはずで、それでも授業として成り立ってきた事実を思い出させられた。
「ごめん東道さん。考えてみればそうだったかも」
「前回負けても今回活躍出来たら、もしかして選抜入りできちゃったりして~」
「それだったら勝った自分らも油断できないっスね!」
「そうだよ、ウチなんて不戦勝みたいなもんだし。みんなでC組に勝とうよ!」
「ん……?」
何気ない清涼の一言で更に火が付いて、場が暖かくなり始める。
一人だけ違和を感じていた者がいたような気もしたが、そうして士気が上がったところでもう一度配役についての話題があがった。
「んでんで、なんだっけ?? 適材者がどうとかって……」
「この戦い……城落としと言ったかな? それを制覇するのであれば、やはりこの場にいる十五人を適切に選出し、尚且つ指揮を執る存在が必要になるかと」
「人数が人数だもんね~。じゃあその役は久世くんに任せてい?? ウチそういうのは得意じゃないからさ」
「私も久世くんが適任だと思う」
東道と千林の二人に推薦され、しかし久世はその首を縦には振らずに何か思い巡らせるように瞑目した。
何を考えているのか、視線が釘付けになるなか瑠璃色の瞳が開かれて――その眼差しが、ちょうど正面に座る者へと注がれる。
「この場に即した束ね役は僕じゃないよ。先述した条件に適う者……それは彼なんじゃないかい?」
「……え?」
一か所に集まっていた視線が、その一言で一斉に向きを変える。
美形の男から平凡のそれへ。天才から凡才へと受け渡されたバトンに、当人は驚きを隠せない。
――なんで、よりにもよってあの久世が?
親しい間柄にある国枝や七霧に推薦されるならまだしも、満場一致で支持されるような男からあえてその任を委ねられたことが不思議でならないのだ。
しかし当惑している智也とは打って変わり、意想外にもその意見に賛同するような声が散見される。
「たしかに~。黒霧くんもありよりのありだわ」
「私も、智也くんが適任やと思う」
「自分も大賛成っス!」
「黒霧くんの考える作戦、気になってたんだ~」
「まぁ……いいんじゃない?」
そうして多方向から嬉しい言葉があがる中で、獣のように鋭い目つきをした男がやにわに立ち上がった。
「冗談じゃねぇ。こんな雑魚ランクに指図されるなんて御免だぜ。俺は好きなようにやらせてもらうぞ」
そう言って智也にガンを飛ばしたあと、離れたところに腰を下ろして壁に頭を預ける藤間。
一瞬にして気まずい空気へと成り代わったが、それを切り替えるように東道が両手を合わせた。
「他に意見ある人いる?? いなそーならこれで決定したいんだけど……てか、黒霧くんはどーなのさ」
「……正直、その重役が俺でいいのか疑問が晴れない。アイツのこともあるし、やっぱり久世が適任だと俺は思うけど」
「でもその久世くんが黒霧くんを推してるからね~ ぶっちゃけ、ウチはどっちでもいーんだけど」
声を出さずとも賛成の意を表していた国枝、栖戸、雪宮の三名。それらを合わせるとおよそ十名が久世の提案に乗っていることになる。しかしそれに対して器じゃないと主張する智也の、そんな煮え切らない態度に痺れを切らした者が一人。
「いつまで身のない話をするつもり? 付き合いきれないんだけど。一人に絞れないなら二人に担わせればいいだけの話じゃない」
辛辣な物言いで至極当然なことを指摘され、誰も口を開けなくなる。
そんな智也たちに「腑抜けでも二人揃えば役には立つでしょ」と怯んだところへ更に手厳しい一言が添えられて、
「腑抜けって……」
自分はともかくとして、久世相手にさえそう評した水世の度胸に智也は度肝を抜かれた。
ある意味男より勇ましいその態度には件の人物も返す言葉が見つからないようで、ただただ苦い顔をしている。
「んじゃ~二人に任せるよ。それでい??」
「構わないよ」
「……わかった。じゃあ時間も押してるだろうし、早速配役を考えていこう」
その問いに久世が顎を引き、最後まで渋っていた智也を二人が見つめてくる。それで意を決して意識を切り替えた智也を、東道が「なんだ、やる気あんじゃん」と笑いかけてきた。
当然、やるからには勝ちたいという気概は今も健在のままだ。それに少し前に清涼が言っていたように、もしかしたら挽回のチャンスがあるかもしれないと思うと、自ずと手は抜けなくなる。
そうして後頭部に手をやりながら、なんだかんだ智也主体での作戦会議が始まった。
彼らのやり取りをずっと遠くで見守っていた男が、密かに笑みを湛えていたのは誰も気付かなかったことだろう。
✱✱✱✱✱✱✱
「当たり前だが大事なのは、いかにして相手チームのキングを見極めるかと、こっちのキングを守り抜くかにある。勝敗を左右する基礎となる部分が類似してる以上、その二点の重要性は前回と変わらないはずだ」
「前のチーム戦では、黒霧くんがリーダーに変わってるなんて思わなかったもんね~」
「……じゃあまた別の人をキングとして扱って、それで相手の目を欺くってこと?」
車座になって会議する中で、前回のそれを引き合いに出した智也にそのときの胸中を明かす清涼。それに続いて千林が食いついてくれて、円滑な滑り出しに小気味よさを覚えつつ「それでもいいいが」と前置きをする。
「せっかく人数がいるんだ、なんなら全員がキングだと思わせられたなら相手も困惑するんじゃないか?」
「いや……それじゃ攻撃できないじゃん」
「あくまで極端な話だよ。十五人で固まって動き回るのは不便だし、いくつかの小隊に分けて行動したほうがみんなの力を活かしやすくなる。だったら、その小隊ごとに偽のキング……いわば影武者を用意するのも面白いんじゃないかと思ったんだけど」
「影武者……!! 自分それがいいっス!」
「七霧くん、影武者の意味分かってる……?」
智也はその場で浮かんだことを口にしてみただけだったが、これが意外とウケたらしい。七霧だけでなく、ちらほらと感嘆の声が上がっている。
「確かに、そうすることで幾らか相手の目を誤魔化せるかもしれないね。それで、肝心の本物は誰が務めるんだい?」
「それこそ満場一致で久世くんじゃん?? いくら影武者を用意したって、本物が頼りなかったらアレだし……」
「どうやら、そうとも限らないようだけど」
東道の発言に久世が片目を瞑り、開いたほうの目で正面を見据えた。
その、胸の内を看破しようとする眼差しに智也は一思案してから、
「向こうのチームで考えてみると分かりやすいが、Cクラスを率いているのはどうみても不知火と五十嵐の二人だ。その二人の内どちらかをキングにあてがうのは、些か愚直すぎると思う」
「んでもさ~逆にその考えを利用される可能性は??」
「それを言い出すとキリがないけど、候補が二人いるCクラスと違って、こっちはあからさまに一人だけが目立ってるだろ?」
「言い得て妙だね」
何の躊躇いもなく相槌を打った久世に、智也は「自分で言うかよ……」と呟きつつも、その満ち満ちた自信と得意げな表情を誰も崩せないところが全てを物語っている。
「とにかく、キングは久世以外にすべきだろう」
「ん~じゃあ他に候補は??」
「……万が一最後の一人になっても希望があり、尚且つキングの特色である防御魔法を得意としている人物――個人的には、水世がベストだと思う」
「水世さんなら一人でもなんとかしてくれそうっス!」
難のある性格はともかくとして、これまでの活躍ぶりから確固とした信頼が智也の中にあった。
技量だけで考えれば、それこそ久世に匹敵するほどではないかと勝手に想像するくらいには。
そうして七霧と共に期待に満ちた眼差しを向けると、水世は小さく鼻を鳴らす。
「他力本願は相変わらずね」
「じゃあ俺がその役目を勤めるか?」
「勝てる勝負をみすみす逃したらバカみたいじゃない」
「……………………」
声にならない声を口から漏らしながら視線で不満を訴える智也に、水世は意に介さないといった具合で涼しい顔をしている。
久世も大概だが、水世の態度もかなり傲然としたものである。しかしそれらは裏を返すと絶対的な自信へと直結するので、智也は羨ましさも感じたり。
「で、お前は誰が適任だと思うんだよ」
「別に辞退するとは言ってないわよ」
「さっきのやり取りはなんだったんだ……!」
手玉に取られて歯を軋ませる智也に、水世がほくそ笑む。
ともあれ、これでキングは確定である。役職一つ決めるのに相当時間を要した気もするが、先生からは人数が多いからと余分に時間をもらっている。
そんなことを考えながら智也は灰の眼の男を一瞥して、
「んじゃ、キングは水世さんに決定ってことで! 問題は誰を影武者にするか、だよね~」
「その前に十五人をどの程度の単位で組み分けるかだが、あまり細かく分断するとかえって徒になる可能性がある。だから多くても三つの部隊に収めて、それぞれに影武者を用意しておくってのはどうだろうか?」
「――根幹となる要素は先んじて決めたんだ、ひとまず君の思うように語ってもらいたい」
進行役を請け合った以上意識は切り替えていたつもりだったが、やはり智也の中には「自分でいいのだろうか」という考えがどこかにあったのだろう。その、まさに腑抜けと言われた一因でもある陰のある表情に、意外にも背中を押してくれたのは久世だった。
それに目を丸くさせながら見つめ返すが、二度は言わないと語らんばかりに瞑目される。そうして隣から発せられる太陽のように眩しい笑顔を一度浴びてから、
「……じゃあ、配役を決めるにあたって特に希望がない人は挙手してほしい」
その言葉に反応を示してくれた国枝、七種、紫月、清涼の四人を順に見て、最後に智也は銀髪の男を視界の端に捉える。
「四人……いや、ちょうど五人か。とりあえず挙手してくれた人を暫定でビショップに割り当てるとして、ルークの希望者が三人にナイトが一人。不人気だったポーンの片割れは俺がやろう」
「ちょっとタンマ! ごめん、ウチらの希望通りにしてくれんのは嬉しいけどさ、それで大丈夫なわけ??」
「全員の意見を取り入れることは難しいが、なるべく意思は尊重したい。特に七霧みたいなやつは、思い通りにさせてあげたほうが動いてくれるだろうしな」
智也がもう一度隣を見やれば変わらぬ笑顔がそこにあり、釣られてそちらを見ては、東道も得心したような声を漏らした。
「で、あとはクイーンとルークと俺の片割れだが……クイーンは久世確定でいいと思っている」
「異論はないよ」
「ポーンは神童がやるんじゃなかったっけ?」
「だから俺は置物じゃ――」
「いや、神童にはビショップを担当してもらう。二人目のポーンはそうだな……雪宮、頼めそうか?」
もはや恒例となった雑な扱いにまさに神童が地団駄を踏もうとしたとき、確固たる意志を持って智也が異を唱えた。
久世の後押しを切っ掛けに完全にスイッチが入ったのだろう。本人に自覚はなくとも、たしかな雰囲気の変化に千林神童の両名が舌を巻いている。
そして黒瞳に映る煉瓦色の髪の少年は、無言のままその首を縦に振った。
「――風変わりだね。面白い」
「……? とりあえず、残りの人をルークにあてれば一応は揃うが、何か意見はあるか?」
「異議なし! 俺が最高のサポートをしてやんぜ!」
それは一ミリも期待していないが。と智也は心の中で呟きつつ、十三人の顔を見回す。
特に不満そうな表情をしている者はおらず、無事に配役は完了したと言えるだろう。
これでようやく本題に移れる――そう思いながら、
「件の影武者についてだが、俺ともう二人ほしい。できればビショップとルークから一人ずつ立候補してくれると助かるが――」
「自分やりたいっス!」
「やっぱそうなるか……」
「やる気があるならさせてあげればいいんじゃん?? 黒霧くんさっき自分でそう言ってたけど」
智也が露骨に困った顔をしてしまったせいで、七霧も困惑しているようだ。それで東道に先の発言を指摘されるが、全てに適応されるわけではないと弁明。
「なにせナイトにはキングから離れられないっていう制約がある。影武者になるってことは終盤まで何もしないと同義なんだ。つまり、キングの隣でナイトまでもが呆けてたら、それこそ正体が露呈してしまう」
「な~んとなく分かったような……」
「じゃあ自分は影武者にはなれないっスか……?」
「考えてみろ七霧。影武者ってのは要するに王の身代わりを務める者のことを指すが、そもそもナイトには女性を護衛するって役割が含まれてるんだ。だったらナイトであることが既に誇りだと思わないか?」
影武者という言葉にどれだけ心惹かれていたのだろうか。
素直に選ばれなかったことで相当落ち込んでいたようだったが、智也の必死の弁明が功を奏してかすぐに目の輝きを取り戻した七霧。その様子にほっと胸を撫で下ろしつつ、二人目を求めて智也はもう一度十三人の顔を見回した。
「はい。だれもやらないようであれば立候補します」
そう手を上げてくれたのは、意外にも栖戸だった。
配役はルークだったか。と頭の中で整理しながら、智也は青藍の瞳を見つめる。
――と、何を思ったのか額に汗を浮かべながら視線を逸らすので、何かやましいことでもあるのかと推察しかけたが、
「まぁ、理由が何であれ助かるよ。あと一人は――」
「それこそ久世くんじゃ駄目なの? あの五十嵐って人も、クイーンはキングよりも重宝すべき存在かもしれない……とかなんとか言ってたし」
「最もキングらしい奴を影武者として扱う……ってのは俺も考えたんだが、特性上、一番融通が利く奴を拘束するのは得策じゃないのかもしれない」
「あー、そっか……」
ここまで語ってきたのは如何にしてこちらのキングを隠し通すか、という守りの作戦についてのみ。
だが、城落としの本質は相手のキングを討ち取ることにあるので、そちらにばかり重点を置いていては本末転倒である。何の枷もないクイーンに久世を置いたのも、それ故だ。
しかしながら三人目の影武者に立候補する者は中々現れず、智也はどうしたものかと眉をひそめていた。
「その影武者役って、私でも務まるんかな……?」
「そんなの誰でもバッチコイでしょ! でしょ??」
「紫月はビショップか……ちょうどいいな」
沈黙が場を支配し硬い空気が漂う中、おずおずと口を開いた紫月に自然と注目が集まる。
いきなり大勢に目を向けられ動揺しながらも発したその言葉に、側にいた東道が肩に腕を回しながら笑みを浮かべ、智也はぶつぶつと独り言ちてから二人に肯定の意を示した。
そもそも智也が自ら名乗り出た理由が、十五人を相手取るに値する魔力量を持たないからである。
先ほど説いたように、あくまで影武者は相手の目を欺くのが役目となる。であれば、動かない役職に動けない者が就くのは最も合理的なのだ。――智也には、他にも理由があったが。
「じゃあ俺と栖戸と紫月の三人は、こっちのキングの正体が割れるまで魔力を温存させてもらう」
「かんぜん且つ完璧に扮します」
七霧の件もあり、下手をすれば本当に物置も同然と勘違いされそうだと思い、上手く誤魔化しつつ周知させる智也。それから件の二人にも確認の意味で目を向けようとして、そこで先生から声がかかった。
「お前らー、ぼちぼち決まったかー?」
「ど、どうしよう、まだ話し合い済んどらへんやんな?」
「降魔先生! もうちょっと待ってほしいのだ! いまひっさつ……」
拡声魔法によって闘技場内に響き渡った先生の声。それに対して慌てたのは智也たちだけでなく、どうやらCクラスも同じだったらしい。
同じ魔法を使ったのかやけに鮮明に聞こえた不知火の声がしかし途切れて、そちらを見ればなにやら悶着が起きている。
そうしてこちらは栖戸が小さな体を伸ばして頭の上でバツ印を作っており、それで伝わったのか、もうしばらく時間を伸ばしてもらえることになった。
「――とりあえず小隊の編成は俺が決める。いいな?」
言いながら特に異論がないことを確認して、先んじて考えていたものを今一度頭の中に思い浮かべる智也。
と言っても全員の役職を想定していたわけではないので、そのズレや穴埋めをしながらチームバランスを微調整して、
「第一部隊、七種、紫月、千林、七霧、水世。
第二部隊、久世、虎城、神童、栖戸、雪宮。
第三舞台、国枝、清涼、東道、藤間……と俺だ」
「一応、なるべくチーム経験のある人で組めるように意識はしたが……」
「えーっとちょっと待って」
と、声のした方を見ると千林が手帳に何かを書き込んでいた。それを隣の清涼が何故か誇らしげに示しており、おそらく今話した編成を書き終えたであろう千林が、「よし」と一息漏らす。
「千林さん見せて~!」
「あ、うん。別にいいけど見れたもんじゃないよ」
という東道とのやり取りに、他の者も円の中心へと顔を寄せにくる。
智也もそこに混じって拝見させてもらったが、今の話だけでなく役職やルール説明などについても事細かに記されていた。
「うわ、スゴ。まめなんだね千林さん。てかめっちゃ字カワイイじゃ~ん」
「確かにこれは凄いな……」
「やめてよ恥ずかしい。それより時間ないんでしょ?」
「あぁ、そうだった。編成についてどう思う?」
「ん~いい感じじゃん?? 別に変える必要もないと思うけど」
千林のメモを参照しながらそう語る東道に、周りの者も揃って首を縦に振ってくれている。
当初は器じゃないと思っていたが、なんだかんだ上手く事を運べたみたいだと安堵して、智也はそこで一息ついた。
そうして残りの時間は各部隊の連携を高めるための話し合いの場とし、大まかな作戦会議はそこで終了となった。




