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第40話 幸運の女神様?

 ネサルドの冒険者ギルドに登録を済ませた俺たちは、ようやくこのアリストリア王国での生活のスタートラインに立てた。


 登録翌日から、俺たちは精力的に依頼をこなしていった。


 受付嬢のモニカさんやギルド長のパトリクさんには、ある程度実力のある冒険者だと認識してもらえたけれど、ルール上俺たちはまだ初級冒険者。それほど大層な依頼は受けられないし、知らない人たちからは舐められる。


 アリストリア内での活動をしやすくするためにも、早々に冒険者ランクを中級、上級へとステップアップさせたいところだ。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 新生活から二十日が経過した。


 初級が受諾可能な依頼の中でも高難度のものを積極的にこなし、すでにランクは中級に手が届こうかというところまで来ていた。


 日常生活に必要な資金面の不安は、依頼をこなしていくことによって解消されていた。加えて、ヨゼフたちを助けた際に捕縛した盗賊たちを官憲に突き出したことにより、ある程度の報奨金も受け取っていた。

 おかげで、食費や宿泊費、ポーションなどの消耗品代に頭を悩ませる事態は、すでになくなっている。


 ただ、贅沢をできるほどではない。エディタと約束した贈り物の腕輪には、まだ手が届きそうになかった。


 今日も依頼を順調に済ませた俺たちは、報告のために冒険者ギルドへと来ていた。


「おっ、お疲れ様ー。依頼はバッチリかな?」

「えぇ、もちろん。これ、依頼にあった素材一式と、討伐依頼のあった魔獣の討伐証明部位」

「はいはーい。……うん、確かに」


 モニカさんは俺の出した素材などを確認すると、書類に必要事項を記入していく。


「はい、これ依頼完了の報告書。いつもどおりあっちのカウンターで報酬もらっていってね」


 礼を言って報告書を受け取り、報酬金額を確認する。

 うん、けっこう稼げたかな。


「……それにしても、あっという間に中級に上がれそうだねぇ。デニスたちのステータスを考えれば、当然っちゃ当然なんだけど」

「上がってくれなくちゃ困りますって。さすがに依頼内容が、俺たちには楽勝過ぎて張り合いがないですよ」


 俺は肩をすくめた。エディタとティーエも苦笑を浮かべている。


「あとは、デニス、君だねぇ」

「え?」


 モニカさんはニッと笑顔を俺に向けた。


「私の前でも、ずいぶんと緊張しなくなったじゃない。最初の頃の君、あたふたしてかわいかったんだけどなぁ」

「ちょっ、ちょっと、モニカさんっ! からかわないでくださいよぉ……」

「ふふっ、ごめんごめん」


 気恥ずかしくなってモニカさんから視線をそらすと、エディタと目が合った。


「お戯れは終わりましたか、デニス?」

「あ、あぁ……」


 エディタは微笑んでいるが、なんだか目が笑っていないような……。


「さぁ、参りましょう。時間は有限なのですから」


 腕をがっちりと捕まれ、俺はエディタに引きずられるようにカウンターからひっぺがえされた。


「あらあら。ごめんなさいね、エディタ」

「い、いえ。……むぅぅ」


 モニカさんは俺たちの様子をニコニコと微笑みながら見ている。

 エディタは少しむくれたような表情を浮かべ、俺の腕を引っぱった。そのまま俺たちは、報酬受け取りのカウンターまで向かった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 報酬を受け取った俺たちは、ギルド一階に併設の酒場で、ちょっと早めの夕食をとることにした。


「いやぁ、順調順調。お兄ちゃんもお姉ちゃんも、だいぶ連係が良くなったんじゃない?」

「お、ティーエからもそう見えるか? 俺も、だいぶ動きがなめらかになってきた気がするんだ。エディタはどうだ?」

「わたくしも同感ですわ。デニスの動きに合わせて攻撃魔法や支援魔法を使う戦い方にも、慣れてきた感がいたします」

「支援魔法なんかは、最近中級が使えるようになったばかりだろ? なのに、うまく俺に合わせてくれているから、やっぱエディタは優秀だなって思う」


 元々エディタは攻撃魔法がメインの魔術師だ。俺に出会うまでは、支援魔法は初級しか使えなかったし、そもそも実戦で使ったことも一度もないようだった。


 そこに、俺からの《信頼》の支援で、最近中級の支援魔法が使えるようになった。

 今はこの中級支援魔法と、元々のエディタの得意技である上級攻撃魔法を、うまいこと使い分けてもらっている。


 一方で、俺は完全に前衛役だ。二人での役割分担を考えると、自然とそうなる。

 俺の魔力は非常時のために温存する形で、戦闘を進めていた。初級の依頼をこなす分には、何の問題もない。


「お、エディタちゃんじゃーん!」


 俺たちが食事をとりつつ談笑していると、顔なじみの冒険者数人がやってきた。


「あら、皆様も本日の依頼は済まされたのですか?」


 エディタは冒険者たちに顔を向け、小首をかしげる。


「バッチリだぜ!」

「エディタちゃんたちの活躍には、負けてられないもんね」


 ゲラゲラと笑う冒険者に対し、エディタは笑顔で応じている。


 相変わらず、人との付き合い方はエディタのほうがうまい。

 意外だったのは、対貴族だけでなく、貴族以外との人間とのやりとりもきちんとこなしている点だ。応用がうまいのだろうか?


 王族として多くの人と関わってきたエディタと、庶民として閉じた村で育ち、村を出てからもマルツェルの使いっ走りしかしてこなかった俺との、経験の差が如実に表れていた。


「あら……。では、わたくしたちもなお一層、精進せねばなりませんね。うかうかしてはいられませんわ!」


 エディタは両拳をぎゅっと固めて、気合いを入れる。


「うん、やっぱエディタちゃんと話すと、こっちも元気をもらえる!」

「そうだなっ! まるで、ギルドの幸運の女神様だぜ」


 冒険者たちはエディタを拝むような仕草をしている。


 最近、俺は気になっていた。

 なんだかエディタが、ギルドのマスコット的な扱いを受け始めているのではないかと。


 冒険者のくせに、貴族の言葉遣いを真似する不思議ちゃん。

 こんな認識が、ギルドに広がりつつあった。


 ……それでいいのか、エディタ?


 とはいえ、エディタ本人もまんざらでもなさそうなので、俺も止めたりはしていない。

 冒険者たちと交流を持てるってのは、大事なことだしな。悪い話じゃない。

 今のエディタのキャラクター性が、周囲に溶け込むための大きな助けになっているのも、疑いようのない事実だし。


「デニス、しっかりエディタちゃんを護ってやれよ。おまえさん、エディタちゃんよりもずっとずっと強ぇんだろ?」


 若い男の冒険者が、俺の背中をバシバシと叩いた。


「あ、あぁ。もちろんだ。エディタは俺が護る」

「おぉ、言うねぇ。男の子はそうでなくっちゃ」


 女性冒険者が白い歯を見せながら、俺の頭をポンポンと叩いた。


 エディタのおかげか、俺も少しずつだけれど、こうして先輩冒険者たちにかわいがってもらえるようになってきた。

 こういった関係を、徐々にでもいいから、広げていきたい。

 異国の地での立ち位置を確保するためには、とても大切なことだと思うから。


 ただ、あらくれの集まる冒険者ギルドだ。こんな好意的な人間ばかりとも限らない。

 生意気だと罵り、露骨に俺たちの邪魔をしてくる者もいる。


 俺たちに否定的な態度をとる冒険者たちの中でも一番気になるのは、ギルドに登録したあの日に絡んできた、中年冒険者のオレクだ。

 ヤツも時折、俺たちの様子を物陰から窺っていた。やり返す機会を探っているのかもしれない。


 こういった輩相手には、冒険者ランクを上げるのが一番の対策だ。俺たちが目に見える権威を持てれば、おとなしくなるだろう。

 より一層活動しやすくするためにも、頑張って評価を上げないといけないな。


 冒険者たちとの談笑を終え、食事も済ませた俺たちは、宿に戻るべく席を立った。


 すると、モニカさんから声がかかった。


「あ、デニス! 明日の朝、私のところに来てくれないかな? 指名でお願いしたいことがあるんだ!」


 モニカさんはにこりと笑顔で俺たちに告げる。

 表情から、深刻な話などではなさそうだ。


 でも、ランク的にはいまだに初級の俺たちに、いったい何の指名依頼をするつもりなんだろうか――。

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