出会い 4
翌朝。
一番に目覚めたのはイツキだった。
眠るつもりはなかったような慌てた様子で、文字通り椅子から転げ落ちるように飛び起きた。
その振動でアヤとルイスも目を覚ます。
「アヤ?」
すぐにイツキはアヤの傍に駆け寄る。
「お三方よく眠れたようですね」
カウンターの椅子に腰かけてルイスの本を読んでいたユーリが涼しげな表情で振り返る。
「おはようございます」
ルイスは重い瞼をこすって外套を羽織った。
「体はどう?」
「…おはよ…何だかものすごく疲れたけど、苦しかったのは楽になった」
心配そうに覗き込むイツキにアヤは微笑んだ。
大きく背伸びをするアヤにルイスは脱がせていた外套を肩から掛ける。
「血色も良くなっていますね。だいぶ中和されたと思います。ですが毒素が完全に抜けたわけではありませんので、しばらくは安静にしていてください」
「あ、はい、ありがとうございます。えっとー…」
アヤはルイスを見上げて小さく頭を下げた。
「私はルイス、そちらはユーリです。アランドールから商いの見聞の旅をしております。お二人はロスター村のご兄妹で間違いありませんか?」
「……」
イツキはルイスとユーリを見比べてアヤに視線を送る。
「はい」
アヤは小さく頷いた。
「ガーランドの辺境ロスター村から来ました。アヤと、弟のイツキです」
ルイスとユーリは驚いて目を見合わせた。
"きょうだい"としか聞いていなかったので、てっきり背が低く幼顔のアヤが妹で、イツキが兄の"兄妹"かと思っていたからだ。
恐らく出回っている情報も兄と妹で通っている。関所の兵士はそう認識していた。
アヤはこれで十八だと言われても何かの間違いかと誰しもが思うだろう。男女の姉弟だとしても少々不自然さがある。
「親は違うんです」
アヤは気にもせずさらりと答えた。彼らはそんな疑問を周りから投げかけられることにすっかり慣れてしまっているようだ。
「ルイスさんとユーリさん、助けていただいて本当にありがとうございます。せっかくジュラまで来られたのに、イツキを一人ぼっちにしてしまう所でした」
「あなたたちが敵ではなさそうなのは分かった。ガーランドで僕らはどう扱われてる?ただの旅人が知っているほど話は広まっているの?」
「いえ、私たちは事情を知る方から手助けを頼まれただけです。昨夜のうちに事態が急変した様子でしたから、お二人の国外手配は時間の問題かもしれませんが…」
「急変?まさか、王太后様は…」
アヤは眉をひそめた。
「凶報を聞いたわけではありませんが、状況から言って崩御は間違いないでしょう。軍部の動きが明らかに早い」
「こうなることを待ってた節があるぐらいですもんねぇ」
「アヤさん、単刀直入にお聞きします。王太后の死は事故ではありませんね?」
ルイスは真剣な表情でアヤをじっと見つめた。
「えっ…!」
「!!」
アヤとイツキは困惑した様子で顔を見合わる。
「…あなたたちのことはまだ信用できない。僕らの知っている事実を知ってどうする?ガーランドに事情を説明しに行こうとでも言うの?僕らはもう戻れないと思う、ガーランドにも、ロスターにも…」
「まあ、そうでしょうね。真面目な話、所有者のいる『剣』はだいぶ厄介な事態です。二度と接触すべきではない」
ユーリはため息をついて頭を掻いた。
「オリクトのことを知ってるんですか?!」
アヤは驚いてオリクトを隠すように右手で握りしめた。
「アヤ、この人たちは最初から知ってる風だった。あなたも、だから?」
「ええ」
ユーリはオリクトがアヤとイツキに見えるように服の袖をまくった。
一見すればただの晶石が収められた魔晶具の一つ。しかし、そこに収められた晶石が何であるかは、分かる者には分かる。オリクトの所有者同士であれば言うまでもない。
「だから、別に無理に話せとは言わないけど、そういう意味では力になれることはあると思いますけどね」
「イツキ、わたし…」
アヤは懇願するようにじっとイツキを見つめる。
「アヤの好きにしていいよ」
イツキは観念するように眉尻を下げて息を吐いた。
「ありがとうイツキ。…まず、わたしたちはロスターにある王家の保養邸の手入れをする仕事に就いていました。王太后様の馬車が事故にあった時は屋敷のテラスにいて、空になった鳥の巣を片付けていたんです。屋敷は小高い丘にあるのでここからは村まで一望できます。王太后様の乗った馬車はグランシュに戻られる所で、坂を下っていく様子をイツキと見送っていました。そしたら突然、女の子が馬車の前に飛び出してきて、御者も馬も驚いて、はずみで馬車が倒れてしまったんです」
「女の子?村の子?」
「いえ…、その子は…」
アヤは言葉を詰まらせた。
「王女のルーナ」
イツキが代わりに答える。
「王女?何故…」
「それから、馬は錯乱して暴れ出した。馬車から這い出てきた王太后や召使、逃げようとした御者は次々に鋼鉄の蹄に蹴られて、辺りは一瞬で血まみれに…」
イツキはその時の光景を思い出して眉をひそめた。
「気づけばルーナ王女様は道端に倒れていました。暴れる馬に今にも踏まれそうで、私たちは急いでテラスを降りました。人を呼ぼうかとも思いましたがそれよりも王女様が危ないと思って…。現場につくと馬はどこかへ走り去っていました。王女様は無事だったので、屋敷へ人を呼びに行こうとしたら坂の下から兵隊さんがたくさんやってきて、説明する暇もなく私たちを捕えたんです。私たちはグランシュに連れて行かれて、そこで聴取を受けました。見たまま説明したけど、誰も信じてくれなくて…」
「それどころかあの人たちは、僕らがジュラの密偵で王太后と王女の暗殺を企てたんじゃないかって言い出し始めた。王女に事情を聞けと言ってもショックで話が出来る状態ではないとか言うだけで、事実の確認もしてくれない」
イツキは苛立たしげに手を握り締める。
「ジュラとは随分と強引なこじつけですね」
ユーリはふむ、と唸った。
「たぶん、家の捜索をされたんだと思います。私と母さんはジュラの生まれなんです。テレジアの代表が母さんと親戚で手紙のやり取りをずっとしていて、母さんが亡くなってからも私のことを気にかけて月に一度は手紙をくれました。そこを付け込まれたんだと…」
「なるほど、ジュラの工作員に仕立てる要素は揃っていたのか。それで君たちは二人で逃げ出したと?オリクトはその段階で?」
「いえ、たぶん、その前です」
「たぶん?」
「実は、このオリクトを手にした経緯についてはよく覚えてなくて…。何か月か前に執事長さんの手伝いでイツキがグランシュへ行くことになった日、私は風邪をひいて寝ていました。何かに追いかけられる夢を見たんです。お屋敷の地下の部屋まで逃げ込む夢でした。それで途切れてるんですが、目が覚めたら屋敷の庭先で倒れていて、腕にはこれが…」
「……」
イツキはアヤのオリクトにちらりと視線を送って目を伏せた。
「『争』のオリクトに呼ばれたのか…?ちょっと状況があやふやですけど、例えば『争』はブライズの屋敷に隠されていて、アヤさんの夢に『争』が感化されてその場所まで導いたのかも。ほとんどの場合、オリクトは所有者を自ら選定します。身に危険が及んだ時やなんらかの強い願いと引き換えに力を与える傾向にありますから」
人間はただ闇雲に与えられた力よりも、懇願によって手に入れた力であるほど魔晶の行使に躊躇いがない。
オリクトは常に対価を欲している。人が力を行使しなければオリクトは対価を得ることが出来ないため、互いの利益を円滑に得るオリクト自身が選んだ選定方なのだろうと、ユーリは長年の経験から推測している。
「私が?願ったから…?」
アヤは丹色に輝く『争』のオリクトに触れて呟く。
「……」
「ルイス?黙ったままですね。何か気になることが?」
ルイスは一連の話を聞きながらずっと黙ったままだ。
何か考えていることがあるのか難しい表情をしている。
「いえ…。何でもありません」
「うん?」
ユーリは不思議に思いながらも話を続けた。
「それで、お二人はこの後テレジアへ行かれるんです?」
「そのつもりでしたけど…」
「うん…」
それで良いのかな?と、二人は不安そうに顔を見合わせた。
「あ、そうだ!どこか別の国へ行く?アランドールか、バリアント…それか、ユージン大陸を離れて南のノイシュ商団も面白そうだよね。本で読んだ東の国も一度は行ってみたいな」
アヤは空想に耽って楽しそうに笑った。
「僕はどこでも良いけど、このままじゃどこにも行けないよ」
イツキはため息をついて、麻袋の銅貨一枚をアヤに見せる。
この銅貨も、偶然拾った剣をソルト村で銅貨三枚と交換したものだ。わずかな保存食で二枚使ってしまい残りは一枚。小さなパンぐらいしか買えない。
ロスターで捕らわれた時のまま、何の準備もなく逃げ出したので旅が出来るほどのお金もなければ用意もない。物拾いだけでこの先の生活をどうにか出来るはずもなかった。
「今のテレジアは許可証がないと入れませんが、代表さんとお知り合いなら入れてもらえるかもしれませんね。いきなり二人で旅をするのは難しいこともあると思いますし、頼れる可能性があるなら今は頼ってみては?」
「あの、私たちがジュラやガーランドで本当の話をしたところで、もうどうにもならないでしょうか?」
「正直難しいでしょうねぇ。ガーランド側には真相を暴こうとしている方もいましたけど、『剣』と王家が関わってるみたいですし、彼らの出来ることはあまりにも少ない」
アヤとイツキは顔を見合わせてため息をついた。
武器も持たない、まだ子供の姉弟。何者かの陰謀で罪人に仕立て上げられ、国外へと逃亡する以外なかった姿はどこかルイスと重なる。何も知らない子供が身に覚えのない罪を被せられ憔悴している様は見ていて胸が痛む。
「ユーリ、しばらくお二人と行動を共にしても構いませんか?」
突然のルイスの提案に、ユーリは驚いて目を丸くさせた。
「え?いや、まあ、心配なのは分かりますけど…」
「このままではジュラとガーランドは全面戦争へ突入してしまいます。アヤさんとイツキ君を取り巻く環境がそこへ向かって二人を飲み込もうとしている…。もし回避できる可能性があるなら、何とか防げないか考えたいです」
ルイスの言葉にユーリの顔つきが険しくなる。
「…は?ルイス、まさか、関わるつもり?ここはジュラですよ?表に立つべきじゃない状況なの分かってますよね?」
「分かっています。ですが戦争に突入してしまえば無関係ではいられません」
「そうですね、じゃあすぐにアランドールに行きましょう。戦が始まる前に。ジュラに居続ける意味なんてない」
ユーリは厳しい口調で答えた。
戦争など冗談じゃない。ましてや『剣』には所有者がいて、『争』と言う未知のオリクトまで現れた。こちらもただでは済まされない事態になるのは目に見えている。
このまま関わっていればいつどこでエノテイアに嗅ぎつけられるか分からない。ヒイラギの子飼いはオリクトへのあらゆる対抗策を講じて、次は大隊を引きつれてくるだろう。次もうまく転移で逃げ出せるとは限らないのだ。
「……」
ルイスは眉をひそめて黙り込んだ。
アヤとイツキが不安そうに二人を見比べている。
「良いよ、後で話そう」
ルイスも言いたいことはあるが、今はアヤとイツキの前。いま問答する内容ではないか。
ユーリはため息をついて頭を掻いた。
「とりあえず、アヤさんの体調を見てテレジアまで一緒に行きましょう。ユーリ、それは良いですか?」
「まあ、良いでしょう…」
ユーリは渋々、了承した。
・・・
アヤの体調を考慮し、出発はお昼後と言うことになった。
それまでにアヤとイツキは薄汚れたままだった体や髪を洗い、着ていた服も軽くすすいだ。日当たりがよく風通しの良いテラスに干せば出発前には乾くだろう。
アヤとイツキが身支度をしている間に、ルイスは裏手の丘に寝そべり日光浴をしているユーリの元を訪れた。
「先ほどの話ですが…、怒っていますか?」
隣に腰を下ろし、瞳を閉じたままのユーリに話しかける。
「怒ってないよ」
ユーリは目も開かずに答える。
怒っていると言うよりは、呆れていると言った方が正しそうだ。
「ユーリの言っていたことは正しいです。私も戦が始まるジュラに留まるべきではないと思っています。数日のうちにエノテイアから追手の手も伸びてくるでしょうし…」
ユーリは複雑な表情のルイスをちらりと見た。
「…さっき、何を考えてたんです?二人についてくって話の前」
「え?ええと、話を逆から辿ってみたら一つの目的のための計画のようだなと、ふと、考えていました」
「逆から?」
「『剣』に所有者がいることです。管理と保管を任せて建国されたガーランドですから、これは国の存続危機にも繋がる緊急事態です。悟られる前に最優先でどうにかしなければならなかったはずです。それから『争』のオリクト。ユーリも初めて見たと言っていたように、エノテイアも把握していないと思います。『剣』の隠蔽のためには『争』のオリクトのことも隠すしかなかったのでしょう。王家は、エノテイアを怒らせることなく『剣』と『争』の問題を解決する方法としてアヤさんたちを利用したのではないかと考えていました」
「んん?アヤさんに所有させて、『争』を国外へ排出させるってこと?」
「ええ。アヤさんが所有したのは偶然でしょうが、先ほどユーリが言っていた所有者の選定方を今回の計画の首謀者が知っていたとすれば、これまでにも何度か試したかもしれません。計画の遂行に該当する人物であれば誰でも良かった。最終的にアヤさんが所有したので、『争』の問題はこれで解決したと言えます」
「何やら個々の情報が一つの形を成してきましたね」
ユーリはうんうん、と頷く。
「『剣』の所有者について、どういう方法であれば角が立たないか考えてみた時に、敵国にオリクトがあれば不問となるのではと思いました。それには停戦協定を破棄できるだけの大義名分があれば開戦に違和感はありません。侵攻した先でオリクトを発見したことにすれば、その煽りで『剣』に所有者が出てしまったとしても十分言い訳に出来ますし、エノテイアも戦となれば『剣』を使用することによって事を治められると考えるかもしれません。この方法であれば、王家は問題をすべて収めることが出来るのではないでしょうか」
「なるほどねぇ、そうなると『剣』の所有者が関与してるのは間違いないな。首謀者なのか、協力しているのかは分かりませんけど…」
ユーリはそこまで言って、ふと昨日見た無意識領域のことを思い出した。
あの時見た『争』の記憶にいたのはイツキだった。『剣』と接触していたのはイツキだ。何故、所有者のアヤではないのか。印のあるイツキも感化されて、記憶が混同していたのか…?
ユーリも知らない『争』のオリクト。その能力も対価も未だ不明だ。もしかすると、予想もしない能力を持っているのかもしれない。
「やはり、ますますジュラにいられないですよ。国家間の戦争だ。オリクトが関わっているとなればエノテイアだってすぐにちょっかいを出してくる。私はそんなに万能じゃないんです、そんな状況下でどこまで貴方を守れるか…」
ユーリは大きくため息をついて額を抑えた。
「分かっています…」
「分かってるのに、何故そこまでここにいたい?」
ユーリは少し苛立って語気を強めた。
「だからです!私は、強くない…。魔晶は扱えない、剣も得意とは言えない…でも、あなたに守られているばかりではいけないと思うのです。考えなければいけないことはたくさんありますが、今は何よりも”見て、知る”ことが必要ではないかと思いました。オリクトも、それを持つ人も、国同士の戦も、私は本の中やボード上でしか知らない。知らなければ、私はきっといつまでもこのままです。あなたに負担を強いるだけの、何も出来ない、貴族の子供でしかない。ユーリも知識を深めようと言ったではありませんか。ここで少しでも何かを得なければ、父上を助けることなど…」
ルイスは必死に言葉をつないだ。自分で言っていて、どんどん自信が無くなっていくのが分かる。
本当にこれで良いのか?そうしたい気持ちと、そうすべきではない現実がせめぎ合う。
「はぁー…」
強く、純粋な渇望と欲求。
あぁ、この感情には抗えない…。
ユーリは眉をひそめて左手をぎゅっと握りしめた。
「…分かった…、分かりました。ジュラに残りましょう。他のオリクトと接触することはいずれ意味を成してくるとは思いますし、ルイス自身に経験が必要なことも考えてはいます」
「!ありがとうございます」
ルイスは嬉しそうに声のトーンを上げた。
「ただ、戦地に身を置くと言うことは、逃亡中である私たちの状況も含めて非常に危険なことではあります。それは分かりますよね?ですから、逗留するにあたって二つほど条件があります」
ユーリはよいしょ、と体を起こす。
ルイスの方を向くと真剣な眼差しで見据えた。
「は、はい。何でも、言ってください」
ルイスは姿勢を正し、改まって座り直す。
「まず、一つ目。戦への直接的な介入はしないこと。アヤさんたちが心配であっても絶対に目立った行動をしてはいけません。何か考えがあって行動を起こす時はまず私に相談を。エノテイアは貴方がジュラにいると分かればどんな非道な手段でも用いてきます。私たちの行動次第で、ジュラが別の意味で戦禍となり得ることを常に気に留めておいて下さい。もちろん私も弁えて行動します」
「はい」
ルイスはユーリの言葉を脳に刻み込むようにゆっくりと心の中で反芻した。
「それから、二つ目。緊急時を除いて、基本的に私からは離れないこと。これはルイスを信用していないと言うことではなく、『晶』はこれまでとは違う状況にあって何が起きるか私にも分からないからです。もしもの時は出来る範囲で最大限貴方を守るし、全力であらゆる状況へ対処するつもりです。これはエリオスとの約束でもありますが、私自身が決めたことでもあります。それには貴方の協力が必要不可欠ですから、覚えておいて下さい」
「分かりました」
ルイスは唇をきゅっと結んで頷いた。
真剣に自身を見つめるユーリの眼差しは遠く、このオリクトの所有者が起こしてきた惨劇を見据えている。
『晶』の対価は心。
力を使うことで徐々に人としての心を失っていき、いずれ所有者を人ではなくしてしまう。そうなれば想像することさえ憚れるほどの惨状が待っている。
自分自身がいつそうなるとも限らないと言うことを、決して忘れてはいけない。
「そういうわけですので、約束を守ってもらえるなら後は自由に選んでくださって構いませんよ。貴方の意志を曲げて選んだ道なんてきっと楽しくない」
ユーリは不安げな表情のルイスの眉間をツンとつついた。
「ありがとうございます…。あなたはきっと私のことを頑固者だと呆れているでしょうね」
ルイスは子ども扱いされているような気がして眉間をさする。
「そんなことないよ。飽きなくて良い。私だって基本的にはスリルがあって楽しい方が好きですから」
ユーリはそう言って微笑んだ。
「……」
それはどこかエリオスが自分に向けて微笑む眼差しにどこか似ている。
守らなければならない存在へ向ける慈愛?庇護?そんな類の感情だ。
守ってもらわなければ何も出来ない立場であることはよく理解している。けれど、そう扱われることには少し寂しさも感じる。自分はあまりにも非力で、共に旅をする友どころか、恐らく彼にとっては仲間ですらない。
ユーリからすればただの子供なのだろうが、どこか子ども扱いされたくない気持ちもある。
対等であることは難しいけれど、もう少し何か頼りにしてもらえるような、役に立てるような、何か意味のある力があれば良いのに…。
そう思わずにはいられなかった。
「あ、ルイスさん、ユーリさん、用意できました」
裏の戸口からひょっこりアヤが顔を出した。
「はいはーい」
ユーリは手を挙げて返事をする。
「すぐ行きます」
ルイスは何か考えていたことを振り切るような様子で駆け足で店内へ戻って行った。
のんびりとユーリも立ち上がる。
戸口の中へと消えていくルイスの姿を見ていて、ふと、オリクトが薄紫に輝いた気がした。
「?!」
慌てて追いかけて見直す。が、オリクトはいつも通りのまま、特に瞬いてはいなかった。陽の光に反射しただけなのか、たまたまそう見えただけなのか、それとも…。
「ユーリ、行きましょう」
考え込んでいると、すでに外にいたルイスに外から声をかけられる。
「はいはい」
気のせいだろう。
ユーリはそう思うことにして、店内に忘れ物がないか確認して外へと急いだ。




