ある朝目が覚めたら②
ジャンル別で3位になっておりました。
ありがとうございますm(_ _)m
若葉葵。
冗談みたいな名前になっちゃったけど、惚れた男の名字がそうだったんだからしょうがない。
既婚者。現在36歳。
14歳思春期真っ只中の息子が1人。
旦那は6年前に病気で死別して、息子と2人二人三脚で生きてきたシングルマザー。
職業、そこそこ売れてる(つもりの)小説家。しかしショーレースには箸にもかかりません、な、残念仕様。
それが、「私」だった。
はずなんだけど。
「どうしたもんかな、コレは」
ため息つきつつ、とりあえず、コーヒーを入れる。
カフェイン中毒気味のため、コレがないと何にしろ始まんないんだよね。
ある日突然、36歳のおばさんボディが推定8〜10歳児へと逆戻り。
いやぁ、訳わからん。
ダイニングテーブルで、さっきまで散々一緒に騒ぎ尽くした息子がくったりしてるのを眺める。
最近じゃ思春期特有の斜に構えたがる息子が、昔みたいに感情露わにギャアギャア騒ぐ姿は可愛かった。
コポコポという音と共に立ち上がるコーヒの香りを楽しみながら、拉致もつかない事をぼんやりと考える。
さてはて、これからどうしたものだろう。
鏡を眺めて確認したところ、たぶん現在8歳以上10歳未満。
なんで分かるかって?
大体の体形と、10歳の時堤防から落ちて出来た腕の傷が無い事からの考察ってヤツですよ、ワトソン君。
ちなみに手の甲に6歳の時に鉛筆の芯刺しちゃって出来た黒子みたいな跡はしっかり残ってる事から、過去の歴史の中で出来た傷は再現される筈って前提もあるから、あながち間違いでは無いかと。
しかし、売れない小説家として注文があるままにいろんな話を書いてきたけど、まさか自分が小説のネタになりそうな事を体験するとは、ビックリだよ。
「別に若返りをどっかの寂れた神社にお願いしたり、怪しい動物助けたりしてないんだけどなぁ」
「ネタかよ!?」
グッタリしてたくせに、呟きに律儀に突っ込んでくる息子は可愛い。
14歳で思春期真っ只中の、そろそろ色気付いてきて朝から鏡の前で髪型気にしてる割に、反抗期らしいものは見られないという、シングルな母親思いの息子なのだ。
どうだ、可愛かろう?
まぁ、洗濯物は別に洗えなんて言い出したら普通に殴るけど。
と、いうか家事の半分はやらせてたりもするんだけれども。
料理洗濯できる男子、需要高いと思うんだけど、どうかな?
不埒な事を考えている事を察知したのか息子が睨んできたのでさりげなく視線を外し、コーヒをカップに移す。
「いやぁ、だってありそうな設定じゃん……って、苦っ!!」
入れ立てコーヒを一口飲んで、思わず吹き出した。
とっさにシンクを向いた自分を褒めて上げたい。
床掃除しなくてすんだ。
「………味覚も子供に戻ってんじゃねーの?」
嫌味っぽく呟きながら、手の中からコーヒーカップがさらわれていく。
「マジか。私の癒しが……」
思わず項垂れれば、くつくつと笑う声とともに「あ〜〜美味しい」と、いかにも楽しそうな声が降ってくる。
「この間まで砂糖と牛乳たっぷり入れなきゃ飲めなかったくせに、生意気!!」
恨めしげに睨みあげる視線の先が更に高い位置にあってイラっとする。2年前に視線が逆転した時以来のイライラだな、コレは。
「そだな。で、砂糖とミルク、いる?」
ニヤリと笑って見下ろしてくる息子の弁慶を反射的に蹴り上げた私はたぶん悪くないと思うんだよね。
痛みに飛び上がったせいで手に持ったカップから溢れたコーヒーは、責任持って息子に掃除してもらおう。うん。
ブツブツ言いながらも、コーヒーの掃除をしている息子の背中を見下ろしていたけど、ふと時計を見て我に返った。
「そういえば悠理、今日期末テストじゃん」
朝からいろいろ衝撃的すぎてすっかり忘れてた。
慌ててトースターへパンを放り込むとフライパンを火にかける。
「顔洗って着替えといで。ご飯しとくから!」
「ハイハイ」
気の無い返事とともに洗面所へと消えていく息子の背中を見送り、自分はレンジへと向き合う。
うん。微妙に使いづらい。
私、成長期きたの中学だったんだよなぁ。
それまでクラスでダントツ1番のチビだったし。
そもそも成長期きても1番小さかったんだけれども。まぁ、そこは突っ込まないお約束で。
つまり何が言いたいかというと120そこそこの身長だと、一般サイズのキッチンは非常に使い勝手が悪いって事。
微妙に視界が低くて手足が引っかかるんだよね。
シンク台の端とかに。
ガス台の炎の位置が近くてなんか怖いしね。
まぁ、使えないことはないんだけど。
30センチくらいの足台欲しいな………。
そんなこんなで四苦八苦しながらも、なんとか朝食を作り終えた時に、悠理が戻ってくる。
ノリのきいたワイシャツは爽やかでいいね。
頑張ってアイロンかけた甲斐があるってもんだよ。
「なぁ、これからどうするの?」
トーストにハムエッグ。皿の隅には添え物のサラダ。そしてヨーグルトが我が家の定番朝ごはんだ。
ちょっと卵が崩れたけれど、いつもと変わらぬソレを突きながら悠里が何気なさそうに聞いてくる。
けど、瞳が不安そうに揺れているのに気づいて、私は殊更なんでもなさそうに肩をすくめて笑ってみせた。
「まぁ、体調が悪いとかも無いし、とりあえず今日1日は大人しく様子見しとく。幸い、差し迫ってる締め切りもないし」
母1人子1人になって早数年。
お互い支え合ってやってきた母親がこんな事になって不安にならない訳はないよね。
らしくない大騒ぎも、動揺の表れだろう。
「…………へんな事、すんなよ?」
探るように見つめてくるから、ついいたずら心が刺激されるけど、ココは我慢。
流石に学生の本分邪魔しちゃダメだろう。
「ハイハイ。ゆう君帰ってくるまで大人しくしてます。今日が最終日でしょ?頑張っておいで?」
「やめろ!髪崩れる!」
頭をクシャクシャと撫でたら嫌がられた。
チッ、色気付きよって。
読んでくださり、ありがとうございました。




