CM放送されました。
書いたまま放置を発見したのでコソッと夜中に投稿。
大元ネタ晒し記念って事で(笑
けたたましい音を立ててチェーンソーが木々を切り倒していく。
機械の音に紛れるようにメキメキという音とともに、樹齢100年を超えそうな大木が倒れていった。
その様子を少し離れた茂みの中からじっと見つめる華奢な後ろ姿。光の加減か、風に揺れる少女の髪が緑に透けて見えた。
森の中にいるとは思えないノースリーブの白いワンピースに長い髪の少女。濃い緑の中にあって、その姿は浮き上がって見える。
しかし、直ぐそばを通る作業員達は少女に気づくこともない。
場面が切り替わり、切り株だらけになった踏み荒らされた森の中で立ち尽くす少女。途方にくれたようにぐるりと辺りを見渡す。と、少女の顔の下半分だけがアップになり滑らかな頬をスッと水滴がながれた。
そこに被るように波紋の映像が浮かぶ。
再び切り替わる場面。
枯れ果てた草花にひび割れた台地。しゃがみこんだ少女は細い指先でそっとソレらを慰撫した。
少女の頬を流れる涙と波紋の映像をキッカケに次々と現れるのは、全て荒れ果てた大地の様子だった。
荒れた台地、風の吹きすさぶ枯れ果てた砂漠、ゴミだらけの海岸線。
少女はただ立ち竦み、涙を流す。
誰か、あの少女の頬を流れる涙を拭ってあげてほしい。
哀しみを癒してあげてほしい。
後ろ姿と顔の下半分しか分からない、一言も喋らない。でも、見ている人に少女の痛みが切々と伝わったくる、そんな映像だった。
最後に水の波紋の中に浮かび上がる文字とともに落ち着いた女性の声が流れた。
[台地に緑を 子供達に未来を。ソレが私たちの願いです]
波紋の中の文字が[橘コーポレーション]と変わり、映像が終わった。
ソレは、1分半に渡る異例の長さのCMだった。
一度だけ主要テレビ局で同時刻にフルバージョンが流れた後は、編集されたショートバージョンが流れるようになったが、その映像の美しさと訴えかける切なさに、一躍世間の話題となった。
最近話題の若手映画監督の手がけた初CMであり、バックに流されるピアノ曲も、実力もさることながらイケメンで話題の現役高校生のプロピアニストのオリジナル曲となれば、話題にならないわけがなかった。
また、当然のように、出演している顔の見えない少女にもスポットが当たるが、橘コーポレーション側からの発表は「彼女に関しては極秘情報であり、公開の予定はございません」と、完全シャットアウトの構えであった。
隠されれば、暴きたくなるのが人としての真理である。
しかし、どれほど調べてもソレらしき少女の存在は見つからず、身内説、実は少年説、実はCG説など、様々な憶測が飛び交ったのであった。
「………なんか大騒ぎ、だねぇ」
のほほんと自宅のテレビ前でデカクッションを下敷きに転がっていると、フワリとカフェオレの香りが漂ってきた。
「人ごとみたいに言わないでください」
なにやら機嫌悪そうな声に顔を上げれば、琉唯君がカップを手に見下ろしている。
綺麗な眉がキュッと顰められ、「不機嫌です!」と主張している目線はテレビへと向けられていた。
丁度、件のCMが流れているところだった。
「いゃぁ、ここまで加工されちゃうと最早人ごとというか。そもそも顔写ってないから身バレも無さそうだしねぇ」
ヘラリと笑いながら起き上がり、カップを受け取る。
甘い香りのソレは、最近お気に入りの黒糖入りのカフェオレだ。
完全に子供舌に戻ってしまって、今では開き直って、砂糖ミルクたっぷりのカフェオレがお気に入りなのだ。
最も、子供の体にカフェインの過剰摂取はよろしくないと1日3杯まで制限されているのだが……。
なんか理不尽だ。
不満を訴えてみたものの、陽仁さんの手により科学的に身体年齢を追及され、めでたく9歳児相当の烙印が押されてしまった為、各方面より「あきらめろ」と窘められた次第だ。
ヤッパリ理不尽。
たかだか身体年齢で私の積み重ねてきた年月が否定されてしまうなんて。
なんて熱く訴えてみたものの、息子の「文句はブラックコーヒーが美味しく感じるようになってから言え」との無慈悲な一言により完全に沈黙することとなった。
うなだれた私の頭を、目の前の少年が慌てて撫でて慰めてくれたのも記憶に新しい。
そんな優しい琉唯君が、なんでかこのCMが流れ出してから機嫌が悪い。
いくら顔は出ないとはいえ、テレビCMに出演するなんてやはり気恥ずかしく、契約の一端に子供たちが気づくまでは秘密にする事、なる項目をつけた為、悠理と琉唯君は、私がCMに出ることを、テレビで流れるまで、本当に知らなかったのだ。
撮影のほとんどが、都内のスタジオを借りて行われた為、子供たちが出かけている間に終わった事も大きいだろう。
隠密行動のようで、少し楽しかったのは秘密だ。
テレビに流れる前に、出来上がったCMを先に見せてもらっていた私は、顔も写ってないし、気づかれる可能性も半々かなぁ?と気楽に構えていたのだが、我が家の子供達は一目で気づいた。
コーヒを吹き出した悠理に、固まる琉唯君の様子はなかなか面白かった。
「ヤッパリ琉唯君が出たかった?」
そういえば、京花さんは最初琉唯君に出演の話を持っていったんだっけ、と思い出して小首を傾げる。
派手なことはあまり好きじゃないみたいだけど、自分の会社の事だし、実は貢献したかったのかな?
と、琉唯君の眉間にクッキリとシワが刻まれた。
「いえ、ソレはないです。けど、葵さんだって、こういうの好きじゃないでしょ?」
首を横に振って、こっちを気遣わしげに見つめる琉唯君にビックリする。
なんと。
私を気遣っての不機嫌だったらしい。
確かに、半ば色んなものを盾に強制されたようなものだったけど、開き直ってしまった後には、中々面白い経験だった。
折角だからネタにしようと撮影現場の裏話なんかもスタッフさんにさり気なく聞きまくったし。
「まぁ、顔出しNG通してもらえたし、その後も、あらゆる情報シャットダウンしてもらってるから、大丈夫だよ〜〜。心配してくれて、ありがとうね?」
むしろ、見学に来てたピアニストの金武君にミーハー心を刺激され、子供と思われてるのをいいことにつきまとってみたり。
監督さんに無邪気なフリしていろいろ質問しまくったりと満喫してた自分を思い出せば、なんとなく申し訳ない……。
「ソレ、どっちも母さんの戦略の内だから、ありがたがること、無いですから」
ムッとした顔の琉唯君は珍しくって、実の親の事なら反抗的な表情も出来るんだな〜、と新鮮な気持ちになる。ちょっと寂しい気もするけど。
「まぁ、貴重な体験させてもらったし、楽しかったよ?」
慰めるように手を伸ばして頭を撫でると、少し不思議そうに首を傾げられた。
「なんか、過去形で語ってますけど、あのCM、シリーズ物だって聞いてますよ?まだ、続くんでしょう?」
「へ?」
ぽかんと口が開いて、間抜けな顔になってるのが分かるけど、ソレどころじゃない。
爆弾は投下される。
「だから、もう同じメンバーで第2弾の企画が上がってるって。時期的に、もうそろそろ撮影に入るんじゃないですか?」
「聞いてな〜〜〜い!!!」
静かな室内に私の叫び声が響き渡った。
読んでくださり、ありがとうございます。
続きそうな内容でごめんなさい。
続きネタとしてはCM第二弾で琉唯君と共演する予定でした。書けてませんが………。




