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叶わない夢

 あぁ誰だって、認めて欲しいに決まっている。

まぁ逆に、否定されることで安心感を得る人もいるようだけれどね。



 欲しい言葉を上げよう。

優しい笑顔を上げよう。

居場所をあげよう。


 だから私の、居場所をちょうだい。










「こんにちは、雪桜先輩。」



「あぁこんにちは。君みたいな有名人に名前を覚えられているだなんて、光栄だなぁ。」



 心にもないことを言えば、潜められる眉。

まぁ今のはあからさまだったからなぁ、仕方がない。

慰めてあげたすぐ後。階段を登っていけば、見覚えのある人物と出くわした。


 窓から差し込む夕日が彼王子サマの金髪をいっそう美しく見せている。

あぁ一瞬だがらしくもなく、見惚れてしまった。



「先輩だって有名人ですよ、とても優しいそうじゃないですか。

 雪桜先輩の信者は、とても多いそうですよ?」



「信者だなんて、大げさだなぁ。わたしはただ、皆に笑顔でいて欲しいだけだよ?」



 それが一番、気が張らないような表情だから。

めそめそ泣かれるのは気が滅入る。

怒っているというのはとても面倒くさい。

笑顔でいてほしいというのは、あながち嘘じゃぁない。


 私は嘘はつかない。

偽善者であっても、そのへんの嘘つきとは違うんだから。



「自ら動かないくせに、言葉だけは優しくかけてあげるんですね。」



「動く?一体何の話をしているのかな?」




 私はきょとりと表情を作って、首を傾げた。


 イジメられていると、彼女は直接言葉に出したりはしなかった。

けれど、イジメられているのは馬鹿でも分かりそうなものだ。

それに気が付きながら何も動こうとしない、それを彼は責めているんだろう。


“偽善者”と、彼はそう揶揄したんだろう。




「先輩は、救えるはずなのに、救おうとはしないんですね。」



「人を救うなんて、そんな大層なこと私には出来ないよ。」



 表面では謙虚に笑って、心にもないことを言う。

方法は間違っているが、ちゃんと救ってあげているじゃないか。



「先輩は、あぁやって誰かを元気づけた後、周りを見渡しますね。」



 ・・・いつから見られていたんだろうか。

たまたま目に入ったわりにはよく見ている。




「雪桜先輩は、誰を待っているんですか?」




 深い緑の目が、まっすぐこちらを見ている。

えぐられるような感覚がした。王子の視線にではなく、その言葉に。

いつもの笑顔も呼吸も一瞬忘れて、口元が歪んだ。

きっととても、自嘲めいた笑顔が浮かんでいただろう。


目の前の彼の、驚いたような表情が印象的だった。








(・・・誰を待っているんですか?ね。)




 あぁそうだよ。

私は待っているんだ。

私の偽善を否定して、怯えながらも見放さなかった、お人好しで馬鹿な人。

きっと偽善を重ねていけば、何馬鹿なことしてるんだって、叱ってくれる。






 ねぇ、兄さん。









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