こんにちは、最悪な世界
輪廻転生という思想があった。
と、木陰で本を読みながら物思いに耽る。
私は死んだ。
正しくは、自殺。
あぁ自殺こそ正しい終わりだったと、それこそが償いになると、良識ある善人ならそう言うだろう。
償いと言っても別に、人殺しをしただとか、盗みを働いたとか、そんなことはしていない。
むしろ、感謝されるべきことをしたのだ。
「雪桜、また本を読んでいるの?」
父を失って虚ろな目になった母がそう問いかけた。
私は穏やかな笑顔を浮かべてそれを見返した。
あぁわが母ながら、なんて愚かしいのか。
死んだ人は生き返らない。
当たり前のことを信じられない愚かな人。
「あぁそうだよ母さん、きっと役に立つ本なの。」
だからいつもみたいに焼いてしまわないで。
にこやかに言えば、悲しそうに微笑む若い母親。
彼女は私の実の母ではない。
幼いながら両親を失った私を引き取った人。
とてもとても良い人。そしてとてもとても、脆かった人。
この世界には魔法という不思議な力が存在している。
その魔力というのは、命を削って創りだすものなのだそうだ。
一歩間違えれば死んでしまうようなもの。だからこの母は私が魔法に興味をもつことを嫌う。
本を読んでいればその本を燃やすし、友達とその話をしていれば、そんな人と関わるのはやめろという。
愛する父をなくした上に、実の娘のように大切にしている私が死ぬのは耐えられないそうだ。
「あぁ大丈夫だよ母さん、私は傍にいるよ。」
――――――――ずっとそばにいるとは言わないけれど。
「父さんみたいに、置いて行ったりしないから。」
――――――――アナタを守ってあげるとは言わないけど。
「だから大丈夫だよ、母さん。」
(だってもう父様がいないと、眠れない夜はなくなったじゃないか。)
本当に大切にしていたものがすり代わっていると気が付きもしない。
あぁ可哀想に。
可哀想で可愛くて、馬鹿な人。
こみ上げてくる嗤いを微笑に変えて、立ち上がる。
「じゃぁ学校の時間だからもう行くね、いってきます。」
「・・・行ってらっしゃい、気をつけて。」
力なく手を振る義母さんに、笑顔で手を振った。