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術者の本領

 綾斗の高笑いが部屋中に木霊する。四方の壁から綾斗が攫ってきた十数人の浮遊霊が現れ、術式の文様を囲むように円陣を組むと哲生の顔が苦痛に歪む。霊力を吸い上げられる度に激痛が走った。その様子を綾斗が憎悪に満ちた眼差しで見上げている。勝利を確信し、高揚感に口元が緩む。


 だから気づくのが遅れたのだ。


 哲生の霊力を取り込むために配置された浮遊霊達の円陣が乱され、術の発動が不安定になる。1人の霊体が次々と呪縛した霊達を解放していくと、我先にと言わんばかりに浮遊霊達は逃げて行った。状況を把握した時にはすでに手遅れで、術式は完全に機能を止めてしまった。


 文様を取り囲む霊体の中に純平と菜々子が紛れていた。菜々子が浮遊霊を解放している間に純平が颯天に駆け寄り、絡みつく蛇に護符を貼り付けた。蛇は苦しそうに大きく口を開け身を捩ると、やがて黒い煙になって綾斗に向かって行った。純平は、呪縛から解放された颯天の霊体を掴むと距離を取る。呪詛を返された綾斗の体が傾くと、足蹴にされていた朔耶がするりと抜け出し猛スピードでその場を離れる。菜々子の横に避難するとで大声で訴えた。


「早くこの蛇何とかしてくれよ! 気持ち悪いったらないぜ!!」

「はいはい。すぐに取ってあげるわねぇ。」


 菜々子が呪文を唱え印を切ると、首に巻き付いた蛇が先程と同様に煙に還り綾斗に向かう。それと同時に菜々子と朔耶が陽炎(かげろう)のように揺らいだかと思うと、それぞれゆかりと純平の姿に変化した。再び呪詛返しを受けた綾斗は膝をつき口から血を吐いた。颯天を見やると庇うように朔耶が前に立ち結界を展開していた。


(何が起きた!? これは一体)


 もうすぐ全てにけりがつくはずだった。金眼を取り戻し、無残な死の影に怯える日々から解放される。東雲 哲生に復讐を果たし溜飲を下げるはずだった。なのに何故、自分は膝をつき血を吐いているのか。


「ご主人様!!」


 眷属が現れ術式の中心に居る綾斗の側に寄ると、哲生の真下に勢いよく護符を叩きつけた。途端に哲生の呪縛が解かれ自由の身となった。


「やった~!!」


 ガッツポーズを決める眷属は菜々子に姿を変えた。

 ゆかりの最も得意とするのは幻術だ。綾斗の眷属を捕えた後、ゆかりの眷属が綾斗の眷属に化けて接触し、綾斗の動向を報告してもらっていた。術式を破るには、それぞれを適材適所に配置する必要があったため幻術で姿を変えタイミングを見計らっていたのだ。

 綾斗は手印を組むと哲生に向けて攻撃を仕掛ける。無数の蛇が襲い掛かるが、哲生はすぐに反応する。結界を張り蛇をかき消していく。綾斗の繰り出す術は僅かに哲生には届かなかった。哲生の霊力が膨れていくのを感じ取ると、霊圧で床にうつ伏せに抑え込まれた。


 苦々しい表情を浮かべ綾斗は哲生を睨みつける。こんなはずではなかった。またしてもあの忌々しい屈辱を味わうなどあってはならないのだ。綾斗は拳に力を籠めると、立ち上がろうとするがいう事をきかない。


「お父さん……。」


 視線だけ上げると、沙衣が綾斗の側に立ち竦んでいた。


「沙衣!! 何とかしろ! この役立たずめ!!」


 綾斗の怒号に沙衣から血の気が引いていく。冷たくなっていく体を抱き締め、ゆかりに視線を向ける。ゆかりは軽く頷き目元をやさしく綻ばせる。沙衣はコクリと頷き返す。ポケットから震える手を出すとそっと綾斗に触れた。その瞬間、綾斗に電流が走った。目を見開き体を起こすと沙衣を突き飛ばした。きょろきょろと視線を泳がせる。もう一度沙衣に視線を戻すと怒鳴りつけた。


「沙衣! 貴様!! 何てことをしてくれたんだ。父親を裏切ったな!!」

「ごめんなさい。……だけど、こんな事もう終わりにしなくちゃ。紫苑さんから全て聞いたの。」


 沙衣の態度に違和感を覚えた紫苑は、もしかしたらと沙衣の説得を試みた。ここに向かう車中で遠見に関する真実を話し、沙衣の置かれている立場についても確認した。父親に支配されながらも違和感を抱いていた沙衣は静乃の話を聞き終えると、静かに涙を流し協力を申し出てくれた。菜々子のふりをして同乗していたゆかりから、霊力を封じるための護符を預かるとジャケットのポケットに忍ばせた。


 霊力を失った綾斗は狂ったように沙衣を罵倒し続けた。聞くに堪えない罵詈雑言を吐き出す綾斗に朔耶が手刀を当てると前のめりに倒れ込んだ。


 ー 紫苑サイド ー


 突然、金眼に投げ出されたせいで上手く受け身が取れなかった。体中に出来た擦り傷とぶつけた額がズキズキと痛む。額から流れ落ちる血が視界を悪くする。金眼はしゃがみ込むと、紫苑の血を指で掬い上げパクリと口に入れた。恍惚の表情に紫苑の肌に怖気が這う。


(きっしょ!!)


 声にならない悪態をつくと、金眼が紫苑に馬乗になり細い首にそっと手を掛けた。振り落とそうと体を捩るが霊圧に押されて上手くいかない。そんな紫苑を金眼は面白そうに見下ろしていた。


「お前、面白いなぁ。それに中々強いんだね。あの人とおんなじ匂いがするし、お前も傍に置いておこうかなぁ。」


 でもなぁ。と、ぶつぶつと呟く。ひとしきり独り言を呟いた後、金眼は紫苑の首に掛けた両手に力を込めた。 


「やっぱりいいや。気に入らない匂いも混ざってるし、お前の眼は何か嫌い。」


 紫苑の灰色の瞳を覗き込み嫌悪を剥き出しにすると、ゆっくりと首を締め上げる。紫苑は金眼を押し返そうとじわじわと霊圧を高めていく。予想よりも紫苑の抵抗が強かったのか、思い通りにいかない事に金眼が癇癪を起した。


「もう! いい加減にしてよ!!」


 さらに金眼の手に力が入り、霊圧も上がっていく。紫苑が押し負けそうになった時、少し離れた祭壇の下から人影が這いだして来た。


「やめなさい!! その手を離しなさい!!」


 うつ伏せで怒声を飛ばす桜子の姿がそこにあった。

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