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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第3章 海洋連合の夜明け
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Chapter1-3

お待たせしました(*^ω^*)



「どうして盗みなんてしちゃったの?」


「………」


 なんとも言えない空気が流れる。


 やれやれといった感じの空気だが、そもそもの原因が、自分達がいる目の前で窃盗を行った、座らされた少年にあるのだが。


 子供の世話に長けているアグニルが対応しているが、当の本人は無視を決め込んだまま。


 実際のところ、見逃してもいいのだが捕まえたという事実があるため、このまま解放というわけにもいかない。


「むぅ。頑固ね〜」


 孤児院で、子供たちの面倒を見ていた彼女が手を焼くというのは相当なのだろう。


 まぁ、口を開きたくないのは大人たちが囲んでいるからというのもあるだろうが。


 押し問答に近い沈黙の中、その静寂を破るように少年のお腹から空腹の虫が鳴く。


 ぐうううううううう…………


「〜〜〜〜!!!」


 途端、顔を真っ赤にする少年。そして羞恥を誤魔化すように周りに睨みつけてくる。


「………」


 それだけで犯行の動機がバレたようなものだから。


 おそらく、態度からしてもここら一帯での常習犯だったと思われる。それに加えて、身なりも貧しい家庭か身寄りのない孤児だと推測できる。


 盗んだのも腹が空いたから、というならこの世界ではありふれた犯行動機だ。


 大体の理由が察した事でエストレア含めて、さもありなんと言った顔で嘆息する。


「たはは……」


 頬を掻きながらアグニルが空笑い。


(少し、覗いてやろう)


 あまり使いたくないが、より深く知るためにインチキを行使する。


「【透視クレアボヤンス】」


 ボソッと呟くように、エストレアは眼の力を解放する。


 エストレアの眼が碧眼からより澄んだ水色に変わる。


 【全と一の瞳】の機能の一つーー【透視】を。


 ズウゥゥン……



 その次の瞬間。


  世界がモノクロに染まる。そして、エストレアの脳裏に次々に雪崩れ込む人々の心の声。


 世界の表面を一時的に剥ぎ取り、それを可視化して切り替える権能ゆえに、秘めた声を全て聞き取ってしまう反則技にしてエストレア自身を蝕みかねない諸刃の剣。


 ノイズの嵐がエストレアの脳を揺らす中、目の前の少年を捉える。


(これは……)


 【透視】が見るものは何も心の声だけではない。見たものの歴史さえ辿ることができる。


(……なるほど)


 予想はほぼ当たりで、腹を空かせた孤児が盗みに手を染める。


 この世界では珍しくもない話だ。


 だが、一つだけ見過ごせないものがあった。


 少年の背後に見え隠れする【犯罪ギルド(マフィア)】の影。


(面倒なことになりそうだな)


エストレアは瞼を1度閉じ、機能を破棄する。そして、背後でニヤニヤと笑うマリウスに声をかける。


「マリウス、今回はどこまで見えていた?」


 だが、不可の魔法使いは答えない。ただ気持ち悪いくらいの薄笑いを貼り付けて何も言わない。


 ふぅ、と軽く息を吐きながら、エストレアは避けられない揉め事に少しだけ憂鬱になったのだった。






◆◇◆◇




「とりあえず、あの子にはおとなしくしてもらったわ」


「ありがとうございます。本来なら衛兵に引き渡すべき案件なのですが……助かりました。ささやかですが特別報酬をつけておきます」


 小一時間もかからず騒ぎはようやく落ち着いたようで、精神的な疲れからアグニルが椅子に腰を下ろす。


 その一部始終を見ていた商隊長は、苦労をかけたことを労うように声を掛けた。


 しかし珍しくもない騒ぎ故か、商人たちやジッド達は既に明日に向けての準備へ切り替えている。


「あれ、エレンは?」


「あん?そういや、どこ行ったんだ?ジェシカの嬢ちゃんや双子もいつのまにかいねえし」


 そんな中、ジッド達はいつのまにか姿を消したエストレアの姿を探し出す。何も言わずにどこかへ行ったことで、迷子になったのでは?と疑い始めた。


 だが、それも杞憂に終わる。


「心配しなくていいよ。あの子なら、君たちにとっても、そしてこの街にとってもプラスになることは間違い無いからね」


 唯一残っていたエストレア達一行の魔法使いであるマリウスが胡散臭い笑みを浮かべながら、何も問題はないと告げる。


 そんな中で、エストレアはというと────




 

 既に関所近くの路地裏を歩いていた。


 夕暮れが迫る石畳の街路。喧騒から少し離れただけで、人影は急激に少なくなる。


 その先にある、とある建物の中では。



──ゴキンッ!!!


 ドシャッ


 あらぬ方向に首が曲がり、地面に転がる荒くれ者と思われる男。


 瞬時に背後に周り、一切の抵抗を許さず暗殺したのは赤い髪と、爛々と猛禽類のように鋭い眼光を放つエストレアである。


「ひ、ひぃっ!?」


 そしてエストレアは次の獲物を見つけたとばかりに、腰を抜かし小水を漏らす男を見つめる。


 彼らに共通するのは、体のどこかに動物を模したと思われるタトゥーが彫られていたこと。


 彼らこそ、このレイナードを裏で牛耳るマフィア【ウルティアファミリー】。


 だが、そんなことはエストレアには何ら関係ない。ただ作業のように片っ端から狩り続ける。阿漕なシノギをするファミリーに対して思うところがあるためだ。


「な、何だお前!お、俺たちにこ、こんなことして、タダで済むと思ってんのか!?」


 腰を抜かしながら、啖呵を切る下っ端の男に冷徹に見つめるエストレアはゆっくりとその足を進めていく。


「何も?もうすぐお前もそこに転がる塵と同じ所に逝くだけだ」


 その声音には、感情がない。尋問も必要ない。その時間さえ意味がない。


──ズチャッ


 蟷螂の爪のように尖らせた掌が男の首を貫く。指に付着した血糊を舐めとるものの、顔を顰めてすぐに吐き出す。


「不味い。塵は所詮、塵だな」


 吸血鬼故に血を見れば、衝動に駆られるものだがここら全員の血はみな質が悪い。


 少年の背後関係に加えてこの苛立ちが足されたものだから、その不機嫌さは計り知れない。


「何事だぁっ!?」


「カチコミか!上等だゴラァっ!!!」


 背後から騒ぎを聞きつけた複数人の破落戸達。だが、エストレアの顔には依然として感情が表に出ることはない。


「また出てきたか。塵め」


 エストレアは抑揚のない声で背後に視線を向ける。そして何もない空間に手を伸ばすと言霊を紡ぎ出す。


「現出しろ、我が剣」


 次の瞬間、床に散らばる無数の骸、そしてエストレアの血液がその手に集まって光を吸い込む黒い刀身を持った漆黒の長剣が握られていた。


「女1人だと!?」


「ふざけやがって!」


「ウチを舐めた事、後悔させてやるよ!」


 怒り、欲望といった感情をむき出しにして、ファミリーの構成員が襲いかかってくる。


「……仁義外れは、死んでおけ」


 一歩。たった一歩。されど一歩。その一度の踏み込みから繰り出された斬撃が走る。


 誰一人として、その軌跡を視認できなかった。ただ次の瞬間には──宙に舞う鮮血と共に、数人分の首が空中を転がるのみ。


 それは一言で言うなら漆黒の断頭台。


「な、ぁ……!?げばあっ!?」


 運良く斬られなかった者も、瞬時に距離を詰められて鳩尾に高速の掌底が叩き込まれる。体内に走る発勁により、吹き飛んで壁に蜘蛛の巣上の亀裂を生じさせる。勿論、即死である。


「さぁ、掃除を続けようか」


 顔を返り血で真っ赤に染めながら、三日月のように薄く口元を釣り上げて笑う。そこから先は語るまでもなかった。









「お疲れ様ですわ、お姉様」


「あぁ、すまないなジェシカ」


 パチパチと火花を上げながら、炎に包まれるマフィアの拠点を後にするエストレア。


 外に出たエストレアを待っていたのは迎えにきたジェシカと、ダークエルフの双子のイルナとイザルナ。


 彼女達も情報工作を行いながら、外で暴れるファミリーの構成員を締め上げていた。


「それで?そっちは何か掴めたのか?」


 制圧をしていたエストレアは、別面から行動したジェシカ達から成果を聞き出す。


「それなのですが………どうも下部組織による独断のようですわ」


「元々、この組織は古くからこの地を根城にするファミリー。ですが、組織の肥大と共に起きた制御難が原因のようですわね」


「それに伴って、当主交代の抗争があったようですわ」


 それを聞いたエストレアの口から、特大のため息が漏れ出す。【透視】である程度見ていたとはいえど、改めて聞くと何と間抜けなことか。


「はぁ……。とりあえず今日はここまでだ。みんなが心配するだろうから、戻るぞ」


 気乗りしない言葉を発しながら、仲間の元へ戻ったエストレア。ただ────



「あーーーー!!!何処ほっつき歩いていたのよ!?急にいなくなるなんて、心配するじゃない!!!」



 アグニルの怒り半分、心配半分の説教が、エストレアを待っていたのだった。




 少しでも面白い、続きが気になると思った方は感想、評価、ブクマ、いいねをよろしくお願いします。

これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!


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