Chapter Fatal Battle 8
お待たせしました!(#^.^#)多分、駆け足なのは認めます。
───きっと、きっと誰もが最善を尽くした。
───個人にできることは限られているが故に、一人一人が尽くせるものを出した。
───それでも。
───運命は残酷なのです。
◆◇◆◇
その日、人々は。空と雲を穿つ赤黒く沸き立つ雲が天高く登るのを見た。
大地の隅々が赤熱し、まるでもうすぐこの国が火の炉へと変わり果てる、火蓋になりつつある瞬間だった。
「お、おい……!」
「ふ、噴火……し、た……?」
天高く立ち昇る黒煙は、瞬く間に空を暗黒の帷に閉ざしていく。
同時に、空間そのものを震撼させる、不可視の衝撃──空震があらゆるものを薙ぎ倒しながら円形に広がっていく。
◆《──地は揺れ出し、山の基が震えたならば山々は主の前でもまた揺れ動く》
「キャアアアァアアアァア!!!!」
「ちぃ、姫さん伏せてろ!破片を喰らうぞ!」
獅子の大理石像が絹を裂くように崩れていく。豪奢に衒った宮殿が、砂粒のように裂かれた大地に飲み込まれていく。
熊のように大柄な男が、共犯者と呼ぶ戦友を揺れと破片から身を挺して守る。
◆《──それは農夫が火をもって柴を燃やすように、水を沸騰させた》
「ベル・クラウディア帝国、皇都の反応途絶!!!地盤崩落を竜騎士が確認しました!………っ!竜騎士、反応途絶!火山弾による直撃……!!!」
「くそがっ!」
クローディンが苛立ちを隠さずに吠える。クローディン達がいるファンテリム帝国の砦もまた立て続けに起きる地震で倒壊する寸前である。
倒れた蝋燭の火が火種となって、崩れて倒れる品々に引火し、瞬く間に劫火に見舞われる。
それによって下敷きとなったものはどれほどなのか見当がつかないほどの惨事を齎した。
変革を望んだ皇子は瓦礫と化す中で駆け出した。何かに引っ張られるように。それは信じて送り出した星の娘への焦燥感だったのかもしれない。
◆《──山々は溶け、谷は裂けた。それは火の前の蝋のようである》
環境汚染の中、必死になって汗水を捧げた田畑が劫火に焼かれ、泥のようにぬかるんだ。
荷馬車に必要なものだけを積み込んで生き延びようとする人々を容赦なく地割れは飲み込んでいく。
「おとーさん、どうしてお家から出るの?」
「大丈夫だから、心配はいらないよ」
「あ、お空、真っ暗……」
逃げ惑う人々、家畜、野生動物に対して、火を纏った岩が容赦なく打ちのめす。悲鳴を上げる暇もなく、大地の染みとなった。
◆《主は雷火と共に焔に包まれた雹を下され、稲妻が大地に向かって走った》
そう。全ては。全ての事象は────偶然でなく、必然。
『地表到達までおよそ3800秒。到達後、最終プロトコルシーケンスを発動します』
瞬く星を退けて夢幻回廊を突破した、異形の怪物───地脈焼却式対界殲滅躯体イズバザデン・アポクリフォートがもたらした余波なのだから。
◆《主は罪禍の獣を地上へ遣わし、主のところから天の火と硫黄を降らせ、これらの町と、平原全体と、町に住むすべての者と、土地の草木をすべて滅ぼされた》
「間に合わなかったか。一縷の望みだったけど、やはり一筋縄ではいかないね」
怪物を異空間に閉じ込め、決戦の舞台を整えた大魔法使いは僅かな希望さえも届かなかったことを悔やんだ。
──もう少し時間があれば、と吐露するも時間がなかったが故に一桁に届くかどうかの確率に賭けたのだから。
だが魔法使いにとって、かの存在の覚醒は早急であったが為に、負けに近い賭けになってしまった。
◆《それらは、底知れぬ所の使を王命をもっていただきながら、冥府の門において神の前に裸であり、滅びの刻においては隠れる場所はない》
───誰一人として、この時において間違えた選択はなかった。
───もしあるとしたならば。
──間が悪かった、と言うしかない。
ただそれだけの話。残酷だが、抗うには一匹の蟻ように無力だから。
──《それでいいの?》──
◆《天主はそのひとり子を賜わったほどに、この世を愛していると告げられた》
◆◇◆◇
「いいわけが、ないだろうっ!!!」
傷ついたままのエストレアは、地上に向けて進行を再開したかの怪物を見上げて咆哮する。その雄叫びは何処からか問いかけるように、脳に直接響いたものに対する答えだ。
修復した巨神兵に相乗りする形で追いかけるエストレア達。だが、その速度差は一向に縮まらないどころか引き離されていることからも、かの敵の強大さを引き立てていた。
───いい理由がない。そんなことは認められない。認める理由がない。
◆《ならば求めよ。然らば与えられらんかし。如何なる力も、凡ゆる智慧も汝の足元に傅くようにして置かれる》
さぁ、今宵の幕はもうじき終い。世界の滅びを食い止める、星の代弁者よ。汝の願いを叶えよう。◆◇
それ故に、星の娘は願った。認められない。地上が火の海と化すことを。まだ、自分は何も見つけていないのだから。
何のために自分は生を受けたのか、何故転生したのか、その答えを識るために。その答えのために、理屈抜きで今の全力を乗せて大鎌を振るう。
───ヴゥン……───
──◾️◾️◼︎◾️◾️・システ◾️より、該◾️個体の◾️◾️の提示が確◾️されました。
──こ◾️より、No.12◾️◾️◾️0番外◾️の特別該当者の願◾️に則り、◾️◾️ッグ処理を開始します。
──フレー◾️処理中です………
──時間の◾️合性を再計算します……
──全項目オールグリーン。該当者に『概念透過』、『攻◾️発生時に全倍◾️300%上昇』、『該当個体に対して協◾️者に貸与』を執行します。
エストレアは創世器【破万切アロンダイト】を見事な太刀筋をもって振るう。虚空に勢いを失い消え去る向かっていくはずの斬撃が摩訶不思議な輝きを放ちながら、時間と空間を超えて摂理さえも凌駕する。
人はそれをご都合主義というだろう。だが、それはそう見せただけの───◾️◾️によるものだから。
───ザシュッッッ!!!!!
───ガシャアアアァアアアァアンンンッッッ!!!!
上昇中であったイズバザデン・アポクリフォートは背後から突如として発生した攻撃が見事直撃し、進行していた速度が目に見えて落ちる。
イズバザデン・アポクリフォートの上昇に伴い、地上に向けてマグマがどんどん迫り上がる中、激しい追跡劇が始まった。
『背部より攻撃を認識。概念防御システムに異常発生。異常発生。空間跳躍バーニア出力低下、プラズマ核融合炉に干渉されています』
(足りない……!これでも、堕とすにはあまりにも足りなさすぎる……!)
「お姉様、無茶をなさらないでくださいまし……!」
「心配いらねえよ。どうせここで堕とすんだからな!」
傷つきながらも力を振るうエストレアを妹分であるジェシカがコクピットから心配そうに声をかけた。
だが、それでも心配はいらないと声をあげたのは人から竜魔人として変生したネロだ。
最古の厄災にして、最悪最強の古竜ズツァニッグの化身とも言える姿から空間そのものをひしゃげさせる程のプラズマが迸る身の丈以上の大剣がネロの手に握られる。
「魔剣炉心臨界ッッッ!!!三界よ、震え、畏れ、跪け!!!天と地を分けたる竜の一撃、大帝が残した残影よ、我が雷光を仰ぎ見よッッッ!!!」
──我が身は雷、我が意は天。
──三界に満ちる悉くを、天壌劫火の如く裁きの光にて焼き払う。
──世界よ、我を畏れよ。声あらば叫べ、目あれば閉じよ、耳あらば傅くがよい。
──これは神の怒りに非ず。最古の竜の咆哮なり
空気が震える。担い手たるネロの両手が炭化する程の熱を帯びたプラズマが、空気を震撼させ、その余波は巨神兵のフレームを軋み上げる。
「ちょっとっ!ネロ様!?巨神兵の出力落とす気ですの!?抑えてくださいませ!!!」
「そいつぁ、できねえ相談だ!喰らえ!!!【電光雷轟・天象奔烈】!!!!」
───ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!
直後、耳をつんざくような轟音と共に一筋の光の柱が、イズバザデン・アポクリフォートの機体を抉るように貫いた。
『緊急事態を認識。概念防御システム、機能完全停止。繰り返します機能完全停止。主任務達成のため、再度迎撃のための殲滅戦に移行を提案』
『システムより通達。迎撃による殲滅戦は認可されません。主任務達成を全うしてください』
『受託。引き続き、地上に向けて進行します』
「これでも、だめかよ!?」
相変わらず、機械的な音声が聞こえてくる。だが、それも関係ない。今は、すぐにでも地上への進行を止めねばならない。
「おい、もっと速度出せって!!!」
「無理ですわよ!?これでもギリギリですの!戦闘に耐えられる上で最大速度を出せるフレームにするにはこれ以上できませんわ!」
そうしてイタチごっこのような追跡劇を繰り返し─────
「ッッッ!光が………」
距離はまだあるのだろうが、ほぼ目の鼻の先に。
地上の入り口、火口。破られた無限回廊の出口がすぐそばに迫っていた。
「っ不味い…!」
「うん、ヤバい」
ダークエルフのイルナとイザルナが顔を顰める。同然だ。地上に到達されるということは、世界の終わりそのものを意味するからだ。
『地表到達まで残り2967秒。最終シーケンス発動』
『プラズマ核融合炉よりカウントダウン開始。最終兵装【地脈焼却式連鎖爆縮弾】起動準備』
(不味い、このままだと……何もできずに終わってしまう)
嫌だ、このまま終わりたくないとエストレアは心の底から希う。そんな結末を迎えるために臨んだわけじゃない。
(養父上、養母上……陛下、ジェラルド……どうか私に力を……!)
エストレアはこれまで出会った者たちと見た景色を思い浮かべながら、奮い立たせるために大鎌を握る手に力が籠る。星の娘、魔王の娘と呼ばれても、それでも今を生き、何のために在るのかを世界に示すために、個として負けるわけにはいかなかった。
『地表まで2014秒。余分なフレームパージ。プラズマ核融合炉出力最大』
「っ!!!【破万切アロンダイト】よ、我が想いに応え、さらなる力を示せ!!!」
積み重ねてきたもの。
見てきたもの。
まだ全てではないが、出会った縁すべて。
それが、今ここにある。
「告げる」
「万物万象を永久に凍結せしめ、動の愚を殺し、静の沈黙を湖底にて汝を讃えよう」
希う。
「狂気を孕む静謐、沈静の力そのものとして、月光は両者を等しく拒絶する無慙の執行なり」
願う。
「其は万象一才を狂愛の理の下に統べる夜刀神、湖面の光を持って鍛えられし刃にして、冷たくも優しい月詠よ」
望う。
「───凍れ、刻の太極。汝ら、この刹那を冷たき刃に焼き付けよ」
大鎌の形をした創世器【破万切アロンダイト】は詠唱に応えるようにその姿を変えていく。柄は短く、鎌はより大きく、所謂斬馬刀いや、剣槍というべきフォルムへと。
青白く、儚くたなびく光のオーロラが【破万切アロンダイト】を包み込み、神威として震わせる。冷たいはずなのに、何処か抱きしめられているような優しさを持っているようだった。
そして。エストレアが形状変化した【破万切アロンダイト】がイズバザデン・アポクリフォートに向けて切先を向けるとかの敵は見えざる壁に触れたかのように停止する。
噴き上がっていたマグマが、空中で凍りついたように動きを止める。
崩れかけていた巨体もまた、まるで時そのものが止まったかのように。
全体的にその動きが鈍くなったような気がした。
だが、それも一瞬。だが、それでも一瞬で起きた奇跡。
「ジェシカ!ネロ!イルナ、イザルナ!!!合わせろ!!!」
「お任せくださいな!」
「任せな!」
「「姫の望むままにッッッ!」」
ネロが手に持った魔剣に稲妻を発生させる。ジェシカは巨神兵の握る巨剣ラハールに乗せられる限りの魔力を纏わせ、ダークエルフの双子は再度、黒の鎧を装着する。
「いくぞ───────【封月超照、智慧禊ぐ月下の凍界剣】!!!」
エストレアが月光の如き一閃が敵の機体を大きく削る。
「魔剣炉心、燃焼!黎明回帰開始。天地は反転し、我が一撃は大地を穿つ竜巻の爪!!【震えよ神代、咆哮する竜鳴】!!!!」
ネロが、限界を超えた雷撃を持って、傷ついたフレームの上から最強と呼ばれた竜の一撃が叩き込まれる。
「第一階梯錬金武装、展開!大巨剣ラハール・メビウス!!!!」
巨神兵の身の丈もある翡翠色をした弩級の剣が、質量という形で押し潰す。
「姉さん!」
「イルナ!
「「大気功転輪衝!!!」」
ダークエルフの双子は生命そのものを凝縮した光を解き放つ。
脈動するそれは、命の奔流──大地の鼓動をそのまま叩きつけるかの如き一撃。
それら全てが、同時に、同一点へと収束する。
雷が穿ち、
月が断ち、
巨剣が圧し潰し、
生命が奔り抜ける。
──瞬間。
世界が、遅れた。
遅れて、壊れた。
イズバザデン・アポクリフォートという存在を中心に、
空間が砕け、時間が歪み、因果が軋みを上げて崩落する。
音は、ない。
否──
音という概念そのものが、跡形もなく破壊されていた。
そして次の瞬間。
遅れて訪れた“結果”が、世界を喰い尽くす。
『フレーム貫通……。プラズマ核融合、炉、に損傷……損傷率、算出不能』
『因果演算、破綻、主任務、達成ふか、の、………シ、ステムによう、せい。本機は活動ふか、の……』
途切れ途切れの機械音声の後に───
ボン!!!!ドォン!!!!
敵のあちこちから爆発が起きる。見れば傷ついた核を起点にして制御できないエネルギーが暴発していた。
──爆発は、一つではなかった。
胸部。続いて、右腕。遅れて背部の推進器が内側から弾け飛ぶ。
抑えきれなくなったエネルギーが、順番に逃げ場を求めて破裂していく。
そして。
『き、体、せい、制御ふ、不能……』
地表からわずか600mという地点で、地脈焼却式対界殲滅躯体 イズバザデン・アポクリフォートは、辺りに破片を撒き散らしながら大きな爆発を起こした。
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これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!




