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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
198/199

Chapter Fatal Battle 9

お待たせしましたヾ(๑╹◡╹)ノ"



 エストレア達と壮絶な戦いの末、地上を火の海にしようとした怪物イズバザデン・アポクリフォートは、多大な誘爆を起こして大爆発を起こした。


「お、終わりましたの………?」



 白煙で視界が覆われる中で、ジェシカはポツリと言葉を漏らす。その言葉には安堵を求めているようにも思えて仕方がなかった。


 実際、そうであって欲しかった。あんな化け物と延々と戦い続けられるということだけはしたくない。ただでさえ、僅か5名で戦ったのだから。これで終わりであってほしい、と願うのは当然であった。



───しかし、そういうときほど。



『エストレア、聞こえるかい!?』


「っ!!!」


「お姉様?」


「マリウスっ!?」


『エストレア、いいかい、落ち着いて聞くんだ。『回廊による封じ込めは失敗しても、敵を撃破すれば回廊自体は魔力となって拡散される』!けど、まだ僕の魔法は続いているから、つまり───」



───ドゥンッッッ!!!!!!



「!?」



───水を差されるようなことが起きる。



 白煙が晴れると同時にイズバザデン・アポクリフォートがコアと一部の装甲とだけを残した状態で、最後の悪あがきというかのように地上に向かって進行を開始していた。


 それだけではない。もはや原形がほとんど残っていないのにも関わらず、時速100km近くは出ている。地表まで残り600m弱しかないため、到達には残り数秒足らず。


「嘘だろっ!?」


「まだ動けるんですの!?」


「「しぶとい……」」


 誘爆によるダメージが大きすぎたのか、蛇行にも似てフラフラと飛翔しているが確実に前へ動いている。


 空気が震え、熱風が顔を撫でる。エストレアの脳裏を一瞬にして恐怖が駆け抜ける。


 間に合うのか、間に合わないのか。身体は動きこそすれ、心拍は異常に早い。


 考える余裕はない。残り数秒、打てる手は───


「エレンっ!!!跳べっっっ!!!!」


「っ!任せろ!」


 意図を瞬時に察したエストレアはネロの魔剣の刀身を踏み台にして、振りかぶる遠心力を使って一気に跳ぶ。




 一拍――距離が半分に縮む。



『ジ、ジジ………、チ、チヒョ……ゥ。到達マデ、ノコ、残、り、リ、200メー、め、と、る、デス』

  


「終わらせる……!今度こそっ!!!」




 二拍――地表が近づき、空気の流れが、夢幻回廊の出口による空間の揺らぎが見え始める。


『さ、サ、さい、最、シュ、終、兵、そ、ウ……………き、起動完、了。て、てんか、いしま………』


 魔力を回し、練り上げ、手に持つ大鎌【破万切アロンダイト】に力が籠る。



 三拍ーーパリィンと軽快な音と共に、エストレアとイズバザデン・アポクリフォートは地表───つまりは現実世界であるラグナ山山頂上空に躍り出る。


 噴火による噴煙はかき消され、空には澄み渡る星空が広がっている。


『起、ど─────』



 間に合わなかった。しかし、ここで終わり。エストレアの世界が、ではなく、かの敵が、である。


「秋風にたなびく雲の絶え間より もれ出づる月の影のさやけさ。終わりだ、世界を焼こうとした者よ」


 ラグナ山山頂上空には、神性顕現による擬似的な月ではなく、正真正銘の天体たる月が顔を覗かせていた。


───その月光を逆光にして、天に佇むは星の娘。


 満天の星空の下、何一つ遮るものがないそらに静謐なる大鎌が妖しく輝く。


 月光がエストレアの後ろから差し込み、夜風が山頂を撫でる。火の熱は消え去り、静かな空気だけが残る。


 その光景は月光に包まれた過去の幻のようにも見える。


(ラーグ)(ラーグ)(ラーグ)(ラーグ)!!!即ちは(マーナズ)(アンスズ)(ナウディス)(イサ)!!!!月震にして霜の月マーニの慈悲を此処に!」


 エストレアは深く息を吸い、両手で大鎌【破万切アロンダイト】を掲げる。魔力が全体に迸り、天を裂く光が生まれていく。


 背負う三日月の光背がゆっくりと、確実に回転を始める。同時に大鎌を中心に展開されたルーンの光が月光を反射し、夜風がその波動に応えるかのように渦を巻く。


 渦巻く魔力はやがて【破万切アロンダイト】を包み込むと、その刀身は氷の結晶に包まれ、月を飲み込む獣の顎(ハティ)の如き氷の剣へと昇華した。


「散華せよ──────」


 切先を向ける。この一撃で終わる。一連の戦いはこれで仕舞。舞台はこれにて終幕。


「果て地の熱を鎮め奉りたまえ!!!【禊ぎ祓うは(オートクレール)いと()清き浄湖の震月(アロンダイト)】!!!!」


 一瞬にして加速。落ちながら加速して、【破万切アロンダイト】を迷うことなく振り切る。



 そして一瞬の静寂が過ぎた時。



───ピシッ…………



 イズバザデン・アポクリフォートの核であるコアに一つのヒビが入る。



───ビシッ、ビシッ……ビキビキビキビキ………!!!!



───パキィィィィン………


そのヒビは止まることなく、全体に波及し、やがて氷或いはガラスが割れるような音を立てて、完全に破壊された。


 そして、次の瞬間。十字架にも似た光の柱が轟音と共に立ち昇り、世界を包んでいくのだった。




◆◇◆◇





「っ!せ、先生!!!」


「どうした!?」


「山体の内部の圧力が急速に低下していきます!地熱の温度も急速に低下!」


「なんじゃと!?」


「各地方の地中圧力は?」


「低下しています!噴出した熱水も沈静化、毒ガスも霧散していきます」


 各地で光の柱が観測されたと同時に、二つの帝国の大地を取り巻いていた数々の厄災は、まるで存在していなかったかのように静かさを取り戻していた。


 災禍が齎した傷跡こそ消えはしなかったが、それでも最悪の事態だけは抑えられた。


「なにがあった!?」


 そこへ駆け込んできたのはクローディンだ。急いで駆けつけてきたのだろう。顔には玉のような汗が滲んでいる。


「で、殿下!朗報です!大噴火は────阻止されました!!!」


 その言葉を聞き、クローディンの脳裏には後を託した五人、その中でもエストレアの姿が浮かんだ。



「……ッ!!!そ、そうか!やったか!!!」





 彼の言いたいことは、その言葉全てに詰まっていた。同時にその知らせは役人に、貴族に、市民に、そして農民達へと伝播していく。




 安堵のあまり、腰を抜かす者。───立ち上がれぬ者を支える手が差し伸べられ、涙を流す者が空を見上げる。


 噴煙が消え去った夜空の下、街や村の人々はまだ信じられないという表情で顔を見合わせていた。死の恐怖が一瞬で消え去ったわけではない。しかし、これまで絶望に沈んでいた心に、久しぶりの光が差し込んだのだ。


「……やっと終わったか」


 クローディンは視線を空に向け、深く息をつく。その胸中には、エストレア達に対する感謝と、未来への責任が混じり合っていた。


 復興は長い年月を有するだろう。だが、それでも――ようやくその長い道のりを歩み出せるだけの余地が、世界に戻ってきたのである。


 世界を焼こうとした災厄は砕かれ、火山は牙を収め、空は澄み渡っている。ただ残されたのは厄災という爪痕だけ。


「……やったな、エストレア」


 その名を呟く声は、感謝と祈りの入り混じった、極めて小さなものだった。


 そして夜は、長かった災厄の記憶を抱えたまま、静かに明けていくのだった。











◆◇◆◇










「っ!……ここ、は……」


 エストレアが気がついた時、そこはあたり一面が真っ白な空間だった。


 天井も真っ白で、さっきまでいた現実の世界とはまるで異なる世界。


 足元には水が張ってあるのか、一歩踏み出すたびに波紋と水を蹴る音が響く。


 ただそれだけ。


 逆に言ってしまえば、それ以外何もない無の世界と言えた。


「精神世界、か」


 だがエストレアはこの世界に見覚えがあった。忘れもしない。王都アントンでの襲撃事件、自身の肉親の記憶の世界に酷似していたのだから。


 だが見渡せど、この世界の主たる存在が見当たらない。現実に戻るためには、この世界の主に接触しなくてはならないのだから。



【そのまま進みなさい】



「誰だっ!?」

 


 突如として脳裏に響く声に反応する。背後からにも、横からにも何処からでも違和感なく聞こえる声。



【誰でもいいわ。そのまま、真っ直ぐ進みなさい】



 促すような声に訝しむエストレアだったが、今のままでは何も進まないこともまた事実な為、言われるままに一歩を踏み出した。


 何もない空間をただひたすら歩き続ける。薄く張られた水の上を歩くたびに、軽い水音と共に波紋が広がる音が響く。


 だが本当に何もない。歩くたびに水音こそ聞こえど、それ以外は何もない。正真正銘真っ白な世界。


 進んでいるのか、いないのか。


 上がっているのか、下がっているのか、それさえも曖昧といっていい。


 そして、どれほど歩き続けたのかはわからない。だが──気づけば“それ”は、最初からそこにあったかのように視界に存在していた。


「これ、は…………」


 エストレアは息を呑む。


 そこには、真っ黒な人の形をしたナニカが跪いたまま、ピクリとも動かない姿を見たからだった。



「(十字を背負う救世主、みたいだな。それに………)剣……?」


 さらに異質なのは、そのヒトのようなナニカの胸元には半分ほどまで埋まった剣が突き刺さっていた事だった。


 エストレアはその剣に手を伸ばすが、触れる寸前で本能が告げていた。


 これは、“ただの剣ではない”と。


 それでも。 


「……知らなければ、進めないか」


 静かに、柄を握りしめる、その次の瞬間───



───キィィィィン…………


「っ!?」


 脳裏に膨大な情報が駆け巡る。それはエストレアにとって見覚えがないにも関わらず、他人事ではないと悟っていた。




──ザ、ザザ………ザーーーー




『私たち、どうなるんだろう……帰れるのかな?』


『暗いこと言ってもしょうがねえだろ!あの人たちの言うこと聞いていれば帰れるって!』




──ザ、ザーーーー……




『貴女も血を抜かれたの?』


『◾️◾️◾️人の血液型調べる為だって、さ。まるで、モルモットだよな』




──ザザ、ザーーーー




『嘘つきッッッ!!!!』


『帰してくれるって、言ってたじゃないッッッ!!!!』


『俺たちを騙したってのかよっ!!!??』


『きゃあっ!!?あ、や、やめ、やめて………』



──ザ、ザザ………



『私たち、どうなるんだろう……』


『帰れるの、かな……』


──ザァッ



『暗いこと言っ……ても、しょうがねえだろ!』


──ザザザ、ザ、ザーーーー



「っ……ぐ……!」


 頭が痛い。


──違う。


 気が狂いそうになる。


「……やめろ……」


 理解してしまう。再生された記憶の中の彼らの頭を。『何処かで見たことのある』、『けれど、もう会うことのない』誰か。


 怒涛のように溢れ出てくる情報の濁流に顔を顰める。


──ザザザ、ザ、ザーーーー



『帰れないのかな……』


『また血を抜かれたの?』


『嘘つきッ!!』


『番号、呼ばれた奴──』 


『やめて、やめてよ……』


『痛い、痛い、痛い!!!』


───ザ、ザ……ザーーーー



───白い空間。薄緑色の薬液に満たされたポッドの中に『何か』が揺蕩う。


──ゴポ………



無数の配線と機材に繋がれたポッドの周りには誰もいない。


 そのポッドの中にいるソレは、人のようだった。目は閉じられているが、だが胸部が上下していることからソレは生きていると理解できた。


「……っぐ、ぅうう……!?」


 エストレアの中の何かが、拒む。見てはいけない。理解してはいけない。考えてはいけない。


───ソレと目が合う。

 

 心臓が締め付けられる。ただ辿っているだけなのに、血液が沸騰しそうになる。


『――――』


 何かが、確かに“こちらを見ていた”。助けを求めるでもなく、怯えるでもなく。


 ただ、“理解している目”で。


 そして強烈に襲いくる未知の感覚に、エストレアは───



「ぷはっ!!!はぁーーーー、はぁーーーー、はぁーーー」


───強制的に自己意識を引き戻された。


(なんだ、これは……!)


 咳き込みながらも、エストレアは先ほどまで見ていたものがなんだったのかを考え始める。




【それが罰の記憶。私達の罪の燃料】




 再び背後から声が聞こえる。振り返ろうとするが、




【振り返ってはダメ。貴女は、ここで選ばないといけないのだから】




 次の声で遮られてしまう。だが、理解できたことは一つだけある。この目の前の人の形をしたナニカは、エストレア達が必死に戦った存在の核、その精神世界の主なのだろう。


「私に………何を選べ、と?」


 振り返ることなく、エストレアは背後に向かって問いを投げる。声の主は必ず答える。そう確信があった。



【簡単な話よ。赦すか、赦さないか、ただ2択なだけ】



「随分と大雑把で、抽象的だな」


 おそらくだが、どの選択を取っても現実の世界には何の変化もないのだろう。あるとしたら、それは『薄っぺらい救済でも構わない』、形だけの赦しを求める道化のような三流脚本。


 エストレアとその世界に生きる人たちを出汁にした気持ち悪い結末を、星の娘であるエストレアに委ねている。


 そうであるなら、やることは決まっている。

 


───ヒュンッッッ!!!!


───ザシュッ!!!!!


 エストレアは躊躇なく突き刺さっている剣を引き抜くと、容赦なくその首を刎ねる。


 跪くナニカは砂粒のように空気に溶けていき、首を刎ねた剣もまた粒子のように崩れ消えていく。



【それが貴女の選択なのね】


 今まで、この声が誰なのかと考えてはいた。だが、ここにきてようやく思い出す。いつだったかは忘れたが花畑で絵を描いていた魔女の顔を思い出す。


「これがお前のしたかったことか?エレインッッッ!!!!」


 エストレアは背後に向かって叫ぶ。だが、エストレアの怒号でさえ、声の主エレインには全く届いていなかった。


 それどころか、エストレアの身体がだんだんと半透明になっていく。主を切り捨てたことで、この世界が存在を保てなくなり、同時に異物であるエストレアが弾き出される現象でもあった。


 やがて数分と経たずにエストレアは完全にこの世界から退去した。残るものは何もない。もうじき、この世界もまた泡沫のように消え去る。








『………………メッセージを送信します』







 響いた言葉を最後に、その世界は今度こそ終わりを迎えたのだった。





 少しでも面白い、続きが気になると思った方は感想、評価、ブクマ、いいねをよろしくお願いします。

これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!


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