Chapter Fatal Battle 6
お待たせしましたε-(´∀`; )
──はじめに感じたのは熱さ。
喉が焼け、皮膚が裂け、骨が溶けていき、紡ぐ言葉が形を成さなかった。
───次に感じたのは違和感。
ただ、意識だけが、やけに澄んでいた。マグマの海の底に落ちた自分に、未だ意識という信号があることに、違和感を抱く。
───そして、最後に感じたのは。灼熱の海に沈んでも、手放さなかった魔剣から発せられる鼓動。
魔剣が、ネロの手の中で――震えた。そして、ネロの精神に問いかける声が一つ。
《力が欲しいか》
脳裏に直接書き込まれるような、なんとも言えない気持ち悪さを感じる声が聞こえる。
──誰だ。
《汝、我が選びし担い手に問う》
──だから、お前はなんなんだよ。
《このまま死を迎えるか、それとも“始まりの担い手”たるバモレッドと同じように、“人“であることを捨て、力を手にするか。それを汝に問おう》
それは魂に直接響く呪いに似たナニカ。このまま無様に死を迎えるのか、それとも人を辞めてでも力を手にして一矢報いるのか。
その答えはネロにとって考えるまでもなかった。
───………ッッッ!!決まってんだろ、あの鉄屑野郎に1発デカいのぶち込まなきゃ気が済まねえ……!
《ならば我を討ちし者の末裔にして契約者よ。汝は何を選びとるものとするや?》
──決まってる。
──この身が人でなくなるなら、それでいい。
──その代わり――
──あいつを、ぶっ飛ばす力を、自分に寄越せ。
《であれば……代償を理解しているか》
──んなもん、知らねえよ。だが、ここで何もしねえよりマシだ。
《承諾した。汝、我が選びし担い手。嵐の残滓たる我が汝に真なる契約を。光栄に思うがいい。この契約は、汝で2人目だ》
ネロの持つ魔剣が怪しげな光を放つ。それはネロの身体を繭のように包み、飲み込んでいく。
身体は書き換えられ、五臓六腑まで行き渡るほどに嵐の具現が染み渡る。
魔剣の放つ光は、繭のようにネロの身体を包み込み、溶岩の熱すら遮断する結界となった。
だが、その内側で起きていたのは、守護ではない。
―――破壊と再構築だった。
骨は砕かれ、血は蒸発し、肉は溶ける。そして次の瞬間、それらは“別の素材”として編み直されていく。
鉄のように溶けた骨は、竜の如き強靭な骨格へ。
沸騰し、蒸発しかけていた血は嵐を孕む魔力の奔流へ。
最後の最後まで血を届けようとした心臓は、雷鳴を刻む鼓動へ。
ネロの喉から、言葉にならない叫びが漏れた。痛みはある。だが、それ以上に――自分が自分でなくなっていく感覚が、恐ろしかった。
でも、それ以上に。
《世界よ、祝福せよ。大帝に次ぐ新たな産声を。第二の【竜魔人】の誕生を》
ぶっ飛ばしたい敵をぶん殴れる力を持てたことを、ネロは嬉しく思った。
「ありがとよ、魔剣。おかげでーーーー」
生まれ変わる感覚が、駆け巡る熱が引いていく。その身体は明らかに人の領分を超えた、人ならざるものそのものかもしれない。
滾る力を力任せに放出し、煮えたぎるマグマを一気に吹き飛ばす。
「よぉ」
母譲りの霞んだ金髪は、赤みを帯びたストロベリーブロンドに変じた。
元々キツめだった目も爬虫類を思わせる瞳孔に置き換わり、その瞳はまるで満天の夜空を思わせる神秘の眼。
耳の側には大きく発達した竜角、八重歯は牙として伸びた。
血管のような脈動を続ける赤い魔力が、鱗が変質した鎧全体を巡っており、その背には身の丈を超える翼を讃えている。
「待たせたな」
───おかげで、1発ぶん殴れる。
心臓の鼓動が、天を焦がす雷霆のように轟く。
次の瞬間─── 一条の光が黒く巨大な怪物、イズバザデン・アポクリフォートの身体を貫いた。
◆◇◆◇
「ね、ネロ………!?」
エストレア達は信じられぬものを見た。煮えたぎるマグマの海に沈んだネロが、人とはかけ離れた姿で蘇ったことに。
「ゆ、夢でも見てるんですの……?ど、どう考えても生存できる訳が……!」
自分達は確かにネロが敵の攻撃によって撃ち落とされ、赤く熱せられ煮え滾るマグマの海へ沈んだのを見た。
いかなる加護があったとしても、致命傷だった上に落ちた場所が場所である。助かる見込みはゼロだ、と誰もが確信してしまう状況だった。
『新たな敵性存在を感知。エラーを検出、先刻撃破した個体と生体パターンが一致。あの状況下で生存できる可能性は、0%です。理解不能、よって最優先項目と並行して、警戒レベルを上昇しま──』
バキィィィィンンンンンン!!!!───ピシャァアアァアンンンンンン!!!!
「ゴチャゴチャうるせぇ……!」
機械音声を紡ぎ終える前に、ネロはそのゴツゴツとした竜鱗に覆われた拳をその巨大なボディに叩き込んでいた。
凄まじい打撃音と、遅れて発生した雷撃がイズバザデン・アポクリフォートの強固な守りごと抉るように削り取っていく。
『概念防御システムに異常が発生。敵個体による攻撃により、透過しています。システムの再構築を行なってください』
「うるせえんだよ、デカブツがぁっ!!!」
ネロが叫ぶ。
それは咆哮であり、およそ人が発するには桁が違いすぎる竜の咆哮。そう呼ぶに相応しい空間を揺るがす振動波。
続けてネロの拳がイズバザデン・アポクリフォートの装甲を抉るたび、雷光が迸り、空間そのものが悲鳴を上げる。
『概念防御システム、限界値超過。緊急につき、再構築を――』
「黙れって言ってんだろが!!」
ネロの翼が大きく広がり、大きく広げられた翼から赤い魔力が迸って嵐のような魔力の奔流を呼び起こす。
灼熱の空間に黒雲が渦巻き、無数の雷霆がイズバザデン・アポクリフォートの砲塔を次々と貫いていく。
これには堪らず、軋むような音を立てる。復活したネロの攻撃の前に、その巨躯は進撃を止めざるを得ない。
(まるで………神話のズツァニッグを見ているみたいだ………)
「ハッ!お姉様、チャンスですわ!」
エストレアが心中でそんなことを思っていた状況で真っ先に我に帰ったのはジェシカだった。
ネロの雷嵐によって敵の砲塔群は次々と沈黙している。あれほど苛烈だった弾幕も、今は途切れがちだ。
つまり――対空防御が崩れてきている証拠でもある。
「今なら畳み掛けるチャンスですわ!」
「……ああ、わかってる!」
短く応じたのはエストレア。彼女は既に大鎌を構えていた。視線の先では、イズバザデン・アポクリフォートの巨躯がネロの猛攻によって大きく揺らいでいる。
あの化け物の注意は、完全に――ネロへ向いている。
同じようにイルナとイザルナの2人も駆け出しており、その黒い装甲を縦横無尽に暴れている。
──バキィィィィンンンンンン!!!
「よし!」
エストレアの大鎌による剣戟が三つ目の大砲身を切り落とす。火花を散らし、ケーブル線が剥き出しになったところをネロが雷撃を放つ。
エネルギーが逆流し、装甲の隙間から眩い火花が噴き上がった。
『外部兵装ユニット、損壊。エネルギー経路に異常発生。損傷率、上昇』
無機質な音声が淡々と状況を告げる。だが、その巨体はなおも止まらない。
無数の砲塔が軋みながら旋回し、残存兵装がネロを捕捉しようとする。
『最優先脅威対象を再設定。対象――』
「遅ぇんだよ」
空中で翼をはためかせながら、ネロが吐き捨てた。
雷がその拳へと集まっていく。
赤黒い魔力と蒼白の雷光が混ざり合い、空気が焼ける匂いを放った。
「さっきから分析だの再構築だの……」
拳を握る。
───その次の瞬間、雷鳴が空間を裂いた。
「ゴチャゴチャうるせぇって言ってんだろうが!!!」
爆発的な推進力と共にネロの身体が一直線に落下した。それはまるで雷そのものが落ちるかのような速度。
彼女の狙いは――敵の中心部分。
「喰らえッ!!」
ズドォォォォォォォォンッ!!!!!!
雷を纏った拳が、亀裂の奥へ叩き込まれる。
──次の瞬間。
イズバザデンの巨体全体に稲妻が走る。エネルギーが逆流し、漏電し、内部構造にまでダメージが及んでいると分かる。
『内部構造体に重大損傷。コア防護層――』
言い終わる前に、内部で爆発が起きる。
ゴガァァァァァァン!!!
巨体の装甲の継ぎ目から炎と電光が吹き出した。それは、明らかに目の前の強大な敵に明確なダメージが入っていることの証明に他ならない。
「効いてますわ!お姉様、もう一撃!」
「任せろ!」
「「僕達も」」
エストレアが魔力を推進力に変えて突撃する。
更にイルナとイザルナの2人がイズバザデン・アポクリフォートの装甲を滑るように駆け上がり、その巨体の装甲を足場にして一気に跳躍した。
黒い鎧に覆われた2人による攻撃。『フィンブルの冬』による加護と帯電した鎧を合わせて繰り出された一撃はその装甲を紙を引きちぎるように貫通する。
2人はさらなる追撃を仕掛けず、離脱。2人の背後から、エストレアがその手に握られた大鎌が、静謐な湖光を讃えた軌跡を描く。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!──奥義!羅閃・魄螺滅生!!!」
紅流の閃の字を抱く奥義を放つ。目で追えないほどの剣速で触れるものを無慈悲に引き裂いていく。
「シャァッッッ!!!」
そして最後の大砲身を切り落とす。これで、イズバザデン・アポクリフォートは『対地殻破砕徹甲弾』を発射するための機関をすべて叩き切られることになった。
攻めに攻める。手を休ませている余裕はない。あれほどの巨体が、ネロの復活を皮切りにこちら側が優勢になりつつある。
───そう思っていた。
◆◇◆◇
『警告。警告。システムへ要請。対地殻破砕徹甲弾発射ならず。発射用大口径荷電砲身すべて破損。各機関砲大破。耐熱性魔導フレーム、45%損傷。本機体に課せられた主任務を万全の状態で遂行は困難と認めます。自機自爆による仕切り直しを提案します』
『システムより応答。
現状敵性勢力の評価を再評価します。
………。
…………。
………………。
主任務遂行の解任は履行できません。よって、全ての攻撃機構を解禁します。全ての機能を限定解除します。手段を問わず、あらゆる演算を持って確実に排除してください』
『受諾。敵性勢力に合わせ、本機体をパージ及び機体の再構築を行います。『魔導核融合炉』を軸にこれまでの戦闘データを参照し、機体デザインを提案、構築します』
「させるかよっ!」
ネロが叫びながら、突っ込む。嵐の具現たる古の古竜ズツァニッグの雷霆は、かの怪物の守りは意味を成さない。
力任せに腕を一閃。放たれた雷撃は確かにイズバザデン・アポクリフォートの機体を撃ち抜いていく。
『再構築、開始。主要機関に概念防御システムを多層展開。主任務《世界の破壊。地上の生態系と文明を閉ざす》為、今回の戦闘データより、最適化されたボディを構築』
そう、雷撃が機体を貫く――……はずだった。
「なにっ!?」
次の瞬間、ネロの雷霆は爆発したように弾け散った。
それは直撃する寸前で、イズバザデン・アポクリフォートは自らのフレームや装甲を爆発させるように切り離した。
ネロの雷撃はそのせいで威力を分散され、何層にも渡って構築された概念防御の多層展開装甲によって無効化された。
不運にも、弾け飛んだ装甲の壁がイズバザデン・アポクリフォートの再構築するための目眩しになってしまう。
「てめっ…………、猪口才なーーーぐふっ!?」
「ネロっ!?な……!?」
キレ気味にネロが再度攻撃を仕掛けようとしたが………エストレアの眼前からネロが消える。
エストレアが行方を探そうと視線を動かした瞬間───!
エストレアの『念視』が直前の未来を映す。
『守らなかった為に、敵によって腹部を貫通される未来を見たが為に。
腹部を貫かれ、内臓が砕け、血が噴き出す光景を見てしまった』。
故に全力で、魔力の全てを一点に集中する形で守りの形に入る。
『再構築完了』
不気味な音声が聞こえたと同時だった。
次の瞬間には───
ズガンッッッ!!!
薄皮一枚、あと1ミリというところで敵の攻撃を防ぐことに成功したが、背後まで突き抜ける衝撃をモロに受けて。
「ゴフッ!?」
「お姉様っ!!?キャアアァアアァ!!!!?」
エストレアは激しく吐血する。それを見たジェシカが取り乱したと同時に、巨神兵のボディに強烈な圧力が襲う。
「「姫様っ!!??」」
「来るなっ!!!!」
エストレアの静止虚しく、駆けつけてきたイルナとイザルナにも不可視の衝撃が襲う。
「「───ッッッ!!??!」」
声にならず、ボロ雑巾のように吹き飛んでいく2人。エストレアの加護が直前に機能したおかげで、なんとかマグマの海に落ちることはなかったが、2人の漆黒の鎧は半分近くが砕けていた。
『全システムオールクリア。全機能最大出力で運用します。敵性勢力を再試算……、試算完了。当機による現出力であれば、3分内で制圧が可能です』
エストレアは霞む視界の中で、それを見た。
山のように巨大だった怪物は、自分達と同じ人型に近い基体になっていた。
まるで画面みたいな仮面を持った頭部も、見方を変えれば宇宙飛行士のヘルメットにも似ていて。
火器と一体となった両腕と、背後から無数に伸びる触手。そして、身体以上の長さを持った、太くしなやかな機関尾。
『敵勢力の戦闘力低下確認。このまま、最大出力での制圧に移行します』
ヴゥン……と不気味な駆動音を響かせ、胸部と頭部から怪しげな光を灯す。そして、空間を歪めながら現れたのは、空間全体を埋め尽くすほどの無数の光弾。
ギロチンのように待機したそれらはただ淡々と、刈り取るように、無慈悲に、冷たく見下ろすように、エストレア達に向けて─────発射された。
──もういちど、せかいはまっしろになったのです。
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これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!




