Chapter Fatal Battle 5
お待たせしました!ψ(`∇´)ψ
エストレアが大魔法使いマリウスが開いた門の向こうへ消えてから、地上は阿鼻叫喚の凄惨たるものであった。
───ドォオオオオオオオン!!!
「ぐおおおっ!!?」
クローディンは、立つことさえままならない程の揺れに翻弄されていた。揺れによって固定されていない机が動くがそれを支えにしなければ、こちらも全く身動きができない。
「南部の村落に大規模地震です!被害は……た、多数!確認しようにも余震の危険性から正確な数割り出せません!」
「て、帝都に再び大地震です!こ、コンスタンブールの連絡が途絶えました!」
「国境沿いのカピトリナで異常な隆起が出現!その後、爆発を伴う噴煙が確認されました!」
「べ、ベル・クラウディア帝国より緊急の魔電です!西方開拓村落、じ、地割れにより崩落!よ、40%が喪失したと!!!」
次々と飛び込んでくる耳を塞ぎたくなるような報告の数々。
「くそがっ!おい先生よ!これらもラグナ山の活動と繋がっているんだよな!?」
クローディンは苛立ちのままに、次々と報告が上がる地域と資料を比べながら統計を始めていた老学者に詰め寄る。
「うむ。間違いなく。わしの計算が間違っていなければ、今もし大きな衝撃が加わればーーー」
「加われば?」
「ベル・クラウディア帝国とファンテリム帝国を擁するカルデラ、すなわち、バモレッド帝が起こした国土そのものが灼熱の息吹を吐く火の炉と化すでしょうな」
淡々と告げるように紡がれた言葉は、この世に終わりを告げるものであった。
◆◇◆◇
「ネロオオオオオオオ!!!!」
エストレアの絶叫が木霊する。音もなく放たれた光は、抵抗を許さずネロの身体を貫いた。
エストレアが直後に見た事象。それは『あらゆる時間軸において、必ず発生する、またはした』確定事象。
故に彼女の──この結末は当然の帰結でもあった。
溶岩の海に落ちていくネロは、掠れゆく意識の中で遠くで自分の名前を呼ぶエストレアの絶叫がいつまでも聞こえ続けていた。
(あっけねえ………。兄貴になんも伝えられてないや……。ごめんな、兄貴)
ネロの脳裏にはこれまでの出来事が走馬灯のように記憶が再生される。
刹那でありながら、永遠にも感じられる膨大な記録。
魔剣に選ばれ、混乱から遠ざけるために祖国を妾の母共々出された自分。
母亡き後は御付きだったレンヤを自身の兄として、冒険者として食い繋いだ日々。
エストレアとの出会いと、王都アントンでの大立ち回り。
そのほかにもいろいろな経験が、脳裏に浮かんでは消えていく。背中にくる熱がより強くなったのを感じ、自分の命の灯火ももうすぐ尽きるのだと悟る。
(……ここまで、か)
肺に入る空気は、もはや焼けつくように熱い。息をすることすら億劫になる。
視界が、赤に染まる。より一層深く、熱く、赤い溶岩の海が、眼下に広がっていた。
その表面は波打ち、灼熱の飛沫を撒き散らしながら、まるで生き物のように蠢いている。
───ザパァアアアンン……!!!!
そうしてネローーー否、ネレウス・ガイエウス・ドェル・ヴァン・ロマルナはその手に魔剣を握りながら、常軌を逸した怪物の一撃によって溶岩の底へと消えた。
そしてエストレアは、この時初めて───全能とはまだ遠いものであったと思い知る。
◆◇
『敵勢力一名消失を確認。生存確率……0%。システムへ要請。脅威度レベルの引き下げの検討……最優先抹殺対象の健在により、同レベルの脅威度を保持』
敵、イズバザデン・アポクリフォートは淡々と機械的にネロの排除を告げる。
「ーーーーーーッッッッ!!!!」
言葉にはしなかったが、視界を真っ赤にしながらかの大敵から背を向けてでもネロを探そうと魔力を高ませていく。
「いけません!お姉様!ネロ様のことに心痛めていらしても!目の前の敵に目を逸らしてはなりませんわ!」
だが、そんな状態のエストレアに対して、巨神兵を駆るジェシカは血相を変えてネロを救い出そうと飛び出すのを言葉を持って静止する。
「お姉様……! まだ、戦いは終わっていません。どうか、本質を見誤らないでくださいませ」
「「姫様……」」
イルナとイザルナも不安そうに見つめてくる。そう、今はこの敵を倒さねばならないのだと。
エストレアの足元から、月光にも似た淡い光が噴き上がる。
怒号も、嗚咽もなかった。涙も、感情の揺らぎもない。
あるのは、極限まで圧縮された沈黙だけ。ゆっくりと、彼女は前を向いた。
視界の先には、灼熱の大地に屹立する巨躯――イズバザデン・アポクリフォート。
『目標再設定。最優先抹殺対象、戦闘継続』
無機質な声と同時に怪物の装甲がさらに展開され、蜘蛛の脚のような多関節砲塔がせり出し、赤熱した光が集束を始めた。
熱核熱線、地殻を吹き飛ばす砲身、弾幕を張り巡らす無数の機関砲、概念防御に加えて、不可視のメーザー。
ありとあらゆる殺意が、収束していく。
イズバザデン・アポクリフォートの全武装が展開されたその姿は、もはや兵器というより、世界を焼き尽くすための意志そのものだった。
ギュッと【破万切アロンダイト】を握りしめ、魔力を最大まで引き上げていく。
「すまないジェシカ。目が覚めた」
「お気持ちはお察ししますわ。ですが、悔やむのは全てが終わった後にいたしましょう」
「あぁ」とエストレアの頷きを合図に、ジェシカは巨神兵のバーニアを点火させ、イルナとイザルナは鏡面の足場を蹴って進み出す。
『火力集中開始、全武装一斉射』
イズバザデン・アポクリフォートの無数の武装が一斉に咆哮する。
赤熱プラズマの奔流が地平を焼き、熱核熱線が空気を引き裂き、無数の機関砲が弾幕を張り巡らす。
不可視のメーザー光線が、攻勢に出たエストレア達を狙って空間を歪め放たれる。
「いきますわよ!巨神兵、全出力解放——巨剣ラハール展開!!」
《了解》
熱を帯びた巨大な剣が、光の粒子を纏って振り上げられる。
エストレアから『フィンブルの冬』による強化が加わり、刃がイズバザデンの弾幕を切り裂く軌道を描く。
「はあぁぁっ!!」
ジェシカの一閃が、熱核熱線を放つ機関を直撃。衝撃によってプラズマの奔流が一瞬曲がり、弾幕に隙が生まれる。
その隙を、イルナとイザルナが鏡面の足場で跳躍。双子の姉弟が、左右からイズバザデンの側面に迫る。
「「たあああぁあっっっ!!!!」」
──ズガァアアァァン!!!
生命力そのものを鎧として纏うダークエルフの力を最大まで引き出した2人による一撃。
霜纏う漆黒の拳はダークエルフの膂力も相まって、ミシッ、ミシッと鈍い音を立てながら分厚い漆黒の装甲が軋み、圧力に負けた部分が凹んでいく。
『排除します。機関砲、一斉射撃』
「「ふっ!」」
一息で跳躍して、雨霰と降り注ぐ弾幕から2人は離脱する。入れ替わるように、ジェシカが巨神兵のバーニアを点火し、スラスターを噴射して突撃する。
「てぇえええいぃっっっ!!!!」
巨剣ラハールに付与された『フィンブルの冬』により、その太刀筋は概念防御の守りを貫通し、所狭しと並ぶ砲門の数々をバターのように切り裂いていく。
『武装損壊30%を超過。敵勢力の評価を再調整……概念防御を重要部のみ限定的に展開。残りのリソースを全武装の火力リソースに変換、解放』
イズバザデン・アポクリフォートの表面が、紫電を纏って震える。
損傷した砲塔が次々と自己修復を始め、新たな砲門が展開。
砲門の数が増したことで熱核熱線の出力が更に倍増し、不可視メーザーが空間を無数に切り裂く。
弾幕がさらに密度を増し、まるで【夢幻回廊】そのものが敵に変わったかのよう。
さっきよりも密度を増して放たれた、破壊の雨。隙間を探す方が手間取る程の高密度の砲弾の雨霰。
イズバザデン・アポクリフォートの火力が一段階上がった瞬間、戦場全体が破壊の雨に飲み込まれようとしていた。
密度の増した弾幕は、もはや視界を埋め尽くすほどだ。一つ一つの砲弾が空気を焼き、空間を歪め、ただ触れるだけで肉体を蒸発させるほどの熱量を帯びている。
それでも耐えているのは、ひとえにエストレアという存在がいるから。世界に始まりを与えた神々の寵愛をその身に宿し、世界を塗り潰さんとする“機構”に対するカウンターであったためだ。
「舐めるじゃねえですわよ!第三階梯錬金武装【不毀の光盾Ⅱ】展開!!!」
《了解》
ジェシカが吠えるように、巨神兵に命令を出す。巨神兵の左手装甲に光が灯ったかと思えば、幾何学的な魔法文字で出来た光の盾が姿を表す。
「くぅううう!!!!??」
《エネルギー率100%から70%ダウン。このまま受け続けることは推奨できません》
咄嗟に展開した光の盾。それを受け止めたジェシカはフィードバックされたかなりのダメージに驚愕する。
巨神兵の警告音が、ジェシカの耳に冷たく響く。
【不毀の光盾Ⅱ】は破壊の雨を弾き続けているが、毀れずの盾表面に無数の亀裂が入り始め、光の幾何学模様がちらつきだしていた。
弾幕の一撃一撃が、盾を通じて巨神兵のフレームに直撃し、金属の悲鳴のような軋みを上げている。
「ぐぐっ、表面角度調整!跳ね返しなさい!」
《防御姿勢制御、再計算します。防御形態を反射型に変更。仰角調整、フルカウンター》
幾何学模様が激しく回転し、受けた弾丸の軌道を逆算・再計算。仰角が微調整され、弾幕の一部がイズバザデン自身へ跳ね返される。
ズガガガガガガァァァン!!!
跳ね返された熱核弾がイズバザデンの自らの装甲を抉り、紫電の奔流が自らの砲塔を焼き払う。
そこへ追い打ちをかけるように飛び出したエストレアの【破万切アロンダイト】の刃が閃いていく。
バキィィィィィンと甲高い音を立てて、大きな砲身を更に一つへし折っていく。
(エネルギー残量60%を下回りましたわ……!なのに、なのに!何故、倒れないんですの!?)
これ以上は危険である。とジェシカの視界が、警告灯の赤で染まる。巨神兵のフレームが熱を持ち、関節から火花が散る。
「タフ……」
「うん……」
これだけ攻撃を加えても加えても、何事もなかったかのように対策を講じて、こちら側の手段を一つずつ確実に潰してくる。
正直いって、このままではジリ貧どころか確実に何処かで詰んでしまう。まるでイタチごっこだ。
跳ね返されたダメージすら、火力リソースに変換して新たな砲門を展開。弾幕の密度がさらに増し、空間そのものが敵意に満ちる。
『敵勢力評価……上昇。最終プロトコル……起動』
機械音が低く響き、イズバザデンのコアが赤黒く脈打つ。概念防御が重要部に集中し、残りの装甲が剥がれ落ちるように変化——より攻撃特化の形態へ移行。
きっと誰もが胸中に抱いたことだろう。
───これこそが絶望だと。
そんな時だった。
灼熱が渦巻くマグマの海から、突然、巨大な火柱が天を突き刺すように立ち昇った。
ゴオオオオオオオオオン……!!
マグマが爆ぜ、赤黒い飛沫が四散する。大地が震え、空気が焼けつくような熱波が戦場を一瞬で飲み込んだ。
そして――
その火柱の中心に、黒い影が浮かび上がる。
ゆっくりと、しかし確実に。鉄さえ溶かすような熱をもった鱗鎧を纏い、全身から立ち上る蒸気と炎に包まれながら、一人の少女が身の丈以上の翼をはためかせて姿を現した。
右手に握られた魔剣は、もはやただの刃ではなく、
赤く脈打つ禍々しい光を放ち、まるで生き物の如く蠢いている。
──そこにいたのは。
「よぉ」
それは、今この場において聞くことない声。有り得ざるもの。
「待たせたな!!!」
その言葉と共に、空間を激震するほどの雷鳴が轟き、その稲妻は太古に世界を震撼せしめた嵐の竜の影が映っていた。
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