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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第11章 星の橋
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閑話:人龍戦役Ⅵ

 光が駆け抜けた。


 遅れてやって来た轟音と熱波に休んでいたオルタナとフィーニスは吹き飛ばされそうになる。フィーニスが展開した影に二人は隠れた。帯状に広がる光はフィーニスの影を削る。フィーニスは影を重ねて、やっと攻撃を防げる。


「なんて威力だ! ぼくらを狙った訳じゃ無い。余波だけでこれだけの威力なんて。誰の仕業なんだ! この光は君の仕業か!?」


「いいや、違う。こいつは……この世界の力じゃないな」


「それは……どういう意味だ!?」


 重ねて問いかけるもオルタナは答えない。


 代わりに魔法を展開して光を歪ませようとするも、光に弾かれてしまった


「やはりな。……俺の魔法は、厳密に言えば魔法じゃねえ。この世界を構成する極小の粒に直接働きかけ、魔法のように現象を操ってるだけだ。だから、この世界に起因する力なら、ある程度まで操作できる」


「随分と便利な能力だな。それってもしかして、ぼくの影もか?」


「そうなるな。だが、この光は俺に操作できない。介入できない。エルドラドとは違う世界から持ち込まれた力になる。……ここが帝国で、外から持ち込まれた力となれば思い当たるのは一つしかねえな」


 オルタナの言葉に、フィーニスも自然と思いつく存在が居た。


 かつて、止む事の無い戦乱を鎮めるためにこの大陸に現れた存在。生ある時から正義の為に剣を振るい、人々に光と安寧をもたらす為に戦い抜いた救世主。本来なら安らかな眠りにつくはずだった死後すら、人々を守る為にと体を弄りまわされた男を。


 光が力を失っていくのを感じてフィーニスは影を解いた。光が通った場所は大きく抉れており、高温で熱せられた為か湯気のような物が上がっている。光が進んだ先に居た黒龍は翼で自らを守ったが、代償に翼を広範囲に渡って焼かれていた。


「あれ? 光が当たった辺りって、さっきまでサファが戦っていた場所じゃないか」


「確かにそうだな。……居ないな、アイツ」


「死んだか。あれだけの熱量を浴びたんだ。肉体は形も残らず、あっという間に蒸発したんだろうな」


「そうか、死んだか。残念だ」


 あっさりとした発言だが、些事に囚われている暇は無い。何しろ、今の光によって、大地の限界が更に迫ったのだ。触れずともひび割れは広がり、海面に接した崖は剥離が止まらない。フィーニスたちが立っている場所とて、無事とは保証できない。


 金属音が崩壊していく大地に鳴った。


 光が来た方角。帝国の中枢たる帝都を背に歩いてくるのは全身鎧に身を包んだ人物だった。遠目には騎士のようにも見えるが、少なくともきらびやかな装いだとは言えない。鎧の表面は幾つもの傷が残り、白錆が浮き出て見ようによっては銀色と呼べなくも無い。擦り切れていたんだマントが風に揺れる。


 異様な風体の騎士だったが、その中で目を引くのは手にした剣だろう。両手で握りしめるロングソードほどの刀身には複雑な文様が刻まれており、星々の放つ輝きよりも美しく際立っている。騎士の甲冑姿がみすぼらしい分、剣に視線が集まるのは当然でもあった。


 その剣が呼吸するように輝きを強めた瞬間―――神速の居合いが騎士を襲った。


 全てを見ていたはずのフィーニスとオルタナでさえ気づかない速度で迫ったサファが、騎士に向けて居合いを放った。剣を斜めに構えて受け止めた騎士は、衝撃から大きく後ろに下がった。


「貴様がどこのどいつなのか知らないが、人が戦っている所を邪魔しやがるとは良い度胸をしてるじゃねえか」


 サファは藍色の刀を鞘に納め、居合いの構えを取る。よくよく見れば、サファの体は所々が焼けていた。布きれのような衣服の裾や、サンダルのような履物、長く伸びた頭髪も一部が焦げていた。どうやら大地を抉った光を浴びたようだが、凄まじい一撃を浴びてこの程度のダメージしか負っていないという事実に呆れてしまう。


 とはいえ、サファは本気なのだろう。濃厚な殺意が辺りを包み込む。吹き飛ばした騎士は、まだサファの間合いに居る。


「叩き切られても文句は言えねえよな。俺はサファだ。名乗れよ、ボロ野郎」


 名乗りに対して騎士は無反応だ。だが、手にした剣の切っ先がサファを向いている。


「そうか。名乗るつもりは無いと。なに、それでも構わない。貴様の墓に名前を刻む手間が省けるだけだ」


 一閃。


 神速の抜刀から放たれた居合いは山すら切り裂く一刀。異常としか呼べない斬撃を騎士は手にした剣で受け止めた。今度は弾き飛ばされず、完全に受け止めていた。


 エルフ特有の萌黄色の瞳に警戒が宿った。


 続けて三連撃。喉、鳩尾、股間を狙った突きをやるも、剣の切っ先で逸らされる。逆に反撃が返ってくるも、サファは体を僅かに傾ける事で避けた。


 騎士の斬撃で雲が吹き飛ぶ。直撃すれば、何の加護を持たないサファなら即死級の一撃だ。常人なら怯むか、あるいは撤退するべき場面で彼は前進をした。


 更に間合いを詰める。


 互いの命が刃の届く範囲にある至近距離で、二人は己の武器を振るい合った。


 藍色の刀と黄金の剣が触れる度に火花が散る。その数は瞬きの間に十個。斬撃の余波が風となり、二人を中心に竜巻のような暴風が吹き荒れた。


 互いに近接武器を得意とするが、技の性質は大きく違っていた。


 サファの技は斬る事に特化している。一撃の鋭さは騎士を大きく上回り、どんな態勢からでも最速の一撃が放たれる。


 一方で騎士の技は剣術として異常なまでに完成されていた。斬る、突く、薙ぐ、払う。全ての動作が澱みなく繋がっていく。剣術以外にも、足払いや組技などを駆使してサファを捉えようとしていた。


 剣士としての技量はサファの方が上で、能力値(アビリティ)は騎士が上。そして、戦士としての力量は互角だ。


 激しさを増していく剣戟の応酬は、どちらかが倒れるまでは止まらないのだと容易に想像できた。


「あの脳筋エルフ。相手が敵なのかどうかも分からんうちから攻撃しやがって。フィーニス、てめぇの影であいつをこっちに連れてこれないか」


「放っておいてもいいんじゃないかな? それに、下手に行動したら、あの剣がこっちを向くかもしれないよ」


「バカ野郎。あれの正体にてめぇも気づいてんだろ。だったら、分かるはずだ。あれが敵だと認識しているのはサファじゃねぇし、ましてや俺達でも無い」


「なるほど。敵の敵になってくれるなら、わざわざ戦う必要もなし。やってみよう」


 引き受けると、フィーニスはサファの足元に影を展開した。意識を騎士に向けていたサファは、足元で口を開いた影に気づかず、為す術なく飲み込まれた。


「―――ッ! なんだ、貴様等か。驚かすな」


「何が驚かすな、だ! 刀を振り切る前に気づけ!」


 影から吐き出されると同時に刀が横に薙ぐ。危うく、フィーニスとオルタナの首が分かれる所であった。影によって転移したサファは油断なく周囲を見渡し、黄金の剣を構えたまま動かない騎士を見つけた。


「よし、そこで待っていたか。いま、決着を付けてやるから、動くなよ」


「待て待て、待て! どうして、てめぇはそうやってすぐに喧嘩を吹っ掛けやがる。ちょっとは、物を考えてから行動しろ!」


「離せ、オルタナ。今回はあれが先に仕掛けてきたんだ。こっちは喧嘩を売られたに過ぎない」


「それが勘違いかもしれんだろ。見ろ、アイツが本当に敵と見定めたのは、てめぇなんかじゃねえ」


 サファを羽交い締めにして止めようとするオルタナの言葉が正しかった。


 サファと互角に戦っていた騎士はサファを含めたフィーニス達に意識を向けようともせず、自分が放った光の先に居た黒龍の方に顔を向ける。


 もっとも、甲冑で隙間なく覆われているため、どんな表情をしているのかは理解できない。ただ、不気味なまでの圧が騎士から立ち上っていた。黒龍も騎士を敵と見做したのだろう。瞳に十分な殺気を宿していた。


 そして、騎士が動いた。


 黒龍までの距離を僅か数秒で零にすると、砲弾じみた速度のまま黒龍を殴りつけたのだ。驚く事に、黒龍の体が大きく傾いた。


 黒龍は倒れそうになる体を翼で支えると、現れた騎士に向けてブレスを放つ。しかし、黒龍の炎は黄金の剣から放たれた光の帯に飲み込まれる。そのまま、光は黒龍の頭を飲み込んだ。


 大地を蒸発させてしまう力を浴びながらも、黒龍は生き延びていた。光の帯から引き抜いた頭は焼けただれていたが、まだ瞳に戦う力は残っている。黒龍は首を伸ばすと騎士の体を牙で貫いた。摩耗して古びた鎧では牙を防げず、騎士は黒龍の口から脱出できない。


 まるで、犬が咥えた人形を振り回すように、騎士の体は上下左右に振り回される。最後には空高く放り投げられた。最高高度に達した騎士の体は、後は落ちていくだけだ。にもかかわらず、黒龍は天に向かって口を開く。


 背びれが青白く発光していき、黒龍の体から力が渦を巻く。その力が口元で集まると、熱線となって放たれた。トラゴエディアに築かれた砦を根元から崩した熱線が、騎士を葬る為に放たれる。


 黒龍の牙をもろに受けて、上下左右と区別なく振り回されれば常人ならとうの昔に死んでいる。だが、騎士は普通の人間では無い。


 穴の開いた体だというのに驚くほど素早い動きで体を捻ると、黄金の剣から光を放つ。それを推進力にして黒龍の熱線を回避したのだ。そして、落下する勢いそのままに剣を黒龍に突き刺した。


 深々と突き刺さった剣を引き抜くことなく、光が黒龍の内側から焼いた。


「うわぁ、内側から焼くなんて酷い発想。命令に従う人形だから思いつくやり方かもしれないな」


「……人形? おい、貴様等はあれが何者か知っているのか?」


「気づかないで戦っていたのか。だから、オルタナに脳筋エルフなんて呼ばれるんだ。少し考えれば、思いつかないかな。黄金の剣を携えたフルプレートの騎士。異常なまでの強さを持ちながら、意志らしい物を感じさせない振る舞い。加えてここは、帝国だ」


 フィーニスの出したヒントでサファも理解した。


 自分が戦った騎士の正体が何者なのか。


 彼は、黒龍と互角に戦う騎士の方を見つめて呟いた。


「そうか、あれが『勇者』ジグムントなのか」


『勇者』ジグムント。


 帝国が今の繁栄を得るずっと前、西方大陸は戦乱の時代に突入していた。日が変わる度に国境線が書き換わり、どこかで戦争が繰り広げられていた。そんな戦乱の時代を鎮めたのが、後に帝国と呼ばれる国と、その国に降り立った異世界からの『勇者』だった。


 自らの世界を救った経験を持つ『勇者』の強さは凄まじく、滅亡寸前だった小国は瞬く間に息を吹き返し、一年足らずで有力な国家へと成長した。国土を広げていく過程で『勇者』は死亡したが、彼らは『勇者』を死にながらも動く存在へと作り替えた。


 いま、黒龍と戦っている『勇者』は在りし日の『勇者』の残骸である。


「命知らずの戦い、なんて言葉じゃ足りないぐらいの戦いぶりだな。あれが、こっちに来る可能性は無いのか?」


 汗を拭おうと上半身をはだけたサファに対して、オルタナは大丈夫だろうと返した。


「あれの動きを見てれば分かる。あれは、黒龍と戦うように命令を下されたんだろうな。どこかの脳筋エルフのように喧嘩を売らなければ、こっちに聖剣を向ける心配はないだろうな」


「……あんな登場の仕方をすれば、誰だって敵かと思うだろう。なあ、『魔王』」


 反論できる材料の無いサファはフィーニスを味方に着けようとするが、『魔王』は真剣な面持ちでジグムントと黒龍の戦いを見つめていた。


「……あの強さ。噂には聞いていましたが、異常な強さですね。黒龍の体を吹き飛ばしかねない斬撃の連撃なんて、正面から味わいたくないな」


 ジグムントの剣が黒龍に触れる度に、黄金の光が放たれる。光による加速を帯びた剣戟は、黒龍の巨体すら持ち上げていた。黒龍の何十分の一しかないサイズだというのに、体格差を感じさせない膂力だ。


「同時に、あれを正面から捌いていた貴方の技術に敬服しますよ、サファ。どうやって、あの斬撃を受け止めているんですか」


「力を逸らしているだけだ。きちんと受け止めている訳じゃ無い。だが、気になるな。俺も噂に聞いている以上の力に見える。……もしかして、何かしらの技能スキルが発動しているのか」


 問いかけはオルタナに向けられた。


 彼は迷惑そうにため息を吐くも、昔なじみに対して口を開いた。


「ああ、使っている。ジグムントは味方が劣勢に陥ると力を増幅できる技能スキルを持っている。おそらく、それが発動しているから、あの異常とも呼べる力が出ているんだろうな」


「味方の危機に力が湧いて出てくる。なるほど、まさしく物語に出てくる『勇者』のような男だね。……いや、待ってよ。味方とは、この場合は誰を指しているんだ?」


「考えるまでも無いだろ。この地で劣勢の味方といえば、砦に集った十万の兵士。生き残りはあっちに逃がした五十人ぐらいで、残りは蒸発したか海の藻屑となった。奴らの怨嗟の声で『勇者』は強化されたという訳だな」


「サファの言う通りかもしれんが……そうなると少し妙だな」


「君もそう思うか」


 フィーニスとオルタナが揃って考え込む。一方で体を拭き終えたサファはどういう事だと二人の方に向いた。その間も、黒龍とジグムントの戦いは激しく続いていた。


「『勇者』は帝国の剣であり盾だ。奴らが竜を自国内で分断する消耗戦に出た時に、皇帝は帝都を守る為にジグムントを動かそうとはしなかった。それだけ大事な駒を、この決戦に投入したというのは、それだけ本気で黒龍を倒そうとしているのだろうな」


「ジグムントが遅れて前線に到着したのは、こちらの被害が広がっていれば、それだけジグムントの力が増すのを見越したとしたら説明も着く。……だけど、増援がジグムント一人なのは納得できない。味方の犠牲が増えれば増えるほど力を増すなら、そのための人柱を追加で投入するぐらいの事はするはずだ」


 二人の会話からサファも引っ掛かりを覚えた。帝国が黒龍を倒す為に十万の兵を動員し、『勇者』ジグムントまで投入したのは理解できる。しかし、それだけの戦力で黒龍を倒せるかと言うと、答えは否である。


 強化されたジグムントの戦いぶりは狂暴でありながら、効率的に黒龍の体を破壊していた。まるで、黒龍のような巨大な存在を過去にも倒してきたかのような手慣れた感があった。だが、傷をどれだけ負っても、どれだけ破壊されても、肉体は修復されてしまう。


 一方でジグムントは死者だからこそ、どれだけ体が傷つこうが戦うのを止めようとはしない。しかし、体が動かないほど損傷すれば、帝国の剣といえど役目を果たせない。


 ジグムントを運用するにしても、たった一人を投入して勝利できるほど簡単な話じゃない。せめて、ジグムントの戦いを補佐する部隊か、あるいはジグムントの体を修復する部隊が必要だ。


「帝国が黒龍の強さを過小評価していたか、ジグムントの強さを過大評価していたのかはさておき、ジグムントの到着が開戦から一日が経過してからというのも気に入らない。投入するならもっと早く出てきただろう。帝国には竜騎兵だって残っている筈だろ」


「……確認が取れた。部下の報告によれば、ジグムントはここまで馬車や馬では無く、徒歩で来ている。やはり、一人だ」


「徒歩? ……随分とやっている事がちぐはぐだな。帝国は勝つ気があるのか」


 敵戦力が自軍を上回る場合、戦力の逐次投入は愚策。これが撤退線なら、後方の兵を切り離して時間を稼ぐという戦術上の意味はあるが、今回は黒龍に勝利するのが目的なのだ。


「そりゃ、あるだろうさ。勝つ気があるから『勇者』を投入しているんだ。……だが、妙だ。『勇者』を投入してまで勝とうとしている奴らが、こんな御座なりな戦い方をするなんて」


 口にすればするほど、拭いきれない淀みが胸の中で渦巻いていく。まるで、誰かが仕組んだ舞台に上げられているかのような不信感が広がっていた。


 問題なのは、この戦いが帝国主導で行われ、その帝国の戦略が読めない点にある。


 サファとオルタナ、フィーニスは今回の連合軍における外人部隊。戦術の相談や指示を受け取ることはあっても、帝国がどのような戦略を描いているのかまでは聞かされていない。


「帝国貴族の生き残りに話を聞くことは出来ないのか」


「残念だが、帝国貴族の生き残りは作戦について何も知らないそうだ。『勇者』が投入されている事を聞かされて驚いているぐらいだからね」


「そうか。……となると、方法は一つだが」


 サファがオルタナをちらりと見た。その視線の意図を理解したオルタナは明らかに渋い表情を浮かべた。


「どうかしたのか。何か、方法でもあるのか」


「ある……あるが、あまり使いたくはない」


「何か、この嫌な感じを拭える方法があるなら、それを試すべきだ」


「俺も同意見だ。このまま、流れに乗って戦っても得られる物は無いような気がする」


「……それは、何かの確証を持って行っているのか。それとも―――」


「―――ただの勘だ」


 堂々と言うサファに対して、オルタナはため息を吐く。だが、覚悟を決めたとばかりに顔を上げた。


「ちょっと待ってろ。いま、未来を覗いてくる」


 言うなり、オルタナは姿を消した。ろうそくの火を消したかのように、存在がするりと消えた。


「ちょっと待って、未来を覗くなんて……できるのか、彼は?」


 信じられないとばかりに尋ねるフィーニスに対して、サファは複雑そうな顔で答えた。


「できる。……できてしまう」


「……納得がいかないな。詳しい説明をしてもらいたい」


「単純な話だ。アイツは、人の枠を外れ現象と為り果てた。その結果、常に変わらない存在として世界に刻まれちまったんだ。アイツの言葉を借りれば、一分前の自分と一分後の自分は全くの同じ。寸分違わぬ存在だからこそ、過去と未来の自分は同期ができる」


「じゃあ、彼はいま未来の自分と同期して、これから起きる未来を教えて貰おうとしているのか」


「そういう事になるな」


「……恐ろしい力だ。それを使えば、彼は何だってできるだろうに」


 未来を知る事は様々な局面におけるアドバンテージを取る事と同じだ。それも、オルタナ程の実力者が持っているとなれば、この世を思うがままに操れるはずだ。


 そう考えるフィーニスに対して、サファは首を横に振った。


「残念ながら、そう上手くは行かねえ。アイツは人の枠から外れたが、世界の枠組みからは外れていない。精霊と同じ掟に縛られるし、奴が未来を視るというのは、未来を定めるのと同じだ」


「未来測定。……つまり、未来がどれだけ悲惨なのかを視てしまえば、その通りの未来しか訪れないって事か」


「理解が早いな。その通りだ。だから、アイツは未来を視るのは最後の手段にしているんだが……どうやら、戻ってきたようだな」


 サファの言葉通り、オルタナの姿がいつの間にかあった。彼は膝に手を付き、肩で大きく息をしていた。未来を視るという行為がそれだけ体力を使うのか、あるいは見てしまい―――定めてしまった未来がそれだけ悪い物なのか。


 どうやら、今回は後者だったようだ。


 オルタナは自分の視てきた物を、絞り出すように吐き出した。


「最悪だ、最悪だ、最悪だ! 帝国の奴ら、本気でなりふり構わずに動いてやがった。十万人の兵士も、『勇者』の投入も、そして()()()()()()()()()()()()、全部黒龍をここで足止めさせるための布石に過ぎなかった! アイツら、この地に『機械乙女ドーター』を呼び寄せるつもりだ!」


読んで下さって、ありがとうございます。

次回の更新は6日頃を予定しております。

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