10-10 忍びの忠義
時間が経つのをこれほど恐ろしいと感じるのは初めてかもしれない。
時計の無い独房。外界との情報を遮断されてしまい、あれからどれだけの時間が経過したのさえあやふやだ。心臓の音を秒針代わりに大よその目安は付くが、それだけだ。真夜中を越えてはいないはずだが、確証は無い。
拘束され、隔離されている現状、自分に打てる手は無い。
思考を働かせるための材料は無く、仲間達の安否すら不明なままだ。
これまでも幾度も死線は乗り越えてきた。
ゲオルギウスとの初遭遇から始まり、アマツマラのスタンピード、シアトラ村の地下迷宮に水の都での《アニマ・フォール》。極めつけはデゼルト国動乱。どれも辛うじてだが首の皮一枚繋がって生還した。
しかし、今回は状況が違う。
これまでならば、どれだけ不利な状況でも、足掻くことで活路を見出してきたが、錠で能力値を減少され、仲間から引き離され拘束された。濡れ衣を晴らす為に、自分から行動する事は出来ないのだ。
その上、機転が利き冷静な判断が下せるシアラや、幼くとも大局に立って物事を分析できるレティや、単独でも戦えるリザも同じように拘束されている。自由に動けるのはエトネとヨシツネだけだ。
幼いエトネはまだしも、ヨシツネは出会ったばかりの仲間だ。
『招かれた者』ではあるが、まだ完全に信頼できたわけではない。そのため彼には話していない秘密が幾つもある。そんな人物に全てを任せて大丈夫だろうか。
思考がそこまで行ったとき、レイは頭の側面を壁に当て、そして勢いよくぶつけた。
がん、と鈍い音が響き、震えが壁を伝って天井や床まで行く。当然、ぶつかった頭部の方も鈍痛が襲っていた。
「……なに馬鹿なこと、考えてんだよ。信じるしか他にないだろ」
ヨシツネ以外、この状況下で自由に動ける者はいない。むしろ、ヨシツネが居なければ、レイ達は詰んでいたも同然だ。ならば、彼を信じて待つことが自分に出来る最善ではないか。
レイは自分の中に生まれた迷いを振り切り、再びじっと待つ。
意識を途切れさせないように、口の中を噛んでは痛みで覚醒させた。
どろりとした液体が口内を満たし、鉄錆に似た匂いを鼻が捉えるのと同時に、それはやってきた。
『よう。随分とご機嫌な状況じゃないか』
雑音が混じった壊れたラジオのように響く声。それが誰なのか直ぐに分かった。
「影法師、お前を呼んだ覚えはないぞ」
『ぎゃははは。俺は天邪鬼だからな。呼ばれたぐらいじゃ、意地でも返事しねえよ』
人の気持ちを逆なでする声の主は、影法師。
レイの罪悪感から生まれた存在だ。レイの心象世界に居候し、気が向いた時に喋りかけてくるはた迷惑な存在。だが、今回ばかりは助かる面もあった。
「まあ、丁度いい。ちょっと付き合え」
『……へぇ。こいつはおかしな話だ。いつもは俺を煙たがるお前が、こうも素直に応じるなんて。とっ捕まって、これまでの自分を悪いと反省して、少しは素直に生きる事にしたのか。なら良い変化じゃないか』
「ヨシツネが戻ってくるまで暇なんだ。……いつもなら、呼べばコウエンと喋れたんだけどな」
失った仲間の名を呟くと、影法師も押し黙った。意外な事ではあるが、彼も彼女の死を悼んでいた。
『それで。俺とお前がダラダラと雑談するのは、それこそ時間の無駄遣いだと思うが、何について話したいんだ。おっと、『本物の御厨玲』については俺もこれ以上の確信は無いからな。聞いても無駄だぞ』
それはそれで知りたい情報ではあるが、それとは別に気になっていた事があった。
「……ヨシツネの事だ」
『あの忍者がどうかしたのか。もしかして、お前……ああいうのが好みだったのか』
「……何を言ってるんだ、お前?」
『隠すな隠すな。これでも俺は懐が広い。惚れた腫れたは男と女の間だけなんて野暮な事は言うつもりねえよ。それにしても納得だ。あんだけの女に囲まれて、手を出さなかったのはそっちの趣味があったからとは。こりゃ、俺の目も節穴だったな。いや、目ん玉ないけどさ!』
「本当に何を言ってるんだ、お前は!」
思わず叫んでしまう。独房に反響する声は見張りまで届いたのか、うるさいぞ、と外から一喝された。
「すいません! ……お前な、僕の思考を読めるんだろ」
レイの心に住み着く影法師は、一方的に心を読む事が出来る。影法師は悪びれもせずに、応と答えた。
「なら、僕の言いたいことがそんなんじゃないって、分かってるだろ」
『まあな。ヨシツネが何者なのか、って言う事だろ』
やっと話が本題へと入り、レイはため息を吐いた。
ヨシツネ。
一週目のエルドラドが崩壊した時に、運よく生き延びた少年。彼は世界の狭間へと落ち、それから長い時間を経て再びエルドラドの地へと降り立った。本当の意味での『招かれた者』だ。
彼の存在が、レイに掛けられていた暗示を解くきっかけになったのは何と言う偶然か―――あるいは本当に偶然だったのか。
『ヨシツネが何者かの思惑に従って、あるいは本人も知らない内に従わされてお前の前に現れたんじゃないかって。そう考えているんだろ』
思考が読まれることは気持ち悪いが、その通りの為レイは否定しなかった。
二週目のエルドラドが始まって千年以上。彼が世界の狭間から出てこれたのが『龍王』と『魔王』の激突が原因だとしても、脱出した先があの時期のカプリコルだったのは本当に偶然なのだろうか。
レイ達がエトネの故郷であるカプリコルを旅していた時、スケジュールを崩す出来事があった。エトネの住んでいた山に到着する前に、狂暴化したモンスターによって奪われた集落を取り戻す手伝いをした。そのせいで到着がずれ込んだのだ。
予定通りに進んでいれば、移動しながら近隣の集落から食料を頂戴していたヨシツネと出会う事は無かったはずだ。そこに作為の匂いを感じずには居られなかった。
そのため、ヨシツネが何者かの手先であると仮定して、レイはワザと傍に置くことにした。彼が何者なのか、誰かの意思で動いているならそれは誰なのかを見極めるためだ。
そして、もう一つ気になる点があった。
「影法師。お前は僕から生まれた存在。だから、僕の知らない事を知っているって言ってたな」
『ああ、その通りだ。お前が忘れた事も、思い出せない事も、全部俺は知っている』
「なら、教えてくれ。……僕は……御厨玲はヨシツネと会った事は無いか?」
答えは沈黙だった。声のみを飛ばしてくる影法師が押し黙ると、独房の中はえらく静かに感じてしまう。数分の間を置いて、影法師がゆるゆると口を開いた。
『どうして、そう思ったんだ』
「ヨシツネに一緒に行こうと誘った時さ。あの時、僕は彼を傍に置いておくことで、彼の背後に居るかもしれない誰かを探ろうとしていた。だけど、それとは別に彼と話としていたら、なんだか懐かしく感じるんだ。それは日を置くごとに増していく」
旅の間、こちらのエルドラドの字を知らない彼に文字を教えた。共に狩りをして、一緒に獲物を仕留めた。星の並びは同じだと無邪気に喜ぶ彼とコーヒーを飲んだ。
その一つ一つが驚くほどしっくりくるのだ。彼と共に過ごす時間は、まるで昔から続いてきた事の延長線のように感じてしまう。
忍者という人種が見知らぬ土地でも溶け込み信頼を得て情報収集する者達だから、相手の警戒心を解くのが上手い可能性もあるが、それを差し引いても奇妙なのだ。
『御厨玲』の記憶が囁いているのだ。
彼は信頼できる人間だ、と。
それをレイの心は無視できずにいた。
「ヨシツネの事を『本物の御厨玲』が知っているとしたら、それはおかしい。確かに、彼もまた死後にこの世界にやってきた『招かれた者』だ。でも彼が来たのは二週目の、十三人の『招かれた者』としてだ。一週目のヨシツネとは接点が無いだろ」
『御厨玲』がヨシツネを知るはずがない。ならば、この感情は何処から生まれてくるのか。レイは自身の事なのに判断が付かないでいた。
「答えろ影法師。『御厨玲』とヨシツネには何か繋がりがあるのか」
そうだなと、と前置きして影法師は断言した。
『ヨシツネと『御厨玲』との間には無い、とだけ言っておこう』
「……信じても良いのか」
『さあね。俺を信じるぐらいなら、フィーニスが改心するのを祈ってる方が確率は上かもしれないな』
あり得ないという事かと思いつつも、影法師はヒントをくれていた。
―――ヨシツネと『御厨玲』との間には無い。
勿体ぶった言い方だが、それは別の可能性。ヨシツネと何者かの間には繋がりがあり、それを知っていると奴は匂わせたのだ。
もっとも影法師の言う事を全て信じる訳には行かない。奴は此方が苦しむ姿を見るのも好きだと公言する奴でもある。わざとらしいヒントを与えて、それに翻弄する姿を見たいだけかもしれない。
どうすれば良いかと悩んでいると、レイの前をネズミが通り過ぎていく。
そのネズミに見覚えがあるなと思うと、別の声が独房に響く。
「お待たせしました、主殿。ただいま帰還いたした」
その声は、今しがた話題に出たヨシツネだった。レイはネズミの上に居るヨシツネを見据えて話をする。
「よく戻ってきてくれた。さっそくで悪いけど、報告をお願い」
「心得ました。……とはいえ、状況は悪化したと言わざるをえません」
どういう事だと訝しむレイに、ヨシツネは苦しそうに告げた。
「レティ殿。そしてシアラ殿までもが誘拐され、この船から忽然と姿を消しました」
「……何だって!?」
流石に想定していなかった状況に、レイは思わず叫んでしまう。再び、見張りがうるさいぞ、と叫ぶが聞いている余裕はない。
「詳しく説明してくれ。シアラが誘拐? それにこの船から二人が居ないなんて」
「順を追って説明します。拙者がリザ殿らに主殿の言葉を伝えてしばらくして、独房からシアラ殿が消えたのです。壁を隔てていたとはいえ、隣に居たリザ殿が気づかぬうちに、ほんの一瞬で」
「争った形跡や、強引に押し入った音も無いのか」
「リザ殿が直接確認し、拙者も現場を調べましたが何もありませんでした。元からシアラ殿が居たのかとさえ疑ってしまいそうなほど、鮮やかな手管です」
「相手を褒めないでくれよ。……そうか、シアラが誘拐か」
あまりにも普通になってしまったが、彼女の存在も非常に貴重なのだ。
いまや伝説となった魔人種の血を半分とはいえ受け継ぎ、母に魔人種第三席カタリナ、祖父に『魔王』フィーニスを持つ。その上、彼女自身が特殊技能を持っている。かつて、魔人種の血が魔道具を作る為に必要だったことから、彼らが追われていた事を思い出した。
特殊な人物ばかりが集まる《ミクリヤ》の中でも、彼女の存在は目立つ。誘拐されても不思議では無かった。
「それで、レティと一緒に船から消えたというのはどういう事なんだ。まだ、船は川の上だろ」
外海と内海の潮流が入り混じり、水性モンスターが多く存在するハザム川は、魔法工学の力で進む蒸気船でも無ければ渡河できない。絶海の孤島とまではいかなくとも降りる事は出来ないはずだ。しかし、ヨシツネは事実であります、と答えた。
「エトネ殿が鼻を使い追跡していた所、甲板でレティ殿、そして主殿を案内したメイドの匂いが途切れてしまったのです。それとシアラ殿の匂いは、独房で途切れていて、他からはしないと。現在、両者の行方を船の警備も探している最中ですが、おそらくは」
「船には二人とも居ないと言う事か」
はい、と消え入りそうな声でヨシツネは返事をした。どうやら、二人が敵の手に落ちた事に強い責任を感じているようだ。
「大丈夫って言い方は変だけど、二人なら心配ない。少なくとも殺されてはいない。もし殺されていたなら、対等契約によって僕も死んでいるからね」
裏を返せば敵の目的は二人の誘拐であって殺す事ではないと言う事だ。この情報を得られたのは大きい。もっとも、最優先が誘拐であって、それが失敗するなら殺す事もいとわない可能性もある。
「それで、会長たちが死んだ時刻とかは調べられたかな」
「幾人かの証言と、死体の状態から主殿が部屋に着く一時間前までは生きていたかと。というのも、殺された者達の中で最後に生存を確認された侍従長が、調理場に下りてきたのが一時間前なのです。昼食会の準備が進んでいるかどうかの確認をしに来たと料理人が証言しました」
「そうか。もっと細かい時間までは」
「申し訳ありませぬ。唯一の生存者は錯乱状態が続き、いまは薬で意識を奪っており聞きだす事は出来ませんでした」
自分に濡れ衣を着せるために見逃された労働奴隷ならば、本当の犯人が何時ごろに現れるのか知っているはずだが、話せないのなら仕方ない。
レイは一度目を瞑り、頭の中で得た情報を整理し、そして次に自分がどうするべきかを決めた。あまり猶予は無い。下手に動けば、歴史が狂う可能性もある。自分たちのアドバンテージは、殺人が何処で起きるか知っている点だけだ。そこを変えられれば、相手の出方を伺い後手に回ってしまう。
最小限の行動で、最大限の成果を得るにはどうするべきか。
レイは考えを纏めると、ヨシツネに対して言った。
「ヨシツネ。悪いんだけど、僕を殺してくれないか」
「……正気ですか」
低い声と共にヨシツネの体が元の大きさへと戻る。まるで一寸法師が打ち出の小づちで大きくなるシーンを見ているかのようだ。辛くも踏みつぶされずに済んだネズミが逃げていった。
「いくら状況が悪くとも、諦めるには早すぎまする。この身は非才なれど、きっとお役に立てて見せましょう」
「そうじゃないんだ。なにも自棄になった訳じゃないんだ。それが僕の持つ特殊技能を発動させるきっかけなんだ」
『招かれた者』はエルドラドに来る際に、一つだけ特殊な力を得る。それまでの人生で積み上げた技術や信念が物理的な力となって宿るのだ。その事を知っているヨシツネはどういう事だと視線で尋ねた。
「《トライ&エラー》。死ぬことで、時間を巻き戻す力だ。いま死ねば、僕は記憶を引き継いだまま朝まで戻る事ができる」
「時を……操ると仰せられるのか。それは……仏の御業ではありませぬか」
「信じられないだろうけど事実なんだ。でも、これには幾つか条件があって、そのうちの一つに自殺だと駄目なんだ。発動はするけど、条件を満たすまでは能力が使えなくなる」
今の所、もっとも可能性のある解除方法が自分よりも強い相手に勝利、あるいは生き残る事だ。死んでも戻れるという保証があるからこそ出来た無茶を、能力なしでやってみせろと《トライ&エラー》は要求している。
「だから、頼む。君に殺される事で僕は過去に戻れるんだ」
信じて欲しいと言いつつも、内心は難しいだろうなと考えていた。時を巻き戻せるなんておとぎ話、実際に体験するか、未来を見たかのような行動に違和感を抱かなければ受け入れられない。いくら『招かれた者』とはいえ、納得しない可能性が高い。
その場合は仕方ない。しばらく『使用不可』になってしまうが、自殺するしかない。
その覚悟を固めようとしたとき、ヨシツネが沈黙を破った。
「到底、信じられる話ではありません」
やはり駄目だったかと落胆すると、ヨシツネは続けた。
「ですが、拙者は忍び。主の剣であり道具。道具は主の命に粛々と従うのが筋。主が自らの死を望むのならば、それを果たすのが役目だと愚行いたします」
ちゃきり、と。月の光も射し込まない独房に、刃の輝きが落ちる。
ヨシツネは構えると、レイは切りやすいようにと首を伸ばした。
ところが、どういう訳か切っ先はレイでは無くヨシツネの腹へと向いていた。
「……ヨシツネ。何をしているんだ」
「とはいえ、主の命だとて主を手に掛ける道具などこの世には存在しません。ましてや主だけを死なせて、むざむざと生き延びるのも道理に合いませぬ。ゆえに!」
気合と共に刃はヨシツネの腹部へと深々と食い込んだ。それをそのまま、横へとずらしていく。血が壊れた蛇口から溢れるように流れ、床に水たまりを作る。
誰が見ても致命傷だ。
「お供、しましょう。なに、主殿が時を巻き戻せるなら、これも無かった、ことになる。……戻せないのならば、拙者は主君殺しの汚名を背負わずに……死ねますとも」
激痛のはずなのに、口元に笑みを浮かべて言うと、ヨシツネは片刃を抜いてレイへと向けた。不器用な男の、不器用な忠誠心に敬服した。
「それじゃまるで、侍の殉死じゃないか」
「これはしたり。ですが、この様な忍びも、一人ぐらいは、居ても、よいでございましょう」
一閃、ヨシツネは持てる気力を振り絞り、剣を下ろした。
血と脂で汚れた刀身は、それでもレイの首を落とすのに十分だった。自らの結果に満足するのと同時に、彼は自分の作った血だまりの上へと倒れこんだ。
★
気がつくと、石が敷き詰められた川原に居た。血のように真っ赤な川が流れていき、大勢の見物人が遠巻きに見ている。それらは全て人の形をしただけの影で、傍に立っている者も影だ。
自分は縛られ、身動きが取れない。影に抑えつけられ、膝を折ると首を伸ばすように頭を掴まれた。まるで斬首刑を受ける囚人のようではないかとぼんやりと思う。
その考えは間違いでは無かった。
するり、と。影の持つ剣が首の頸椎の隙間を狙って射し込まれる。纏っていた肉を裂き、剣の重みで骨は砕け、首は二つに分かれた。
見事な太刀筋。痛みは一瞬。
ぐるり、ぐるり、と視界は転がり、止まった時はちょうど自分の体を見上げる形になった。
首なし男の死体はそのままの姿勢で保っていた。もしかすると、肉体は頭を失ったのを知らないかと疑いたくなるほど見事な断面だ。
すると、その断面が盛り上がった。なんだ、と思って見ていると、血まみれの頭部が生えてきたのだ。
呆気に取られていると、真っ赤に染まった頭と目が合った。自分を見つめ返す、自分。それは再び持ち上げた剣によって落とされた。自分が処刑される様をもう一度見る事になるとは、なんて感慨は一秒も続かなかった。
何故なら、またしても首の断面から頭が生えたのだ。
生えては落とされ、生えては落とされ。
いつの間にか石の川原は人の生首で満たされていた。どれもこれも切られたというのに目はぎょろぎょろと動き、言葉は出せないが口は動く。まるで生きているようだった。
……はたして、どれが本当の自分なのか。
一度目に切られた頭なのか、二度目に切られた頭なのか、それともまだ繋がっている頭なのか。
そんな事は、もうわからなかった。
★
意識が急浮上する。括りつけられた重石を外して海面へと泳ぐ感覚に似ている。
ごつごつした床の感触を得た直後、全身を内側から裂いていくようなイタミに襲われた。特に、首に掛かるイタミは群を抜いていた。息をする度に、空気が通り過ぎる度にイタミは増していく。それをどうにか堪えると、周りの景色を見る余裕が出来た。
人々の寝息が充満する、蒸気船の底の底。三等客室の天井が視界に飛び込んできた。
どうやら、予定通りの時間へと戻れたようだ。
ようやくイタミが治まり、レイはどこかに居るであろう敵に向かって呟いた。
「さあ、反撃開始だ」
読んで下さって、ありがとうございます。




