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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第9章 故郷
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9-18 狼の狩り

 とすん、と軽い音がやけに響いて聞こえた。


 続けて地面を黒い塊が転がったと思えば、それは三つの瞳を持つアナザータイガーだ。建物の影からエトネを襲おうとするも、突如飛来した矢に阻まれた


 地面を二度、三度転がり自慢の縞模様を土で汚し、首に矢が突き刺さるも、健在。雄々しく吼えれば、むき出しの牙が血と肉を欲した。


 直後、モンスターを狙って矢が宙を飛翔した。アナザータイガーは軽快に避けた。地面に一つ、二つと矢が突き刺さるが、それは囮だった。相手をわざと誘導して、渾身の力で放った矢が胴体を射抜いた。


 しかし、それも致命傷にならないのか、モンスターは喉奥を鳴らし―――そのまま泡を吹いて沈んだのだ。


 四肢が震え、地面に体を横たわらせた。あまりにもあっけない結末に誰もが一瞬呆気にとられた。


「なんで、動かなくなったんだ」


 エトネのそばに立ち、龍刀の切っ先を痙攣して白目を向くモンスターに向けるが、起き上がってくる様子はない。死んだ振りなどの演技ではなさそうだ。


「……どくだよ、たぶん」


 レイの疑問に答えたのはエトネだ。彼女は自分を襲おうとしたモンスターへ視線を向けていた。


「毒? もしかして鏃に塗ってあったのか」


「たぶん。さいしょにあたったやにぬってあって、よけまわったひょうしにまわったんだよ。みて、ささったまわりのにくが」


 痙攣が止まったアナザータイガーの体に触れると、毛に隠れた肉が浅紫色に変色して行くところだった。


 振り返れば、民家に腰をおろしていたミエリッキが移動するところだった。飛び降りた際にマントがめくれ、腰に小さなツボが吊るされていた。あれに、毒液が溜め込んであるのだろうか。


「毒矢か。中級モンスターでも通じるなんて、相当な毒なんだろうな」


 《トライ&エラー》を持つレイにとって、死よりも厄介なのは状態異常だ。最たるものは麻痺と石化だが、次いで毒も厄介だ。前にリザとシアラの三人で《グレートディヴァイド》を発動させた場合のシミュレーションを行ったが、その時問題になったのは毒による死亡だ。


 五秒前に戻る特殊ユニーク技能スキルが発動した場合、戻ったとしても毒の状態は変わらない。変わらないのならば毒の死が命を断つ。


 これで無限ループが完成してしまう。


 結局、この状況を打破する方法は出ず、毒を受けないようにするしかないと結論を出した。


 嫌なことを思い出したと顔をしかめたレイだが、エトネの顔が曇っているのに気がついた。


「どうかしたのか。もしかして、疲れたかな」


 すると、エトネは誤魔化すように首を左右に激しく降り、


「な、なんでもない。ほんとになんでもないよ! エトネ、あっちのほうをみてくるよ」


 と、言って、ミエリッキが消えた方向に走り出そうとした。だが、その彼女の襟首を慣れたように掴んだものがいた。


「だれ? って、シアラおねえちゃん?」


 エトネの襟首をつかんだのはシアラだった。息を切らせ、髪を乱した彼女は静かな、それこそ言葉だけで相手を凍り付かせるように言う。


「エトネ、アンタは行っちゃだめよ」


「……シアラ? どうかしたのか」


 そのただならぬ様子に何かあったのかと問いかけるも、彼女はレイに返答するのが煩わしいとばかりに続けた。


「おちび。アンタは東の方に行って頂戴。あっちは、前で戦える人が足りないのよ」


 シアラが口にした東とはミエリッキが、そしてエトネが向かおうとした方角とは逆方向だ。その指示に不満なのか、エトネは嫌がるように、体を揺らした。だが、シアラは彼女の襟首を剥がそうとはしない。


 自然と二人の間に緊迫した空気が立ち込めていく。


「お、おいおい。こんな時に喧嘩なんて」


 見兼ねて仲介に入ったレイだが、乱れた紫がかった黒髪の隙間から除く金色の瞳が輝いているのに気がついた。


「……エトネ。ここはシアラの指示に従ってくれないか。彼女が間違えたことはないだろ?」


「………うん」


 レイに説得され、後ろ髪を引かれつつもエトネは東の方へと走り出した。彼女の背中が見えなくなってから、レイは端的に尋ねた。


「何を視た」


 その質問に金色の瞳を伏せたシアラは、周りを伺いつつ答えた。


「未来視の方じゃないわ。視たのは死の影よ」


 シアラの持つ特殊ユニーク技能スキル、《ラプラス・オンブル》は人が死ぬ確率を影の濃さで先読みする。彼女が後方から全体を見て指揮を執るのは、戦場を把握しつつ、誰が最も危険な状態なのかを瞬時に判断し、それに対応するためだ。


「あの時、あの案内人が矢を番えた瞬間、エトネの影が一気に濃くなったの。でも、それは直ぐに薄くなった」


「薄くなったのなら、それはアナザータイガーが襲おうとして、それを止めたからじゃないのか」


「いいえ。今のエトネがアナザータイガー如きの不意打ちで死ぬなんてめったにあり得ないわ。そもそも、主様の位置からじゃ見えなかったでしょうけど、あの子は背後から迫っていたモンスターに気が付いていたわ。……あの案内人は、ワタシと主様が見ている事に気が付いて、狙いを変えたのよ。もしも、ワタシ達が見ていなかったら、あの矢はエトネに当たったわ。きっと、アナザータイガーを狙おうとして外した、なんて見え透いた言い訳をしたでしょうね」


 それこそ未来を視て来たような口ぶりだったが、あり得る話だと納得も出来る。


 乱戦時に流れ矢が当たるのは、ままある事だ。それを指摘し、糾弾していては戦うのに支障が出る。特に、この急造部隊では暗黙の了解が交わされていた。矢は自己責任で回避する、と。


 中級モンスターを毒殺できるだけの猛毒ならば、エトネの耐久でも即死に至らずとも体が動かなくなる可能性はある。その間にモンスターに襲われれば、ひとたまりもないだろう。あるいは、自分で止めを刺す事も出来る。


 そこに明確な殺意を感じて、レイは背筋に冷たい汗を流した。


「あの女がエトネに普通じゃない感情を抱いているのは、これで間違いないわよ」


「……そうだね。それは否定できない。でも、彼女は国が僕らに付けた案内人だ。振り切る訳にもいかないし、こっちから力づくでどうこうできる相手じゃない」


 この国の法律に詳しいわけではないが、それでも案内人に暴力を振るっておとがめなしとはいかないだろう。彼女への疑惑は、あくまで推測の域を越えていない。糾弾するには確たる証拠が無いのだ。


 すると、シアラが紫がかった黒髪を指でいじりながら、


「一つだけ、手はあるわよ」


 と、難しい表情で言った。ミエリッキをつるし上げる証拠を手に入れる方法はあると。


「それはどうやるんだ」


「……多分、主様はすっごく反対するだろうけどね。まず―――」


 シアラはレイに言い聞かせるように丁寧に説明するが、彼女の予想通り、その作戦は到底受け入れがたい内容だった。しかし、不利な状況下では最上の作戦であるのも事実だ。


 危険なのは否定できないが。


「これなら、相手を拘束するのと同時に、証拠も手に入るわ。どうかしら?」


 レイは深いため息を吐くと、不承不承ながらも頷いた。


「……ああ、くそ。……とりあえず、それでいこう。でも、その前にモンスターを全滅させよう」


「そうね。まずは、目の前の問題から、一つずつね」


 言って、二人はそれぞれ分かれて行動する。レイは自分の中にある鬱憤を晴らすかのように、モンスターの影を求めた。


 それが功を奏したのかどうかは不明だが、急造した混成部隊に一人の死傷者も出さずに、猫人カッツェ族の集落は奪還できた。







 太陽が山の隙間から昇り、空で大きな弧を描き、再び隙間へと沈む頃、集落に人の姿が戻っていた。


 混成部隊によるモンスターへの蹂躙の爪跡は残るものの、地下から脱出した、あるいは山の中に逃げ込んでいた猫人カッツェ族達は互いの無事に涙を流し、もしくは死んでいった者への哀悼の涙を零していた。


 夜の薄闇が濃くなっても、彼らの悲しみが闇に紛れる事は無かった。


 それでも腹は空いてしまう。生きているのだから、仕方ない話だ。


 集落の開けた場所にたき火が置かれ、幾つもの鍋がぐつぐつと音を立てている。辺りには食欲をそそる匂いが漂い始めた。


「よし、出来たな。集落の諸君。悲しみにくれるのも分かるが、それでは死んでいった者達も浮かばれまい。今はまず、明日への活力を溜めこみ、疲れた心と体を労わるべきだ。つまり、何が言いたいのかというと……飯を食え!」


 警備隊隊長のウンババが気恥ずかしそうに頭を掻くも、それは一つの真理だ。腹が空けば、人はネガティブな事ばかり考えてしまう。


 自然と人の列が炊き出しに並び、シチューの温もりに心と体を癒していった。


「いや、済まないね、レイ殿。戦闘に参加しただけでなく、まさか食料まで分けてもらって」


「仕方ないですよ。集落に備蓄されていたのがあれだけ減ったんですから。こっちとしても、その分魔石とかを貰ったので、むしろ儲かりました」


 雛馬車の中身はがらりと変わった。旅の食料は非常食を含めた大部分を失い、その空白を埋める様に集落を襲ったモンスターの魔石や換金できそうな素材が詰まっている。レイの言う通り、全て売却できればひと財産となるのだが、それまではただの荷物だ。


 会話を盗み聞きしていたレティは気前が良いんだからと肩を竦めると、隣でシチューを掬っていたエトネがわき腹を突っついた。


「どうかしたの、エトネ?」


 視線を横に向ければ、年下の少女は恥ずかしそうに体を揺らしていた。それだけで何の用なのか察したレティは、


「うん。行っておいで。ここはあたしがやっておくから」


「あ、ありがとう、おねいちゃん」


 ほっとしたように返事をすると、エトネは一目散に厠へと走っていた。


 どうやら、随分我慢していたようだ。苦笑していると、咳払いが聞こえた。列が進み、器を持った人を待たせてしまった。


「あ、ごめんなさい。いま、よそいますから」


 愛想よく言えば、相手も機嫌を直す。猫人カッツェ族の細長いしっぱが左右に揺れているから間違いないだろう。


 その時、背後で風が吹いた。


 たき火が揺れ、影がぶれるも、それは一瞬だった。何事かと後ろを振り返るも、そこには何も、誰も居なかった。







 エトネは急いでいた。


 炊き出しの手伝いが中々抜けられなくて、少々我慢の限界を迎えており、恥ずかしい話だが決壊寸前だ。


 だが、飛び出してから気づいた。


 この集落、共同の厠はどこだ?


「あ、あの」


「うん? なんだい、お嬢ちゃん。って、きみ、ハーフエルフかい」


 エトネは近くに居た猫人カッツェ族に声を掛けると、相手はエトネの耳を、次いで尻尾を見て奇異な物を見るような視線を向けた。


 その反応に傷つく。生まれ故郷の、同じ国民からそのような反応をされるのは悲しくもあった。


 だが、それはある意味当然だとも彼女は教えられてきた。


 何故、エトネたち家族が山の中で暮らしていたのか。それはカプリコルが何処までも閉鎖的であり、排他的な風土だからだ。エトネはまだしも、純血のエルフである母親のエス二アは、彼らにとって異邦人だ。それを受け入れる度量は、この国に住む人には無かった。


 だから、父も母も不便であったが人の住まう場所から離れ、山の中で隠れ住むことを選んだのだ。


 しかし、最近のエトネは別の疑問もあった。どうして、父も母も、このような不便な場所で暮らす事を選んだのだろうか。


 里を出たエルフが闇ギルドの奴隷商人から狙われるのは、母親や自分の身に起きた事で十分に思い知った。閉鎖的なカプリコルならば危険は少ないだろうと判断するのは理解できるし、そこが父の故郷ならば移住しやすいだろうとも想像できる。でも結局は、集落の人たちはエトネ一家を拒絶し、山で暮らすのを余儀なくされた。


 その時はまだ、エトネは生まれておらず、父と母がどんなことを考えて山暮らしを決めたのか知らない。聞いた事も無かった。


 おそらく、そうするだけの理由があったのだろう。あの二人の事だから、十分に考えた上での選択の筈だ。


 だが、それでも納得できない事が一つあった。


 それは寿命だ。


 短命な獣人種と長命なエルフ族。夫婦の内、どちらが先に亡くなるのかは明白だ。闇ギルドの襲撃が無かったとしても、自分が大人になる頃には父は死んでいた可能性が高い。そうなると、母はこの国に居られなかったかもしれない。雑種ハーフである自分は国の定めた法律上問題は無いが、母は違う。追い出された母は何処で暮らすつもりだったのか。


 その時には里に戻る様に夫婦の間で話が付いていたのだろうか。そうだとしたら、父は身勝手すぎる。自分が死んだ時の事を考えずに、その後の事は任せたとばかりの態度は、生前の父親と一致しない。


 どうして、二人はこの国に住もうとしたのだろうか。


 解けない疑問が頭を過るが、それを正気に戻したのは尿意だった。


「あ、あの。かわやはどこですか?」


 恥ずかしさのあまり、か細くなる声は獣人種の耳にきちんと届いた。


「そう言う事かい。だけど、残念だね。厠は戦いのどさくさで壊れちまってね。悪いけど、山の方でしてくれないか」


 野外でとあっけらかんというが、エトネも特に抵抗なく頷いた。冒険者として、そしてレイ達と旅をしていてそういう場面は幾度もあった。そのまま草むらを掻き分けていく少女に猫人カッツェ族が待ったと手を伸ばそうとした。


「お嬢ちゃん。なんだったら、うちのを一緒に連れてくかい。流石にこれだけ暗いと危ないだろ」


「へいき、です」


「平気って、お前さん、……行っちまったな」


 どんどんと山の方を昇っていったエトネに旦那の方は不安そうにするも、隣の女性は大丈夫だと笑った。


「あんた。あの子は冒険者と一緒に戦った子だってさ。あたしらよりも強いんだから」


「そうだったのかい。あの子がね。人は見た目に拠らないなんて言うけど、本当だね」


 冒険者ならば大丈夫だろうと炊き出しの方へと歩き出した夫婦。


 その横を通り抜けた存在に、彼らは気が付かなかった。







 どれだけ警戒をしている動物でも、気を緩んでしまう時は三つある。


 食事の時、睡眠の時、そして排泄の時だ。


 モンスターの討伐が終わった時から、彼女は潜伏を続けていた。といっても、物陰に潜んだり、山の中に隠れるような分かりやすい潜伏では無い。


 人の中に溶け込み、自分の気配を極力薄め、誰かの視界の端に引っかかる程度に行動する。一見すると無駄な行動だが、こうして自分が居たと辛うじて記憶させておけば、後々疑われ難くなるだろう。


 食事に毒を仕込んだり、あるいは寝るのを待ってから行動した方が確実だが、それは無理だろう。戦いの時、弓で狙っているのを二人に見られてしまった。あれから、此方を警戒している素振りはしなかったが、不審は抱かれた。分かりやすい状況で襲うのは不可能だ。


 だからこそ、この瞬間を待っていた。


 彼女が群れから離れ、一人で行動する瞬間を。


 エトネの嗅覚を誤魔化すための匂い袋を懐に忍ばせ、狼人ヴォルフ族としての感覚を総動員させて山の中に入りこんだ少女を追いかけた。


 ほどなくして、水音が聞こえ、息づかいすら感じ取った。


 目標は近い。


 腰に差してあるナイフを抜いた。


 夜を想定して、ナイフの側面を黒く塗った。これならば、月や星明かりを反射する心配はない。


 闇夜でも弓で射る自信はあったが、戦闘中に見せた反応を考えれば即死は難しいだろう。ナイフならば、近づいて血管を裂けば確実に殺せる。


 後は死体を山に埋めて、知らぬ存ぜぬを決め込めばいい。審判官が出てきたとしても、それならばそれでもかまわなかった。


 ―――彼女をこの手で断罪できるのならば、後の人生など捨てても構わない。


 薄闇の中に、エトネの輪郭が浮かぶ。途端に、体が強張った。


 集落の戦闘で見せた、あの華麗とも苛烈とも呼べる戦いぶり。おそらく基本的な能力値アビリティは彼女の方が上だろう。そんな相手を背後から奇襲して、成功するだろうか。不安が頭を過るが、しかし、もう止まらない。


 彼女は、彼女たちを許す事は出来ない。母親が死んだことは喜ばしい反面、この手で殺せなかった事は無念で仕方ない。だからこそ、娘は確実にこの手で仕留める。


 昏い、濁った殺意を瞳に宿したミエリッキが、静かに距離を詰めていくと、ふいに、足元で何かが這う感触がした。


 下を見れば、そこには不可思議な物があった。


 それは薄闇でもはっきりと分かる、蛇だ。


 小型の蛇が、ミエリッキの足首に絡みつき、小さな舌をちろりと伸ばしていた。この闇の中でどうしてそこまで詳しく分かるのかというと、その蛇が紫色の雷を纏っていたからだ。


「雷蛇招来」


 何処からか、少年の言葉が聞こえたような気がしたが、ミエリッキは深く考える事は出来なかった。


 足首に絡みついた蛇の形をした雷が、彼女の全身を駆け巡る。神経にまで届く雷に、視界は強い光を直視したように白く塗りつぶされ、頭の奥が破裂したように感じた。


 数秒か、あるいは数分か。


 ともかく雷が終わった時、ミエリッキは為す術無く斜面へと崩れ落ちた。


「え? え? え? な、なに?」


 頭の上からエトネの声がするも、それは酷く戸惑っている様だ。体は動けずとも、思考だけはどうにか回る。つまり、これが彼女の仕業ではないとだけ理解できた。


 すると、藪を掻き分ける音が近づいてきた。夜の山を歩き慣れていないそれは、彼女らには大きな物音に聞こえた。


「現行犯ですね、ミエリッキさん」


 憤慨やるせない様子で声を掛けてきたのはレイだ。彼はミエリッキの手からナイフを取り上げると、彼女が妙な行動に出ない様にと縄で手首を押さえていく。


「それにしても、シアラの作戦通りにいったな。貴方を目で追いかけているうちは、絶対に動かないから、エトネが一人になるまで待って、その時に取り押さえるなんて。彼女が無事で良かったけど、一歩間違えれば、危ないだろ」


 どうやらレイ達はエトネを囮にして、自分を押さえに来たのだ。古典的手法にまんまと引っかかった自分が憎らしい。すると、斜面を降りたエトネが困惑した様子で会話に割り込んだ。


「お、おにいちゃん? それにミエリッキさんも、どうしたの、こんなところで」


「それは僕の方が聞きたいぐらいだ。ミエリッキさん、貴女は二度、エトネの命を狙った。一度目は直前になってモンスターへと狙いを変えたけど、今回は違う。このナイフで、彼女を襲おうとしていたな」


 エトネが息を呑む声がしたが、レイは詰問を止めなかった。


「答えろ。アンタは、なんでこの子を狙う。この子と何の因縁があるんだ」


 だが、その問いにミエリッキは答えようとしなかった。顔を背け、拘束されているというのにふてぶてしい態度を止めない。


「……まあいい。その態度なら、こっちも考えがある。アンタを警備隊に突きだして、犯罪者として処罰してもらう。こっちは新しい案内人を呼ぶだけだ」


 腑に落ちないが、ここで彼女に時間を費やせるほどの余裕がある訳でもない。そう考えて担ごうとしたレイをエトネが止めた。


「まって、おにいちゃん」


「……エトネ。この人を見逃すとかはあり得ない。君が狙われたんだ。ちゃんと処罰を受けてもらう」


「そうじゃないの。エトネにもはなしをさせて」


 レイはしばし考え込み、そして彼女に場所を譲った。エトネはしゃがみ込み、ミエリッキと視線を合わせた。


 ああ、嫌だ、とミエリッキは思う。


 萌黄色このの瞳はあの女を思い出す。


「おしえて、ミエリッキさん。あさのたたかいで、あなたがつかったどく。あれはおとおさんのつかってたどくといっしょだった。……なんで、あなたがおとうさんのどくをもっているの」


 何故? 何故だと。


 そんなの決まっている!


 雷で痺れた体だったが、内から突き破らんとする感情が力を与えた。彼女はその感情を撒き散らさんと叫んだ。


「同じで、当たり前だろう。その毒は、兄が私に作り方を教えてくれた毒だ」


「……兄だって!? じゃあ、ミエリッキさん。貴女は」


「ああ、そうだ。忌まわしきエルフ族の女、エス二アの娘! 貴様の父、タノは私の兄だ!」


 血を吐く思いで告げた事実は、少女の心を深く抉った。


 エトネは言葉の意味を理解するのと同時に色を失い、苦しげな表情をする。その結果に、ミエリッキは多少なりとも溜飲が下がった。


読んで下さって、ありがとうございます。

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