8-58 ディオニュシウスⅢ
結論から言えば、レイ達の推測は正しかった。
ディオニュシウスが纏う鎧の魔道具は、旧式上級魔法までを無力化。超級魔法ですらほとんど減衰させるという驚異的な守りを加護のような形で付与されていた。一方で、鎧としての材質はそれほど高くないため、攻撃が当たる度にディオニュシウスが精神力で強化する必要があるという欠点もあったが、それを差し引いても魔法無力化は魅力的すぎる力だ。
魔人としての能力値に加え、戦闘の切り札と言える魔法を防ぐ守りを得たディオニュシウスは、その頑強さと突進力から走る要塞とまで恐れられた存在だ。
最も活躍した時期が人魔戦役に集中しているため、法王庁でも情報は少なく、姿形や武器などが後世に伝わるだけであり、この鎧の秘密までは知られていなかった。
だが、その鎧も万能の魔道具という訳では無かった。
「《全力全開》!」
指輪に刻まれた魔法を発動するのと同時に、自らの心象世界に潜りこんだ。南方大陸にどこか似た空気のする心の裡に潜りこんだレイは、慣れた様に自らの手に呼び出した龍刀を突き刺した。紅蓮の刀身に血が伝うと、褐色の肌をした幼女が舌を這わせて舐めとった。
「甘露、とはお世辞にも言えんのう」
レイの血で唇を朱に染めたコウエンが、そのまま刃に貫かれた傷口から溢れる血を啜る。喉が嚥下し、コウエンの中に流れ込むのが否が応にも想起させられる光景だ。
ひとしきり飲み終わったコウエンが、今度は自分の番だと言わんばかりに龍刀で手の甲に穴を開けた。それどころか、そのまま手を引き抜いたせいで、指の付け根が裂ける。
「コウエン!? お前、何をやってるんだ」
「なに、こうすれば飲みやすかろう」
突然のスプラッタな光景に目を白黒させて驚くレイに対して、コウエンは痛みを感じていない様に、中心から付け根までが裂けた掌を差し出した。コウエンの血が紅い宝石のように煌めいていた。レイはそっと、その血を口に付けた。
喉を伝い落ちてくるのは、赤龍の生まれ変わりであるコウエンの魂。レイからコウエンが奪った分が血の量として流れていく。しかし、レイの瞳が驚きに開かれ、コウエンを見つめた。彼が驚いたのは、流し込まれる血の、つまり魂の量に驚いていた。
「黄龍戦。幾つかの偶然と奇跡に彩られた勝利と言えど、勝利には違いない。そのお蔭で其方の器は新たな階段を昇り、妾の魂を多く取り込んでも問題はあるまい」
レイの成長をどこか嬉しそうに語るコウエンだが、レイにしてみれば受け入れがたい話である。互いの魂を同量交換するというこの行為は、当たり前のようにリスクがある。自分とは別の魂を受け入れるという事は、どうしても拒絶反応が発生してしまうのだ。
どういう訳か、レイの方は拒絶反応がほとんどなく問題がないのだが、コウエンは違う。彼女はレイの魂を取りこめば取り込むほど、壮絶な苦しみにのたうち回るのだ。
それを知っているレイは流し込まれる血を吐き出そうとするも、逆にコウエンに頬を掴まれた。強制的に押し込まれる血は、まるでエンジンに注がれるガソリンのようにレイの体を燃え滾らせた。
「其方が口にした事だろう。ここが正念場。まさにその通りだ。どんな戦にも流れという物があり、今がその時だ。ゆえに、出し惜しみなしで挑むべきじゃろう」
悠然と構えるコウエンだが、その額にうっすらと汗が浮かんでいたのをレイは見逃さなかった。レイの体がコウエンの魂を取りこみ燃え滾っているのならば、逆にコウエンの体をレイの魂が蝕んでいるのだろう。
しかし、彼女はそれをおくびも出さずに告げる。
「三割。指輪の魔法で強化して、妾の力を三割使えるようになった。じゃが心せよ。この程度の炎では、あの鎧の守りは突破できん。無駄打ちはするでないぞ」
ようやく、同量の魂を交換し終えたのか、コウエンはゆっくりと手を離そうとする。血の雫が糸のように二人を結び、それが千切れるのが合図だとばかりにレイの体が光の粒子へと変わっていく。
それがこの世界からの退場の合図だ。
だが、レイはそうはさせるかとコウエンの裂けた手を掴んだ。互いに血まみれの手が触れあい、コウエンは驚いたよう瞬きをする。右目からは紅蓮の輝きは消え、濡れた黒曜石のような瞳がある。
「絶対に勝つ」
「むぅ」
「絶対に勝つ。君が流した血に、耐えようとする苦痛に報いるためにも、絶対に勝ってみせる」
「……当たり前じゃ、戯け者。さあ、疾くと去ね」
憮然とした声色で一方的に口にしたコウエンだが、顔を背けるも耳が赤くなってるのは誤魔化しようが無かった。レイはそれを目に焼き付けながら、現実世界に舞い戻る。
瞬き一つで世界が切り替わり、レイの右目は紅蓮の輝きに彩られる。体を突き破って噴出しようとするコウエンの力を上手く制御し、一つの形に展開した。
それは鎧だ。
エレオノールとの戦いの時と同じ、中華風の鎧が防具の無くなった部位を守るように炎が伸びていた。そして、レイはディオニュシウスの間合いに飛び込むと金砕棒を龍刀で受け止めた。
激しい衝撃音が辺りを震わせ、衝撃波が地面に亀裂を生む。そのまま二人はその場を動く事なく、互いの得物に殺意を乗せてぶつけ合う。並の人間なら掠めただけでも絶命必至の攻撃の応酬。魂の交換を行った事で、レイは十二分に渡り合っていた。
だが、それでもディオニュシウスが優勢なのは変わりなかった。金砕棒が振るわれる速度が次第に上がっていき、それを受け止める龍刀に遅れが生じ始めた。
このままでは、レイの体に金砕棒が突き刺さるのは時間の問題といえた。
しかし、そうなる事はあるまい。
何故なら、彼は一人ではないのだから。
「《器を満たせ》」
レイの背後で魔法の宣言を果たしたシアラが、そのまま詠唱へと取り掛かる。
黄龍戦を経て、レイがコウエンの魂をより多く得られるようになり、エトネが二体の精霊を同時に《憑依》させられるようになったのと同様に、シアラもあの戦いを経て成長していた。
その力が今発揮される。
「《大地よ、我が敵を打ち砕く牙となれ》」
選んだ魔法は旧式の中級魔法。本来ならここから二小節続く詠唱を、彼女は破棄した。成長した《詠唱破棄》によって、彼女は中級魔法でさえ、僅か一小節で完成へと至れるようになったのだ。その分、精神力の消費量は増加するも、レベルが上がった事で問題は解決している。
それどころか、上昇した精神力を使えばこのような事も出来るようになったのだ。
「《アースファング》!」
激戦の舞台となった事で幾つもの亀裂を生んだ大地が一斉に隆起する。杭のような鋭さをしたそれは、まさに牙と呼んでもおかしくはない一撃だ。だが、ディオニュシウスは手にした金砕棒で、迫る魔法を防ごうとはしない。
青銅の鎧に牙の先端が触れた瞬間、魔法は効力を失ったように弾かれてしまう。牙は土へと戻り、鎧には傷一つ残っていなかった。
「ソウメイナハハオヤトチガウヨウダナ。マホウノタグイハツウジナイト、ナゼ―――ソウイウコトカ」
「ええ、そういう事よ」
嘲るような口調が一転して真剣さを増すと、シアラが唇を歪ませてディオニュシウスが罠に嵌った事を笑った。
彼女が《アースファング》を発動したのは、ディオニュシウスを攻撃するためではない。
魔人は自らを中心として取り囲むように展開している大地の牙に金色の視線を向けた。
本来の使い方は対象の近くの地面から大地を隆起させ牙のように尖らせた一撃を与えるというシンプルな魔法だ。それを、このように巨大で、なおかつ広範囲で展開すれば、それこそ消費精神力は上級魔法並みだとディオニュシウスは推測した。事実、《詠唱破棄》Ⅲの効果もありシアラが消費した精神力は上級と超級の狭間と言った所だ。
だが、それだけの精神力を消費した価値はある。
魔人は牙で出来た雑木林の中に閉じ込められた。そして気が付けばレイの姿は無くなっていた。
撤退した訳ではない。ディオニュシウスの本能が、赤龍の気配が近い事を感じ取っている。だとすれば、この隆起した大地を壁として移動を繰り返しているのだろうと魔人は判断した。
シアラの本当の目的。
それは地形の変動だ。
ミストラルが証明した鎧の弱点の一つは、発動し終えた魔法を消すことが出来ないという事だ。
《アイス》の魔法で凍った地面に滑ったのが、その証明である。《アースファング》をワザと広範囲にかつ、ディオニュシウスの周囲で展開することで魔人の動きを阻害させようとしたのだ。
発動し終えた以上、大地の牙はディオニュシウスにとって邪魔な遮蔽物となる。
一方で、そういった環境でこそ伸び伸びと戦える人材が《ミクリヤ》には居るのだ。
軽快な足音にディオニュシウスが振り向くと、そこに居たのはハーフエルフの幼女、エトネだ。地面から斜めに突きだした牙の上に器用に立つ彼女は、先端が膨らんだボルトをクロスボウに装填し、発射させた。一瞬で兜の前にまで迫ったボルトが爆発した。
「ヌウウ!?」
爆音と爆風にディオニュシウスは襲われた。予想外な爆発に一瞬だが反応が遅れるも、即座に反撃に出ようと前進する。ケラブノス石入りのボルトでも鎧は形を保っていたが、その下にある金色の双眸はエトネを捉えて離そうとしない。
金砕棒が持ちあがると、遮蔽物の影から躍り出る存在が居た。
レイだ。
龍刀を低い姿勢で構え、そのまま滑る様に地面を疾走し、ディオニュシウスの足を狙った。精神力を纏わせた一撃は、直前に奇襲に気づいた魔人が足を持ち上げる事で回避されてしまう。
躱されたことに舌打ちするレイは、炎の脚甲で地面を蹴った。すると、炎が吹きあがり少年の体は押されるようにして牙の影へと運ばれた。
追いかけようするディオニュシウスの背後で再び爆発が起きる。既知の攻撃だけに、精神力によって鎧の強化は済ませているためダメージは通らないが、振り返った時には《カデギダ》を憑依させたエトネの姿は、まさに風のように消えていた。
シアラが《アースファング》で生み出したのは、荒野に出現した森だ。
牙が不規則に、なおかつ広範囲に展開しているため脱出は難しく、その中ではディオニュシウスの行動は制限されていた。脱出しようとすれば、レイが、エトネが妨害に入り、牙を壊そうと暴れ回ればシアラが新たな牙を外から生成する。
レイはともかくとしても、エトネにとってこの環境は水を得た魚だ。牙を森に見立てる事で、魔人から視線を切り、相手の隙を伺い、行動を制限するなど狩人にとってはお手の物だ。ケラブノス石入りのボルトが通じなくとも、爆発を耐えるために常時精神力を消費させている事も無駄にはならない。
炎の鎧によって機動力が上昇したレイと、神出鬼没を得意とするエトネのコンビネーションを前にディオニュシウスは苦戦を強いられていた。
その時、脱出不可能な檻の中に別の女の詠唱が流れ込んできた。
「《善を為そうとする者を討つ者、これ悪なり》」
聞こえてきた詠唱にディオニュシウスは身を強張らせた。
長き時を生きる魔人は詠唱だけでどんな魔法が放たれるのか、すぐに看破できる。この時も、彼は即座に理解し、そして不味いと思う。
あの魔法は自分に通じる、と。
「サセテタマルカ!!」
ひび割れた咆哮が牙の森に広がる。金砕棒に渾身の力が籠められると、それは一気に解放された。僅か一振りで、森の外側までの道が生まれてしまった。その先には詠唱を行うミストラルの姿があった。
シアラが杖を振るい、牙を展開しようとするも、ディオニュシウスは既に道に足を踏み入れていた。大地を突き破る牙は道を疾走する魔人の鎧に触れる度に崩壊してしまう。
「《正を歩まんとするものを阻む者、これ邪なり》」
地響きと共に近づいてくる気配はミストラルにも届いているはずだというのに、『聖女』の詠唱に乱れる事はない。
これは信頼だ。
レイ達なら、きっと止めてくれるという、強い信頼。
それに答えなくて、どうするのだ。
疾走する青銅の要塞に並ぶ紅蓮の軌跡。コウエンから受け取った力を機動力に回したレイが、ディオニュシウスの横に付き、そして一歩前に出た。
「ソコヲドケ!!」
「此処は通さない!!」
両者の意思を籠めた武器が幾度目かの交わりを得る。武具が交錯する度に火花が散る。
「《我らを苦しめる邪悪に呪いあれ》」
ミストラルの体から汲み出された精神力が一気に魔法へと変化していく。つまり頼まれていた一分という時間が迫りつつあるという事だ。同時にそれはもう一つの時間を指していた。
レイは腕が千切れろとばかりに刀を振るう。まさに燃え盛る炎とばかりの猛攻にディオニュシウスはその場を釘つけとなる。
レイの技量は、人魔戦役を生き延びた魔人には遠く及ばない。黄龍との戦いを経て格段に進化した能力値を《全力全開》で引き上げた上で、更に魂の交換を行ったからといって、ディオニュシウスと正面から渡り合うことなど不可能だ。
現に、金砕棒は幾度もレイの体へと到達し、炎の鎧が代償となって散っていく。それでも、ディオニュシウスがレイを倒し切れないでいたのは、その命すら燃やしかねない気迫に圧倒されていたからだ。まさに、蝋燭の炎が消える寸前、火が強くなるような、そんな状態だった。
事実、レイは風前の灯火といえた。
「《今此処に、天の裁きが邪悪を罰する》!」
ミストラルの詠唱が終わり、一つの魔法がディオニュシウスを貫こうとする。
「《ジャッジメントチェーン》!」
杖から放たれる魔法は旧式の超級魔法。効果はシンプルだ。
強化の反対、弱化だ。
ディオニュシウスを貫いた光は、彼を縛る鎖となって巻き付いた。途端、鎧の中に魔人は全身から力が抜けていく感覚に陥った。
レイが使う《全力全開》とは真逆の、身体弱化魔法の一つである《ジャッジメントチェーン》は、能力値の桁を一つ減らす。その反面、効果が持続する時間は恐ろしく短いが、それでもこれ以上ない強力な魔法だ。ディオニュシウスは金砕棒の重さに耐えかね、落としそうになっていた。
ディオニュシウスの鎧が持つ、もう一つの弱点は全ての魔法を弾く訳ではないという事だ。レティの《反射盾》や、ミストラルの《ブラインド》などの、いわゆる攻撃魔法に分類されない魔法は防ぐことが出来ない。
致命的とも言える弱点ではあるが、ディオニュシウスはそれを弱点だとは捉えなかった。大抵の魔法は己が肉体で防ぐことが出来、懸念される弱化魔法の類はどうしようもない欠点があるから、使い手がほとんどいないため、警戒する必要が無かった。
というのも、弱化魔法の成否は、術者のMAG《魔法力》と対象のPOW《魔法耐久力》に依存するのだ。同程度ならば魔法は失敗し、そこから一定以上の差が無ければ魔法は耐えられてしまうという事から、弱化魔法は格上には通用しないのが一般的な常識だった。
魔人であるディオニュシウスよりも能力値で上回っている魔法使いなど、『七帝』の一角である『魔術師』ぐらいのため、全く警戒していなかった。
ミストラルはそこを突いた。六将軍という怪物の持っていた驕りを利用したのだ。
幻術魔法である《ブラインド》がディオニュシウスに通じた時点で、彼女は二つの確信を得ていた。一つは、ディオニュシウスが攻撃系以外の魔法を防ぐことが出来ない事。そしてもう一つが、自分のMAGが魔人のPOWを上回っているという事を。
「今です、皆さん! 今から十秒間だけ、魔人の動きは鈍いです!!」
ミストラルの叫びに呼応するようにレイは龍刀で刺突の構えを取る。狙いは、ミストラルの蹴りで鎧にひびが入った腹部だ。ゲリラのように奇襲を掛けるエトネの爆撃に対して、ディオニュシウスは此処だけは死守していたのをレイは知っていた。
恐らく、この鎧の中で最も脆い部分なのだろう。それを知りつつ、レイはあえてこれまでの猛攻の中で腹部は狙わなかった。
相手の弱点を突かない紳士的な振る舞い―――などではない。
あえて攻撃しない事で、相手に防御の意識を薄めさせたのだ。
それが功を奏したように、ディオニュシウスの反応は明らかに遅かった。レイの刺突に対して、弱化中とはいえ、防御が間に合わなかった。
刃が鎧に致命的な一撃を与える。
正にその寸前だった。
―――レイの中から力が抜けだしたのは。
一分という時間が意味する、もう一つの時間切れ。
それは《全力全開》の効果が切れる事も指していた。踏み込む足に力が入らず、刺突に鋭さが失われていく。炎の鎧が静まっていくのを見て、ディオニュシウスは魔法の効果が消えたのだと確信した。
切り札を使うのが一瞬だが早すぎたのだと、レイを内心で罵倒する。あとは、十秒を乗り切ればこちらの勝ちだとさえ考えた。
だが、不利に陥ったはずのレイが笑った事に思考を改めた。
「もう一度、《全力全開》!」
先程の焼き直しのように、レイの体に力の奔流が押し寄せた。
本来、指輪の形をした魔法工学の基盤は、レイの生命力を魔力として変換し蓄積する。一度消費されれば、日常生活の間に回復をする。だが、こうして魔力を使い果たしたとしても、発動することは可能なのだ。
もっとも代価として、レイの生命力を一気に吸収してしまう。一瞬で空っぽに近いほどの生命力を吸い上げられたレイは、再び強化された肉体を持ちながら意識を闇に飲まれようとしていた。
しかし、そうはさせないとレティが杖を振るった。
「《超短文・上級・生命力譲渡》!」
途端、レティの体から青白い光が浮かぶと、それはディオニュシウスが生み出した道を通りレイに流れ込んだ。同時に、視界を食む様に広がっていた闇が遠ざかり、レイの意識が切れずに保たれた。
レティがアクアウルプスの都を離れる前に会得した魔法は二つ。《反射盾》と、もう一つがこの魔法、《生命力譲渡》だ。術者の生命力を一部譲渡する、命で命を繋ぐという魔法。黄龍との戦いで圧倒的なまでにレベル差の開いたレイとレティ。レティは半分以上の生命力を差し出したが、レイにしてみれば二割程度しか回復していない。
しかし、それで十分だ。
意識が繋がり、体が満足に動くには十分すぎる。
(いつも誰かに託されてるな、僕は)
一瞬、レイはこれまでを振り返った。死に戻りという技能しかない自分が、此処まで来れたのは、いつも誰かが、自分に何かを託してきたからだと、改めて実感する。
だからこそ、負けられない。
踏み込む足に力が入り、体ことぶつかる勢いの刺突。だが、一瞬とはいえ勢いが鈍ったのは確かだ。
魔人はその一瞬で立て直しを図った。魔法の効果で満足に動かない体だというのに金砕棒を構え、レイの刺突を阻んだのだ。そして、ディオニュシウスの体が後ろに退いた。
《ジャッジメントチェーン》が効果を失うまで―――あと六秒。
これが最後の攻撃だとばかりに、レイは龍刀を強く握った。防がれたとはいえ、魔人を後ろに吹き飛ばしたという事は、今の両者の実力は、レイの方が上回っているのに他ならない。だからこそ、此処を逃す事は出来ない。
レイの体から炎が吹きあがると、それはディオニュシウスの周囲で渦を巻く。一瞬にして炎の竜巻に掴まった魔人は、天にある太陽を遮る影に気が付いた。
それはディオニュシウスの背後に着地し、殺気を放っている。魔人は考えるよりも早く、今放てる最大の力を込めて、金砕棒を振り回した。鎧に回していた精神力を全て武器の強化に当てた一撃は、なるほど最大の威力なのだろう。
地面が爆発したように抉れ、炎の竜巻もまた一瞬で消えたのだ。
―――同時に、背後に回っていた炎の分身もまた散った。
「マボロシ、ダト!?」
愕然とするディオニュシウス。何故ならレイの姿形を真似した炎の分身は、殺気すら放っていたのだ。致命的な悪手を犯した事に動揺した魔人に、背後から本当の一撃が繰り出される。
龍刀に纏わせた精神力が一つの現象へと昇華される。
体に纏わりつく様に残っていた炎が龍刀へと吸い込まれていき、炎が紅蓮の煌めきに染まる時、新たなる力がレイに宿る。
「《崩剣焔》!」
無防備な背中を見せているディオニュシウスの首。龍の息吹を宿した刀身が鎧をどろりと溶かし、そして外気に晒された魔人の首を両断した。
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