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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第8章 動き出す世界
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8-35 黄龍討伐Ⅳ

 雨の勢いは弱まるどころか、状況の過酷さを表すように激しくなっていく。黄龍の背を流れていく水流が蛇のようにうねる中、ハヅミに肉体を貸していたエトネがレイ達を不安そうに見つめていた。


「おにいちゃん。だいじょうぶ?」


 どうやら深刻そうな雰囲気が伝わり、不安にさせていたようだ。レイは大丈夫だと返しつつも、どうするべきかと頭を悩ませる。


 だが、そんな時間を与えないとばかりに、雨を突き破って矢が迫る。


 レイの肩に突き刺さる直前、リザがロングソードの刃で矢を叩き切った。白い幽体の塊が、煙のように解けて消えると、レイは叫ぶ。


「敵襲だ! 全員、構えて!」


 龍刀を抜き放ち、矢の放たれた方角へと炎を走らせる。爆発、炎上すると兵士の姿をした幽体が飛散した。しかし、敵はそれだけでは無かった。


 前方のみならず、左右、そして後方からも種族を問わず、三十体近い幽体の軍勢が迫っていた。どうやらハヅミから長々と話を聞いている間に囲まれてしまった。こうして六度目の襲撃は、包囲から始まった。


 斧を持ったフルプレートに身を包む騎士のような者が爆炎を背に突進する。シアラが放つ《バレット》を斧で叩き切ると、一気に間合いを詰める。振り下ろされる斧を間に割り込んだレイが受け止めた。


「攻撃自体は、やっぱり重いな!」


 幽体の攻撃は重い。


 物質的にも、精神的にも。


 まるで死者の想念や怨念が物質化したかのように、浴びれば血が噴き出し、傷口から彼らの想いが流れ込む。五度にわたる攻防で、レイも一度ならず攻撃を浴びた。その際に感じたのは、命が無くなる時の、温もりが消え、厚い氷に閉ざされた水中に落ちる様な感覚を味わった。


 何度も浴びていけば、肉体よりもまず心が死ぬかもしれない。


 だとすれば幽体がこうして自分たちを襲うのは、仲間を増やそうとする欲求なのかもしれないなと考えつつ、斧をかち上げ龍刀で兵士の体を横に薙ぐ。


 フルプレートの鎧で覆われていようが、幽体に硬質という概念は存在しない。湯気に触れるような不確かな手触りと共に、兵士は消えていった。


 敵を一体倒したからといって、戦いが終わる訳では無い。レイは他の仲間へと視線を向けた。


 五人の幽体の間を飛び回る影はエトネだ。


 雨の足場であっても、彼女の機動力は衰えることなく、幽体を翻弄し、拳や脚が彼らを霧散させていく。だが、彼女の顔色は精彩を欠いていた。


 幼い少女にとって、幽体といえど死者に鞭うつような行為は忌避感が強く、何よりその中にはエルフの者達が含まれているのだ。母の同胞を、この手に掛けるという事実が、エトネの精神を消耗させる。だからか、幽体が固まっている場所に飛び込んでしまい、逃げ場を塞がれてしまう。四方から槍や剣がエトネを貫こうと振り下ろされる。


「させません!」


 声を鋭くして飛び込んだのはリザだ。彼女にはエトネのサポートを頼んであった。幽体の囲みを薙ぎ払い、エトネと背中合わせに戦う彼女の姿は騎士のようである。だが、流石に多勢に無勢だ。


 レイはシアラとアイコンタクトを交わすと、炎を幽体に向けて走らせた。黄龍の背で轟く炎は幽体の一部を飲みこみ、続いてシアラが放った《ウィンドバレット》が幽体の群れを切り裂く。囲みが緩くなり、突破口が出来れば、あとは二人で十分だ。


 獅子奮迅の如き活躍を見せて、二人は十体以上の幽体を瞬く間に蹴散らした。


 勢いはレイ達にある。


 残りの幽体の数は十を下回り、後は遠距離から仕留めれば問題ないと判断した。


 だが、そんなレイの思考をあざ笑うように、一体の幽体が加速する。両手に双剣を握りしめるエルフ族の幽体は、あっという間にリザとの距離を詰めた。


 彼女が斜めに振り下ろしたロングソードを片手の剣で受け止めると、もう片方の剣でわき腹を突こうとしたのだ。


 リザの顔が苦痛に歪む。


 幽体の剣はリザのわき腹には届かず、彼女が防御のために突きだした手甲に弾かれた。しかし、その際に薄く一文字の傷が、手甲が保護していない部分を裂いた。途端、リザの表情に青白い影が差す。傷口から彼らの想念が染み込んだのだ。


 幽体の中で、エルフの戦士と思しき者は、周りと比べて一段も二段も強い。数に任せた雑魚だと判断するとこうして手ひどいしっぺ返しが来るのだ。


 だが、リザは歯を食いしばって堪えると、蹴りを繰り出した。鋭い前蹴りは幽体の顎を捉え、頭を砕くとそのまま煙となって消えた。


「リザ、回復は必要か!」


 ポーションを取り出そうとするレイをリザは手で制す。


「いまは大丈夫です。これぐらい、戦闘に支障はありません。それよりも、残りを」


「ああ、分かった」


 そう言うと、レイは龍刀を構え、リザはロングソードを携え駆けだした。それから間もなくして三十体の幽体の群れは全滅したのだった。


 増援や残敵が居ない事を確認したレイは改めてリザにポーションを渡そうとするが、その前にシアラによる応急処置が施されていた。薬草を傷口に重ねて、それを押さえつけるように包帯で巻いて行く原始的なやり方だが、効果はある。


「やっぱり、レティ不在は厳しいね」


 居なくなって有難みが分かると身をもって理解する。ヒーラーである彼女が不在なため、回復一つとっても、やりくりが必要なのだ。ポーションは即効性が高い分、数が限られている。幸いにもレティが旅の間にせっせと作ったポーションは、馬車の中に木箱一つ分残っている。いつでも取り出せるが、取り出す際に敵襲が無いとも限らない。


 手持ちの物資を使ってやりくりする必要があるのだ。そのため、シアラも精神力の消費が少ない低級の魔法を中心に戦っていた。


「これで、よしと。体を動かすのに影響は無さそうかしら」


 リザが負傷した腕をぐるぐるとまわし、可動に問題ないとアピールする。


「大丈夫そうね。さて、主様。これからどうしようかしら。六回目の敵襲があったから、なし崩し的に戦闘になっちゃったけど、ハヅミが話していた内容は覚えているわよね」


「勿論だよ。……困った事になったよな」


「そうね。本当に困った事になったわね」


 二人は揃ってため息をついてしまう。


 黄龍の欠伸から復活したハヅミの告げた、イーフェと黄龍の壮絶な戦い。そこから得られた黄龍討伐の糸口。それは黄龍を倒すには心臓を外側から狙わなくてはいけないという、無理難題だった。


 マクスウェルが立てた心臓を破壊するという方針は正しかった。問題は、心臓こそが黄龍の持つ魂吸いの大本であり、近づけば近づくほど生命力は一気に削られてしまう。なまじ、回復の技能スキル持ちだったイーフェは、近づきすぎて逆に身動きが取れなくなり、生き地獄を味わったという。


「近づいて破壊できない以上、外から狙うしかないのは分かるけど、この巨体をどんな攻撃で貫けばいいのよ。こいつ、『機械乙女ドーター』の一撃を耐えたのよ」


 都市を一撃で灰燼に帰す『機械乙女ドーター』ことポラリス。彼女が放ったきのこ雲が出来るほどの爆発を、身を守る砂の竜巻があったとはいえ黄龍の体は受け止めた。肉が抉れ、表面が沸騰し、蒸気すら立ち昇らせていたが、それでも耐えた。


 そんな怪物の守りを打ち破る手段が今のレイ達に在る訳がない。例え、龍刀の力を十全に扱えたとしても、ポラリスの一撃に勝るとは言い切れない。


『腹立たしいが、その点に関しては妾も同意じゃ。こと一撃の破壊力で言えば、あの人形に並ぶのは『龍王』と呼ばれた者ぐらいしかおらん。じゃが、あやつが表舞台に姿を見せることはできん』


「中に入ったサファ様たちが、どうにか心臓を破壊するという可能性は無いのでしょうか」


「無くは無いと思うけど、不確かな可能性よ。下手に期待して、結局失敗しましたじゃ、話にならないでしょ。いま、外に居る私達でどうにかしないといけないんだけど」


「生物の急所は心臓だけじゃないだろ。例えば頭。脳や首を狙うのはどうかな?」


「悪い考えじゃないけど、非現実的よ。今から頭まで戻って体内に侵入する時間なんて無いし、黄龍の回復力を考えれば生半可な一撃じゃ、すぐに回復されてしまうわ。そういう意味でも、心臓こそ黄龍を倒す急所なのよね。……やっぱり手詰まりよね」


 空を仰ぎ嘆くシアラにレイはポツリと呟いてしまう。


「これは、一度死に戻ってやり直した方が良いのかな」


 現時点で死に戻った場合、戻れるのは黄龍の欠伸が起きた後である。そこまで戻れば、マクスウェルらに事情を説明して、一から作戦を練り直す事も出来る。


 だが、その呟きにリザとシアラが眉を吊り上げた。


「レイ様! そんな事を仰らないでください!」


「リザの言う通りよ。なに、弱気になってんのよ」


「いや、でもさ。今戻るとしたら、飛竜を奪う前まで戻れるんだ。そうすれば、マクスウェルやサファに、ハヅミから聞いた事を説明して、作戦を練り直す事が出来るだろ」


「だからといって、死を望むなんて―――」


「―――落ち着いて、リザ」


 今にも烈火のごとく怒りだしそうなリザを押しとどめたシアラだが、彼女もまた、苛立ちを押さえているように不穏な気配を放っていた。


「感情的な面で言えば、絶対に反対よ。でも理性的な面で言えば、確かに主様の言う事も一理あるわ」


「シアラ!? 何を言っているんですか!」


「落ち着いて、って言ってるでしょ。それに、一理よ。全面的には認められないわ。いい、主様。確かにそこまで戻れば対応策は練られるでしょうけど、引き換えに『機械乙女ドーター』と再び対峙する事になるのよ。あの怪物相手に、もう一度追いかけっこして生き延びれるかどうか、誰にも保証はできないのよ。それに兵器の投下だってぎりぎりだったのよ。今度は、失敗するかもしれない」


 シアラの言葉にレイは反論できない。彼女の言う通り、もう一度ポラリスの足止めをしろと言われて、今回のように上手く行くかどうかは分からない。サファが上手く立ち回ってくれたおかげで、彼女は程よく消耗してくれて、行動の指針を戦闘から切り替えてくれた。


 同様に、兵器の投棄も時間的な猶予はそれほどなく、綱渡りだったのは間違いない。


 軽々に死に戻るべきと考えてはいけないのだ。


「死に戻るにしても、もっと情報を集めたり、この先に何が起きるかちゃんと知ってからじゃないと、意味がないでしょ」


「……うん、そうだね。ごめん、二人とも。妙な事を口走っていたよ」


 レイが謝ると、リザはほっとしたように胸をなで下ろした。そして、辺りを見回して、


「ともかく移動しましょう。いつ、幽体が戻ってくるか分かりません」


「そうだね。とりあえず、エトネの見た光の事を調べよう。エトネ、方角はこっちの方で合ってるかい」


「……うん。そうだよ」


 レイには何が何だかさっぱりの景色をまじまじと見つめて、エトネは自信を持って曲線を描く上り坂を指す。起伏のある地形だからか、その先に何があるのか、下からでは分からないが、ここで頭を捻るよりも行動する方が大事である。


 レイ達は再び黄龍の背を昇り始めた。







「これはしくじったかもしれんの」


 マクスウェルが空になったポーションを投げ捨てると、忌々しそうに呟いた。それに同意を示すようにサファが幽体を切り裂く。


 その斬撃は、ポラリスと切り結んだ時の激しさは無く、錆びついていた。


 彼だけでは無い。行動を共にする《神聖騎士団》の面々でさえ、似たような状態だった。槍が、剣が、盾が、弓が、苛烈さを失い、色彩を失ったモノトーンのような、鈍い戦いぶりだ。


 原因は分かりきっている。


 黄龍が行っている生命力の吸収が、重くのしかかっている。


 始めは、生命力の一割程度を吸い取られる感覚だったが、今では一度に半分近くを吸い取られている。体は重く、鉛をぶら下げているように動きが鈍くなる。加えて、幽体の数が膨大だった。


 心臓を守るためなのか、サファを含めた突入組を脅威とみなしているのか、千にも及ぶ幽体が休みなく押し寄せているのだ。赤黒い肉壁は端から端まで、白い幽体で埋め尽くされていた。


 それでも、彼らは高位冒険者と『七帝』の組み合わせである。レイ達よりもはるかに厳しい状況であっても、毛の先程の一撃も浴びずに、此処まで戦い抜いていた。


 心臓に近づいていた。


 翻って言えば、吸収の激しさが増したという事なのだが。


「明らかに心臓に近づくにつれて、この魂吸いの度合いが増しておる。あとどれ程の距離があるのか知らんが、このままでは心臓に辿り着いた瞬間には一気に生命力をもぎ取られてしまうぞ」


 マクスウェルの指摘は間違いでは無い。


 心臓に辿り着けば、一瞬で生命力が枯渇する。


 同胞の剣士を容赦なく縦に両断したサファは、続けて上級モンスターの幽体を細切れにすると、


「『英雄』イーフェが持っていた技能スキルは、要約すれば常時回復だ。あの方ならば、心臓に辿り着いても辛うじて生き延びれただろうが、俺達が行ったところで動けるかどうか」


 空間を切り裂き、寿命すら切り伏せたと謳われるサファだが、彼には弱点がある。それは彼が究極なまでに接近戦しか出来ないという点だ。


 一足一刀の間合いに存在するものならば、空間すら切り裂くサファだが、その間合いはせいぜい四メーチル程度。それ以上の距離に居る相手には、近づくことから始めないといけない。


 彼の出鱈目ぶりは、黄龍の中でも健在であり、一定の間隔で放たれる魂吸いの力を、空間を切断する事で遮断していた。いまもタイミングを見計らい、斬撃を放つ。まるで落雷が耳元で墜ちたかのようなつんざく音が響き、空間を遮断する事で魂吸いを防ぐ。


 だが、近づくにつれて頻度は増していき、幽体の抵抗も激しくなっていくため、サファの反応が遅れてしまい生命力を吸われてしまうのだ。そもそも、この方策は一時しのぎでしか無く、大本を断たなければ意味は無い。


 マクスウェルは黄龍をどうやって倒すのが良いのか、頭の中で計算して、その最適解を導き出した。


「黄龍を倒すには、外側から一点集中させた一撃を加えるのが得策のようだ。ここは一度撤退するべきではないか?」


 ハヅミからの情報も無しにその答えに到達し、撤退をサファに提案した。しかし、サファはそれを却下した。


「いまから戻った所でどれだけの時間がかかる。俺達は既に、内部の奥深くまで侵入した。飛竜を失った以上、戻るには、入ってきた以上の時間がかかるぞ」


 精神力を惜しみ、長杖で兵士を殴打したマクスウェルは、懐中時計を取り出した。内部からでは外部の様子は不明だが、振動が変わらない所からすると、レイは黄龍の誘導を行えていないのか、失敗したのか不明だ。


 だとすれば、残された時間はそう、多くない。


「時間を無駄にするぐらいなら、行ける所まで行き、やれるだけの事を試したい。大体、外に戻った所で、黄龍の体を貫く一撃を用意する当てはあるのか」


「痛い所を突きますの。……儂が自爆した所で、せいぜい表面を抉る程度。心臓を貫くには至りますまい。そちらは何か心当たりは」


 もしあるなら、心臓を直接狙うという方策に固執する必要はないはず。そこまで期待せずに投げかけた質問だが、意外な返答があった。


「心当たりなら、あった」


「ほう! あったと申すと。いまは」


「ああ、残念ながら今は無い。持ち主と共に失われ、そもそも持ち主が居なければ、あれはただの派手な剣に過ぎないな」








「気のせいでしょうか。敵の、幽体の抵抗が激しくなっているような気がしています」


「気のせいじゃないと思うな! だって、これ。十回目の襲撃だよ!」


 龍刀を斜めに振り下ろすと中級モンスターの幽体が切断され、返す刀で振り上げるとエルフの民が股から頭までを裂けて消えた。


 手応えの無さは変わらないが、幽体の数と頻度は劇的に増えていた。再出発してから、二十分も経たない内に立て続けに四回も襲撃され、幽体の数も一度に五十と増えていた。モンスターが姿を見せるようになったのと、非戦闘員らしき者が現れるようになったのも特徴的だ。


 まるで、形振り構わず送り込んでいるかのような、焦りが感じられる。


 最後の一体をエトネのクロスボウが貫き、十度目の襲撃は終わった。


「この幽体を操っているのが黄龍なら、僕らの行動を止めたいという意思が働いているのかな」


 レイはシアラに意見を振ると、彼女は何やら難しそうな顔をしていた。レイが名前を呼ぶと、


「え? ごめんなさい。少し考え込んでいて、聞いていなかったわ。何の話だったかしら」


「だから、幽体の攻撃が激しくなっているのは、僕らの行く手を阻みたいっていう黄龍の意思なのかなって聞いたんだ」


「……そうね。多分、そうだと思うわ」


 どうにもシアラの歯切れが悪い。彼女は再び顎に手を当て何かを考え込んでいた。


「シアラ。なにを考えているか、教えてくれないか。みんなで考えれば、何か分かるかもしれないだろ」


「……ええ。実は、ハヅミの話で気になる事があったの」


 そう、前置きしたシアラはハヅミの言葉をなぞる。


「あの子は、自らの体に剣を突き刺した。これってどう意味だと思う。黄龍を倒す為に、あえて自分の体に傷を負わせる意図が分からないのよ」


「それは、ハヅミの言っていた彼女の特殊ユニーク技能スキルに関係しているんじゃないか。生命力を回復する技能スキルなら、傷を負わないと発動しないとか」


 レイの推測は半分はずれている。《パッシング・フォワード》の自動回復は瀕死の状態ならば、回復量は上昇するが、生命力が満タンであっても回復をしてしまうのだ。つまり傷の有無は関係ない。


「でも黄龍を倒すのに回復が重要だとは思えませんね」


「そうなのよね。リザの言う通り、回復は重要じゃない。でも回復は必要だった。……この矛盾が解けなくて頭を悩ませているのよね」


 シアラが唸り、首を捻る。


 彼女を悩ますのは、黄龍を倒すのに回復という部分を、イーフェは何故必要としたのかという理由だった。レイもリザも、同じように頭を捻るが、明確な答えは思いつかなかった。


 すると、エトネが何でもない様に、


「だったら、かいふくじゃなくて、せーめーりょくがひつようだったんじゃないの」


 と、呟いたのだ。思わず、三人の目が丸くなり、エトネを見つめた。急に見つめられたエトネはびくりと体を震わした。


「エ、エトネ。なにかへんなこと、いった?」


「いや、そうじゃないんだ。今、言った事をもう一回言ってくれないか」


「だ、だから、かいふくじゃなくて、せーめーりょくがひつよう、だったんじゃ、ないかな?」


 最後に疑問符が付いてしまったのはエトネの自信のなさだ。しかし、エトネの口にした事は、まさに天啓だった。


「そうよ。考えてみれば、当たり前の事よね。傷を自ら負って技能スキルを発動したのは生命力が欲しかったからよ」


 シアラはなまじ考え込む癖があるため、イーフェが理屈に合わない行為をした理由を推理しようとしていた。しかし、その行為に意味があり、確固たる目的があるのならば、何が手に貼るかという結果から遡るべきだった。


 足りないパーツの一つが埋まると、シアラは別の事を思い出す。それはエルフの里で魔法言語ヒエログリフや魔法陣について学んでいる時の事だった。生命力を精神力に変換するという魔法陣は、エルフのとある人物の為に生み出されたという逸話を。


 そして、エルフ族が持つ、種族としての特性を合わせて思い出した。エトネが見たという光の正体は―――。


「―――まさか。でも、それなら」


「何か分かったのか、シアラ」


 レイが尋ねると、シアラは不安と興奮がないまぜとなった複雑な表情を向けた。


「主様。もしかしたら、光明って奴が見えたかもしれないわ」


読んでくださって、ありがとうございます。


話の展開上、明日も投稿します。

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