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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第8章 動き出す世界
451/781

8-28 更なる脅威

 ★



 光が爆ぜた。


 太陽のような猛々しい日差しと違う、月のような静謐な輝きとも違う、満天の星々のような雄大な輝きとも違う。どこか毒々しいまでのべに色の極光が体を蝕む。光を浴びた端から、体に穴が開き、皮膚が破け、肉が溶け、神経や血管が蒸発していく。


 光に食われている。


 眼球が沸騰し、血液が泡立ち、脳が茹でられる。信じられないどの高温となった光を照射され、人間の体がアイスや氷のように解け消えていく。残るのは、光を遮って出来た人型の影だけ。


 意識までが溶けると、再び光は始まる。再生されたばかりの肉体に紅色の極光が襲い掛かり、蒸発していく。


 人だけでなく、周りにある岩や、建物、動物、植物。何もかもが溶けていく。


 その中で、見覚えのある少女を見かけた。


 栗色の髪を揺らした、幼い少女。姉と違い、屈託なく笑い、喜び、そして何か秘めた闇を抱える少女、レティ。


 彼女の悲鳴すら光に飲み込まれ、溶けて消えた。



 ★


「がああああ!!」


 開口一番。レイの体は釜茹でにされたかのような熱を感じ、喉から苦痛に喘ぐ声があがる。肌は赤く、まるで茹でたタコのような色合いになり、砕けた石舞台の上で苦悶の表情を浮かべていた。


 今まさに、レイを叩き起こそうとしたサファが硬直する程の変容ぶりだった。


「……面妖な。童に何が起きているんだ」


 萌黄色の瞳を懐疑に細めたサファ。すると、彼を押しのけるように黄龍の欠伸から目覚めたばかりのシアラが駆け寄った。汗をながすレイの体に触れると、火に炙られた石のように熱いレイに驚く。


「《器を満たせ》《ウォーター》!」


 引き抜かれた杖と共に放たれたのは水の魔法。魔法で生成された水を頭から浴びせるも、レイの体から蒸気が上がり、水はあっという間に乾いてしまった。続けて二度、三度と繰り返す事で、ようやくレイの体温は平常に戻った。息苦しそうに呼吸を繰り返すレイ。シアラはその様子から、何が起きたのか察知していた。


「主様、何が起きたの。戻ってくる前に―――」


「―――僕、じゃない」


 シアラの言葉を遮ってレイは繰り返した。


「僕じゃ……ない。僕じゃ、ないんだ」


「主様じゃないって。……もしかして!」


 金色黒色の瞳はレイの頭部へと注目し、白髪の割合が増していることに気が付いた。白髪化の条件は二つ。《トライ&エラー》を大量に使用するか、奴隷契約を結んでいる誰かが死んだ場合だ。レイが自分では無いと否定している以上、導き出される答えは後者だ。


 シアラは勢いよく後ろを振り向き、ようやく目を覚ましたリザの横に倒れたままのレティへと駆け寄った。砕けた石舞台に足を取られそうになるが、懸命に足を回して、レティの傍にしゃがみ込むと、幼い少女が悲鳴を上げる事もできないほど、苦しげに呻いていた。


「凄い熱。触ると火傷するなんて、主様と同じね。《ウォーター》!」


 シアラは体温を下げるためにと冷たい水を二度、三度と浴びせる。その度に水蒸気が彼女の体から昇り、視界を埋め尽くし、少女らの頬を撫でる。


「レティ、レティ。しっかりしてください、レティ!」


 何度も呼びかけるが、レティが姉の呼びかけに応じる事はなかった。リザは口元と脈拍を確かめ、妹が生きていることだけは確認した。


「意識だけがありません。これもやはり死に戻ったという事で間違いないわね」


「多分ね。リザ、馬車からポーションを。それと解熱薬とか、とにかく使えそうな薬草を根こそぎ持ってきて。主様よりも、レティの方が消耗しているわ」


「分かったわ」


 妹の危機に姉は即座に行動を開始。懐に入れていた馬車を取り出すと、巨大化し、中から指示された物を探し始める。遅れて起きたエトネも手伝いに加わった。


 レイはそれらを遠目で眺めつつ、レティの事は彼女らに任せて一人思考の海に潜る。事情を知らないサファが、何か聞きたそうにしていたが、状況を察したマクスウェルが取り成しつつ、ここで起きた出来事や互いに持っている情報のすり合わせを行っている。


 自分という潤滑油があってもなくても、互いに歴戦の強者。この状況の打破に必要な情報を離さないほど間抜けという訳では無い。居ても居なくても変わらないという事実にへこみつつも、レイは前回の時間軸の流れを確認する。


(さっきまで僕らは帝国の竜騎兵から竜を奪い、黄龍を討伐するためにアルビノ砂漠へと向かい、到着した。だけど、そこで予想外の障壁に足を止められ、立ち往生した。黄龍を守るかのような砂の竜巻。あれが壁となって行く手を阻む)


 アルビノ砂漠に突如として出現した巨大な竜巻。それはサファの斬撃を持ってしても、破る事は出来なかった。いわば、黄龍を守る鎧だ。


 それに悪戦苦闘している最中、背後から閃光が奔り、衝撃波が広がり、飛竜ごと吹き飛ばされた。どうにか態勢を立て直して振り返れば、守るべきはずのオーマットにきのこ雲が上がっていたのだ。


 日本人できのこ雲と聞けば、すぐさま連想するのは核だろうか。


 連想自体は間違ってはいないが、きのこ雲が発生するのは何も核が原因とは限らない。例えば、火山の噴火でも似たような現象は起きる。重要なのは、太陽の中心部と同等の高温、それこそ何百万度にも昇る大爆発が起きたという事だ。


 このオーマットで、あと二時間もすれば。


 一体なぜだ。


 実は異世界エルドラドでは、地下空洞に休火山があり、それが偶々オーマットの地下にあり、偶々あの時間帯に爆発したというのだろうか。そんな馬鹿げた偶然があるだろうか。


 いくら《トライ&エラー》が使えば使うほど因果を重ね、困難を招くとしても、そんな砂漠に落ちた針を拾う様な、文字通り砂粒程度の確率を招くとは考えにくい。


 自然現象でなければ、人為現象。


 つまり、自分たちがアルビノ砂漠に辿り着き、砂の壁をいかに攻略するかで悩んでいる時、オーマットは何者かの襲撃を受けたという事になる。


(だけど、どこのどいつが仕掛けたんだ。あんな巨大な爆発を、きのこ雲が出来るほどの破壊を、誰がやったていうんだ)


 シアラの魔法で冷えた頭が再び沸騰しそうになる。


 死に戻りのイタミは残火のように燻り、隙あらばレイの体を内側から蝕もうとする。意識を保つために、口の中を噛みしめると、じわりと口内を血が流れていた。


(この地で暗躍中なのは六将軍。ゲオルギウスは心臓が三つも貫かれたから除外するとして、有力なのはクリストフォロス。対抗馬が来ているらしい五席、六席の奴らだ。でも、あんな大火力を放てるなら、それこそサファやローランごと薙ぎ払えたはずだ。なにより、あいつらの狙いは、この都市じゃないはずだ)


 南方大陸で暗躍する六将軍。これまでの彼らの動きと、漏らした言葉の数々から、六将軍の狙いが黄龍の復活とである事は間違いない。赤龍と時を同じくして緑龍、青龍が討伐された背景には六将軍の影があることから、彼が古代種の龍を倒そうとしているのは明白だ。


 どうして帝国と協力関係にあるかは不明だが、ゲオルギウスが黄龍の封印を解いていたのは、黄龍が生きていると不都合があるからだろう。だとすれば、あの大火力をぶつける相手は黄龍であるべきなのだ。


(六将軍じゃなければ、次に考えられるのは帝国の竜騎兵。彼らなら、あの大爆発に巻き込まれずにも済む)


 天にも届きそうなきのこ雲を産みだすだけの大火力。それはおかしな話だが、十分な距離を取らなければ、放った本人ですら飲み込む可能性がある。六将軍や竜騎兵なら安全圏から一方的に大爆発を起こす事も可能だ。


 レイ達が奪った六頭の飛竜を取り戻すためか、あるいはデゼルト国への攻撃として、竜騎兵が首都を薙ぎ払ったという可能性は十分にありえた。


 だけど、とレイは自分の推理に反証をぶつける。


 はたして、竜騎兵にそこまでの火力があるのだろうか。


 竜騎兵についてはリザから説明を受けたが、彼らは厳しい訓練を潜り抜けた精鋭であると。それは裏を返せば、常識的な範囲で鍛えられた兵士だという事だ。


 あの爆発は、それこそ超常の存在と謳われる怪物らにしか許されない破壊力だ。いくら竜騎兵が帝国の最強部隊だとしても、単体に許された破壊力としては規格外すぎる。例えるなら、精鋭部隊の全員が核を持ち歩くような物だ。


 そんな危険な国が、世界中を敵に回さずに今日まで続いているというのが、どうしても腑に落ちなかった。


 あれだけの大爆発を起こせる存在は、エルドラドであっても限られた存在の筈。ならば考えられるのは、やはり超常の怪物達の誰かという事になる。


(都市を薙ぎ払えるような存在……おいおい。まさか、そういう事なのか)


 頭の中に浮かんだ単語に、レイの動悸が激しくなる。血が沸騰するほどに熱かった体が、今では冬の海に落とされたように凍えていた。


『七帝』が一体、『守護者』サファ。一足一刀の間合いならば、空間すら切り裂く傑物。それに比肩するだけの出鱈目な怪物の事をレイは知っていた。


 知識としてだけ知っていた。


 が表に登場するのは、とある条件があるという事を知っていた。


 このオーマットで、その条件が満たされそうになっていた事も知っていた。


 だけど、その条件は満たせていないはずだ。


(あり得ないだろ。だって、あれはマクスウェルがちゃんと破壊したはずだ。それは僕もこの目で確認した)


 必死になって記憶を蘇らせる。


 それは神前決闘が始まるよりも一日半前の出来事。ワシャフ・プラティスの手に落ちた首都を奪還するために忍び込んだ真夜中の王宮で、レイ達はある存在と剣を交わす羽目になった。辛くもそれを撃破すると、大本である機構をマクスウェルが破壊した。


 シャンデリアが砕け、そこから赤い宝石のような物が落ちて砕けた。あれで彼女が来るという可能性は消えたはずだ。


(……いや、違う)


 レイは静かに、そして自分達が思い違いをしている可能性に辿り着いた。


 魔法工学の兵器はあったのではないのか。


 一つは巨人兵を生みだし、操作していた頭脳とでも呼ぶべきシャンデリア。そしてもう一つが―――。


「レイ殿。……レイ殿、しっかりせんか、レイ殿!」


 思考の海に潜っていたレイを引きずり出したのはマクスウェルだった。サファとの情報を共有し終えたのか、いつの間にかしゃがみ込んでいた少年はレイの肩を強く揺さぶり、


「その様子からすると、《トライ&エラー》が発動したので間違いなさそうだな。だとしたら、お主、何故死んだのだ。黄龍にやられたのか」


 と、声を潜めつつ尋ねた。サファがレイの特殊ユニーク技能スキルを知っているかどうか不明の為、彼は慎重に尋ねた。


 すると、レイは顔色を青ざめながら焦るように言った。


「大変だ、マクスウェル。この地に、《機械乙女ドーター》が来る!」







 そこは、人が住まうには過酷な環境である。一年の内で晴天が望める日は、片手の指で数える程度しか無く、それ以外は常に吹雪が嵐のように吹き荒れる峻嶺しゅんれいな山岳地帯。そんな場所に彼女は居た。


 雪の結晶の如き白銀の髪に、宝石のように輝く瞳で吹雪を見つめる少女の姿は、一般的な装いとはかけ離れていた。貴族の邸宅で働く女中が着込みそうなメイド服を、一部の隙も無く身に着け、手には長柄の竹ぼうきを携えた。


 それこそ、どこかの邸宅を支える有能なメイドのような佇まいをした少女だが、致命的なまでに場所とそぐわなかった。木々ですらなぎ倒しかねない猛吹雪の中、そのような薄着でいれば数分も経たずに指先は凍傷で動かなくなり、最後には氷の象となって雪に埋もれてもおかしくない。


 だというのに、その少女は直立不動を貫き、横殴りの吹雪を平然と受け止めていた。衣服にも、柔らかな肌にも雪は付着しておらず、まるで見えない壁に遮られるように雪は溶けた。口から白い吐息はおろか、呼気の気配すらなかった。


 それは当然と言えば当然だ。


 彼女こそは、『科学者』ノーザンが生み出した兵器の中で、最高傑作にして最終作である存在。人からは『機械乙女ドーター』と呼ばれる存在なのだ。


 彼女の体を構成する物質で、人工物で無い物は存在しておらず、宝石のような不思議な輝きをする瞳には、普通の人間にはえない文字が映し出されていた。


『破壊目標、閉鎖環境適応型自動巨人兵G系統。目標座標送信……完了。起動シークエンス終了。これより戦闘シークエンスに移行。ミッションを開始せよ』


「了解。ミッションを開始します」


 凍てつく吹雪よりも冷然とした口調で呟くと、少女の足元を固めるストラップシューズに備わる重力軽減と浮遊の機能が働くとふわりと浮き、そのまま『機械乙女ドーター』は吹雪の舞う空を突き抜け、天空へと躍り出た。灰色の雲海を足元に、手には己の専用装備である広域破壊兵器を携え、指示された場所へと飛翔する。


 南方大陸の一角、デゼルト国の首都、オーマットへ。







 神前決闘が行われることもあり、首都は人が少なかった。それでも王宮内には守備隊が置かれ、女中たちが施設管理の為にと朝から働いていた。彼女らにとって王族の内輪もめよりも、日々の職務を全うせずに解雇される方がよっぽど重要だ。


 そんな王宮に向けて飛翔する影があった。


 その影に気が付いた女中たちは驚いて建物の中へと逃げ込み、反対に守備隊は手に武器を持ち外へと躍り出た。


 彼らの視線の先にあるのは一頭の飛竜だった。


 飛竜は王宮を舐めるように低空で飛翔すると、敷地の端にある建造物の前で着陸した。


「こっちだ、マクスウェル! 急いでくれ!」


「分かっておる!」


 背から飛び降りたのは二人の少年は、レイとマクスウェルだ。彼らは入り口が粉砕されたドーム状の建物へと足早に駆けこむ。そこは、レイ達が魔法工学の兵器と戦った場所だった。


「レイ殿、お主の言う、腕輪とはどこにあるのだ!?」


「えっと。ああ、あれだ!」


 巨人兵が建物を壊さないようにと結界が張られていたため、ここで戦闘があったという証は少ない。シアラの《アイスエイジ》が溶けだした水のシミや、マクスウェルが壊したシャンデリアと共に、それは転がっていた。


 巨人兵の左腕に嵌っていた、新式魔法が刻み込まれた腕輪だ。


 四メートルはあろう巨人の腕に嵌っていた腕輪は、直径だけでもレイがすっぽりと収まるほどに大きく、傷一つなく、そこに残っていた。誰にもその価値を、危険性を気づかれることなく、放置されていたのだ。


 素早く駆けよったマクスウェルは、腕輪の表面に手を当てると、蓋を開けた。まるで最初から構造を知っているかのような手慣れた仕草で腕輪を分解していくと、中に内包されている物を睨みつけながら、確信を持って告げた。


「間違いあるまい。これも魔法工学の兵器じゃ。巨人兵から魔石の力を吸収するのではなく、この腕輪自体に魔石が装着されておる。それは、今も起動中だ」


「それじゃ、やっぱり」


「うむ。これに反応して『機械乙女ドーター』が姿を現すのは十分あり得る」


「そうか。それじゃ、やっぱりあの爆発は『機械乙女ドーター』が兵器を破壊するために興した爆発なのか」


「儂自身、目撃した事はないが、噂に聞く『機械乙女ドーター』の引き起こした惨状と一致する。おそらくはそうだろうな」


 石舞台でレイは兵器がもう一つあり、その存在に反応した『機械乙女ドーター』がやって来るという推測を、マクスウェルは驚きはしつつも、受け入れた。レイが目撃した光景や、巨人兵との戦闘についての説明を聞いて、それも十分あり得ると判断したのだ。


 シアラ達の介護もあってレティもようやく目を覚ましたが、彼女から情報を得る事は出来なかった。眠りから覚めたばかりのように斑な状態な上に、一瞬の出来事だったらしく何も気がつかなかったそうだ。


 もっとも、一瞬で大量の破壊をもたらせるという証言も『機械乙女ドーター』である可能性を高めたのだ。


 サファと協力して飛竜を六頭強奪すると、レイとマクスウェルは仲間を待たせ、王宮の端にある、カリバン元王を幽閉していた建造物へと向かい、真相を確かめようとしたのだ。


 結果、彼らの前には、起動した状態の兵器があった。


 床にしゃがみ込むレイの胸中は、意外な事に安堵の色が多く占めていた。


 新たなる怪物の登場に頭を悩ませるのだが、こうして起動状態の兵器が発見されたという事は、レティが死んだ原因がきちんと判明したという事でもある。つまり、『機械乙女ドーター』をどうにかすればいいのだ。


 マクスウェルは懐にしまい込んでいた懐中時計を取り出すと、


「レイ殿の記憶通りに進むとすれば、あと二時間ほどで、この地は『機械乙女ドーター』に焼かれるという事か。ゲオルギウス、サファ殿に続き、またしても暗黒期の名高き悪魔がこの地に舞い降りるとはな。しかし、解せんな」


 気難しそうに眉をひそめたマクスウェルに、レイは何がと尋ねた。


「時間じゃ。過去の実験では、『機械乙女ドーター』が兵器破壊の為に現れるまで、最低でも三日ほどの猶予があったはず。しかし、この兵器が起動されたのは」


「一日半前。それだと、計算が合わないな」


「これは単なる誤差なのか、それとも何かしらの事情があるというのか」


 かつての記録通りならば、あと一日半程度は猶予があるはずだとマクスウェルは訝しむ。


 実は、彼らも知らない事だが、この兵器が起動したのは、この時点から遡る事三日ほど前。ワシャフが軍勢を率いて首都を離れる直前の事だった。


 ワシャフはアフサルが密かに兵を送り込み、王を奪還するという可能性に備えて配置した。そのことは留守役の息子、ホセインに伝えられていた。彼は父親から二種類の兵器を二日置きに封印するようにと厳命されていたが、ここで問題が起きたのだ。


 レイ達がホセインを拘束した上で、カリバンを助けるために巨人兵を破壊したのだ。


 救出されたカリバンを見てホセインは、兵器が全て壊され停止されたと認識したため、あえて何も言わなかったのだ。


 そもそも、一度起動した兵器は解体されるか、あるいは破壊されなければ波長が消える事はなく、二日置きに封印しろという指示は素人の浅知恵と呼ぶほかない。


 ワシャフが起動させて首都を離れた時点で、オーマットの運命は半ば決定づけられたような物だ。


「考える材料が足りんことを、これ以上頭を捻った所で無意味じゃな。むしろ、こうして事前に判明した事を喜ぶべきだ。時を巻き戻す《トライ&エラー》の面目躍如という訳だな。では、早速破壊しよう」


 マクスウェルが長杖を振るい、詠唱を始めようとするが横合いから伸ばされた手に邪魔をされる。


「破壊するのは待ってくれないか」


「どうしたのじゃ、レイ殿。これを放置すれば、『機械乙女ドーター』がこの地に現れ、兵器ごと都市を破壊してしまうぞ」


 その言葉をレイは肯定しつつ、しかし、恐るべきことを口にした。


「ああ、だからだよ。『七帝』が一体、『機械乙女ドーター』がこの兵器を破壊するために来るというのなら、それを利用しよう」


 黒色の瞳に浮かぶのは、黄龍を守るように立ちはだかる、砂の竜巻だった。


読んでくださって、ありがとうございます。

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