7-48 首都解放作戦Ⅲ
兵士たちが外へと追い出された王宮は奇妙な耳鳴りがするほど静かな空間となった。人の息遣いが無いという意味では廃墟と化していた議事堂とさほど変わらなかった。
ホセインの記憶から手に入れた情報を頼りにレイ達は王宮内を駆ける。一応、兵士が何処かに潜んでいるという想定で行動していたが、行けども行けども無人。兵士の影は無かった。使用人の姿もない。嵐が過ぎるまで部屋で大人しくしているようだ。
ホセインを人質に取っていたとはいえ、こうもすんなりと王宮を明け渡したのを見ると、兵士たちもこのクーデターに対して思う所があるのかもしれない。ワシャフやホセインに彼らが命を張りたくなるような器が無かったのかもしれない。
脱ぎ捨てられた鎧や武器が王宮内の彼方此方に転がり、まさに兵どもの夢の跡。ワシャフの反乱が終わるのを予兆させる光景だった。
ホセインの記憶によると、十四氏族の族長たちは程度に差はあれ、王宮内で厚遇されていた。何しろ、デゼルト国の権力を握る長老衆。彼らを味方に付けなければ統治なぞ夢のまた夢。ワシャフにしてみれば一番神経を使う相手に違いなかった。
広い王宮内を迷子にならずに済んでいるのはホセインの記憶から作った地図と、道先案内をするダリーシャスのお蔭だった。本来なら、こちらの大将であるダリーシャスを、危険な場所に連れていくべきではないのだが、クトゥスやラシードは別として、レイ達に族長たちの顔が分からないという問題があった。また、向うにしても見知った顔があれば安心するし、王族が自ら助けに来たとなれば印象は良くなると本人が力説したのだから仕方がなかった。
ダリーシャスが此処だと言って足を止めた。
そこは王宮内に遠方からの来客を泊まらせるためのゲストルームの一つだ。扉に手を掛けるも、固く閉ざされていた。見れば、ドアノブを縛る鎖と鍵がぶら下がっていた。これでは開けられない。
「しまったな。鍵が必要だが、どこに在るのか分からんぞ。ホセインは在りかを知っているか……それとも外に追い出した兵士から話を聞くしかないか。むう、これは手間がかかる」
「王子、そこを退いてください」
行く手を阻む鍵を弄びながら悩むダリーシャスに声を掛けたローランは背の大剣を両手で構えていた。何をするのかと思えば、ローランは扉の鍵をめがけて剣を突き刺した。大剣の一撃を受け、鍵は原型をとどめておらず、ドアノブすらついでとばかりに壊れてしまった。
ひとりでに開く扉を前に、ローランはこれが手っ取り早いですと朗らかな笑みを浮かべていた。気品ある貴族のような顔立ちをしている割に、行動がアクティブというか突拍子もないというか。今回に限っていえば、悪い判断でない為誰も注意できないでいた。《神聖騎士団》の面々は慣れた物だと肩を竦めた。
ともかく、これで扉が開いた。ダリーシャスが半開きになってしまった扉を押して中に入ると、驚きの声で迎えられた。
「おお。誰かと思えば、ファラハ王子の子のダリーシャス王子ではないか。久方ぶりにお会いしますな!」
ガウンに身を包んだ老人が口の端を吊り上げ、にこやかな笑みと共にそう言った。あまりの歓迎ぶりにダリーシャスはぽかんと口を開いた。
透明度の高いグラスに入った琥珀色の酒を煽りながら、老人は隣で渋い顔をする人物へと声を掛けた。
「見てみろ、ダリーシャス王子だ。となると、賭けは儂の勝ちで良いな」
「……仕方あるまい。後で家の者に掛けの代金を持って行かせる。確認はそちらで済ませろよ」
「結構、結構。これでオーメルヌストの四連絵画が揃うという物。御霊に昇る前に、心残りが片付いた。いやー! よくぞ来てくれた、ダリーシャス王子!」
「……申し訳ないが、話が全く理解できないのだが」
全員の気持ちをダリーシャスが代弁してくれた。
何しろ監禁されていたという割には室内の人物たちはくつろいでいた。芳醇な酒の香りに、瑞々しい果物。酒の肴と思しき炒ったナッツが皿から溢れんばかりに乗せられている。何不自由なく過ごしていたと言わんばかりの室内の状況で、三人目の男が老人の方を指差して、
「あの者らは賭けをしておったのですよ、王子。我らの救出にどの王子がやってくるのか。それを賭けていたのだ。互いの財産を掛け金としてね」
「儂はダリーシャス王子に賭けたのです。こやつには、大博打をするにしてもその選択は無いだろうと散々詰られたが。くくく、勝利を確信して、欲をかいて大切にしておった絵を賭けたのが裏目に出たなぁ」
「ふん! なんとでも言え。これがアフサル王子なら、賭けは此方の勝ち。貴様の持つ骨董が俺の物になっていただろう」
「おや。どこからか、負け犬の遠吠えが聞こえてくるぞ。しかし、残念だが犬語は分からんのだ。人の言葉を覚えてから出直して来い!」
「よくぞ言ったな! ならば、こうしてやる!」
「あ、こら、貴様! 人の酒を勝手に奪うな! それは年代物の一点品。あー! 零れてる、零れてる!」
「……相変わらず、豪胆な方たちですな」
いまにも取っ組み合いの喧嘩をしそうな族長らを前にして、ダリーシャスはそう言うので精一杯だった。ワシャフが族長らを生かしたうえで厚遇したのは統治のためとはいえ、場合によっては殺されていたかもしれないのだ。そんな状況下で賭けをし、高級酒を何本も空にする性根の座り方に脱帽してしまう。
この長老衆たちならば、隙を突いて自力で脱出できていたのではないだろうか。そんな妄想がダリーシャスの頭に浮かんだ。
「信じられんぞ、この爺! 一人で酒瓶を空にしやがった! まったく。それで、ダリーシャス王子よ。首都は解放できたのか」
逆さに振っても何も出て来ない酒を前に肩を落としていた老人が唐突に言うと、ダリーシャスの意識が現実へと戻って来た。彼は慌てて、
「それはまだ。現在、王宮内からワシャフの兵を追い出すことには成功したが、依然、首都はワシャフ派の勢力下といえます」
「ふむ。それはつまり、王子の戦力では首都の奪還は不可能という事か。それで儂ら族長らの救出に絞ったという訳か」
「悪くない策だが、いささか弱いな。我らを解放したとしても、数の不利は否めない。決め手に欠けるぞ。例え、三百の兵が勢いに飲まれて王宮を明け渡したとしても、千の兵が集まれば多少は戦おうという気になってしまう」
どうして兵の数を知っているのだとダリーシャスは戦慄する。
例え酒臭い息を吐き、頬を赤く染め、監禁されていたとしても抜け目ない存在だ。十四州を統治するリーダーたちは僅かな情報から多くの事実に辿り着いていた。
「その通り。我らの戦力で首都の奪還はいささか厳しい。そこで、族長らの力添え以外にも、カリバン王のお力も借りるつもり。その為に、王の救出に向かう最中である」
「なんと! ワシャフ・プラティスは王を殺さずに生かしておったというのか」
「ふーむ。実の兄弟を殺せても、父に刃を向けるのだけはどうしようもなかったという訳か。それもあり得る話だ」
「ついては、陛下救出が終わるまでは、皆には王宮内に。陛下の救出が終わり次第、王と族長たちの名を持ってワシャフの軍権停止と集められた兵士たちへ解散の命令を下していただきたい」
「委細承知。しかし、返す返すも無念だ」
突然の言葉にダリーシャスはきょとんとした顔を浮かべた。琥珀色の酒を掲げた老人は心底悔やみきれないといった風に、
「あと半月もあれば、カリバン王の秘蔵の酒を全て飲み干せたというのに。まったくもって無念である」
解放した族長らは一カ所に集まってもらう事にした。その為に、ラシードやヌギド族達に残ってもらい、彼らの世話係兼護衛をしてもらう。人手が足りないようなら、王宮で働く侍女たちを連れてくるように指示を出して、二つ目、三つ目と囚われの族長らを解放する。
外側から鍵をかけられ、閉じ込められていた族長たちは特に不便を感じる事なく、大人しく部屋で過ごしていた。その中にはオードヴァーン家の族長である、ファラハの母方の父も居た。囚われていた族長らの中では最年長の老人は、ダリーシャスの姿を見て涙を流していた。孫の無事と成長を喜び、ファラハの死を嘆く涙だった。
「ルディル爺。すまないが、俺にはまだやることがあるんだ。いまは、行かせてくれないか」
ダリーシャスそう訴えると。ルディルは名残惜しそうに孫の手を離した。
そんな出来事もありつつ、レイ達は族長たちを解放し続けた。ついでとばかりに、族長らと共に拘束されていた十四氏族の関係者も解放して回る。流石に、彼らは族長らとは各段に落ちる扱いをされていたのか、中には拷問を受けた者もいた為、ミストラルが残って体調を診る事になった。
「これでこっち側の部屋は全部回った事になるな」
ホセインの記憶を元に作り、解放された人たちの証言から更に書き込まれた地図に視線を向けたレイは最後の部屋にバツを付けた。王宮内の奥深くまで来ており、手分けするうちにいつの間にかローランたちとは別行動をしていた。
いまこの場に居たのは、《ミクリヤ》の面々とダリーシャスのみだ。
「さて、これからどうしようか。ダリーシャス、何か考えはあるかな」
「しばし待て。……やはり、そうか。ここからなら、王の囚われている場所に近い。おそらく、俺達が最も近いのではないかな」
隣で地図を覗きこんだダリーシャスが、自分たちの居る場所がカリバン王の囚われている塔に近い事を告げた。
「だったら、次は王様の所に行きましょうよ。そうすれば、族長と王様の両方を助け出した事になるわ。救出は早ければ早い方が良いわ」
「ちょっと待ってください。ローラン様たちと大分離れてしまいました。一度、合流してからの方が安全ではありませんか」
積極的な意見を出すシアラと慎重的な意見を出したリザ。どちらの意見も一理ある中、ダリーシャスが同意したのは前者だった。
「王の所に行こう。あまり、族長たちを待たせても機嫌を損ねるだけだ。何より、王の体調が心配だ。もしかすると、もしかしている場合もあるかもしれん」
もって回った言い方だが、ダリーシャスの懸念も理解できた。元々、デゼルト国の混乱はカリバン王が倒れた所から始まった。王の現在の体調はホセインも知らないため、無事かどうか不明なのだ。肉親の安否を一刻も早く確認したいというダリーシャスの意思を尊重してレイ達は王の元へ向かおうとする。
ところが。
とある部屋の前を通り過ぎようとすると、エトネがまってと口にしたのだ。
「ここ。だれかいるよ」
「あら本当よ。鍵が外から付けられているわ」
シアラが指摘した通り、扉を塞ぐように鍵が掛けられていた。族長らを閉じ込めていたのと同じ代物だ。しかし、レイは首を傾げながら、
「ここだって? ちょっと待ってくれよ。おかしいな。此処の部屋に重要人物が居るような事は書いてないぞ」
「でも、だれかいる。まちがいないよ」
エトネが再三繰り返した。彼女の嗅覚、聴覚が正確なのはレイも知っている。エトネが自信を持って口にするなら、この部屋に誰かが居るのは間違いないのだ。それも、外から鍵を賭けて閉じ込めるような重要人物が居る。
レイはダリーシャスの方を伺うと、彼は壊すように指示を出した。リザがロングソードを抜き放ち、鍵に向けて振り下ろせば、衝撃に耐えかねて外れた。そして自然と開くようになった扉を押して中に入った。
「君たちは……一体誰なんだい」
陰鬱な声がレイ達を迎えた。部屋の中に居たのは草臥れた表情をした青年だった。衣服はシンプルながらも高級品のような艶を放っているが、精彩を欠いた表情が打ち消していた。
髪を振り乱し、土気色の顔に胡乱な瞳をはめ込んだ青年を見たダリーシャスが驚いたと呟いた。
「貴方は、まさか。ルドラ殿。ルドラ・ジブリール殿ではありませんか!?」
「……君は、ダリーシャスか。そうか。先程の声は偽りでも幻聴でも無かった訳か。追い詰められて、遂に気が狂ったのかと思ってしまったよ」
自嘲めいた笑みを浮かべた青年。その異様な姿にレイは気味悪さを感じつつも尋ねた。
「ジブリールって事は、この人も王族の一人なのか」
「ああ、その通りだ。カリバン王には十四氏族の間に作った男子が四人居る。プラティス家、オードヴァーン家、グセイノフ家に続く、バシア・ジブリール叔父の息子に当たる方だ。……しかし、ワシャフ伯父は首都に残っていた王族を皆殺しにしたと思っていたが。生きておいででしたか、従兄殿。しかし、どうやって……まさか!」
ワシャフの反乱が起きた時、首都を脱出できた王族はアルビノ砂漠で遭遇したジャマルぐらいだった。その前後、デゼルト国を北に南にと移動していたため、情報収集を満足に行えたという自信は無いが、それでもプラティス家以外の王族がどうなったかは不明だった。
全員処刑されたのではないかと考えていたほどだ。
それだけにルドラ・ジブリールと生きて再会できたのはダリーシャスにとって予想外だった。
ワシャフの支配地域で生きているという意味が何を指しているのか。ダリーシャスは直ぐに理解できた。
「どうやってだと? ははは。そんなの分かり切った事だろう」
自嘲めいた笑みは深くなり、ルドラの瞳から光が失われてしまう。その姿に憤り、苛立ちを抱いたダリーシャスが絞り出すように、
「ワシャフ伯父に降ったのですか。公明正大を旨とする、清廉な貴方が、反乱を起こしたあの男に従っているというのか! どうして、どうしてなのですか!」
「仕方なかったんだ!」
腰かけていた椅子を蹴とばして立ち上がった青年は、感情の奔流に従って叫んだ。
「仕方ないだろ! 従わなかった父上や、弟たちは殺された。それに私は人質を取られたのだ。生まれたばかりの娘も殺すと言われたんだ! そんな中で、俺はどうすればよかったんだ!」
「……弁明は結構。ワシャフ伯父に従ったというなら、何故監禁されていたのですか」
「伯父たちが出兵するという事になって、伯父不在の中、王宮を自由に動き回られるのを嫌ったのだろう。ここに押し込められたのだ」
「ワシャフ伯父から信頼されていなかったという事ですか。……いま、王宮内は俺が制圧しました。族長やカリバン王の救出作業中ですが、貴方以外に王族の生き残りは」
問いかけにルドラは首を横に振った。ダリーシャスは一瞬、死んだ王族達に黙とうを捧げると、義務的な口調で命令した。
「それでは、ここに人を寄越します。後は、此方の指示に従って頂きますが、宜しいですな」
「ああ……分かった。軽蔑するなら、軽蔑したまえ。……こうするしかなかったんだ」
男は再び項垂れると、ブツブツと呟きだした。それは意味を成しているようで、その実、まったく意味を成さない、言い訳じみた言葉が数珠繋ぎのように垂れ流されているだけだった。
ダリーシャスはルドラを一瞥すると、廊下へと出た。遠くの方で作業をしていたヌギド族の男に声をかけ、ルドラの保護を頼んだ。
親族を裏切ってまで生き残りを図ろうした従兄の存在に、様々な思いが胸に去来したが、ダリーシャスはそれらを振り切るように全員に告げた。
「寄り道はここまでだ。いまは、カリバン王を助けに行こう」
反対意見は無かった。ダリーシャスの誘導に従って、全員は王宮の奥まった位置にある塔へと向かった。
そこはまるで人目から逃れるように建てられた建物だった。真っ直ぐ天に向かって伸びる塔。その根元にはドーム状の建物が存在した。
「ねえ。本当にこんな所にカリバン王がいらっしゃるの。病気の老人がこんな場所にいるの?」
予想とかけ離れた場所にシアラが思わず言ってしまう。そんな彼女に対して、ダリーシャスはだからこそだと返した。
カリバン王は病気を患い倒れてしまった。一時は意識不明だったという。その為、政務に復帰できないと判断され、王の権利を一時凍結、王家の人間が代行する事になった。
そして、王の病気を理由に神前投票が開始されることになった。玉座を狙う者達の手によって、王はそのまま政務に復帰できないように監禁されてしまったのだ。
何を隠そう、その監禁にダリーシャスの父であるファラハ・オードヴァーンも関わっていたというのだ。王が復帰すれば、折角の政治工作が無駄になってしまうのを恐れた行動だろう。
そのため、王は族長たちとは違い、人々の目から隠すような場所に監禁され、使用人たちも限られた人間しか近づけなかった。
王宮の最奥。元は人の目に触れさせてはいけない王族を隠す為に用意された塔だとダリーシャスは説明した。
「見た目が崩れていたり、脳や心を病んでしまった王家の者を匿っていた塔だ。もっとも、匿うというよりも隔離していたというのが正しいというべきか。王家の闇を抱えた場所だな」
塔の足元にある建物の扉を開け放ち、中へと足を踏み入れた。曲線を描く天井にはシャンデリアがぶら下がり、何もない空間が広がっていた。装飾らしい装飾もなく、豪華絢爛な王宮の中でも異彩を放っていた。壁に沿って並べられた燭台が、どこか陰鬱な空気を加速させる。
「気味が悪いな。まるで墓場に迷い込んだ気分だよ。この空間は何のためにあるんだ」
「さてな。ここは場所が場所だけに誰も詳しく語らないから、俺もよくは知らないのだ。あの扉を開ければ、上に繋がる階段があるはずだ」
広間の最奥にある扉の前にレイ達は辿り着いた。両開きの扉は人を拒絶するかのような雰囲気を持つ。塔の暗い歴史を聞いただけにそう思わせる魔力を秘めているのかもしれない。
ダリーシャスが扉に触れた瞬間、辺りをけたたましい音が覆った。
「な、何よこれ!」「まさか、侵入者を知らせるサイレンなのか」「皆、武器を構えて!」
頭の中を掻き乱すような音の波に耳を塞いでいると、円形の広間に全く別の存在が姿を現そうとしていた。
最初に気が付いたのはレティだった。杖を抜き放ち、敵を警戒して辺りを見回していた少女が全員に呼びかけた。
「みんな見て。部屋の中央に何か、変なのがあるよ!」
振り返れば、そこにはいつの間にか銀色の液体が落ちていた。光沢のある、滑らかな曲線を描く銀色の液体は、天井にあるシャンデリアの中央部分から落ちていた。どうやら中が空洞になっており、筒状の中心部から液体が垂れてくる。
人の背丈を簡単に超えるほどの塊になると、シャンデリアは液体を吐き出すのを止めた。その代り、最後に別の物を落とした。それは遥か高い所から落ちたというのに、まるで液体が意思を持ったかのように蠢いて、受け止めたおかげで割れなかった。
それは魔石だった。アルビノ砂漠で戦った超弩級モンスターを動かしていた魔石と同程度の大きさの魔石を液体は取りこむ、ゆっくりとその姿を変えていった。
子供が粘土で人形を作るかのように、形が完成していく。
まず、初めに出来上がったのは足だった、短くも太い、金属製の板を丸めたような両足が生まれると、液体金属は上へ上へと昇っていき、形を作る。足の次は胴体だった。蛇腹構造の巨大な胴体が作り出されると、魔石を中に入れた。
そのまま腕と頭。そして曲刀へと液体金属は固まっていく。
あっという間に、背丈だけで四メートルはある鉄巨人が誕生した。背丈以上に横に幅を多くとっており、姿形だけなら滑稽だ。もっとも、曲刀の鋭い先端を見て、笑える者は誰も居なかった。
すると、警報が弱まり、代わりに別の種類の音声が何処からか流れ出した。
『警告。警告。警告。侵入者の存在を検知。侵入者対応プロトコルに従い、拠点防衛兵器の生成を完了。これより、侵入者の排除を開始します。無関係の職員は退避を。繰り返す、侵入者の存在を』
シャンデリアから響く合成音にレイは顔をしかめた。もちろん、合成音が不快だったわけではない。合成音がした内容と、目の前で起きている現実が最悪な想像と結びついてしまったのだ。
兵器、魔石、謎の技術。
その三つだけでこれが何なのか、レイには理解できた。
理解できてしまった。
「冗談だろ。魔法工学の兵器を番兵にしているのかよ。王様を奪われたら厄介なのは分かるけど、いくらなんでも、やり過ぎだろ! あんなのが暴れたら、この建物が吹き飛ぶぞ!」
吐き捨てると、中身を持たない鈍色の鎧が重々しい一歩を踏み出した。定められた手順で生成された兵器は、どこからか送られた指令に従い侵入者を排除するべく、行動を開始した。
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