閑話・戦奴隷たちの修業 リザ編 『後編・下』
『双姫』。
人類の暗黒期にはすでにその名が知られていたエルフの美姫に付けられていた二つ名。古くからギルドに登録はされていた者の、気が向いた時だけ集中して活動しては、姿を見せなくなるのを繰り返していたから、しょっちゅう死亡説や引退説が流れている冒険者。
だが、少なくとも、気が向いて引き受けてギルドに残っているクエストの凄まじさは今でも語り草である。凶獣バルバトス。人蟲ロノウェ。首狩り騎士ストラスなどの超弩級モンスターを討伐した伝説は大抵の子供の寝物語の一つだ。
あいにくと、リザが『双姫』の名を知ったのは修道院に置かれた手垢塗れの本だったが、そこに書かれていた挿絵の美しさはよく覚えていた。
(もっとも、あの挿絵画家の腕前はそれほどよくは無かったようですが)
体を解しながら、リザは相対するロテュスを見て、そう断言した。同性すらも惹きつけ、魅了しかねない怪しい本物の美しさはあの日見た挿絵を凌駕していた。
ロテュスは手にしたブロードソードの握りを何ども確かめ、その都度、軽く振ってみる。
轟ッと。
軽く手首を返しただけなのに、風が唸りを上げる。その度に訓練所に集まったエルフたちは感嘆や驚愕が入り混じったため息を吐いた。
リザも単なる観客ならば、その中に加わって声を上げていたのだろうが、これから剣を交わす対戦相手からすると、剣の凄まじさに身が凍り付きそうになる。
これではいけないと感じたリザは自分の両頬を叩いた。
ぴしゃり、と。乾いた音が響く。ヒリヒリと熱を持った両頬からリザは覚悟が固まっていくのを感じ取った。
そして。
両者は向かい合うように立つ。
リザは切っ先を相手に向け、いつでも動けるように重心を下げる。
一方でロテュスは両手にブロードソードを提げてはいるが、下を向け、どこか気だるげな様子だった。
「それじゃ、ロテュス様。そしてリザ。手合わせという事で、戦技、魔法、技能の類の発動は無し。ロテュス様は鋼糸の使用は禁止ですからね」
「いいわよー」「了解です」
審判役としてオヴィスが場を仕切る。他のエルフとエトネは彼女らの邪魔にならないようにと、壁際まで避難していた。
「それじゃ……はじめ!!」
オヴィスが声高に開始を宣言した。
先に仕掛けたのはリザだった。待ちきれないかのように笑みを浮かべ、最短距離を高速で駆け抜ける。その速さはエルフたちですら驚嘆する物だった。
だが。
「それじゃ、見えてるわよ」
ロテュスは正確無比な一撃を繰り出した。右に握りしめたブロードソードを振り下ろす。たったそれだけの一撃で、訓練場に地響きが起こる。刃引きされたブロードソードが訓練場の床を砕いたのだ。
「……あれ?」
そう、そこにはリザの姿は無かったのだ。
誰も居ない場所を切ったロテュスは不思議そうに首を傾げ―――弾かれたように後ろを振り向いた。背後から迫りくるリザの姿を視認した。
彼女はロテュスが攻撃に移る瞬間、更に速度を上げたのだ。それこそ、A級冒険者の目ですら一瞬、追いきれなくなるほどの速度を。足からしてはいけない音が聞こえる、じんわりとした熱が発生しているが背後を取ったリザはそのままロングソードを振るう。
全身を叩きつけるような一撃。はるか格上の相手から思いがけないほど早く舞い降りたチャンス。逃して溜まるかという気迫が篭った一撃だった。
遠巻きで見ていたエルフたちも、この全身の力を込めた一撃は決まると思っていた。
しかし。
しゃらん、と。ロテュスのブロードソードがリザのロングソードを優しく受け止め、逸らしてしまった。オヴィスが見せた、エルフ流の斬撃のいなし方だ。
それもオヴィスのよりもはるかに洗練された、いなし技。リザは剣から力が抜けたことすら、刹那の間気づかなかった。
ロテュスの頭を狙った一撃はいつのまにか、彼女の脇を通り過ぎていた。宙を跳んだリザは無防備な姿を晒す。
するとロテュスは空いたブロードソードをしたから振り上げた。リザは咄嗟にその斬撃を手甲で受け止める。
「が、があああああっ!!」
リザは宙に浮いた状態で絶叫を上げた。
手甲で受け止めた一撃は誰が見ても軽く振られた一撃だった。しかし、リザにしてみると砲弾を直接くらったかのような威力を味わう。衝撃で腕が後ろへと弾き飛ばされる。
同時に体は流れ、床へと叩きつけられるように落ちた。衝撃で体が二転三転する。
(早く、早く立たなくちゃ!?)
痛みで痺れる思考の中、立つ事だけに意識を集中させようとしたリザだったが、ロテュスはそんな暇を与えてはくれない。彼女の足刀がリザの腹部を打ち、少女の体は軽々と蹴り飛ばされた。
拡張された訓練所の端の壁まで、一気に飛び、激突した。
ずるり、と。
壁に張り付いたゴミのようにリザの体は滑り落ちた。今度は叩きつけられる寸前、着地を決めた。しかし、ダメージは大きく、壁に寄りかかる事でしか立っていられなかった。
そんなリザに向けて、エトネは叫んだ。
「にげて、リザおねいちゃん!!」
叫び声に反応したリザが顔を上げると、ゆっくりと、しかし確実にロテュスがリザに向けて歩き出していた。その眼は歪み、口元には笑みが浮かんでいた。
リザはある種の恐怖すら与える笑みを前にして―――進むことを選んだ。壁から背を離し、重心を前にする事で倒れそうになりつつも、前へと進む。
誰もが自殺行為だと思い、踏みとどまるようにと口々に叫ぶ。だけど、ロテュスの元へと駆け寄るリザには彼らの声は届かない。
あっという間にリザは歩みを続けるロテュスの元へと辿りついた。そこには先程のような俊敏さは影も形も無かった。とにかく、一撃を与えようとロングソードを振った。
しゃらん、と。ロテュスのブロードソードはリザのロングソードを優しく受け止めた。先の攻防の焼き直しかのようにリザの攻撃を逸らすと、返しの一撃を振るう。
「ぐううっ!!」
リザは苦悶の声と共に、背後の壁へと叩きつけられた。胸には斬られた斬撃の痕がくっきりと残っている。
周囲の者は、これで終わりかと落胆まじりのため息を吐いた。それはエトネやオヴィスもそうだった。
ところが、ロテュスは変わらずに歩を進めるのだ。むしろ、放たれる圧力は増していき、表情に険しさが浮かんでいた。
なんと、彼女の視線の先にはなんとリザが立ち上がっているのだった。ロングソードを杖のようにして、どうにか立っている程度だった。
精神力の流れに敏感なエルフたちは、彼女が立っていられる理由が一目で分かった。リザは回せる精神力を全て防御に注ぎ込んでいた。それでも、どうにか立っている程度にしかダメージを抑えきれなかった事を考えるとロテュスとの実力差は大きい。
そして、リザは防御に回していた精神力を両足に回すと、一気に跳んだ。体を投げ出すかのような跳躍。弾丸のようにロテュスへと距離を詰めた。
ロテュスはリザの特攻を再びいなした。とても鋼が鋼と触れたとは思えない程優しい音がすると、リザの渾身の一撃は流されてしまう。打ち合う事すらできず、態勢が崩れた所をカウンターの一撃が襲った。
三度、リザの体は壁に激突した。
これでお終いだ。壁からずるずると落ちたリザを見て、誰もがそう思った。しかし、ロテュスだけは違っていた。彼女は玲瓏な美貌を険しくすると、足取りを早く、更にリザとの距離を詰める。
「ロ、ロテュス様! 相手はもう動けません!!」
審判のオヴィスが叫ぶも、ロテュスは聞く耳を持たなかった。その険しい横顔を見た彼は、ロテュスの歩みを、身を賭しても止めようと駆けだしたが、あっと驚きの声を上げて立ち止まった。
何故ならまたしてもリザが立ち上がったのだ。壁と激突した衝撃からか呼吸は乱れ、胸や胴にはブロードソードの斬撃によって痛々しアザが出き、落下した際に頭を切ったのか血は流れている。満身創痍の状態だ。誰が見ても止めるべき状態。
なのに。青色の双眸だけは爛々と輝いていた。あれは戦いを臨む戦士の目だった。
(この場を預かる者として、止めなくちゃいけないのは分かる。だけど、あの目をした者の戦いに水を差す事は―――俺にはできない!)
オヴィスを含めた戦士たちは皆、無茶な特攻を仕掛けるリザを黙って見送った。
その度に少女の体は壁まで叩きつけられる。その度に少女は不屈の魂を持って立ち上がる。その度に少女は全身をバネに苛烈な一撃を叩きつける。
何度挑み、何度打ち砕かれ、何度立ち上がったのか。
回を増すごとにリザの体はボロボロになっていく。
しかし、比例して彼女の目の輝きは強くなっていくのだ。反対にロテュスの顔に困惑と驚愕が入り混じった、何とも形容しがたい感情が浮かんでいた。
それでもロテュスの歩みは止まらず、両者の距離は縮まっていく。遂には壁に寄りかかったリザが手を伸ばせば触れられるほどまで距離が縮まっていた。
ごくり、と。
誰かが唾を飲み込む音すら聞こえるほどの静寂に訓練場は包まれる。リザはロングソードを杖にして立ち、目だけはロテュスを睨んでいた。
「……貴女に敬意を評するわ」
静寂を破るようにロテュスは告げた。
「貴女の狙いは分かっている。そして、目論見通りに進行しているのも分かる。貴女の全身に刻まれた傷は勲章よ、誇っても良いわよ」
「過分な……お言葉……恐縮です」
口の中が切れているのか、リザは喋る度に赤い物を吐き出した。
「だからこそ、分からない。こんな身を削るような思いをする必要があったのかしら? 貴女の才覚なら、もっと賢いやり方があったはずよ」
ロテュスの言葉にリザは微笑んで見せる。傷が痛むのか、歪んだ笑みとなってしまうが。
「確かに……あったかも……しれません。でも……一度、やってみたかったんです」
「やってみたい? 何を?」
「手も足も出ない……強者に……何度も挑んでみる事です」
リザの言葉に全員が首を傾げた。それでも少女は言葉を続けた。
「主が……したように。私は……知りたかったんです。……勝利をもぎ取る……試行錯誤の苦しみを」
その言葉の意味をエトネだけが理解した。リザが言っているのはおそらくレイの事だろう。何度も繰り返す能力を持った少年。リザはレイの気持ちを知りたいがために、愚直なまでの突進を繰り返していたのだと。
「……よく分からないけど、満足したのかしら?」
ロテュスはブロードソードを掲げて、最後に尋ねた。リザもまた杖にしていたロングソードを構えて答えた。
「ええ。……終わりの見えない……苦しい道程。……改めて、彼に付いていきたいと思いました」
「そう、なのね!!」
ロテュスは双剣を振るった。逃げ場の無い壁際。満身創痍のリザ。避ける事も、防ぐ事も、耐える事も許されない、処刑の刃。
それが。
しゃらん、と。軽やかな音共にいなされた。
「……え?」
誰が驚きの声を上げたのか。クリュネなのか、オヴィスなのか、エトネなのか、それ以外のエルフたちだったのか。
それともロテュスだったのか。
もしかするとリザだったのかもしれない。
本人すら驚くような出来事が起きているのだ。
リザを左右から挟み込むように振るわれた双剣は、リザのロングソードによって優しく向きを変えられ、いなされたのだ。
ロテュスは驚愕しつつも、どこか満足そうに笑みを浮かべると、双剣を巧みに振るう。まさに『双姫』と呼ばれるにふさわしい剣技の冴え。魂すら凍り付かせるとは相応しい表現だった。
その全てをリザはいなしていた。
エルフ流の返し技を使って。
「やっぱり、貴女、とんでもないわね! 私に、剣を、振るうと見せかけて、返し技を研究していたなんてね!!」
ロテュスの言葉に全員が驚愕しつつも、納得した。彼女があれ程まで、愚直な突進を繰り返したのか。あれはロテュスに回避されないように、ワザと直進し、返し技を使ってもらうための仕込みだったのだ。
逃げ場の無い壁際に立たされたリザとロテュスの剣戟はすでに十合を軽く超えていた。エルフの目から見ても、ロテュスの攻撃は凄まじかった。その全てを完璧とはいかなくてもいなしているリザは恐るべき技量だった。
ところが、二十合に差し掛かる頃になると異変が起きた。
明らかにリザの息が上がってきたのだ。薄い胸は激しく上気し、顔を苦しげに歪ませている。同時にロテュスの攻撃は回転速度が増していた。ロテュスは攻撃のギアを一段上げていたのだ。彼女の表情からすると、それさえも上限では無いようだった。
遂にはリザの腕は上がらず、いなすこともできずに、剣は左右へと流れた。
「これ以上やったら、貴女が死んじゃうから、この辺で終わりにしてあげるわ!!」
ロテュスはそう宣言すると、リザのロングソードをブロードソードで絡めとると、弾き飛ばした。そして、留めの一撃と言わんばかりに無慈悲な一撃を振り下ろした。
どう考えても、やり過ぎな一撃。本人にしてみれば、ここまで健闘したリザを褒める意味合いの一撃。
―――それを待っていた。
リザの瞳は輝きを放ち、残っていた精神力が全身に行き渡る。ロテュスは長年培ってきた戦闘経験から、自分が罠に掛かった事を悟るもすでに遅かった。
リザはするりとロテュスの懐に入り込むと、彼女の襟と、剣を振る腕を掴み、一気に投げ技へと持ち込んだ。落とす先は先程まで背にしていた壁。彼女が壁際から動かなかったのは動けなかった事もあるが、それ以上に投げ技を途中で防がれず、最速で叩きつける為だった。
「はぁああああ!!」
最後の力を振り絞ってリザはロテュスを投げる。完全に無警戒だったロテュスの体は持ち上がり、一気に壁へと迫る。
だん、と。
力強い音が訓練所に響いた。
ロテュスが壁に背中から落ちた音―――では無い。ロテュスが恐るべき身体能力を駆使して、投げられた状態から、壁を蹴った音だった。
リザには何が起きたのか分からなかったが、遠巻きで見て居る者からすると、時が巻き戻ったかのようにロテュスが投げられる前の状態になった。
そして、彼女は素早くリザの指を引き剥がすと、今度は逆にリザを投げた。
あっという間の出来事だった。リザには自分がどう投げられたかすら分からなかった。気が付けば、大きな音共に自分が床に寝そべり、果てがない程と高い天井を見上げていた。
「どう? まだやる?」
にゅっとロテュスの美貌が割り込む様に視界に入り込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ。……まいりました」
リザはそれだけ言うと全身の力を抜いた。途端に全身が合唱するかのように痛覚を発信する。意識を手放さないので精一杯だった。
どこか遠くで、オヴィスがヒーラーを呼べだの、回復薬を持ってこいだの、やりすぎですよロテュス様、と叫んでいるのが聞こえた。
少しして、ひんやりとした感触にリザの意識は覚醒した。
焦点が合うと、エトネがポーションを全身に塗っているのだと分かった。リザの体はいま、鎧も服も脱がされ、上半身は裸だった。エルフの女性陣が円を描くように布を広げて作った仕切りの中に居た。
「じっとしてて。いま、ヒーラーが来るから」
「お手数……おかけします」
リザはそれだけ言うと、エトネに身を任せた。エトネの小さな手はリザの首や胸、脇腹など、赤黒く腫れた箇所へと伸びた。
「……どうして」
「え? 何か言いましたか?」
「どうして、こんなになるまで、がんばったの? こわくなかったの?」
それはエトネの純粋な疑問だった。エトネにだってリザとロテュスの間に広がる実力差ぐらい分かる。ましてや剣を交わした当人ならより正確に分かるはずだ。
「あんなにつよい人をあいてに、どうしてがんばれるの。どうしてからだがうごくの?」
その気持ちがエトネには分からなかった。いくら、レイの気持ちが知りたいからと言って、これほど危険な目に遭うのが分かっていて、どうして逃げようとしないのか。
しばらく黙ったリザはポツリと呟いた。
「逃げても……良い事なんてありません」
エトネは傷口から視線を話して、リザの方を向いた。晴れた青空を思わせる青い瞳は、今や深い色合いをしていた。
「苦しい事。悲しい事。辛い事。……逃げたり、顔を背けたり、忘れようとすればするほど、後から苦しくなっていきます。……ありきたりですが、やっぱり、困難に対しては踏み出す勇気を持つべきです……というのを、私はご主人様を見て学びました」
「……リザおねいちゃんも、シアラおねいちゃんも、レティおねいちゃんも。みんなすごいな。エトネにはそんな勇気ないや」
エトネは自嘲するかのように呟いた。すると、リザが驚いた顔をして首を振った。
「そんな事はありません。貴女はすでに、立派な勇気をお持ちです」
何のことかわからないで首を傾げたエトネに、リザはレッサーデーモンとの戦いの事を告げた。
「私が腕を折り、絶体絶命の最中、貴女が飛び出してくれたじゃありませんか。あれを勇気と呼ばずに何て言うのですか」
「で、でも。あれはレティおねいちゃんたちがあぶなかったから、とびだしただけで。……じょうきょうがちがければ、なんにもできなかったよ」
エトネの言葉にリザは何故か周囲を確認した。クリュネを始めとした女性陣は男性陣に対して意識を向けている。二人の会話には注意を払っていなかった。
「実は、あのレッサーデーモンとの戦いは二度目だったんです。ご主人様の《トライ&エラー》が発動して時が巻き戻ったんです」
声を低くするリザは囁くような声でエトネに続ける。
「一戦目で貴女は確かに戦う事は出来ませんでした。あの時はレティが一人でレッサーデーモンの前に取り残されていましたが、他の者は怪我もせず、全員無事な状態だったにも関わらず、貴女は足がすくんで動けなかったのです。ですが、二戦目。ご主人様は目覚めず、私は骨を折り、シアラは屋根から落ちて動けないでいました。状況は更に最悪でした。そんな中、貴女は私たちを助けに来てくれたんです」
「それは、シアラおねいちゃんが言ってくれたから!」
「シアラが何か言ったとしても、貴女があの場に現れたのは、紛れも無い貴女の勇気です。私はそんな貴女を尊敬していますよ、エトネ様」
リザの青い瞳は何の照れも無い、恐ろしいほど真っ直ぐにエトネを見つめていた。それだけで、リザが心の底から、真剣に言っているのだとエトネは理解し、嬉しくなると同時に耳まで真っ赤になった。
「……でいいよ」
「はい? 今何と?」
「エトネで……いいよ」
エトネはそれだけ言うと、再び回復薬を塗る作業へと戻った。リザは納得したかのように頷くと、
「分かりました、エトネ」
と、言った。
エトネはにんまりと笑って返した。
その時、訓練所の入り口から、レティの気だるげな声が聞こえてきた。
「はいはーい。凄腕ヒーラーのアリテュス先生を届けに来ましたよー。どうせ例のごとく、うちの姉がボロ雑巾のようになったんでしょー。ご迷惑をおかけしまーす」
「レティ。いくら、実の姉だからと言って、対応がお座なりじゃないか?」
「良いんですよーだ。あれだけ言ったのに、まーた怪我した姉が悪いんですから」
リザは思わず、首をすくめてしまう。まるで、怒られるのを怖がる子供のような動作にエトネは笑みをこぼしてしまった。
読んで下さって、ありがとうございます。
次回更新は月曜日頃を予定しております。




